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三柱の世界

公開処刑ちょっとその前に

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この話いらないなーとは思いつつも書いたので置いておきます。
アリステラちゃん周りのいざこざはいずれ書きたいという希望。
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さーて。本日も出番ですよキャシィさん。
怪人衣装は台無しになり今新しいのを作ってもらってるので、現代服の上にいつもの黒ローブを羽織って認識阻害をかけ、闇天馬姿のアザレアさんを伴って出掛けた。

『ハツネちゃんを狙ってるのって、特務大使とかいうやつでしょ』
「知ってるんですか?」
『アリステラにもちょっかいかけてるのよね。油断できないわん』

なんとまあ破廉恥な男だ。あちこちの女性に手を出そうというのかね。

「理由はなんでしょうね」
『あいつ黒髪が好きみたいよ』
「まぢで。キモイわあ」

空を翔けつつ、くだらない会話をしてる間にも目的地が見えた。



<ACT8:予告状>

その日、憲兵隊官舎前に怪人キャシィは現れた。
いつもの出で立ちではなく、黒いローブ姿で頭も髪もすっぽりとフードに覆われていたので、一見して何者かは訝しむところだ。
それでもフード下の顔は鼻より下はさらされているので、色っぽいリップや卵尻な顎を見るに、彼女が相当の美人だということは認識できる。

「綺麗なお姉さん、なんか用っスか?」
『ふふっ…可愛い坊やにはこれをあげるわ』

ちょうど門兵の当番だった憲兵隊の若きエース、アトロン・キールが対応した。
これ、と言って差し出されたものは白い封筒である。
宛先のところに『予告状』と書かれてなければ素直に受け取ったところだったが、その文字を読んでハッとなったアトロンが顔を上げた時には、もう怪人キャシィの姿は無かった。

「お、おおおおあああブライヤ隊長たいへんっス!たいへんっスーー!」

驚き叫び、そして封筒を握り締め、上司である憲兵隊部隊隊長ブライヤ・オーブストの隊長室まで一直線。アトロンは駆けた。
ノックもしないでドバーンと扉を開け隊長に詰め寄る。

「隊長!予告状っス!怪人からの予告状っスよ!やばいっスよ!以前、予告状が届いた時はモッドウルド卿が尊い犠牲になったっス!今度もまた誰かの沽券に関わる重要な内容に相違ないっスー!」

その言い方はまるで何かの文章を読み上げるようなヒドイ大根役者ぶりだったが、本人は精一杯のつもりである。
だからなのか、顔をぐいっと上司に近づけて「俺頑張ったっス」と主張するアトロン。ブライヤ隊長は露骨に嫌な顔を返して不快感を示した。
男の顔を間近で眺めてもキモイだけである。

「…で、読んだのか?」
「まだっス!」

きっぱり告げるアトロンに、居合わせた他の憲兵隊員からは溜息が漏れた。
こいつはこういうやつだよな…という憐みの空気が流れる。
ブライヤ隊長だけは冷静にアトロンの顔へと顔面張り手を食らわし、ついで予告状と記された封筒を受け取り、握り込まれてくしゃくしゃになっているけどなんとか隙間をこじ開け、中身を読んだ。

『聖霊王国元国王ベンディケイド・ヴランの処刑を中止せよ。
さもなくば処刑場を爆破する───────怪人キャシィ』

丁寧に封蝋までしてあった割に中身は簡素だ。そして簡潔で分かりやすい。

「やっぱたいへんなこっちゃじゃないっスか!」
「お前ちょっと黙ってろ」

同僚に小突かれアトロンはやっと口を噤むのだった。



<ACT9:この頃流行りの女の子たち>

怪人キャシィの予告状は複製魔法機械でコピーされ、帝都中の張り出し板に掲示された。
それは酒場や公共施設など人々が集まるところはもちろん、四辻や家の壁などありとあらゆるところに貼られた。
おかげで民衆の話題は怪人キャシィのこと一辺倒である。

「おいおい今度は処刑場爆破だってよ」「怖い女だねえ」
「でもぉこの人、皇弟殿下の恋人なんでしょぉ」
「だからって何してもいいわけじゃねえやな」
「これも聖霊のためってことか」「なんてったって聖霊の復讐者サンファントモ・ベンデッタだからな」
「あたし、月神の使者って聞いたけど」「月神ってなんだ?」

