花魁道中いろは唄

白鷹 / ルイは鷹を呼ぶ

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第壱章 色は匂へど

2話 中見世『大野木屋』

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文化四1807年、年が明けて間もないこの時期は身を切る様な寒さが若山を包んだ。
昨夜、井戸の桶に水を張ったまま放置した若衆は、朝方分厚く凍っているのを見て改めて寒さを感じたのか、「ひぇっ」と悲鳴を挙げた。

今年ので十四になった新造の琥珀は少しでも身を温めようと自分で抱き締めた両腕で体を擦る。
が、そんな程度で凌げる寒さではない。

大野木屋は、若山遊郭創立の頃からあったと言われる歴史の深い中見世で、
老舗ではあるがそれ故に建屋は古く、隙間風が温もりを奪いながら通り過ぎて行く。
 
部屋の片隅には僅かながら炭があり、七輪に火を入れれば暖を取れない訳ではない。
だが、姐の紅に断りもないままに勝手に炭を使ったら何を言われるか。

そもそも楼閣では女郎達が私生活で使う生活用品は全て借金になる。
勝手に借金を増やす訳に行かない。

「うぅ……、寒い! 琥珀、火鉢に火ぃ入れな!」

姐への気遣いは全く以って無用だった。
ようやく布団から抜け出て来た紅は遠慮会釈なしに乱暴に言い放つ。

「けど姐さん、最近は炭代も高くなっておりんすよ?」
「炭が高いなんてふざけてんだよ。木の燃えカスに金払えってぼったくりもいいとさ」
「文句言ったって炭代が安くなる訳じゃありんせんのに……」
「つべこべ言わずに火ぃ入れな」
「あ、あい。……あの、姐さん……、その、あの」

元来気性が激しく、気に入らないと途端に喚き出す姐に伝えるには、余りに体裁が悪すぎて口ごもってしまう。

「なんだい、厄介ごとかい。聞きたくないから茶屋にでも行って愚痴って来な」

まるで犬でも追い払う様な仕草で紅は手をしっしっとひらひらさせた。

「いえ、あの……、そうも言えず……」

いつもならすごすごと引き下がる妹新造が珍しく食い下がるので、
紅は仕方なく座布団を引き寄せると肘掛けに体を預けて琥珀の顔を見る。
すると琥珀は申し訳なさそうに眉を八の字に下げると、懐から三通の手紙を差し出した。

差し紙か、と思い一瞬身を乗り出し掛けたが、年季明けも近いこの年になって三通も纏めて新規の客が付くようなことはない。ましてや大野木屋は中見世だから初見世でもない限り、差し紙の手順など踏む客もいない。
張見世で女郎が吸った煙管を客に差し出し、それを客が吸えば合意の証となり見世に登楼る。
一見の客でも構わないのだ。

とするなら、と紅の眉間に深い皺が刻まれ眉が釣り上がる。

———切れ文。

遊郭では一度妓を選べば、その妓以外と通じるのは体裁上よくないとされる。
見世や女郎にバレない様に上手く立ち回る男もいるが決して褒められた行為ではない。
他の妓と褥入りをしたいと思うなら、こうして切れ文といわれる縁を切るための手紙、『三行半』ともいわれる離縁の申し出と手切れ金で正式に縁を切る。
 
それが三通も一度に来た。当然穏やかではいられない気性の紅だ。
勢いよく立ち上がると、琥珀の手から切れ文をひったくる様にして奪う。
そして中身を見ずにびりびりと破り捨てて、肘掛けを蹴り飛ばし、畜生と何度も口汚く誰に向かうでもなく罵倒する。

「まぁた紅が癇癪玉の様に騒いでらぁ」
「いい面の皮だねぇ。偉そうに廓言葉なんざ使ってっからそんな目に合うんだ」
 
女郎達が口々に罵倒の声を投げ付けてはくすくすと笑いながら去って行く。
紅は年季明けが近いとはいえ大野木屋の看板女郎だ。
そんな女郎たちの様子を見て、どれだけ気性が荒かろうと、看板たるにふさわしい美貌で見世を守って来ているのだ。

