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三柱の世界
正義の味方気取りで悪だくみ
しおりを挟む十分間の休憩を挟んで、再び皇帝陛下の執務室にて、話し合いをしている。
公開処刑は決まった。決まっちゃったもんは仕方ない。これに対してどう対処するかである。
『力ずくで、何もかも、ぶっ壊したい気分♪』
と、超絶笑顔でのたまうアザレアさん。
うーん。私も賛成なんだけど、ちょっと待とうか。
それだと帝国を敵にまわしちゃうでしょ。流石に迷惑ですよ。
お世話になってる身でそれは出来ない。
「聖霊様の逆襲ってことで処刑の場を荒らすのも手ではあるな」
て、えええ皇弟殿下であるルークスさんが肯定しちゃったよ?!いいの?!
「いいねえ。壊すなら徹底的に頼むよ。実行の際は関係者だとバレないよう第三者を装って、仰々しく名乗ってもらえたら最高だよ」
皇帝陛下も大賛成みたいです。
いいのかナハなんとかスカサイリア帝国(名前うろ覚え)…。
りょ、良心はどこだ。帝国のストッパーはいない…のか?
「駄目よタツユキ」
おお女帝様。あなた様がこの帝国の理性であり常識でしたか!
「それだと私が仲間外れになるわ。私だって腸煮えくり返ってるのよ。この気持ちを発散させるには直接暴れるのが一番だと思うの」
お姉様…。やっぱりルークスさんのお姉様なだけありました。
実行力がデフォルトでレベルマックスなんでした。
「あ、あ、あの、わたくしもやりたいです!」
アリステラ姫まで暴れたいと挙手する。
誰も彼も処刑の場を壊すことしか考えてないね。
「流石に国家元首たる君が主賓席を抜けるのは難しくないか」
「あーら。そこはヒースが協力してくれるわよ。ねえ?」
女帝様は首を傾げる仕草で後ろに控えるヒースラウドさんへ合図し、ヒースラウドさんは「御意」と畏まって答えた。
…だんだんヒースラウドさんが忍者のように思えてきた。
「聖霊様と姉君とアリステラ姫とで処刑場を襲撃し、混乱している隙にベンディケイド・ヴランを匿う。匿った後はどうする」
「それだけどルーくん。帝国で匿うのは難しいと思う。今の軟禁状態でも悲惨なのに、完全に人の目に触れないところへ匿うとなると監禁するしかなくなる。それこそ地下にでも閉じ込めないと…」
地下なんかに監禁されたら、ディケイド様は今後一生日の目を見ることはできないだろう。それは辛い。なので私が提案する。
「じゃあ、うちに住んでくれればいいですよ」
「ハツネ殿の家にか?」
「はい。今だってアザレアさんもアリスちゃんも住んでるし、ディケイド様ひとりが増えたとこでお部屋もあるから困りはしないです」
私は来年には嫁いじゃうしね。今でさえあまり家に帰ってないのだ。
結婚したらより家に帰る機会は減るだろう。
「ありがたい。確かあの家は双陽神による防護魔法がかかっているよね」
「そうですね。私が認めた人しか入れませんし、月神にも見つからない優れた仕様です」
皇帝陛下の質問に答えつつ、私はふと気づいた。
───私、実行者に入ってなくない?
「私も暴れたいですがルークスさん」
「君は目立つから駄目だ」
「何言ってますのん。姫だって女帝様だって、増してやアザレアさんなんか目立ちまくりじゃないですか」
あの派手なオカマさんなんか聖霊姿は虹色に光る天馬なんだよ。
それより確実に目立たないと思うよ私なんか。
「駄目ったらダメだ」
「だから何でなんですかー」
駄目の一点張りじゃ分かりませーん。
理由を述べよと申してもルークスさんは頑なに口を閉ざす。
いつもは正直者のルークスさんだけど、時々こうやって頑なになるよね。
前も御前試合のこと私に内緒にしてたり…一体何なのよもう。
「うふふ。言っちゃえばいいのに」
「駄目だ」
「そうだねえ。君のことが心配で人前になんか晒せない…くらいは言えるだろ」
「…そんな理由でいいかハツネ殿」
よくねえわ。皇帝陛下のアイデア盗作すんな。
「そんなこと言ったらカサブランカ様もアリステラ姫も人前に晒しちゃ駄目ですよ」
皇帝陛下とヒースラウドさんが許さないだろう。でも二人は文句ないんだよね。
女帝様もアリステラ姫まで実行犯にしておいて私だけ仲間外れとか…あ、カサブランカ様の気持ちが今分かった。
仲間外れ駄目。ぜったい。この一大事に関われないなんて悲しすぎる!
