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第1章 冒険者編
第1話 なんて世の中は理不尽なのだろうか
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──かっこいい英雄になりたかった。
両親がそれぞれかなり高名な剣士、魔術師であった俺は、幼い頃から英雄に憧れていた。
誕生時に神から授けられる力──【授能】によってその人の実力がほぼ決まる世界で。
俺が授かった授能は、【ステージ1】というものだった。
これまで存在した授能が全て記されている授能記録書にも載っていないらしく、
そのうえ詳細も全く分からないことから、ハズレの烙印を押された。
あまりの悲しさに当時泣きじゃくることしか出来なかった俺を励ましてくれたのは、両親だけだった。
しかし、ある日そんな唯一の味方とも言える存在を失った。
それは6年前、俺がまだ11歳の時だった。
両親は家の中で口から血を出して倒れていた。
後に聞いた話だが、死後両親の体が解剖された結果二人とも心臓が握り潰されたような痕があったという。
その後両親が残した遺産でなんとかやりくりしていた俺だったが、十五歳の時に財産が底をつき、冒険者になった。
「ヒール草五本。よし、これで揃ったな」
誰もいない森林の中、独り言が響く。
手に数本の草花を持った少年は立ち上がると、街に向かって歩き出した。
「クエスト番号E-4、これでお願いします」
少年が手に持った草花を台に置いて、目の前の女性にそう告げた。
女性は無言で台に下から紙束を出し、そのうちの一つを取り出す。
「確認してまいりますので、少々お待ちください」
やっと口を開いたかと思うと、直ぐに受付の奥に行ってしまった。
それから一分ほど待つと、手に数枚の硬貨を持って受付の女性は帰ってきた。
「確認が取れました。これが今回の報酬です」
女性は口を動かしながら台の上にそれを置いた。
「ありがとうございます。それでは──」
「──お前まだこんなクエストやってんのかよ」
少年の声を遮って嘲笑う声が一つ。
振り向くと、少年より十センチほど背の高い男がいた。
「なんだよ。関係ないだろ」
そのまま通り過ぎようとした少年の肩を掴むと、男は顔を歪ませる。
「Eランク風情が俺にそんな態度とっていいのかよ?」
男の声を無視して肩に乗っている手を払い除けた。
「ッ! テメェ!」
男は払われた手を大きく振りかぶると、少年の左頬を捉えた。
「ッウッ!」
少年が吹き飛ぶ。
まだ日も暮れていないのに酒を飲んで騒がしくしていた周りの冒険者たちは、それに気付くと一様に口を止めた。
少年は思わず溢れそうになった涙をなんとか堪えると、赤く腫れ上がった頬を押さえて立ち上がる。
「可哀想に」
「仕方ねぇよ、あいつは無能だしな」
「頼むから他の場所にしてくれよ」
それまで黙っていた周りの冒険者たちは口々に声を漏らす。
少年は拳を強く握ってギルドの外へ駆け出した。
堪えていた涙が溢れてしまう。
──その涙は、痛みからのものではなく、悔しさだった。
両親がそれぞれかなり高名な剣士、魔術師であった俺は、幼い頃から英雄に憧れていた。
誕生時に神から授けられる力──【授能】によってその人の実力がほぼ決まる世界で。
俺が授かった授能は、【ステージ1】というものだった。
これまで存在した授能が全て記されている授能記録書にも載っていないらしく、
そのうえ詳細も全く分からないことから、ハズレの烙印を押された。
あまりの悲しさに当時泣きじゃくることしか出来なかった俺を励ましてくれたのは、両親だけだった。
しかし、ある日そんな唯一の味方とも言える存在を失った。
それは6年前、俺がまだ11歳の時だった。
両親は家の中で口から血を出して倒れていた。
後に聞いた話だが、死後両親の体が解剖された結果二人とも心臓が握り潰されたような痕があったという。
その後両親が残した遺産でなんとかやりくりしていた俺だったが、十五歳の時に財産が底をつき、冒険者になった。
「ヒール草五本。よし、これで揃ったな」
誰もいない森林の中、独り言が響く。
手に数本の草花を持った少年は立ち上がると、街に向かって歩き出した。
「クエスト番号E-4、これでお願いします」
少年が手に持った草花を台に置いて、目の前の女性にそう告げた。
女性は無言で台に下から紙束を出し、そのうちの一つを取り出す。
「確認してまいりますので、少々お待ちください」
やっと口を開いたかと思うと、直ぐに受付の奥に行ってしまった。
それから一分ほど待つと、手に数枚の硬貨を持って受付の女性は帰ってきた。
「確認が取れました。これが今回の報酬です」
女性は口を動かしながら台の上にそれを置いた。
「ありがとうございます。それでは──」
「──お前まだこんなクエストやってんのかよ」
少年の声を遮って嘲笑う声が一つ。
振り向くと、少年より十センチほど背の高い男がいた。
「なんだよ。関係ないだろ」
そのまま通り過ぎようとした少年の肩を掴むと、男は顔を歪ませる。
「Eランク風情が俺にそんな態度とっていいのかよ?」
男の声を無視して肩に乗っている手を払い除けた。
「ッ! テメェ!」
男は払われた手を大きく振りかぶると、少年の左頬を捉えた。
「ッウッ!」
少年が吹き飛ぶ。
まだ日も暮れていないのに酒を飲んで騒がしくしていた周りの冒険者たちは、それに気付くと一様に口を止めた。
少年は思わず溢れそうになった涙をなんとか堪えると、赤く腫れ上がった頬を押さえて立ち上がる。
「可哀想に」
「仕方ねぇよ、あいつは無能だしな」
「頼むから他の場所にしてくれよ」
それまで黙っていた周りの冒険者たちは口々に声を漏らす。
少年は拳を強く握ってギルドの外へ駆け出した。
堪えていた涙が溢れてしまう。
──その涙は、痛みからのものではなく、悔しさだった。
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