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三柱の世界
執務室でやることにゃ*
しおりを挟む私は今、震えながらルークスさんの執務室で熱いお茶をいただいている。
別に寒くはない。この震えは恐怖から来てるものだ。
人を操る術があるというのは聞いていた。
けれど実際に食らってみると、こうも恐怖心を煽るものなのだろうか。
自分の自由意思を奪われるというのは過分な恐怖体験だったといえよう。
へたなお化け屋敷より怖い怖い。私を襲った村人Aさんの気持ちも、骨身に染みて理解しました。まじ申し訳無い。後でお見舞金を送ろう。
…しかしまあなんですな。時間が経つにつれ、このままやられっぱなしでいられようかぐぬぬぬという思いが沸々と湧き上がってきたよ。
「ルークスさん、ペン貸してください。あと要らない紙束と清書用紙もください」
「…何をするんだ?」
「やれることはやっておかないとねえ…」
くっくっく…と、ちょっと含み笑いしてから机もお借りする。
晃さんからもらった映像護符を引っ張り出し、護符に描かれる魔法陣の基本構築を写し出した。
護符がどうやって機能するかとか基本的なことを知らないので、ここは猿真似をしてみようと思うのだ。
基盤を複写して内容である防御の構築は自分で考えればいい。魔力を乗せる言語は知ってる。漢字だ。
対ピステロット用防御構築を考える。
人を操る術は術者が近くに居ないと発揮できなさそうである。
その証拠に彼が遠くに行けば私を操る効果は薄れた。
術者の手段は煙。てことは、その煙を遮断する防御体制が必要だ。
護符は一度使うと消えてしまうものが基本で、この映像護符のように消えないものもある。消えない護符を作ろう。
防御の護符を身に着けてれば常に身を覆って守ってくれるものがいい。魔王戦の時に晃さんがくれた護符みたいなの。だけどプラスして攻撃を察知し展開する障壁も組み込みたい。二重の防護で安心安全快適無敵な運用を目指す。ついでに迎撃してもいいな。
よーし、未来は明るいぞ。がんばっぺー。
思いつく限りの漢字を要らない紙の裏に書き出し、必死で漢語を思い出しながらブツブツブツブツ…。
何故か脳内で漢詩を読み始め、子曰く~或るひと曰く~と、ひたすら論語も朗読してたら扉がノックされた。
誰ぞ来た?と扉の方を見やるが特に開いた様子は無い。ハテナ。
「すみません。お嬢様」
「────おひえ!?」
横から音もなく現れた人物は紛れもなくヒースラウドさんですね。
相変わらず忍んでますなニンニン。横から出てくるなら別に扉ノックはしなくてもよかったんじゃないのと思わないでもない。
「ヒース来たか」
執務机で何やら書類と格闘してたルークスさんが頭を上げ、ヒースラウドさんを歓迎する。なんだかホッとした顔してるのは気のせいかな。
「またもやうちの愚弟が悪さしたようですみません」
そうですね。その愚弟、ちょいと教育が必要かと存じますわよ。
人様の意識を操るなんて恐ろしい事どこで覚えたか知らないけれど、人道に悖るというものだ。
「ヒースさんが謝ることじゃないと思うけど…。弟さんのあの言動に心当たりはありそうですね。教えてください。一切合切。余すことなく。ぜ・ん・ぶ」
最後はちょっとアザレアさんの真似して言ってみた。
なるべく朗らかで優しい口調にしてみたつもりだけど、もしかしたら心の底からの怨念が駄々洩れてたかもしれない。
そこは御愛敬です。だってここまで巻き込まれたんだもの。私にだって許せないことってあるんだよ。
「………っ」
ヒースラウドさんは、いつもの如くの無表情を貫いてるが逆にそれが固いと思う。
今までこの人は感情に動かされない人だと思ってたけど、本当は誰よりも脆い精神の人かもしれない。
「ヒース、覚悟が出来たら喋るがいい。出来ないようならまた後日でも構わん」
ルークスさんが心配そうに助け舟出しちゃうくらいだからね。