大して見世に貢献も出来ない端の女郎が何か言えた筋もないのにと琥珀は思う。
 
襖を閉めて女郎達の雑言を遮断するとその続きを伝える。

「それで、切れ文のお客が新しく差し紙を出した先は華屋の新造だそうでありんす」
「新造だって?」

新造は客を取らない。中見世や小見世では事情も違ってくるだろうが、華屋は若山随一の大見世だ。
振袖新造が客を取れる筈もない。

「来年突き出しを迎える予定だった牡丹お職の新造が、今月の末に突き出しをするとかで、多くの客がその新造の元に流れて行っているそうでありんす。今は牡丹花魁の客として、牡丹花魁とは枕を交わさずにその新造の客になる体裁を整えるために差し紙を出していると」
「ということは前に届いた四通の切れ文もかい」
「……あい」

琥珀が小さく頷いて肯定すると紅は美しい顔をこれでもかという程に歪めて、蹴り飛ばした肘掛けを拾うと窓に投げ付けた。
当然、障子の格子はぼきりと音を立てて障子紙と共にずるずると畳の上に落ちる。
加えて肘掛けも土台が外れて壊れてしまった。

「姐さん、落ち着いてくんなまし」
「これが落ち着いてなんかいられるかい! 大野木屋の看板として今まで張ってきてるのに、わっちの代で七人もの客を華屋に取られたんだよ。しかもお職の牡丹じゃない、初見世も済んでない牡丹の新造如きに! 歴代の姐さん方になんて言い訳をしたらいいんだい」

紅が一つ言葉を投げる度に腕を振り回し地団駄を踏むものだから、座布団が飛び煙管盆がひっくり返り行灯が倒れ、部屋は散々な有様になる。

「今回は仕方のないことでありんす。牡丹お職の新造はかなり前から相当な人気を集めていたのでありんすから」
「判った風な口を聞くんじゃないよ琥珀。あんただってもう少しで初見世だ。それなのに差し紙が全く来ないじゃないか、 悔しいとは思わないのかい」

大見世と違って中見世や小見世は比較的突き出しが早い。
身体の成長が見られ初潮が来たらそれは水揚げの合図なのだ。
琥珀は体も大きく早熟で十二の頃には初潮を迎えていた。
 
十四になった今年は琥珀の初見世を控える年でもあったのだ。

「それは悔しいけんど……、あっちも牡丹お職の新造がこんなに早く初見世を出すなんて思っとりやせんでした」
「琥珀だなんて綺麗な名前の割に冴えない顔して、名前負けもいいとこだよ、全く。幼い頃はとんでもない別嬪だったのに、歳を取るごとに顔がどんどん大雑把になっていきやがって。じゃがいもが畑で笑ってるよ」
 
紅は大きく一つ溜息を吐くと煙管盆を片付けて、煙管に刻み煙草を詰めた。
一服でもしなければ落ち着くこともできゃしない、とぼやきながら自ら散らかした部屋を琥珀に片付けるように言う。

琥珀は折れてしまった障子の格子木を見てしおれた花の様にしょんぼりとする。大雑把でじゃがいもに笑われる様な顔。幾ら姐でもそれは余りに酷い。

すると勢いよく襖が開いて、朗々とした声が響く。

「まぁた、暴れてんのか紅。見世の外まで怒声が響いてたぜ。あんまり琥珀に酷いこと言うなよ。琥珀は大野木屋の新造の中で一番の別嬪だ」
「惣一郎様」

開いた襖の前には風呂敷を抱えたすらりとした長身の男が立っていた。上質な正絹の着物を粋に着こなしている。
男を見た途端に琥珀の顔はふわりと緩んだ。

尾張地方で豪商と呼ばれる大店老舗おおだなしにせ、呉服松川屋に勤める惣一郎は、店主たなぬしの藤樹に気に入られており、実子ではないが体裁を整えてたなを襲名するだろうと言われている。