これまでの奇行により怪人キャシィの評価は上々である。
悪の組織を名乗る割にキャシィと黒い天馬は悪いことなどしていないからだろう。
ただパンツを剥ぎ取り、聖霊に関係のあった場所を爆破し、聖霊を道具に私腹を肥やしたことのある貴族の沽券を奪ったくらいだ。
被害といえばそれくらいで、船上パーティーでは未遂だったし、つい先日などとてもふわふわしい生き物たちを遊ばせていただけである。

「あの毛玉ちゃん可愛かったわ」「おうちで飼いたいわね」
「しかしあの日はキャシィ様のお姿が拝見できず残念至極!」
「そうさ我らのキャシィ様!」「オーイエス!アイラーブ!」

いつの間にかキャシィのファンクラブっぽいものが出来ていた。
もしかしたら密かに伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズのファンクラブもあるかもしれない。
もしかしたらだが。



雲が流れる。空の上の方で大気が動いている。
天高く澄み切った大空には二つの太陽。
鳥が舞い、庭園の花は美しく、今日も穏やかな一日が始まるはずだったけど朝目覚めた時に気が付いた。

─…あ。今日は処刑日じゃん。

こんなことで大丈夫か私。今日は大事な日である。
急いで起きて支度しよう。ここのところというかほぼ毎日ルークスさんの所に入り浸っていた私は昨夜久しぶりに我が家のベッドで寝たのだった。
こういうこと多くないかね私。

「おはようございますハツネさん」
「うあーい。おはようアリスちゃん」

洗面をアリステラ姫と一緒にして、朝食も一緒に摂った。
こっそりアオちゃんもといシエル坊やも食卓についているが、あの猫目男子は私と視線すら合わせようとしないのが日常である。すっかり嫌われてんなあ…。

「今日が無事に済めば今夜からもお父さんと一緒に住めるねえ」

食べながら、なんとなく言った私の一言に、アリステラ姫が嬉しそうに微笑む。
朝から可愛いお姫様笑顔あざーす。
シエル坊やもどことなく嬉しそうである。今は降臨させたヒースラウドさんと"降臨の絆"があるみたいだけど、元々は聖霊王国で王族と一緒に暮らしてたシエル坊やなので、アリステラ姫のことはもちろんディケイド様のことも大好きらしい。
嫌われてるのは私だけだね…。あ、ルークスさんもどっちかというと避けられてたな。またホールド食らうと思って近づけないみたい。
可愛いよねシエル坊や。いつかその猫耳をムニムニ弄んでやりたいですわ。
こういう下心があるから避けられてるんだろうけど私に反省はない。

出掛ける前に着替えましょ。
怪人キャシィの新しい衣装も出来上がっている。超特急で仕上げてくれたミザリーさんに大感謝。アザレアさんもお手伝いありがとう。
相変わらずぴっちりボディフィットな黒革だけど、前作のへそ出しルックよりマシかなと思ってしまってごめんなさい。
でもね、このハイレグ感ヤバイんだ。どんだけ食い込みゃいいんですかってくらいの股間からの45度カットが…下毛処理必須だねこりゃ。
一応スカート風にはなってるけどフレアなところは透ける素材だし…下毛がはみだしてたら恥ずかしい。私はいつもより丁寧にムダ毛処理をしたのだった。
これから一世一代の大勝負、処刑場ぶっ壊しに行くその日の朝に、ムダ毛処理って…。

女帝様に呼ばれてるので皇居宮殿まで行く。
怪人衣装の上にいつものローブ姿そして認識阻害。ついでに忍び足で歩いた。
警戒心丸出しなのもピステロット対策である。あの人とはどうもいきなり出会うから油断は大敵なのだ。
そんな風に宮殿内の廊下を歩き、もう少しでお呼び出しのかかった部屋まで辿り着くというところで、思いがけない人物と出会った。
言っておくがピステロットさんじゃない。

「────お嬢様」
「おお。ヒースさんじゃないですか」

兄の方である。
突然現れてもあまり驚かなくなったということもなく普通に驚くわ。相変わらずの忍者っぷりですね。そして認識阻害が効かないのは例の煙の運用でしょうか。
彼は淡々と用件を告げる。

