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日本のへそ
共に生きた証を授かりました
しおりを挟む昨夜は早くに寝落ちたので、翌朝は気分爽快で目覚めた私である。
また今日から出勤しなくてはいけないし、体調良くて助かった。
ただし外は梅雨らしく雨だけど。
なにも結婚式の次の日から働かなくても…とか、新婚旅行でヨーロッパ一周でもしてきたらどうだと口々に友達からも言われたけど、現実的にパスポートを所持していないから海外旅行には行けませぬ。いつか海外に興味持てば作るかも。
ルークスさんだってエキゾチックジャパンを堪能することが今は最優先だからねえ。新婚旅行は考えてないです。
ちなみに入籍はといいますと、結婚式の前に済ませました。ルークスさんは稲森家の婿養子になったよ。
異世界の住人とどうやって戸籍を結んだのかって?
謄本もないのにね。不思議だね。その辺はエキスパートな父のコネでアレしてソレしてコレしてなんとかした。ビバ官僚。
約一か月後─────。
じめじめした季節が終わりカラッとした太陽が眩しく照りつける夏が来た。
私は今、式場見学に来たお客様を案内し終え、ふらふらとパウダールームへ。
化粧直しとUVケアをしようと椅子に腰かけ、そこであまりの気持ち悪さに吐きそうになり、むしろ吐きたくなってトイレへと駆け込んだ。
うげー。なんか変なもんでも食べたっけ?
昨夜は焼肉ヒャッホーと、オカマ兄のオカマ仲間たちと盛り上がって我が家で焼肉パーティーしたけど、こんな気持ち悪くなるまで食べた覚えはない。
じゃあ二日酔い?それもないな。私はお酒に弱いの自覚してるから自重した。
まあ自重しなくてもルークスさんが飲ませてくれないんだけどね。異世界でミザリーさんまじえて一緒に飲んだ時の失態を忘れてくれないんだ。
酒に酔った私がとんでもないこと言い出すことより、キス魔になってオカマたちにキス仕掛けることを恐れたみたい。
たとえキス魔になったとしてもオカマ相手に何言ってんだと思うけど、私の旦那様はオカマとお酒に関してはキビシイのである。
はて。そう考えるとこの嘔吐感はなんだろう。
今のところ気持ち悪さが込み上げてくるだけで口から中身が飛び出すことはないのだが、それでも胃から何かがせり上がってくるので、いつ吐くか分からず戦々恐々しながら個室へ閉じこもっている。
そんなこんなしてると同僚から「どうしたー?」と声をかけられ、気持ち悪いから閉じこもってると正直に言ったら「あんたそれ悪阻じゃね?」と指摘される。
────────ほ?
可能性は無きにしも非ず。なんせ私は新婚さん。
早速スケジュール帳開いて調べてみたら、先月末に来るはずの生理が来てないことに気づいた。生理予定日は一週間以上前である。おかしい。
落ち着け。こういうこと前にもあった。異世界で。あの時はロザンナ医師に相談して、実は寝込んで意識ない間にもう月経が終わってたというオチだった。
今回も誰か医者に相談をしようと思いつくのがオカマ兄一択しかない私の脳内検索が貧弱。いくらオカマとはいえ身内に相談かー…。
「駅前のドラッグストアで妊娠検査薬買って帰りなよ」
はっ!上司からの天啓。この世界には便利な文明アイテムがあった。
誰が開発したか知りませんがありがとうございます。早速、薬局で買って…て、どこに売ってるのか分からんがな。普段の買い物コーナーじゃないからさっぱりだ。
天井から釣り下がってる案内板に妊娠検査薬の文字はない。さもありなん。
性に関するものはどこにあるんだーと、関連したコンドーさんを探してみる。そしたらその傍にあった。やったぜミッションクリア。
一回用と二回用がある。どっち買おう。使用期限は一年か。次回までにとっておくことができなさそうだから一回用でいいや。今回の分だけ購入。
これだけ買うの恥ずかしいなと歯ブラシも一緒に買う。一見、歯ブラシ二本買ったようにしか見えないこの擬態。完璧である。
いそいそとマンションに帰り、こそこそとトイレへ直行。
