衣食住に満たされた異世界で愛されて過ごしました

風巻ユウ

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三柱の世界

伝説の天使たち参上

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黒ローブ姿のままアザレアさんのお部屋まで行く。ローブの下は着物である。
その下には怪人キャシィの衣装に身を包んでいる。着込み過ぎて暑いわ。

『あらん。ミザリーちゃんじゃない。その服、素敵よ~ん』
「ありがとうございますアザレアさん。今日もお綺麗ですね」

そういえばミザリーさんとアザレアさんは顔見知りだったね。
私が酔っぱらってる間に色々とお話したみたいだから、知り合いというよりも、もうマブダチかも。服の話で馬が合うみたいだし。
アザレアさんに髪結ってもらってメイクもしてもらう。
ドレスアップが終わったら再び黒ローブを着て、みんな一緒に部屋を出る。
やっぱ暑いっす。

えー本日の舞台は帝都を遠く離れて青水の港町アスルオーまで出張であります。
そこまで行くのに、これまた便利な転移ポータブル魔法陣、通称"早便"を使わせてもらいました。
物資も運べるが人も運べちゃうなんて凄いよね。お金積めばの話だけど。
いくら魔王軍のワープ魔法陣の模倣とはいえ、これ作っちゃった人は大変有能な開発者だったに違いない。
そしてその利権を全て皇室に還元しているというのは…歴代の皇帝様の仕業でしょうか。帝国の底力を垣間見た気分です。



<ACT5:豪華客船>

帝国最大の海の玄関口、青水の港町アスルオーの三日月湾にその船は浮かんでいる。
[帝国の栄光インペリオ・グローリア]と持て囃されている豪華客船だ。
今宵はこの豪華客船で盛大なパーティーが開かれていた。
招待されている客は帝国の皇族に貴族、それから今現在、戦勝国から表敬に来ている各国大使たちである。他にも著名人など名のある偉人も招かれ、パーティー会場は一種の社交界と化している。

「皇弟殿下」
「ファガラムじゃないか。来ていたのか」

会場の一角でルークス殿下は重鎮の一人と挨拶を交わしていた。
ファガラムという男はこの帝国で切れ者と噂の認証官である。

「殿下こそ。お見えになるとは思いませんでしたぞ。パーティーはお嫌いじゃなかったですかな」
「たまにはいいだろう。今日は彼女も連れてきた」
「ほお~これはこれは。久しぶりにお会いしましたなハツネ様」

ファガラムは好意的な笑顔を向けながら、ルークス殿下の彼女とやらにも挨拶をする。
ハツネ様と呼ばれた彼女は、変わった民族衣装を着た黒髪の女性である。
彼女もにこやかに微笑みながらファガラムへと「ご無沙汰いたしております」と、丁寧に挨拶をした。

パーティー会場の上座には壇が設けられており、その中心の玉座には女帝カサブランカと皇帝殿下が仲睦まじそうに座っている。
そちらにもルークス殿下は挨拶に行き、彼女も交えて談笑をし、他にも挨拶に来た重鎮や貴族たちと会話を…と、パーティーの時間は会話と共に流れてゆく。

ほとんどの人はアルコールを嗜み、人と会えばグラスを傾け乾杯をし飲み交わす。
アルコールを摂取することによってより饒舌になり人々の関係も近しくなるというものだ。
パーティーの料理もまた人の心を弾ませる。ビュッフェ形式で大皿の料理を取り合うのもまた人の交流を図るためのものである。

食事の後は舞踏会だ。
会場中に流れていた音楽は静かだったものから曲調を変え、ダンスの始まりを告げる。紳士は淑女をエスコートし、淑女は紳士に身を委ねワルツを踊る。

何曲か過ぎた頃、事件は起こった。
突如、会場中の灯りが消え辺りが真っ暗になる。

「あら?」「どうしたんだろう」
「灯が消えただけだ」「直ぐに復旧するだろう」

ざわざわと人々が不安げに囁き合う中、パアアッと一筋の明かりが射して会場を横切るような形で道をつくった。
その光の道が照らすのは会場の縁にある螺旋階段である。その頂上に人影が映る。
黒いロングコートに赤い仮面。怪人キャシィである。傍らには黒い天馬もいる。
彼女は螺旋階段を下りながら告げる。

『我らは聖霊の復讐者サンファントモ・ベンデッタである。喜べ、今宵のターゲットはあなた方だ』

黒い手袋を纏った右腕をビシッと突き上げ、それからゆったりと真っ直ぐ降ろし指を差す。その方向には、この帝国で要職に就いている者たちがいた。

「…ん?ターゲットとな?」「なんだねお嬢ちゃんは」
「これは何かのショーか?」「聞いとらんぞそんなこと」

『我の名は月光仮面キャロディルーナ・キャシィ。狙いはお前たちだけではない。この会場にいる各国親善大使もターゲットである』

「帝国の余興か?」「それにしちゃ奇抜だな」
「あの女は本気なのか狂ってるのか」
「儂はクレイジーだと思うがね」

怪人キャシィが螺旋階段を降りきるや否や、各国要人を警護する人々が動き出した。
それぞれに連れて来た護衛や兵士たちである。
壇上にいる女帝カサブランカと皇帝陛下の前にも皇室警護の華兵たちが躍り出る。

