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三柱の世界
いつの間にか降臨してた
しおりを挟む恥ずかしい恥ずかしい。穴があったら入りたい。
事後に抱き合ってたら襖の向こうから『お猿さんたち、お夕飯よー』と、
アザレアさんに呼ばれた。
恥ずかしい恥ずかしい。穴がなくても隠れたい。
しかも両手で赤面した顔を覆っていたらお腹がグ~~~と鳴った。
「…食べに行こうか」
「………………はい」
羞恥の極みを体験した気がする。
アザレアさんに盛ってたことバレてたのも相当なあれだけども直後に腹鳴るって…。
「元気なハツネ殿が好きだ」
それフォローになってねえっすルークスさん。
自分の家なのにこそこそっとシャワー室に入って、二人で洗いっこした後に夕食をいただきました。
いつも美味しい食事の提供をありがとうアザレアさん。この家にいる時は大抵アザレアさんが食事の面倒を見てくれる。お世話になりっ放しである。
ダイニングのテーブルには、アザレアさん始めディケイド様やアリステラ姫と聖霊王国の面々が席についていたのだが、その中に一人見かけぬ子供がいた。誰ぞ?
『あんだよ。俺がわからねえってのか』
「…え?す、すみません?」
とりあえず謝ってしまう日本人気質。
本当に誰か知らない子供が食卓にいれば誰だってポカーンと見ちゃうでしょ。
だけど、そんな言い訳すら挟めないまま、そのお子様は私を責めるように喋り立てる。
『あんたのアホみたいな魔力のおかげでこちとら死にかけたのに酷えぜ。そういやあんたには焼け焦げにもされたな。酷え女だ実に酷え』
酷えと三回も言われました。だけどこいつのことなんぞ知らん誰ぞ?
こいつ…てか、この子…見た目10歳~12歳くらいの男児で、藍色の髪の毛が艶々して綺麗だね。しかしその頭のてっぺんにはなんだかとっても特徴的なものが生えてるではあーりませんか。それ、それそれ、それ、猫耳じゃね?猫耳生えた少年が、これまた猫目のようにクリクリっとした瞳をこちらへ向けて生意気なことを申してるわけです。
「こらアオ!と、違った。えーとシエル、駄目でしょハツネさんにそんな口の利き方しちゃあ…」
「え?あれれー?もしかしてアオちゃんなの?」
聖霊のアオちゃんかね。青林檎に擬態してアリステラ姫のウサギリュックに入ってたけど降臨できたんだねえいつの間にか。
そして名前変更したのかな。シエルとな?
『もしかしなくても俺だ!気安くちゃん付けすな女ぁ!』
『アンタ生意気よ』
『ぎにゃゃっ!』
叫んだところでアザレアさんに拳骨を脳天に落とされてるアオちゃん。
もといシエルちゃん。鳴き声が猫っぽいぞ。聖霊姿は猫なのかなあ。わくわく。
「そっか。無事に降臨できたんだね。おめでとうアリスちゃん」
「ありがとうハツネさん。でも降臨させたのわたくしじゃないの」
アリステラ姫が言うには、本日午後遅く、会議が終わった後にこっそり華兵のヒースラウドさんと会ってたら青林檎が光って御降臨されたそうです。はい?
「どうやらアオは…じゃなくてシエルはね、ヒースさんと相性がとっても良いみたい。直ぐに仲良しになって人間の姿もとれるまでになったわ。すごいわ」
いや本当にすごいわ。
ローストポークをつっつきながら私も「ほへー」と感嘆してしまう。
私がアザレアさんを降臨させて直ぐに人間の姿へ変身できるまで魔力供給できたのは、魔法チートのおかげである。
ヒースラウドさんとは知り合って二か月ちょっとかな。アリステラ姫とカップルになって時々デートしてるとはいえ、そんなに長く一緒に居れたわけじゃないだろうに…本日、めでたく御降臨しちゃったんだよね。
しかも直ぐに人間形態になれるっていうのは、よっぽど相性良い上に魔力もきちんと供給されてるってことだ。
そういやヒースラウドさんは奇妙な魔法を使う人だったよねえ。ナンパ師どもを謎の技でスっ転ばせていた。魔力も高いのかもしれない。
「シエルって名前もね、ヒースさんがつけたの。とっても可愛い名前だわ」
「ほう…その、ヒースとやらは何者なのかね」
ディケイド様がアリステラ姫に聞く。父として当然そこ気になるとこですよね。
「あ。えと…あの、そのですね…」
「やあねえ~そんなの決まってるじゃなあい。アリステラの恋人よ」
もじもじしちゃって言い出し難そうなアリステラ姫に代わって、アザレアさんが朗らかに暴露する。
「…………本当か?」
「あの……本当です」
しかめっ面で問い質すディケイド様に、すっかり萎縮しちゃったアリステラ姫は小さな声で肯定した。がんばれ姫。負けるな姫。私は姫様のお味方ですぞ。
「そうか………」