私も長椅子に移動してお茶をお勧めした。番茶ですが座ってどうぞ。
晃さんからもらった緑茶葉を、よく訪れるこの部屋にも常備してあるのだ。
主におやつの時間、秘書のネリーさんと一緒に消費している。
今日はネリーさん忌引きだそうでお休みです。お悔やみ申し上げます。
「…大丈夫です。ありがとうございます」
そう言って眼鏡クイッ。いいね。様になるね。さすがイケメンさん。
ヒースラウドさんとテーブル挟んで対面しながら話を聞いた。
「弟と最後に別れたのは十年以上前です。当時の弟は五歳くらいで…よく笑う子で……あれから、どんな風に育ってるかなんてことは今まで知りませんでした」
婦女子からキスを強請る男に育ってますよ。親の顔が見てみたいわ。
そんでもってピステロットさんは今15~16歳くらいってか。もっと老けて見えてた。よく笑う…どころかニコリともしてないよね。冷徹な人だと思ってますが。
「特使として派遣されるほどですから、弟は父からも認められてるのでしょう。
父は…紫鳥の国の大元帥ですが、実質、国の全てを掌握してます」
見てみたい親の顔が凶悪だった件。聞けば王を傀儡とする裏ボス的存在である。
こりゃ駄目だね。子供の情操教育なんて関わってないね。
「紫鳥の国の情勢は不安定です。先の戦争以前から軍備増強や軍事拡大に力を注いで民の暮らしなど目もくれてません。国内で暴動が起きても武力で制圧して、国外にも敵意を振り撒いている始末です」
ありゃー。そんな国には居たくないよねえ。
ヒースラウドさんはそれで帝国に亡命してきたんですねと私が言うと、彼はまたもや眼鏡クイッである。それもう癖ですよね。
「亡命といえば聞こえはいいですが…実際は逃げ出したんです」
「えーと、十年以上前の話ですよね。ヒースさん、おいくつですか?」
「今年で22になります」
ひえー。12歳以下の時に国を追われたのか。
ヘビーな少年期だな。てか、よく逃げ出せたね。
「色々とあって…半死半生で帝国に辿り着きました。助けて下さったのが皇弟殿下です。帝国には感謝しかありません。一生涯、仕えさせていただく所存です」
その言葉には、いつもの冷静な彼からは想像できないくらいの情熱が迸っていた。
それだけ帝国への忠誠心は篤いのだろう。特にルークスさんに対しては恩義があるとみた。
色々とあって…と誤魔化されてしまったけど、そこを語るにはまだ私にはまだ信が足りなさそうだ。アリステラ姫になら話せるのだろうか。彼が姫を選んでこの国を安住の地としてくれたら喜ばしい。
「私には気遣いなど要りませんよ」
「いえ。未来の妃殿下にも変わらぬ忠誠を誓わせていただきます」
と、床に片膝立ちで臣下の礼をとってくれたんだけど…これ、いいのかなあ。
ちらっとルークスさんを見る。
「受け取ってやってくれ」と彼も言うので、そっと手の甲を差し出した。
そこに誓いの接吻を受ける。
うーん。大層なイケメンにこういうことされると血圧上がっちゃうよね。
これは仕方無いですよ。心の浮気じゃないですよ。
乙女の憧れとかなんかそういうのですよ。
「あえーと…じゃあ、これあげます」
先程、作成した防御の護符を差し出した。きちんと清書したものだ。
それでもまだ試作段階で、魔法陣は歪だし文字も下手くそだけど、発動はするので使ってみるといいですよ。
そんなこと早口で捲くし立ててから席を立つ私である。ええ、照れ隠しですよ。
恋人じゃない男の人にあそこまでされちゃうと一般小市民な私の心臓が跳ね上がって発作的に止まりそうになるので、その前にルークスさんを充填である。
接触禁止とか言ってる場合じゃねえ。
ルークスさんの匂い嗅がないと私は死ぬ。萌え死ねる。
「ハツネ殿…」
なんだいその呆れたような声。ルークスさんの腰にへばりついて、くんかくんか匂い嗅ぎまくって何が悪い。できたら釦外して直に嗅ぎたいわ。
「…それでは殿下、失礼します」