便座に座って説明書を熟読してから、いざ実行。実行内容は割愛。
トイレでごそごそしてたら「ハツネ殿ー大丈夫か?気分悪いのか?」とルークスさんから声をかけられる。
長いことトイレから出て来ない私を心配してくれたんだね。すまん。判定までもうちょっとかかるから「あと三分」と具体的に時間を告げた。
「何が?」と扉向こうの彼を当惑させたようだが気にしない。
きっかり三分後、私はトイレの扉を静かに開けた。
ルークスさんたらまだ扉の前にいた。余程心配だったとみえる。
「ハツネ殿…?」
「ただいまです」
「ああ、おかえり」
「大変お待たせしました」
「ど、どうしたんだ…?」
なんだか彼が怯んでるようだけどなんでだろう。
私の雰囲気が異常な所為だろうか。
大丈夫です。私は平気。この胸の内を早く彼に知らせなければ…と、なぜか緊張を孕んだ空気の中、私は告げた。
「これ…妊娠検査薬…陽性です」
「…………ん?」
「えーと、妊娠しました」
「…────あ」
まさかの「あ」です。第一声。
透明のポリ袋に入った妊娠検査薬を見せてあげる。検査薬はアレコレして不潔になっちゃったから袋に入れたのだ。
透明袋からそのまま中身を見てごらん。
縦線がくっきり出てる。妊娠反応があった証拠だ。つまり陽性。
そう説明した後、ようやく実感が湧いたみたいで、ルークスさんから声もなく抱き締められた。
「ありがとうハツネ」
静かにそう呟いた彼の声が震えていたことが印象的だ。
そうだった。ずっと望んでたことだものね。共に生きた証が欲しいって…。
私も嬉しい。嬉しさが天元突破してこんな変な伝え方になってごめん。
ルークスさんとの子だもの、きっと可愛いね。今から楽しみ。
それからの彼は、こちらの世界での妊娠についてと妊婦さんのケアとをネットで調べ上げる日々。それで知った驚愕の事実。
「妊娠五ヶ月もすれば赤子の性別が判るだと…!!?」
腹部エコーにも同様のショックを受けていた。どうやら医療水準は日本の方が高いようで。帝国にもそれなりに魔法道具による妊娠検査とかあるみたいだけど、性別までは判らないそうな。
帝王切開や全身麻酔、出産時の死亡率の低さや妊娠出産育児における給付金の存在なども驚いたようである。そして何より…。
「母子手帳は素晴らしいな」
妊婦検診に使う各種クーポンを見てかなり感動しちゃったルークスさん。
陽性反応が出てからオカマ兄のとこで診てもらい、妊娠が確定したので保健センターへ行った。そこで母子手帳を交付してもらった時のことである。
私的に母子手帳と一緒にもらった「新米パパになったら」っていう小冊子が頑張ってると思うよ。こうやってイクメンを育てるんだね。
「これだけ充実した制度があれば安心して子が産める」
そう言いながら調べたことをまとめ上げて資料作成に勤しむ我が家の新米パパ。
明日、聖霊回廊で皇帝陛下と会うから提案するらしい。
残念ながら私は明日も仕事で会えないけれど、ルークスさんには手土産に私セレクトお勧め和菓子セットを渡してある。仲良くお食べください。
何やらエリオンくん(走れよ一歳児)が、私の持ち寄る甘いお菓子類に目覚めたっぽくて、会う度になにがしか甘いものを持っていくのが習慣になったのだ。
虫歯に気をつけてねと注意しながら渡すけど、にぱあぁぁ!と愛らしひ笑顔を見せてくれるので義叔母さんはもうメロメロですよ。
エリオンくん、君は既に女性の心を掴む術を会得してるね。将来、女ったらしにならないことを強く願う。
そんなエリオンくんが将来、日本人の女の子を娶ってしまうとは…今は知る由もないことだ。
赤ちゃんは十月十日胎内で育ててやっと出産にこぎつけれる。長いようで短いようでやっぱ長いのだろうか。
妊娠中の悪阻はそんなに酷くなかったし食べたいもの食べて過ごして、あまり腹を立てることもなく、仕事休みの休日なんてだらだらの~んびりしてた。
お腹の中の子はきっと、のんびり屋に違いない。
出産予定日は来年の桜芽吹く頃だったけど、ちょっとだけ早く梅が盛りの頃に生まれた。私たちの初めての子供だ。
「どうですか?」