なんだかショボーンな感じになっちゃったディケイド様。
別に怒ってるわけじゃないのよね。
ちょこっと離れてる間に、実の娘が彼氏掴まえちゃってしかも順調に恋仲が進んでるっていうこの状況…心中お察しします。
きっと親として複雑な思いを抱えてらっしゃることでしょう。
誰もがディケイド様を気遣い気になる素振りを見せながらも食事は黙々と進んだ。
ん~このミネストローネみたいなスープ美味しいよアザレアさん。セロリたっぷりなのがいいね。こんなに美味しいのに私の隣に座るアオちゃん改めシエル坊やは、セロリだけスープの海から掬い出している。
それを見た私は皿の外に出されたセロリを無言で戻してあげてる。
『ちょっとあんた余計な事すんなよな』
「ちゃんと食べないと大きくなれませんよ」
『十分でかいっつーの。人型にもなれるし俺は強いんだからな』
「ちびっ子が何言ってんの。意気がってる内はまだ未熟です。セロリくらい食べなさい」
そう言ってセロリだけスプーンで掬ってシエル坊やの口へと近づける。
『嫌だ!誰が食うもんか』
「好き嫌いはいけません」
『俺にかまうなよ怪物女!』
「どういう意味だ怪物女って?いいから食え餓鬼んちょ」
スプーンを押し合い圧し合いの攻防が続く。
私はシエル坊やが口を開けたとこを狙っていくのだが、彼はあっちへツンこっちへツンと左右に首振って入れさせようとしない。
更に私の腕を掴んできてスプーンごと押し戻そうとする。ぐぬぬ…。
「脇が甘い」
『にゃあ?!』
突然シエル坊やが固まって驚き声を上げたと思ったら、ルークスさんに背後からホールドされてた。
その隙に私はスプーンに乗せたセロリをターゲットの口へと放り込む。
『みにゃむぐ!?』
「ほら、よく噛め」
今度は両頬と顎を抑え込まれて、シエル坊やは目を白黒させながら口の中に入ったものを何とかしようとしてるみたいだ。
もう咀嚼して飲み込むしかないと思うけどねえ。しばし待つ。しばし待つ。しばし待ってたら、ごっくんと飲み込んだ音がした。
「はい。えらいえら~い」
頭をなでなでしてあげる。
ルークスさんからの拘束も解けて自由になったシエル坊やは私をキッと睨み、次いでルークスさんへと振り向き「フーーッ!」と威嚇の声を上げた。
本人は精一杯の虚勢なんだろうが、耳がピンとなって短い尻尾も逆立ってるから…おいおい可愛いなこれ。
『お、お、お、おまへらなんか、大っ嫌いらあああ』
舌っ足らずになるほど悔しかったらしい。ちょっと涙目だし。そこがまた可愛いじゃないか。その獣耳触らせろと思うけどこれ以上何かしたらより嫌われると思い自重。
シエル坊やはそのまま泣き叫びながら椅子を飛び降り、どっか行ってしまった。
なんだか悪いことした気分である…。
「…やり過ぎましたかね」
「あれぐらいで?」
『まア~あの子はいつもあんな感じよ』
「うむ」
アザレアさんの言葉にディケイド様が頷き、私とルークスさんは顔を見合わせた。シエル坊やは多感なお年頃なのね。
アリステラ姫だけがシエル坊やが去った方を気にしつつ食事を終え、ご馳走様の後は後片付けを手伝った。
シンク下の食器用洗濯機が大活躍の時間である。乾燥までしてくれる憎いやつだ。
「アザレアさん出掛けるんですか」
『いいえ~宮殿の部屋に帰るだけよん』
ディケイド様と仲良く腕組んで玄関へ向かうアザレアさん。
聞けば、ディケイド様は今日の会議に参加するため軟禁部屋から出してもらえたが今日一日という期限付きなんだそうで。
夜12時までに再び軟禁部屋へ戻る約束だとか。12時までに…どっかの灰かぶりさんみたいですね。
「アリステラ…息災でな」
「お父様……」
なんか今生の別れみたいな挨拶してる親子ですが、それに近い心境なのかもしれないので、そこはそっと見守る。
この親子が再び会える日はいつになるか分からないから…。
「…そこまで見送ります。アオ…シエルも探したいですし…」
そう言ってアリステラ姫も宮殿の方へと一緒に歩いて行った。
家に残されたのは私とルークスさんのみである。
「ルークスさんは帰らない」
「よく知ってるな」
「今夜は泊まって行くんだって顔してます」
「そうだ。今夜はハツネ殿と一緒に寝よう」
「ベッド狭くなるからお断りしますね」
にこっと笑って返したんだけど、結局このエロ殿下は寝室までついてきて私より先に布団へ入り、私より先に寝てしまうのであった。
…うん。この寝てもハンサムな寝顔に落書きしたい気分である。しないけど。代わりに頬や鼻にキスをしてから私も寝ました。おやすみです。
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