空気読んでくれてありがとう。ヒースラウドさんは来た時と同じように音もなく去って行った。相変わらずの謎現象だけど今は追及する気が起きない。
それより補充。ルークスさんの腰を絶賛ホールドするのです。
「接触禁止中じゃなかっただろうか」
「それもう意味ないと思うんですよ」
怪人キャシィの正体がバレた今、巷でもルークス殿下の障害ある恋は噂の的だ。
吟遊詩人たちは良い仕事をしている。
異世界人の稲森初音は聖霊の為に自身の恋心さえ投げ打って、女帝にも謁見の場で物申した──と、確かにあった事実を織り交ぜ、唄にしてくれてるのだ。
「世間じゃ私たち公認カップルです」
「敵同士のな」
ルークスさんが、ふっと笑う気配がした。
腰に抱きついたまま私は見上げる。この距離は…。
「…………ん」
唇が降って来た。ちゅっちゅと軽いキスから始めて、だんだん舌先を絡めていく。
ちょっと吸ってみれば彼もディープに口付けをくれるので、どんどんキスだけに集中してのめり込んでしまう。
「はふ……ぁ…んー…」
ここは執務室だというのに、情を交わすことが止められない。
キスをすればするほど、もっと、もっとと、貪欲に相手を求めてしまう。
五分…いや、十分くらいか。お口の粘膜を刺激し合ってばかりいた私たちは、唇が離れてからも抱擁し合い、今度はお互いの敏感な箇所を探り合った。
「殿下…執務中ですよ…」
「君から始めたことだと思ったが」
「…もう。意地悪ですね…」
確かにルークスさんを補充し始めたのは私だ。文句言える立場じゃない。だからルークスさんが私を補充したいなら…沢山触らせてあげないといけないよね。
そんな傲慢な思いを抱いてしまうほど、今、私は彼に愛されているのだと実感している。愛に満ち溢れ、何でも成功しそうな気さえする。
成功…。
ディケイド様の処刑日は刻一刻と近づいている。
処刑場を滅茶苦茶にしてやるのはもう決定事項だが、そこから無事にディケイド様を連れ出さなければならない。
これまでは晃さんの書くシナリオ通りに演技してきた。千秋楽は処刑日当日である。最後こそ気合い入れてうまいことやらないと、私は本当に怪人キャシィになってしまうかもしれない。
それは当然、ルークスさんとのお別れを意味する。
だから失敗なんて出来ない。
「っんやう…っ、ふ……ぁぁ……」
ローブの前合わせはとっくに解かれてる。今日、中に着ている服はルークスさんに初めて肌を触れられ壁ドンされた時と同じ、ストライプ模様のシャツだ。
現代日本の服を脱がす手際ももう慣れたものなルークスさんの手が、さっさとシャツの前を開けてしまい、おっぱいを弄る。
片方は揉まれながら指と指の間に挟まり、もう片方には舌が這う。
時折に唇で食まれて、それが敏感な赤い尖りへと移ると、私の口からは吐息と共に嬌声が漏れ出す。
その声と、ちゅぱちゅぱと胸の赤い果実を齧る淫らな音とが、執務室という静謐な場所で木魂しているのがなんともいえない。
「うふふ……お返しです」
「───っは、ハツネ…」
私の胸へ無防備に顔埋めてるから、その首にある"茨の鎖"に愛撫の魔力を流してあげる。
途端に気持ちよさそうな声上げちゃってまあ。可愛い人である。
喉仏の上を通ってぐるっと一周。指で擽りながら愛撫してあげるだけでルークスさんの碧瞳が潤んで頬が朱色に染まっていく。
「ここって、そんなに気持ちいいんですね」
「あぁ…──っ、ふふ…君もなかなか意地悪だ」
「…泣いてもいいんですよ」
前に"茨の鎖"に触れすぎて泣かせたことがあった。あれは激しく滾った。
好きな人を泣かせたいという心理は女心にもあるもんだ。
「そう直ぐには泣けないさ…ああ、もしかしてあの時のことか」
思い出すようにルークスさんが言う。
「あれは……ハツネ、君は魔法使いなのに剣を習いたがるし変わった子だよ。
むさくるしい男所帯にも平気で顔を出すし、何よりその服装が刺激的だ。婦女子として足を出すのはいかがなものか……という声が聞こえてだなあ」
─────…はひ?それってまさかルークス様ですか?
