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三柱の世界

会議だよ全員集合

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永らくお待たせしました。
関係者一同を集めての全体会議、間もなく開幕です。
会場はこちら、私の家地下、旅館風宴会場で畳の間となっております。
座布団で正座という苦行をこちらの世界の人に強要する気は無いので、赤い毛氈に長机とこじゃれた椅子を並べてみました。なんか明治っぽくなった気がする。
イメージは幕末から明治維新。西洋との外交が始まって畳の上で軍法会議しちゃってるあれだ。

「この畳というのは聖霊王国にもあったな」
「ええ。曾お婆様が材料から調達して手作りしてましたわ」

ロザンナ医師とアリステラ姫が仲良くだべってる。
つかシオリ様すげえな。畳を作れるのは職人だけだと思うけど…。
シオリ様は何者だったのだろう。

『シオリちゃんねえ~有能なお姑さんってかんじだったわよお』

アザレアさんの言うことにゃ。シオリ様は書道・茶道・華道などの道に通じていて、ついでに武道もこなし、何でも手作りしてしまう人だったらしい。
それ大和撫子っていう絶滅危惧種じゃないですかねえ。

『その服、キモノっていうんでしょ。似たようなの着てたわよ』

と、今私が着ている振袖を指差すアザレアさん。本日、晴れやかな席ということもあり成人式で着た振袖を着付けてみました。
ただ、振袖用の長い帯を一人で巻くのは途中で断念。作り付け帯を装着。
お式当日は家政婦のかずゑさんにやってもらえたけど一人じゃとても無理だ。
これから一人で着る機会もあると思って、もう結んである完成形の帯を作っておいて本当に良かった。
…シオリ様、似たようなの着てたってことは振袖を持っていたってこと?流石にこれは手作りできないと思うけど…。

「祖母は何やら祝いの日にこちらの世界へ来たと言っていた。その民族衣装は祝いの席で着るものなのだろう」

と、渋い声を出すのはディケイド様だ。アザレアさんの隣で渋茶をすすりながら話す姿は王様というより近所の茶飲み爺さんである。
碁でも指してそうな雰囲気。お茶請けに、この世界でみつけた揚げパスタをテーブルの駕籠に盛っておいた。緑茶にも合うこの揚げパスタは塩味です。
形はフリッジやルオーテなど日本でも見かけたことあるものだ。これがスナック感覚で食べれて実にうまい。

と、食べ物のことじゃなくて今は着物の話題だったね。
お祝いの日にこちらの世界へ飛ばされたというシオリ様。
振袖を着る機会なんて現代日本では減りつつあるけど、晴れの日に異世界へ飛ばされるとか…。
しかもその後、拉致監禁でしょ。踏んだり蹴ったりじゃん。同情を禁じ得ない。
それに比べて私は衣食住満たされ恋人までこさえてヒャッハーな異世界生活で実にすみません。これだけ苦労知らずなのは前回の魔王戦で死亡したからアフターケアなのかもしれないけどね。

「私のこれは成人祝いに仕立てたものです。この帯の結び方、"桃李"っていうんですよ」

と、言いながらくるっと回り、帯を女帝様と皇帝陛下のいらっしゃる方へ向けた。お尻向けて失礼します。

「タツユキと同じ名前なのね」
「すごく華やかな結び方に見えるなあ。もしかしてトーリって女の子の名前?」
「いえ男性名のはずですよ。この結び方は桃の花のようで女性らしいかもですが」

案ずることなかれ。現代日本きってのセクシー俳優で同じ名前の御仁がおります。ちなみにうちの兄が大ファンで彼の尻をおっかけてる。
そんなようなことを軽いニュアンスで告げてみたら「へ、へえ…」と皇帝陛下ドン引きである。前にも見たなその引き笑い。
思い出した。"茨の鎖"が浮気防止だと告げた時だ。アブノーマルな兄ですみません。話題に出した私も悪いか…てへぺろ。