保育器に入った我が娘を飽きもせず、じっと見詰めてるルークスさんに問いかける。
私はベッドに横たわったまま感想を求めてる。いやね。今、座れないのよ。お股がパーンでバリーンしたからね。痛くて痛くて座れない痔患者のようになってます。
「すごく可愛い」
感想それだけかよとは思うけど、その表情がメロメロなので真意は伝わってくるね。思えば甘いもの食べた時も、あんな顔している。なんだ。やっぱ好きなんじゃない甘いもの。赤ちゃんもスイーティだしねえ。
「まだ産毛だから分かりにくいけど金髪ですよ。ルークスさんにそっくり」
そうなのだ。本当に金髪の子を産んでしまった私。
妊婦検診の頃から女の子だって分かってたけど、エコーは白黒だし髪色までは判断つかなかった。それでもなんだか金髪のような気がしてたのは母の勘でしょうか。
おいでませエンゼル。将来は美人確定ですよ。パパ似だから。
それからの子育て。
予想通り、のんびりした子供だったのであまり手が掛からなかったけど、どんどんパパっ子に育ち、おしゃまな三歳児になった頃、二人目の子を授かった。
二人目も女の子。つやつや黒髪が綺麗なこれまた美人ちゃんである。
最終的に三人目も二年後に授かって、またまた金髪の女の子だったのには驚いた。三人美人姉妹と友達からは言われたが、三人寄ればかしましいわ。
子供達にはパパの出身地、異世界のことを余すことなくお伝えした。
子守歌代わりにパパとの出会いを語り、寝付けない夜にもパパの格好良いところを列挙した。
幼い内はそんな私のパパ大好き物語を純粋な瞳で聞いてくれてた娘たちだったが、だんだん「ノロケウゼエ」と言われるように…なんでだ。
まあそれでも長女の朱鳥は癒し系に、次女の海鳥はクール系に育ってくれた。
二人とも男子にモテて大変みたい。さすがハンサムガイの娘ですね。
三女はどんな子かって?三女の小鳥音は一時神隠しに遭いまして。その時に出逢った王子様が忘れられないみたいですよ。
「ことね、ちゅーしたの。これはけっこんのおやくそくなのよ」
帰って来た三女が言うにはそういうことらしいです。
小鳥音は異世界で白馬の王子様に出逢い夢見心地だが、ルークスさんは怒髪天だ。
娘の唇奪った犯人を予想つけて、その親御さんを聖霊回廊まで呼び出したみたい。
「お前のとこの長男は何をやってるんだ」
「滅相も御座いやがりません」
飄々としたヒースさんに悪びれは無い。
後ろでセナさんことセナスティも笑っていたようだ。
三女の恋、どうなることやら。
実家にはなかなか帰れないルークスさんだけど、聖霊回廊で女連中とお茶会する私と同じように、向こうの世界の男連中と何やらつるんでて楽しそうである。
なんだかんだ異世界との繋がりは消えないまま生涯ずっと付き合っていくことになる。更に次の代まで…。
To Be Continued ・・・ ??
-------------------------
続くとかどういうことだ(笑)
他にも色々と書きたいなあということで。
<派生作品案内>
『エリオンくんの花嫁』NL
帝国三兄弟(エリオン・レオン・サイラス)と異世界召喚された八葉ちゃんが、最果ての島から帝都まで約8600km旅する物語。
いつかお披露目します。
『神子業に子育ては含まれていないはずだが』BL/R18-G
神子の晃さんと聖騎士カテルの月神と冥王を巡る物語。
ムーンで完結してますので興味引かれましたらばどうぞ。まーエロいよ。
『紫鳥は屍の上に』BL/R18-G
紫鳥の国「プルヴァエンナ」建国物語。暗い話になるから書けない。私はハッピーエンドしか書けないんだ…。
題名決まってるのは以上です。
あとは聖霊王国の勇者やタツユキまわり、三女の恋がどうなるか気になるとこですね。
書けたらとは思うけど、そこまで手が回らないので、分裂して手分けして作業できたらなあと思う今日この頃です。
こんなところまでお読み下さりありがとうございましたー!
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