「火の粉がこちらにかかってきました。皇弟殿下、何とかしやがりやがってください」
ヒースラウドさんがいつもの調子でルークスさんを詰る。オッケー。味方できた。
「し、しかしだな、ハツネ殿が傍にいないと…」
「いないと何です?寂しいんですか?じゃあ、いない間は偽物でも置いておけばいいんじゃないですか?」
「偽物など…私は君に…君にだけしか…」
んもーう。じれったいな。
私はだんだん腹立ってきて冷静な判断など空の彼方へ飛んで行ってしまいそうになってる。
『はいはい。ハツネちゃん、もう少し男の気持ちにも理解を示してあげて』
アザレアさんが間に入ってくれて漸く気が緩んだけど、私の顔はふくれっ面のままである。アザレアさんはルークスさんの味方なんだよね。降臨の絆がある私よりルークスさんの味方なんだ。
…しかしまあ、ずっとこんな態度も嫌なので、頭を切り替える為にテーブルにある紅茶を口に含んだ。一息つく。
「ハツネさん、これどうぞ」
とアリステラ姫がくれたのは、ほくほく食感がたまらないパンプキンタルトである。
「わあ。おいひい~~」
紅茶に合いますなあ。お砂糖が無いこの世界で、どうやって甘みを出したのか聞いたら、ピーナッツのペーストを練り込んであるんだそうだ。それとカボチャ本来の甘みもあるという。なるほどねえ。甘味が足りないとはいえ、それは砂糖が精製できる野菜が不足しているだけで、甘みを含む作物はまだあるので創意工夫しながらスイーツを楽しむというわけですね。おみそれしました。
あと、アリステラ姫の手作りなのか聞いたら、アザレアさんが作ったという。
姫は「少しだけお手伝いしました」と謙虚に述べたが、きちんと最初から最後まで手伝っただろうことは想像にかたくない。いい子なんだよ姫はね。
「うん、美味しいよ。差し入れどうもありがとう。それじゃあ、細かいとこ詰めていこうか」
皇帝陛下も満足してますよ。そしてルークスさんとの話を有耶無耶にされた感あるけど、そのまま流されるままに…処刑をどうやってぶち壊すかの話題で盛り上がっていく。
正体を隠して名乗りを上げるというらへん変身ヒーローのようである。
「私の故郷じゃヒーローはみんな正体を隠してますよ」
「ヒーロー?エリオンが観せてもらってるパンのヒーローのことかしら」
「いえ。あれは幼児向けなので、むしろヒーローと主張する方に特化してます。
僕らはヒーローらしいので。それじゃなくて…」
と、正体を隠して活動する〇〇マン系に戦隊ヒーロー、それから美少女戦士にプリッとしてキュアっキュアな女児用アニメを思い出したのでご紹介した。
口で説明するのは難しいな。でも概要は伝えれたと思う。
『へえ。正体ばれないように変装して悪の組織と戦うのねん』
「そうですそうです。普段は一般人なんですけど、悪いやつが暴れたら正義の味方に変身してやっつけるんです」
「面白そうですわ。その変身って、どういう風にすればいいのでしょう?」
アリステラ姫の質問に答えようと変身についての説明をするんだが……これがまた上手くいかない。
うあああ口頭説明じゃなくて視覚で説明できたらいいのにいいいい
こんな時、スマホとかで動画サイトにアクセスできたらとも思ってしまうけど…あったよ。ありますよ。晃さんからもらった護符が。
モニターとして使ってた端末護符だけど、一時間くらいなら容量あるという説明だったよね。月神と勇者のPVで半分くらい。残り半分に私の記憶を移してみようと、一人で試行錯誤してみる。
まずは護符の漢字を読む。熟読………。
うん。なんとなく分かった。羽根ペンで漢字を書き足して魔力を流す。
あーでもないこーでもないと、また漢字を書き足して、余分なのは削って……と、頑張ること二時間くらい。
途中でトイレ行ったりパンプキンパイ片手に観葉植物を眺めたりもしたけど、頭がハゲそうになりながらも記憶編集してみたよ。どうやって編集したかというと、動画編集ソフト用の護符を自分で作ったのだ。全ては魔法チートのおかげ。護符の仕組みが早々に理解できたのもそうだけど、魔法チートは魔法の呪文を省いたり単略化できるのが最大の利点である。