ところでエリオンくん(荒ぶる一歳児)がハッスル中だ。
会場の一角に設置したプレイルームで目を輝かせて遊びまくっている。
親御さんも安心して会議に集中できるよう、プレイルームは柔らかい壁で囲って、その壁には仕掛けがある。押したり叩いたり捻ったり引っ張ったりすると音が鳴るという単純だけど一歳児にはたまらない仕組みだ。
エリオンくんはプルトイ犬を引き連れヒヨコ車をピコピコ押しながら壁音エリアを攻略中である。まだ三位一体大型遊具や様々な玩具も控えてるので、彼の興味が早々に尽きることはないだろう。

「この遊具、ハツネさんが考えたの?すごいわあ。私もベビー用品の企画出してるけど、こんなの考えつかなかった」

あーこれ二番煎じなのでそんな褒めないでお姉様。

「子供が好きなもの全部詰まってるよね」

皇帝陛下も感心の声を出して褒めてくれるもんだから照れまくる。
私が考えたわけじゃない。現代日本の玩具メーカーさんがすごいのである。
それと、製作してくれたマダシオ親方に工房の皆さんのおかげだ。釘とか飛び出てるものに子供が服を引っ掛けないよう内側に留めてあるんだよ。職人技だ。角も削って丸みを出して、ぶつけてしまいそうなとこにはクッション素材が張り付けてある。こういう気遣いも素敵。
滑り台を逆登りし始めたエリオンくんに、こっちの階段から登るよう指示。
それでも逆走し続ける一歳児。とうとう逆登りで登頂した一歳児。ドヤ顔である。
一歳児だけど皇子。皇子よ、庶民の声も聴いてくださいよ。

こんな感じで三々五々に皆さん集まり、会議始まるまでの間のんびり会話を楽しんでるわけですが、肝心の神たちが来やがりません。
出席するって双陽神のミルビナさんは言ってたような気がするんだけど、一昨日の月神騒ぎもあって来れないのかな。
どうなのか、こっちからの連絡手段が無いので聞くに聞けないし。連絡手段として思いつくのが神殿からの奏上と、あと、神子の晃さんの"神降ろし"である。晃さんいれば普通にお頼み申すことなんだけど彼もまだ到着していない。

「カテル氏、何か事情聞いてない?」

ルークスさんと机挟んで対話しながら"どら焼き"を頬張ってる聖騎士カテルさんに聞いてみる。
"どら焼き"の生地は私の手作りである。一昨日、神殿からの帰り際に大量のあんこを晃さんから貰ったので、あんこ包む生地はフライパンで焼いてみたのだ。
生地の材料はお手軽簡単ホットケーキミックスだけどね。これまた引っ越し荷物にパンケーキ用粉を入れてた私グッジョブである。
なぜかカテル氏が"どら焼き"気に入ってここに来てからずっと食べてる。
大量に作ったからどんどん食べてくれていいけど、よくそんなに食えるなあという量を口に入れてるのが気になる。砂糖が無い世界だから珍しいんだろうけど…。

「事情ねえ…」

と、カテル氏は口ごもって視線を逸らした。
こりゃ後ろ暗いことがあるね。

「知ってること全部吐け。言うまでこれはお預けだ」

ルークスさんにどら焼きの入ってる駕籠を取り上げられて「ああ…」とか悲し気な声上げてるカテル氏。君は何歳なんだね。
まるで大好きな玩具を取り上げられた子供みたいな顔だ。そんな顔、昨日囲まれてた女の子たちに向けてみろ。捕食されるぞ。

「そんなにあんこ好きとは意外です」

スイーツ男子かね君は。

「…これ見たら思いだしちゃったからさ」
「あんこですか?」
「そー。これ、コウに貰ったんでしょ」
「よく分かりましたね」
「作ってるの見たことあるからね」

なんてことない話だけど、幼い頃に晃さんがあんこ拵えてるの見てたんだって。
見てるだけでも楽しかったのに食べたら美味しくて、もっと食べれたらいいのにと思ってたと。

「もっと欲しいって強請ったら、昔別れた友達にあげるからこれ以上は駄目だって言われた。その友達ってキミのことじゃない?」
「そうだと思うけど…本当に、よく分かりましたね」
「あの時ね、女の子にあげるんだなってピンときたんだ。勘は大当たり。あれから百年くらいか…久しぶりに見たら食べるの止まらなくなった。どうしてくれるんだ」

