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三柱の世界
ふわふわしい毛玉たち
しおりを挟む<ACT7:悪の手下vs正義の味方>
真昼間から下半身を露出した人間が続出!との通報を受け、帝都を守るデフォルト正義の味方、憲兵隊が出動した。現場に駆け付けたブライヤ隊長が目にしたものは、パンツ脱がされてる一般人の悲喜こもごもである。
「きゃあああ変態!」「痴漢!」「露出狂よー!」
「違うんだこれは自分で脱いだんじゃない!」
「あいつら!あれ!」「何コレ丸いの可愛い」
「ふわふわ~~」「毛玉?」「癒される~」
「可愛いけどパンツ脱がすぞ気を付けろ!」
彼らを見ていて状況が概ね理解できたブライヤ隊長は、部下に命じ原因の丸い毛玉とやらの回収を急がせる。毛玉は薄桃色したのや黄色いの、白いのや空色のものなど、パステルカラーで色とりどり揃っている。部下たちは捕蝶網のようなもので、せっせとカラフルな毛玉たちを回収したが、その数は数えきれなく、下手すると回収してる間にパンツを脱がそうとズボンに手をかけてくる始末だ。
なんてエッチな毛玉たちだろう。可愛いふりしてエッチとはけしからん。瞳が円らなのも卑怯だ。抱き締めたくなるではないか。ふりっふりと丸いお尻についたこれまた丸いボブテイル──短い尻尾と、パタパタ飛ぶための黒い烏のような羽。そのどれもが愛嬌があって誰も攻撃するなんてことは思いつかなかった。
ただ回収するのみである。
だけど、こんな対策だけじゃこの丸い毛玉たちを一掃するのは無理だろうなとブライヤ隊長も溜息を吐きかけたその時、澄んだ励ましの声が聞こえた。
「皆様、大丈夫ですか」
「わたくしたちにお任せくださいませ」
伝説の天使たちが颯爽と、それでいて華麗に登場する。
「天照らす太陽の恵み───ホープルーチェ・レインボー!」
「恵む愛を受け取って───ラブアローフィオーレ・ペターロ!」
光色の衣装を着たホープルーチェが虹色の光を放つと、人々を襲っていた毛玉たちは虹色に包まれ、消えた。
ピンクなラブアローフィオーレが花びらのシャワーを降らせ、それも毛玉たちを優しく包み込んで、消した。
「助かった!」「ありがとうエンジェルズ!」
「パンツも戻ったぞ」「よかったよかった」
「あーん。あの毛玉もっと抱き締めたかったあ」
消えた毛玉たちは奪ったパンツを落としていったようだ。
これで一件落着…かと思いきや、今度は空から恐ろしい声が響き渡った
『よくもやってくれたな伝説の天使たち…』
怪人キャシィの声である。
『お前たちにはあの愛くるしい我の手下どもが煩わしかったと見える。双陽神の使者のくせに、なんとも無慈悲で容赦のないやり方ではないか。おお…消えてしまった我が手下たち…ふわふわの毛玉…ふりふりの尻尾…丸く愛嬌のあるフェイスライン…その全てが愛おしい……』
その言葉はまるで伝説の天使たちが悪のように語られる。
先程まで毛玉を愛でていた人たちに罪の意識を植え付けていく悪の囁きだ。
「月光仮面…どこにいるの?」
「隠れてないで出てらっしゃいな。卑怯ですわよ」
『フフン。卑怯はどっちかな。か弱き我の手下たち…ただパンツをいただいただけで、ほとんどじゃれて戯れておっただけなのに消されて…ああ…今頃は泣いて震えておるであろうよ。毛玉をふるふると震わせて、な…』
尚も怪人キャシィが囁く。
その言葉に誘導され、一人、また一人と人々の間に罪悪感が広まった。
「ああ可哀相な毛玉たち…」「きっと泣いてる…」
「震えてるなんて…その姿が見たい」「毛玉たちに会いたいわ…」