「俺ぁ、琥珀のおおらかな顔が好きだぜ」

面と向かって惣一郎くらいの男前に好きと言われれば、純朴な琥珀は途端に茹でた蛸の様に赤く染まる。

琥珀に向けた惣一郎の笑顔に苛々しながら紅は煙草の煙を吐き出す。

「惣一郎、何勝手に見世に登楼って来てんだい。きちんと茶屋を通して貰わないと困るね」

楼閣では遣り手や茶屋を通さない男が勝手に見世の二階に登楼ることは赦されていない。至極まともな言い分だが惣一郎は紅の言葉を撥ね付けた。

「馬鹿野郎、俺ぁお前の客になった覚えはねぇよ。今日はむしろ、お前が客だぁな」
「あちきが客だって? 何とんちきなことほざいてんだい、帰んな」

簪を一本抜いて頭をぽりぽり掻きながらしらりと追い返そうとする。
 
だが惣一郎はそんな紅の態度はお構いなしに部屋に入ってくると風呂敷の結び目を解き始める。

「もうすぐ可愛い妹の初見世だってのに、お前何の準備もしてねぇらしいじゃねぇか。ここは一つ、呉服屋老舗松川屋の若旦那の俺が一肌脱いでやろうって思ってよ。反物を持ってきたんだよ」

炭代ですら節約しなければならないかもしれないこの状況で妹のために反物から着物を仕立てろと言う。そんな世迷言に付き合っていられるかと紅は惣一郎を鼻で嗤い飛ばす。

「はっ、何が若旦那だい。若旦那候補ってだけじゃないか、捕らぬ狸の皮算用何とやらってね」
「そうつれなくすんなって。何でも気になってる華屋の牡丹花魁は、妹の初見世に五百両出したってぇ話だぜ?」

聞いたこともない様な大きな金額に紅はしばし茫然として煙管の灰を畳に落とす。

琥珀は慌てて畳が焦げない様にパタパタと着物の袖で叩いて火を消した。

「ご、ごごご、五百だって? ふ、吹くのも大概にしな」

大野木屋では看板の紅ですら一晩二分の揚げ代だ。
祝儀と床花を合わせて一両に届くか届かない程度が関の山。
それを妹が初見世を迎えるというのに五百両とは、いくら大見世とは言え法螺にも程がある。

とはいえ、あながち嘘だとも言えないのが大見世なのだ。
一旦は牡丹が立て替えたとはいえそれは結局初見世の世話をする客が払うのだから大きく出た所で牡丹の懐が痛んだりもしない。

「五百両ってすごぉい……。やっぱり初見世はどこも張りんすな、ねぇ、姐さん」

裕福な店が立ち並ぶ東海道の公道宿場近くにある若山遊郭は景気が良く繁盛している。
それ故に客も豪遊したがるし、中見世と言えど少し気合を入れればどこの見世でも突き出しに道中を踏むことが出来るこのご時勢だ。突き出しに五百両とはいわずとも、相応に張り込む見世は多い。

だが紅は期待に目を輝かせる琥珀から顔を逸らして煙管に口を寄せる。

「琥珀は……、わっちの一番高い仕掛けを詰めて仕立て直すんだよ」

仕立て直しの着物。つまり新品の着物に袖を通す機会は琥珀の生涯あり得ないということだ。仕立て直しという言葉を口の中で反芻しながら琥珀はまたしょんぼりと萎れた花の様に眉を八の字に落とす。

そこにこれ見よがしな惣一郎の大きな溜息が割り込んだ。

「そんなんだから、客も逃げるんじゃあ無いのかい? 京の友禅染めの仕掛けに対して古着じゃあ、あんまり琥珀が可哀想だ」

着物に詳しくなくても一度や二度は聞いたことのある染物の一つでもある友禅染めはやはり高値で中々手に入る代物ではない。精々夢で着る程度だ。
ほわほわと脳裏に友禅染めを考える琥珀の様子に惣一郎は紅の膝に風呂敷から出した反物を寄せる。