「少々お時間よろしいでしょうか。会っていただきたい人がいます。カサブランカ様の許可は得ておりますよ」

そう言うヒースさんに案内されて空き部屋らしきところへ通される。
ちょっと訝しんだけど素直に従った。
彼が敵になることは有り得ないと思ったからだ。先日の臣下の礼を信じてるよ。
果たして、部屋の中で待ってたのは一人の女性だった。見覚えがある。
当たり前である。彼女は私がこの皇居宮殿に来た時から世話をしてくれている女官のセナさんだ。

「おはようございますお嬢様。突然お呼び立ていたしまして申し訳ございません」

腰を折ってスカートの端を持っての挨拶を済ませ、セナさんが私と視線を合わせる。ヘーゼルナッツ色した瞳が少々揺れていた。
どうした?セナさんは若いのにしっかりしてて、そんな泣きそうな顔なんて今まで見たことないよ。

「私、不安に駆られまして……世間で噂されてる通りなら、お嬢様はここへはもう二度と戻って来ないおつもりなんじゃないかと…」

て、本当に泣き出した?!はらはらと瞳から零れる涙は本物である。
鼻声には気づいていたけど、まさか本当に泣くなんて思いも寄らなかった。
私がここに来るまでに、もう既に感情が昂ってたに違いない。
ほんとどしたセナさん…!

「うえーと、泣かないでセナさん。これまでほどここに来ることはないかもだけど、永久にお別れじゃないよ」

オロオロしつつも慰める方向で私は言う。
晃さんのシナリオだと、ディケイド様を助けた後は私の身が危うくなる懸念があるから、しばらくほとぼり冷めるまであの家に引き籠るつもりなんだ。
私の家は月神にさえ見つからないくらい隠蔽能力が高いからね。誰にも見つからない自信はある。
今でさえ皇居宮殿の庭、女帝様のお家の隣で堂々とその姿を晒してるのに、皇居で働く人たちはあれの存在さえ認識してないからね。

「本当…ですか?あ…差し出がましいことですが…その…」
「はい」

言いにくそうにしてるので先を促す。セナさんは視線を背けてもじもじしたり、逆に私の瞳を覗き込んでそわそわしたり、なんだか挙動不審だ。

「…そのですね…殿下とのご結婚は…お取り止めになさいません…よね…?」
「う、うん…」

その話ですかー。予定では雪解けて春頃なんだけど、これから起こす騒動のことを考えたら延期するかもだよね。
どうなるかは本当に…蓋を開けてみないと判らないということを、私は語った。

「お嬢様には、お幸せになっていただきたいのです。でなければ私、嫉妬に駆られて何するか分かりませんわ」

泣き腫らした瞳で強く言い放つセナさんの言葉に、私はハッとなった。
もしかしてセナさん────ルークスさんのこと好きなの?

「…っ、セ、セナさん」
「叶わぬ恋だと重々承知してます」

私が何か言おうとしたところを、セナさんは右手の平を開いたまま真っ直ぐ前に突き出し、私の言葉を止めた。
おかげで私は口をぱくぱくさせるだけの鯉の如しである。二の句が継げないでいる私の肩をセナさんの突き出した手が掴む。
そのまま引き寄せられて唇に、セナさんの唇が重なった。

「──────んんっ?!!」

待て!待て待て待て待て待ってええええええええ
これはキスですか?キスしちゃってますかあああ?
あまりの衝撃に私の体は固まり、引くことも離れることも考えれず、その間に少しだけ舌を入れられ、ちゅっと吸われてしまう。

「どうか、お幸せに…私の今の思いは、ただそれだけです」

唇が離れても私は固まってた。
呆然とアホみたいな顔した私を残して、セナさんは部屋を出て行った。
まさにやり逃げ…。

「お話は終わりましたかお嬢様」

セナさんが部屋から出るのを見届けたのだろうヒースラウドさんが、再び音もなく現れ、まだ呆然自失してる私へと問いかける。

「……終わっちゃいましてよ」

色んな意味で。変な答えですみません。それ以外、言いようがない。
なぜにどうしてホワーイ。
いつの間にそんなこんな恋心を抱かれていたのだろうかホワーイ。
セナさんの恋のお相手はルークスさんじゃなくて私?てことでよろしいですかね。
どーにもこーにも気づけなかった自分に鈍感かもしれない疑惑が圧し掛かる。
セナさんは凄く優秀な女官さんで、本当に見ていて出来る女性だなと感心するほどで、だからといって、それ以上の目で見れるわけもなく…。



「セナは…セナスティは俺の恩人です」との、ヒースラウドさんの呟き。
紫鳥の国プルヴァエンナを出奔したきっかけは毒を盛られたからなんですが」て、更に、さらっと怖いこと言い出したよ?!