「な、なんであの時に言ってくれなかったんです?」
「いきなりだったし…幻聴だと思うだろ」
まあ、あの時に言われたって頭だいじょうぶですかー?になってただろう。
「ルークスさんと正反対のこと言ってますねえ」
「そうなんだ。彼と私は似ても似つかないだろ。だが、願いは一緒だ。ハツネ、君のことが誰より大切だし、君との子供も欲しいと思っている」
「うあ、は、はい…」
ストレートに言われる方が照れるというのもなかなか貴重な体験。
なんていうか…ルークスさんの言葉なのに光の騎士からも言われてるみたいで威力が二倍なんだよ。
「こうして君の素肌に触れて、君も…茨の鎖に触れると、より一層に願いが深くなる…」
「ん…はい……、あ、そこ……」
ジッパーも難なく下げられて露出した下半身にまで手が伸びた。
茂る叢を指に絡めとられて気づく。あ、まだムダ毛処理してねえ…。
つるつるの時は別に責めてこなかったくせに、どうして毛があると撫でたり引っ張ったりしてくるんだろう。
おかげでムズムズと疼きます。叢の下方で慎ましやかに隠れてた突起もつつかれて、腰へ甘い痺れが起きる。
「君が欲しくて堪らない…」
「ふぁ…い…っん、あ…」
指を激しく動かされて虐められてばかり。でも何故か早々にイかされたら嫌だという反発心が芽生え、私は"茨の鎖"をもっと責めることにした。
「─…っ、ふふ…きっと、彼と私の思いが重なって勝手に涙が出たんだろう…」
なんで笑うかなあ。
「あの時は…自分でも、どうして泣けてくるか分からなかった…」
"茨の鎖"に口付けて、ぺろぺろ舐める。
これでまた光の騎士の思いを感じ取れそうですか?
私のこと、手を出してこなかったのなんでなんです?
キスすらしてなかった事実を、ルークスさんも光の騎士の記憶で知ってるだろう。ぺろぺろ舐めながら聞いてみる。
「だから…彼は私とは正反対だということだ───く、もう…っ」
執務机に押し倒された。
「ルークスさ…ん、っ、ふやあ───」
彼はズボンの前を寛いだだけで陰茎を引っ張り出し、私の片脚を抱え上げ、おっぴろげーになった股の中心へ──その荒ぶる怒張を押し込んだ。
性急だな。これが光の騎士とは正反対ということかあああ…納得。
光の騎士は、きっと待っててくれてたんだ。魔王退治の旅が終わるのを。
もし最後に私が死ななかったら、私は光の騎士の胸に飛び込んだだろうに、それが出来なかった。
私が死んでから、光の騎士はどうしたのだろう。彼は"忘却の呪い"を背負ったまま生きたはずなので、その記録が無い。
今まで親しかった人たちからも忘れられて…彼は孤独に生きたに違いない…。
「んああ…ああぁルークス様…あ、ルークスさんんっ…」
「ハツ、ネ…ハツネ…」
二人してお互いの名前を呼びながら繋がる。
ただし私は時々ルークスさんとルークス様とを混同したけど。
執務机の上には雑然と書類が折り重なっている。
その上で私は身悶え、彼の熱情最後の一滴までも、この身の中に受け止めたのだった。
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