「キャシィ…こんなところにも現れたか」
『おや皇弟殿下。お前も毎度毎度ご苦労なことよな』
「今日こそ観念しろ。この人数に囲まれては…無謀というものだ」
『フン。それはどうかな』

───パンッ ガシャン パパパパッパンッッ 

「うわ!」「きゃあああっ」「痛ッ!」

怪人キャシィが杖を一振りすれば会場中のグラスカップが割れた。
破片がそこら中に飛び散ったので怪我をする者も出た。

「ドレスが汚れてしまったわ」「なんなのあの女?!」
「迷惑よ」「早く摘まみ出してちょうだい!」
「いやああーっあ!」「危ない!」

グラスを手に飲み物を飲んでいた女性陣から非難の声が上がりまくる。
せっかくのドレスが汚されては当たり前の反応といえよう。
パニックになり逃げだそうとする女性もいて、彼女はグラスの破片に足をとられ転んでしまったようだ。

『ふっふっふ。無暗に動かぬ方が身のためぞ』

そう言いつつ怪人キャシィは杖を構え何かの魔法を使おうとする。
────その時だ。

「お待ちなさい!」
「会場の皆様には指一本触れさせませんわ!」

鋭い制止の声が辺りに響く。人々は声のした上の方を指差し、ざわめいた。
すると一条の光がまるでスポットライトのように天井を照らして、その天井からは四角い箱のようなものが降りてきた。四角い箱…白い花や赤いリボンでデコレーションされたそれはゴンドラのようである。ゴンドラには、今しがた声を発し怪人キャシィの動きを止めた人物が二人、乗っていた。

『何者だお前ら…』

邪魔されて顔を顰める怪人キャシィ。

「高き太陽の神である双陽神より使わされし者。天空から降り注ぐ希望の光───ホープルーチェ!」
「同じく。天空から降り注ぐ愛の花矢───ラブアローフィオーレ!」

聞かれたから名乗りましたとばかりにゴンドラに乗る二人の人物は、決めポーズをとりながら自己紹介する。
一人はホープルーチェ。
光の色を基調にした衣装を身に纏い、太陽の如く煌めき輝く姿は美しい。
もう一人はラブアローフィオーレ。
ハートをモチーフにしたピンク色の衣装が可憐で愛らしい。

「私たちは過去より未来に生きる伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズ。人々を守るのが使命よ」
月光仮面キャロディルーナ・キャシィさん、あなたの好きにはさせませんわ。お覚悟なさいまし」

これまたビシッと揃うポーズが決まっている。

『小癪な奴らめ。我の邪魔をするなら容赦はせぬ』

怪人キャシィの魔法の杖が明滅する。何かの魔法を放つ気のようだ。

「させません!!」

すかさず伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズの二人はゴンドラから飛び跳ね降りた。
常人ならばそんな高いところから落ちたら大怪我するだろうが、二人は事も無げに着地を決めて、招待客を怪人キャシィから守るように立ち塞がる。

「双陽神のお恵みがあらんことを──"大いなる希望の壁!"」
「天はわたくしたちの味方ですわ──"おっきなハートさん、みんなを守って!"」

それぞれに展開した二つの障壁が怪人キャシィの攻撃を防いだ。
黒い影のような攻撃魔法は、光輝く障壁に当たったところで霧散した。

『おのれ小癪な…!』
「何度やっても同じことですよ」
「わたくしたちに、あなたの攻撃は効きません」

第二弾、第三波、第四の『"黒電龍コクデンリュウ"』を飛ばしても伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズには敵わなかった。
どの攻撃も光の障壁で防いでしまうことに怪人キャシィは焦りを禁じ得ない。

そんな激しい攻撃の最中、会場にいた人々は護衛や帝国の兵士たちに誘導され船から退避した。ターゲットである帝国の重鎮や各国親善大使まで逃げてしまったので、怪人キャシィは苛立ちに歯噛みする。

『──クッ。今日はここまでにしておいてあげるよ双陽神の下僕ども』

捨て台詞を吐いてから黒い天馬に跨る。

「待てキャシィ!」
「───殿下か…」

振り向いたキャシィとルークス殿下の視線が絡む。
そしてお互いにしばし見つめ合う。
その雰囲気が何とも言えず面映ゆいものだということに伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズも気づいていたが、敢えて口を挟む者はいなかった。

「君は…っ、…君と、話がしたいんだ」
『フン。何故お前と話さねばならん』

いつも通りに一蹴する怪人キャシィ。
自ら迷いを断ち切る女の強さがそこにあった。
闇色を纏い復讐を誓った彼女に甘えなど不要なのだ。

前方に巨大な魔力渦が発生した。
その魔力渦へ馬は駆け、そのまま怪人の姿も消えてしまう。

怪人が現れるまで賑やかで楽し気だった会場は、悪と正義のドンパチで無残に壊され、物も散乱している。
そんな中、残っているのは伝説の天使たちレジェンド・エンジェルズと皇弟殿下だけだ。

「…………ハツネ殿」

恋人の名を呼ぶルークス殿下だが、勿論、この場に恋人はいない。
会場にいた人々と共に避難してしまったのだろう。
なのに彼は彼女の名前を呼んだ。
その呟きは一体、何を意味しているのだろうか…。
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