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第1章
辺境伯からの手紙
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「リリアーナ、喜べ!お前を嫁にもらいたいという手紙が来たぞ!しかも、相手はあのグウェイン辺境伯だ」
常に書斎に引きこもって仕事ばかりしている父からの突然の呼び出しに、リリアーナ・べインズはようやく合点がいった。
「三日後にこちらへ訪ねて来るらしい。失礼のないようにしっかりと準備をするように」
「……分かりました、お父様」
リリアーナは、しぶしぶそう言うしかなかった。これは、自分から提示した条件だからだ。
五年前にリリアーナは十八歳となり成人を迎えた。
一般に貴族の令嬢、令息は十八歳で社交界にデビューする。王族や由緒ある家柄の者であれば、幼いころにすでに許嫁がいる場合もあるが、多くの者は社交界で交友を広げて将来の伴侶を探すことになる。
しかし、リリアーナにとってそれは、全くもって興味が持てないものだった。できることならずっと家にいたいが、そうも言っていられないのもまた事実。
そこで考えたのは、領主としての仕事を覚えて爵位を引き継ぐことだった。リリアーナの魂胆を見抜いていた父は、はじめこそいい顔をしなかった。しかしそのうち、リリアーナ一人に任せることのできる仕事が増えてくると、スムーズな領地運営ができるようになったと喜ぶようになる有様だった。
そんな勤勉な娘も、社交界に出さえすれば考えを変えるだろうと思っていた両親の期待はきれいに裏切られた。
『社交会に出るのは成人後のお披露目の一度だけにする代わりに、両親の納得する結婚相手が現れた時はそれに従う』
リリアーナは、そのような旨が書かれた誓約書をもって両親の前に現れたのである。この条件を飲んでくれないのであれば社交界にもいかないし結婚もしないと断固としてゆずらなかった結果、仕方なく両親が折れる形になったのである。
最初で最後の社交界に出席してから早五年。これまでリリアーナに結婚の申し出は一度もなかった。ここまでくればもうリリアーナの存在はみな忘れた頃だろうと、完全に安心しきっていたところへのこの知らせだった。諦めモードだった両親からすれば、これはまたとない機会。何が何でも結婚に結びつけようとするだろう。ましてや、相手はグウェイン辺境伯と言う何代にもわたって爵位を継承し続けている由緒ある家系の一つだ。本来であれば断る理由などどこにもない相手だった。
(さすがに、これはもう逃げられないわね……。でも、なぜグウェイン辺境伯が私に?)
グウェイン辺境伯とは、王都から北へ二日ほど馬車を走らせたところある、シルフィードの地を治める領主だった。北に面する隣国ヴァンディアとの国境に位置しており、国の城壁としての役目を持つ重要な土地である。
歴代のグウェイン家の当主は、数万規模の軍隊を率いるのに見合った屈強な人物ばかりであった。だが、現当主はすらりと伸びた長い手足に、鍛錬でついたであろうしなやかな筋肉を持つ美男子なのだという。社交に疎いリリアーナの耳にさえそのような噂が届くほどなので、彼との結婚を望む令嬢はかなりたくさんいることだろう。
(うちよりもいい家柄の令嬢はもっといるはず。だとしたら、あえて私を選ばざるをえないような理由があるのでしょうね)
そう結論付けたリリアーナは盛大にため息をついた。
(ただ結婚するだけならまだしも、こんな立派な家なんて私には荷が重すぎるわよ……。せめて残された数日は自分のために使って、独身最後の時間を謳歌しなきゃね)
常に書斎に引きこもって仕事ばかりしている父からの突然の呼び出しに、リリアーナ・べインズはようやく合点がいった。
「三日後にこちらへ訪ねて来るらしい。失礼のないようにしっかりと準備をするように」
「……分かりました、お父様」
リリアーナは、しぶしぶそう言うしかなかった。これは、自分から提示した条件だからだ。
五年前にリリアーナは十八歳となり成人を迎えた。
一般に貴族の令嬢、令息は十八歳で社交界にデビューする。王族や由緒ある家柄の者であれば、幼いころにすでに許嫁がいる場合もあるが、多くの者は社交界で交友を広げて将来の伴侶を探すことになる。
しかし、リリアーナにとってそれは、全くもって興味が持てないものだった。できることならずっと家にいたいが、そうも言っていられないのもまた事実。
そこで考えたのは、領主としての仕事を覚えて爵位を引き継ぐことだった。リリアーナの魂胆を見抜いていた父は、はじめこそいい顔をしなかった。しかしそのうち、リリアーナ一人に任せることのできる仕事が増えてくると、スムーズな領地運営ができるようになったと喜ぶようになる有様だった。
そんな勤勉な娘も、社交界に出さえすれば考えを変えるだろうと思っていた両親の期待はきれいに裏切られた。
『社交会に出るのは成人後のお披露目の一度だけにする代わりに、両親の納得する結婚相手が現れた時はそれに従う』
リリアーナは、そのような旨が書かれた誓約書をもって両親の前に現れたのである。この条件を飲んでくれないのであれば社交界にもいかないし結婚もしないと断固としてゆずらなかった結果、仕方なく両親が折れる形になったのである。
最初で最後の社交界に出席してから早五年。これまでリリアーナに結婚の申し出は一度もなかった。ここまでくればもうリリアーナの存在はみな忘れた頃だろうと、完全に安心しきっていたところへのこの知らせだった。諦めモードだった両親からすれば、これはまたとない機会。何が何でも結婚に結びつけようとするだろう。ましてや、相手はグウェイン辺境伯と言う何代にもわたって爵位を継承し続けている由緒ある家系の一つだ。本来であれば断る理由などどこにもない相手だった。
(さすがに、これはもう逃げられないわね……。でも、なぜグウェイン辺境伯が私に?)
グウェイン辺境伯とは、王都から北へ二日ほど馬車を走らせたところある、シルフィードの地を治める領主だった。北に面する隣国ヴァンディアとの国境に位置しており、国の城壁としての役目を持つ重要な土地である。
歴代のグウェイン家の当主は、数万規模の軍隊を率いるのに見合った屈強な人物ばかりであった。だが、現当主はすらりと伸びた長い手足に、鍛錬でついたであろうしなやかな筋肉を持つ美男子なのだという。社交に疎いリリアーナの耳にさえそのような噂が届くほどなので、彼との結婚を望む令嬢はかなりたくさんいることだろう。
(うちよりもいい家柄の令嬢はもっといるはず。だとしたら、あえて私を選ばざるをえないような理由があるのでしょうね)
そう結論付けたリリアーナは盛大にため息をついた。
(ただ結婚するだけならまだしも、こんな立派な家なんて私には荷が重すぎるわよ……。せめて残された数日は自分のために使って、独身最後の時間を謳歌しなきゃね)
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