そのことに気づいてからは早かった。形は歪で格好悪いけど、魔改造された護符はきちんと私の記憶を記録化してくれた。
「でけた!子供が好きなヒーロー詰め放題三十分!」
「え、本当に?!」
「すごいわハツネさん」
ロイヤル夫婦に驚かれて満更でもない私。
「護符が増えてませんかそれ」
とアリステラ姫に突っ込まれたけど「ザッツラーイト☆」と答える。
徹夜明けテンションのようにハイになっている私は、今ならどんな質問にでも答えれそうだ。
護符一枚だと漢字が入りきらなかったので、もう一枚繋げてそちらに動画編集ソフトを加えバックアップメモリも付属させてある。
再生するには一枚の護符で十分だけど、メモリー増強と動画編集する分の容量を増やしたのだ。
『この短時間でよく護符の仕組みを理解できたわねえ』
「さすがハツネ殿。即席魔術の第一人者だな」
アザレアさんとルークスさんにも褒められた。悪い気はしないが…。
その即席魔術って即席ラーメンみたいでちょっと悲しい響きがあるよ。
だがいくら即席とはいえ魔改造するのに二時間もかかりました。
その間、皆さんは何をしてたかというと、ルークスさんとヒースラウドさんが中心になって当日のタイムテーブルの把握と警備について話し合ってたみたいだ。
ロイヤル夫婦は執務室の方で仕事しながら、こちらにも顔を出して…と、頑張ってたみたいだ。
そんな皆様をテーブル席の方へ集めて、さあ、上映開始である。
ふっふっふ。私渾身の作品を観るがよいわー!
「"ポチっとな"」
魔法陣が私の魔力を含んで起動する。
蜘蛛男や蝙蝠男はじめ三分間ヒーローに戦隊もの、そしてカラフルな女の子戦士たちが変身しまくるめくるめく三十分間。
ありがとうありがとうそしてありがとう。三十分もわけわからんものを観せられてるというのに皆様なぜか釘付けだったので御礼を述べてみた。
「ハツネさんこれ、これ、これやりましょう!」
「ふああああ衣装がカラフルで可愛いですううう」
未だかつてないテンションの女帝様と姫。
女児向けアニメなはずだけど、ええ年こいた女たちがハマるとはどういうこった。
「あの機械の塊はなんだ?動くのか?駆動部はどうなってるんだ」
「きっと未知の生命体なんじゃないかな。生物や昆虫を模倣するパターンが多いけど流行り?」
ルークスさんは戦隊ヒーローのロボに夢中で、皇帝陛下はライダーやスーパーヒーローがいいみたい。
いいね君たち。瞳を輝かせた少年のようだよ。
『やっぱりパンのヒーローがいいわ。カビや水に弱いのは理に適ってると思うの』
「美味しそうですよね。飼い犬が二足歩行するのは、やや気になりますが」
アザレアさんは自称お料理研究家なだけあってパンのヒーローが気になるみたい。
いつの間にかヒースラウドさんも動画視聴してたらしく…さっきまでいなかったと思ったのにおかしいな…食べ物ヒーローに興味持ったようだ。
食べ物なら何でも動いてる不思議ワールドだもんねア〇パ〇マンは。
チ〇ズはもはや犬じゃない説ってあるよね。
そして一様に面白いと支持を集めたのは、敵方の怪人や悪の組織に関してだった。
怪人は奇抜だし悪の科学者や幹部も個性的で飽きないのだろう。
「なぜ敵の幹部との恋は悲恋ばかりなの?!」
「あの人改心したのに死んじゃうなんていけませんわ…」
と、敵が出てくる度に末路を教えてあげたら女性陣は大いに嘆き悲しんだ。
女の子は何歳になっても恋バナ好きだよねー。
「科学力は同等のはずなのになぜ負けるんだ。けしからん」
「ヒーローが変身中に最大級の技を発動させれば勝てるのにねえ。理不尽だよ」
そういう不合理な展開はヒーローのお約束というやつですよ。
正義は必ず勝つみたいな、ね。
『ねえん。これ、使えるんじゃあない?』
「そうですね。正義のヒーローが駄目なら、悪の組織でいかがでしょうか」
え?アザレアさんとヒースラウドさんは何故に私とルークスさんの方を見てるの?
目と目で通じ合うことはないから説明してくださーい。
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