どうするもこうするも自分で制御してくれそんなことくらい。
つーか、百年前が久しぶりとか訳分かんないこと言ってるぞカテル氏。あんた本当に何歳だ。

「ハツネ殿に当たるな。やはり貴様は長生きしてる割に心が成長してないとみえる」
「それこそ大きなお世話だね。ルークス、年上の助言は素直に聞き入れるべきだよ」
「貴様がいつ助言なんかした?」
「ハツネちゃんを月神に攫われたんだろ。大事なお姫様はこうやって…」
「───?!」

カテル氏の腕が私の腰まで伸びて抱き寄せられる。
急なことで私は反撃どころか声すら上げることができなかった。

「腕の中に閉じ込めておかないと、いつか飛んでっちゃうよ」

力強く抱き込まれてるのが分かる。こいつ油断ならない。普段がチャラくて侮ってしまいがちだが、本来の実力はルークスさんより上だ。
帝国最強の騎士をなめてた。あまりの早業と急激な出来事に私は頭が混乱している。魔法で反撃することが、なぜか出来ない。

「ハツネを放せ」

て、いつの間にかルークスさん抜刀してたよ?!
机の向こうから剣抜いてカテル氏の首に抜き身を当ててるじゃないか!
私は自分がとっ捕まったことよりもルークスさんがカテル氏に斬りつけた方に驚いて口をパクパクさせてる。
さっきから驚いてばかりで心臓もたない。何がどうなってこんな状況になっちゃったんだろう…。

「やればできるじゃん」

カテルさんはニッと口端を上げて笑い、私を手放した。と同時にルークスさんも剣を引く。ひえええ…腰抜けちゃって立てませんわ。

「手荒にしちゃってごめんね、ハツネちゃん」

笑って言うけどその笑顔が怖いぞカテル氏。こいつ何考えてこんなことしたんだ。
頭捻ってみるけど思いつかない。だから私は益々に混乱して、ただこの帝国最強を謳われる騎士が怖いと思うだけ…。

「カテルくんやめて。なんでこんなことしてるの」

声がした方を見ると晃さんがいた。丁度、入り口の襖を開けたとこみたい。
でも眉間に皺寄せて睨んでるから何が起こってるかはバッチリ把握してるんじゃないかな。
もしかしてカテル氏わざと?わざと晃さんに見せつけた?
またかお前…。前もルークスさんが来るタイミング見計らって私を抱き締めた上にケツ揉んだだろ。人を試すようなことはやめなさいよね子供じゃないんだから。

「遅かったねコウ。暇だったから、ちょっと後輩を揉んでたとこ」

その言い訳まじか。
今度は私のケツ揉んだんじゃなくてルークスさんを揉んだって?
よーし。訳分かんねえ。こいつ本当に何考えてんのか分からん。
以前のには理由があったよ。ルークスさんにやきもち妬かせるっていう理由ね。
でも今は何の為に私を人質にしてルークスさんに剣抜かせたか理解不能である。

「…もう力は使わないでってお願いしたよね」
「説明するより体感してもらった方が早いと思ってさ。今は少しだけなんだから許してよ」

そう言ってカテル氏は腰が抜けてへたり込んでる私に手を伸ばし立たせてくれた。
えーと、あんたの所為でこうなったのに何でまた立たされてるのかね私。
さっきから自分の体が自分じゃないような不思議な感覚なんだけと、どうなってんだろこれ。