「その毒を盛ったのが彼なら、解毒してくれたのも彼でして」

あーー待って情報過多! 先ず彼について。今はセナさんの話題ふってきてませんでしたか?
セナさんは女官さん。背が高くてスラッとした美人エルフさんだ。赤髪にヘーゼルナッツ色の瞳で微笑みは可憐な野菊のよう。
え、で? 彼女が、彼?

「彼がエルフだと気づいてましたか」

はいぃぃ気づいてましたよ何故かエルフに反応するエルフアイでね!
それより彼。何度も言うから彼というのはセナさんのことで、セナさんは男だと、本名セナスティだと、やっと今、理解に及びましたよ。

…そうか、あれが噂の男の娘ってやつか。ええもん見た。しかもチューされた。お得だったと思っておこう。

しかしどこからどう見ても女の子だったなあ。エルフなのは気づいていたけど、まさか男だったとは…気づきませんでした。だっていい匂いしてたし。匂いで判断するのは私の悪い癖だね。

「エルフは皆、奴隷以外は魔法道具を駆使して隠れ住んでますから…普通は気づかないはずなんですけども、稀に、俺もそうだったように認識してしまうはずれ者がいるんですよね」
はずれ…」
「失礼。お嬢様は異世界の人ですから。外の人という意味で使いました。俺は、おかしい方です。常人とは違う、どこかおかしいやつ」

いつもの無表情で話をするんだけど、なんだか泣きそうな顔に見えたの気のせいでしょうか。
ヒースラウドさん、あんたイケメンで悲劇の過去背負っていて、おそらく常識外れの力を所持して…て、キャラ立ちしすぎですよ。

「エルフのことは、また彼と話をすることができたら聞いてみてください」
「…そうですね。ロザンナ先生にも聞きたいです」
「ああ、彼女のことも、お気づきで…皆さん、エルフ王国の生き残りですからね」

エルフ王国。それはカテル氏が王子だとかいう王国では…。
生き残りということは、エルフ王国はもう、この世界にないということだろうか。
…これ以上は本人に聞かないとね。他人から教えてもらっても、きっともやもやしていいことない。

それからヒースラウドさんのこと。
ここまで打ち明けたからには亡命の真実を教えてくれるんでしょうねえ。

と、ここでヒースラウドさんは部屋から出ようとするので、私も慌てて後をついて出た。
ここに置いていかれると迷子になります確実に。双陽神ラオルフの呪いによって。ええ、これはもう呪いです。迷子の呪い。

「毒を盛られたって?」

歩きながら話題を戻す。中途半端な情報のままじゃ、どうしてヒースラウドさんがセナさんのことでここまでするか分からない。
だってこれ、セナさんと私とを会わせたこれは、恋の応援でしょ?
しかも失恋決定の、恋のけじめの応援だ。ハッピーエンドにならない不毛な恋の後押しなんか、よっぽど親しい間柄じゃないとできないと思うんだ。

「俺は父にとって疎ましい存在だったようです。毒を盛るよう指示された人物は怖気づいて、セナが代わりに盛った。俺を仮死状態にして、あの国から逃してくれた。解毒も……なかなかキツい方法だったけど、やり遂げてくれたおかげで、俺はこうして生きていられる。セナはいいやつです。俺のこと、見捨てられただろうに傍にいてくれて、助けてくれた」

それを語る時のヒースラウドさんの顔は緩んでいた。未だかつてないくらい感情を吐露している。セナさんのことが好きだって気持ちが私に伝わってくる。

…て、んあれ? 君はアリステラ姫と付き合ってなかったかな?