「なぁ、可愛い妹の初見世だろう。ちぃとばかし張り込めや。看板の面子もあるだろうさ。じゃがいもなんて言ってやるなよ、琥珀は大野木屋次代の看板だろう?」
 
思わぬ期待の言葉に琥珀はまたもや頬を染める。

「華屋は若山一の大見世だ。別嬪揃いなのも当たり前だろう。そこと比べるんなら、お前ぇだって大野木屋の看板として牡丹花魁と張り合って見ろってなもんだ」
「……十両だ」
 
紅は煙管の雁首を灰壺に叩き付けて文机の下の漆器で出来た箱を開けると袱紗を剥がし小判を十枚、惣一郎に渡す。

「これが手一杯だ。……これで琥珀の初見世の一式揃えてやっとくれ」

苦虫を噛み潰した様な表情ではあるが紅でも矜持を以って看板を背負って来ているのだ。看板の面子を引き合いに出された以上腹を括るしかない。

「まあギリギリ揃うかどうかってとこか。何とかしてやらぁ」

新品の着物が揃う。安物だろうが何だろうがそれは琥珀にとって大きな問題ではない。

「ありがとうございんす。姐さん、惣一郎様」

琥珀が余りにはしゃぐものだから紅はたった十両という金を見詰めてバツが悪そうに顔を背けて、はしゃぐんじゃないよ、恥ずかしいとぼやいた。

「惣一郎様……、その」

消え入りそうな声で琥珀は惣一郎の袖をつんつんと引っ張って耳元に顔を寄せる。

「もし、お嫌でなければ、あっちの初見世のお客になってくんなまし」

ハッとして惣一郎は真っ赤に染まった琥珀の顔を眺める。初見世の客、つまり床に誘われたのだ。

「かーっ、可愛いこと言うじゃねぇか。しょうがねぇ、俺がちぃと色付けていい着物仕立ててやっからよ、安心しろ」

そう言って琥珀の頭を節くれ立った大きな手でぽんぽんと優しく撫でる。
琥珀にしてみれば着物をねだった訳でなく本当に惣一郎に客になって欲しいと願っていたのだからこれは大きな勘違いを生んでしまった。

「えっ、や……、そ、そんなつもりじゃ、なくて。その、本当に……」

ごにょごにょと尻すぼみに小さくなっていく声で惣一郎への想いの丈を口にするが惣一郎の耳には届かなかった。

琥珀は、惣一郎に惚れているのだ。

無論惣一郎はこれだけ豪胆で気前が良く、誰もが見惚れる様な男前な上に、明朗で快活だ。
遊郭の中で惣一郎と関係を持ちたがる女郎は多い。

「惣一郎」
 
話に蹴りを付けて紅が惣一郎の腕を引っ張る。

「なんでぇ」
「あんた、今暇なのかい?」
「まぁ、そう忙しくもねぇわな」
「じゃあさ、そっちの部屋にきとくれよ」
「あん?」
 
そのやりとりを見て琥珀はハッとする。
惣一郎は姐、紅の間夫なのだ。
当然遊郭内に敵娼あいかたなどもいるだろうが、楼閣や女郎の目を掻い潜って女遊びを楽しんでいる。
紅もそれは充分に知っているが別に心を交わしている訳ではないから悋気りんきなどは蚊帳の外だ。

「ここんとこジジイの相手ばっかでさ……、判んだろう?」

さすがに一つの楼閣の看板を背負っているだけあって、男にしなを作るとなるとその色気に琥珀でさえも悩殺される程艶っぽい。惣一郎も悪い気はしないのだろう。口角をにやりとあげて立ち上がると紅と共に隣の部屋へ行こうとする。

「しゃあねぇなぁ。ほら、琥珀ねじり飴やるよ。ちょいとあっち行ってな」

懐紙に包んだ飴を琥珀に渡して襖を閉める。
琥珀はぼんやりと飴を見詰めて零れそうになる涙を堪えた。

「飴なんて、貰ったって、もう嬉しくなんて無いもん、惣一郎様……」

ほどなくして襖の向こうから、紅の喉から絞り出す様な掠れ気味の艶っぽい喘ぎ声が響く。

琥珀は胸を締め付けられるような思いを抱えて部屋から飛び出した。
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