『さあ憎め。お前たちのアイドル、毛玉を消した憎き天使たちがそこにおるぞ』
とどめの台詞で動いた人がいた。
「きゃあ!やめてくださいっ」
ラブアローフィオーレが見知らぬ男に後ろから羽交い絞めにされる。
「ラブちゃん?!あ、放してくださいな!」
ホープルーチェもブライヤ隊長によって腕を捻られ拘束されてしまった。
正義の味方を簡単に拘束してしまうとは、さすが現場第一の肉体派隊長である。
天使たちはもがくが、その腕の拘束から逃れることはできない。
本気を出せば解けるであろうが、一般市民に手荒なことはできない。
なぜならそれが正義の味方で市民の味方、双陽神の使者である彼女たちの矜持だからだ。
怪人キャシィは巧みに人の心理を動かして、見事、敵である天使たちを捕獲することに成功した。
『ホーホホホ!やったわ!憎き天使どもを召し取った。これで我の邪魔をする者はおらぬのう。オーホホホ!』
高笑いが止まらない。愉快愉快と怪人キャシィは手を叩いて喜ぶ。
このまま正義の味方は敗れてしまうのか。
敗れた場合、パンツを剥ぎ取られてしまうのか。
伝説の天使たちが大ピンチ!
次回に続く───ということはなく、そこに天の助けが入る。
「やめろキャシィ!」
守護騎士ルークス・ブリュグレイ・オルデクスである。
この帝国の女帝カサブランカの弟でもある彼は、憲兵隊と連動して帝国の守護にあたっているのだ。
それにしては遅い到着だったが、それはその腕に抱えているものが物語っていた。
彼が腕に抱いているのは、先程消えたと思った毛玉たちだ。
「ブライヤ、騙されるな。毛玉たちはこうして無事にいる」
「あ…皇弟殿下…」
殿下の言葉で毛玉を確認し、ブライヤ隊長の腕が緩んだ。
その隙にホープルーチェが抜け出す。
もう一人の男もラブアローフィオーレを解放し、事なきを得る。
「キャシィ、人々を扇動するようなことはやめてくれ。この毛玉たちも、君の手下じゃないだろ」
ルークス殿下が語るには、毛玉たちは妖精なのだという。
彼らが好む自然の住処が無くなり、保護したのが怪人キャシィだ。
悪戯好きな毛玉たちの好奇心を満たす為に、今回の襲撃は行われたらしい。
「君は優しい女性だ。私は知っている。なぜなら君は…」
『────黙れ!…言うなっ!!』
音声拡大魔法により響き渡るその声は、まるで怒鳴るような、それでいて悲痛な叫び声だった。
『…興が削がれた。今回はこの辺で引き上げようぞ』
キャシィの声に促され、毛玉たちはルークス殿下の腕の中から飛んで、一生懸命に背中の翼を動かし、空へと登って行った。
とうとう最後までキャシィは姿を現さなかった。
「……ハツネ…君は……」
ルークス殿下は、毛玉たちの帰る太陽が二つある空を見上げながら、呟く。
その声音は哀愁を帯び、そして怪人の正体を正しく表すものだ。
そう、怪人キャシィの正体は稲森初音。
異世界人の女性で、殿下の現恋人でもある───。
-------------------------------
(ACT7が始まる前。ブライヤ隊長とその部下Aの会話)
「あー緊張するのう」
「隊長、まじでこれやるんスか」
「やらねばならぬ。上からの命令である」
「ひええ。じゃあカサブランカ様の方は隊長がやってくれっス」
「…お前がやれ」
「無理っス。俺、高貴な人に触れると蕁麻疹でるんで」
「…マジか。難儀な体質だのう」
「隊長がやってくださいっス」
「…うーむ。解せぬ」
これパワハラじゃね?な上司と部下の間に挟まれて世の無常を噛みしめる隊長であった。
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