劇的にそのことに気づいた頃には、カサブランカ様がいらっしゃる部屋の前に到着していた。
さり気にヒースラウドさんとは距離を開けられている。
そして、一礼。胸前に手を当てた美しいお辞儀を彼から受けた。

「お嬢様、本日の舞台どうか成功いたしますよう。心より、お祈り申し上げております」

それが、この世界で聞いたヒースラウドさんの最後の言葉だった。



お部屋に入る。中ではカサブランカ様が私を待っていらっしゃる。待たせている立場だというのに、私の脳内は忙しない。主に先程の出来事について。

ヒースラウドさんとアリステラ姫とセナさんことセナスティさん。
この三人の関係ってどうなってるんだろうって思うよね。
はっ、まさか恋の三角関係?! 男女間のラブに男の娘が加わるって需要ある?! とか考えてた私は傍から見たらボケーと突っ立ってる変な女だったみたい。
この場には皇帝陛下もいらっしゃるというのに…変な顔で妄想しててすいませんでした。

「ハツネさん…」

心配そうに見詰められている私。
はっ、このままじゃいかん。女帝様の前だぞ、しっかりせにゃ。
キリッと表情を引き締める。

「おはようございますです。今日も張り切って怪人日和ですね」
「あらハツネさんたら支離滅裂だわ。お腹空いてるのかしら」
「いや~きっと緊張してるのさ」
「それもそうよね。私も今からドキドキよ」

私がポンコツぶりを発揮した台詞を吐いても、ロイヤルご夫婦はマイペースに応酬してくださる。実にありがたいことです。

「緊張しててもハツネくんなら上手い事やれちゃう気がするんだよね」
「本当に。ハツネさんは、魔物と一緒にうちのルーちゃん仕留めたくらいだもの。今日もやっちゃうと思うわ」

絶大なる信頼ありがとうございます。それと魔物とルークスさんを一緒にしちゃうあたりカサブランカ様らしいっちゃらしいです。男釣りあげるのも漁ってことで。

「その魔物のことなんだけどね」と皇帝陛下。すごい繋げ方ですね。
「ずっと魔物退治のご褒美をあげてなくてごめんなさいね。ハツネさんは何を必要としているのか、実は未だにわからなくて…」

あれれ?私ってば知らぬとこでカサブランカ様の悩みになっちゃってましたか。
必要としているものか…こっちの世界に来て衣食住満たされてる上に所持金もたっぷりあるし彼氏にまで恵まれてるからなあ。
いくら千年前の魔王退治で無理ゲー強いられたからとはいえ、今回は満たされ過ぎである。

しかし魔物退治の報酬とかすっかり忘れていたよ。
忘れるようなものだったら別に要らないと言いたいとこだけども…。

「近海にあの巨大な魔物が出現していたことは誰も把握していなかった。だからといってあのまま放っておけば確実に被害が出ていただろう。帝国だけじゃない。他の国々にとっても、あの航路は大事な輸送ルートだからね」
「ハツネさんはね、自身で思うよりずっと、この世界に多大な貢献をしてるのよ。今回のこともそう。悪役なんて普通は引き受けないわ。リスクが高すぎるもの」

めっちゃ褒めてくださいますが私は本当に大したことしてないと思うんだ。
恵まれているこの環境で、やりたいことをやらせてもらってるだけで…。

「恩には報いなければならない。我が帝国は全力でハツネくんのバックアップをするよ」
「差し当たって今日は、王を助け出したハツネさんが逃げるまでのサポートよね」

任せといてと晴れやかな笑みで女帝様が胸を叩く。頼もしいです。
ぶっちゃけ私は壊すだけだ。その後に揉めるだろう戦勝国連盟との交渉やらなにやら全部帝国に丸投げして逃げ出すのである。そして引き籠る。
こんな自分勝手で非生産的な女を匿って下さるだけでありがたい。
そしてルークスさんと結婚許可までしてくださってるのである。女神か。

「なんならねえハツネさん、ルーちゃんも持っていっていいのよ」
「はい?」

逃げる時にお持ち帰りですか。それはまた嬉しいお申し出ですが倫理的にいかがなものか。だって拉致でしょ。
うふふーと意味深に微笑む女帝様。何か隠してませんかね。
そういやルークスさんも何か隠してるんだった。なんじゃらほい。

アザレアさん曰く『男にはやらねばならぬ試練がある(意訳)』だっけ。

考えてみたけどわっかんないんだよ。
見やれば皇帝陛下までも意味深に笑ってる。私だけ蚊帳の外かよーう。ちょっとした不信を表に出したくなくてさっさとその場を辞しました。

これからアザレアさんのお部屋へ行って、出番まで待機だ。とりあえずアザレアさんにこのもやもやする心内を聞いてもらおう。そうしよう。
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