「どうなってるか分からないって顔だね。説明面倒臭いから体感してもらってんだけど、これが俺の力なの。体が鈍感になってない?」

あー…なるほど。思考回路やら体の動きやら、普段より反応が遅い気がするわ。
魔法を使う気力が無いっていうか、それに至るまでのプロセスが鈍くなってるというか…。

「もっと強くすると人格を崩壊させることも出来るよ」
「……これって固有スキルなんですか?」

なんかルークスさんのと似てる気がすんだけど。
私は鈍くなった頭を捻りながら質問する。
たったこれだけ喋るのに多大な労力を割いてるような気分だ。

「ちょっと違う。オレのは後天的に授けられたスキルだ」
「授けられたって……神様にですか?」
「そうだと思うよ。ただね、オレはその授けてくれた神様の名前を聞いてるはずなんだけど覚えてないんだ。これはこの世界の誰にでも起こってる現象なんだけど、その神様は確かに存在するはずで、神殿だってあるはず。でも皆忘れてる。覚えてるのはきっと…コウだけだ」

皆忘れてる…神殿はあるはずで…存在しているはずの神様…。
…それって月神ルノのことだろうか───。

「もういいからカテルくん」
「良くないよ。ここまでお膳立てしたんだから」
「だからって、ここにいる皆様を巻き込んじゃいけません」

まるで幼子に言って聞かせるようにカテル氏を窘めた晃さんは、どこからか護符を取り出し、その陣を発動させた。
途端に鈍感になってた思考が戻り、カテル氏に口撃しようって気概がもりもり湧いてきちゃったぜえええ。言われたら言い返す。それが私の信条である。

「まったくもって不可解だよカテル氏。ルークスさんを挑発して何になったの?
皆にまでこのスキルを使ったの?スキル使った割には、ルークスさんは動けてたじゃない。どういうこった?つか、お膳立てとかいい迷惑なんだよ。晃さんのこと好きで好きで好き過ぎちゃって心配なのは分かるけど、そういう突拍子もないことに他人を巻き込まないで。自重しなさい。あ、それから、月神のことなら私が覚えてる。最近まで忘れてたけど記憶が戻ったから覚えてる。忘れてない。月神の名前はルノさん。癒しと護りの神様で人を助けるのが趣味。今は狂ってるから趣味がどえらい方向へ突き進んでるだけだと思う」

ずばーーと言いたいこと言ったらスッキリしたわ。一気にここまで喋ったら喉乾いた。机の上にあった番茶をすする。んめー。茶んめー。

『さっすがハツネちゃ~ん。惚れ惚れするような切り返しよね』

アザレアさん、ありがとう。投げキッスも受け取っておく。

「ハツネさん素敵です。お父様、大丈夫ですか?」
「ああ別に何ともないが…ふむ。これが噂の、不死身の聖騎士の力というやつか」

んんん?ディケイド様、今なんつった?
なんかまたカテル氏の新たな称号を聞いてしまったぞ。
チャラ男でパーリーピーポーな男が実は不死身だったって?なんのこっちゃい。

「いい女だな君は」とロザンナ医師が褒めてくれた。いや照れますな。
「おい、そこのチャラい騎士。我々にこのようなことをしてタダで済むと思ってないだろうな」

ロザンナ医師は的確にやつのチャラさを見抜いていおる。
彼女の声はハスキーでドス効いてて迫力ある。格好良い女の人っていいよね。
しかもエルフ。長い耳をむぎゅっとしたい。いつかお頼み申そう。

「うふふふふ騎士の分際で私に立てついたわね。処刑されたいのかしら」
「落ち着いてハニー」
「姉君、無駄なことはしない方がいい。こいつは処刑しても死なん。処刑費用が掛かるだけだ」

ロイヤルな方々、一番ロイヤルな御方を引き留めてくれてありがとう。
ルークスさんの言う通りならカテル氏ってばやっぱ不死身らしいわ。マジでか。
それも月神から授かった恩恵とでもいうのだろうか。
ルノさんってば何やってんだ。彼は狂ってるんだよね。狂ってるから無差別にスキル振り撒いてるのかな。この辺の説明、誰かしてください。
というか晃さんはどこまで話てくれる気なんでしょう。カテル氏がここまでやらかしちゃったからには、晃さんももう黙秘し続けることは出来ないよね。
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