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三柱の世界
コスプレはバカップルを助長させるだけ
しおりを挟むどうやら一眠りしてしまっていたらしい。
起きたら自分の家のベッドで安心した。ルークスさんが運んでくれたんだろう。
あのまま和室だったらまた寝冷えしてたと思う。地下ってけっこう寒いからねえ。
目覚めたのがベッドの中なのはいいが、只今の時刻…深夜二時。真っ暗である。
さすがの白夜さんも深夜ともなればお静まりになる。
真っ暗の中で目覚めてしまったので、ここがどこだか一瞬戸惑ったくらいだ。
…よし、もう一眠りしよう。まだ寝れる自分に感服する。
それから四時間後、朝日と共に再び目覚めた私は通常通り朝の体操をしてから、おはよう三点セット洗顔歯磨き着替えを済ませてリビンングへ行く。
誰も居ないね。コーヒーを淹れて飲む。飲んだ途端、腹がぐ~~~と鳴った。
空きっ腹にブラックコーヒーは刺激が強かったみたい。朝ご飯を作ろう。
こういう時って本当に白米が恋しくなるけど米は無いのでパンをかじる。
もしゃもしゃとバゲットの端っこをかじりながら朝食用にとジャガイモを茹でた。
気分的に…よし、ジャガイモパンケーキを作ろうと、茹でたジャガイモに小麦粉とハーブソルトを混ぜ込んで成形していく。
丸型でも小判型でもいいが、本日ラブ気分によりハート型にしてあげよう。
腸詰と一緒にフライパンで焼き色つくまで両面焼いて、茹で卵と茹で野菜を添えて完成である。
「あ~ハツネさん、おはようございます」
「おはようアリスちゃん」
「美味しそうですねえ。わたくしの分までありがとうございます」
「なんのなんの。アリスちゃんもコーヒーでいいかな」
「はい。あ、あの、甘いのが、いいです」
「いいよ~たっぷりミルクとハチミツを入れてあげよう」
絶賛スイートでラブラブなアリステラ姫の為に特別仕様のくそあっまいコーヒーを作ってあげる。
一緒に朝食を摂りながら昨日は何をしていたか訊いたら、案の定、ヒースラウドさんとお出掛けしてたみたい。
「昨日は午後にお休みが取れると伺って…アナスタシア様に教えていただいたカップケーキを差し上げたんですけど、ヒースさんたらその場で食べてしまわれて…」
ほうほう。公園のベンチでいちゃついたと。
「わたくしも一緒に食べてたら、頬にケーキの欠片が付いてしまって…」
ほうほう。チューでとってもらったと。
「あんなに間近でお顔を拝見したの初めてで…わたくし胸が高鳴って高鳴って…お恥ずかしいですわ」
ほんと聴いてるこっちもお恥ずかしいですわ。青春だね。
順調に愛を育んでるようで何よりです。
これでまだマジチューしてないんだぜこいつら。プラトニックか。
アリステラ姫は結婚するまで健全な男女交際を貫くつもりらしい。
ヒースさんがもてばいいけどねえ…。気の毒ではあるが姫を選んだ時点で既に覇道だから頑張ってくれとしか言い様がない。
ところでハチミツが無くなりそうだ。
早いとこ代替え品か砂糖を見つけたいものだけど…せめて全体会議が終わるまでは皇居宮殿に居たい。皆で集まるのは明後日である。話し合い終わったらアザレアさんに相談して、米&砂糖探しの旅に出よう。
幸せうふふ状態のアリステラ姫を目の前にしながらも、私の脳内はフル回転していて、当分の予定を立て終わっていた。
食器洗ってゴミを片付ける。ゴミは魔法道具のゴミ箱があるので、蓋開いてゴミを捨てると中で消える仕組みである。
消えたゴミがどこに行ったかは知らない。
この現象はこの世界の一般常識ではなく、この家のゴミ箱が特別仕様なので、ほんとどうなってんのかわかんない。
地下へ降りた。和室に入り、そこで昨日あれこれ致した所為で無残な姿になってる着物を発見した。おおおお着たままするんじゃなかった…。
いや、まあ、脱ぐ気がなかったというか、脱がせてもらえる気がなかったというか…。着物のお手入れ方法なんて知らないから酷いことになってなきゃいいけど…と、大島袖を点検。くんくん。少々臭う程度だ。もしかしたら後で染みが出るかもしれない。これは洗えないから染み出たらどうしよう。
とりあえず皺を伸ばして衣紋掛けに掛けた。臭いはお香で誤魔化そう。
幸い、におい袋も一緒に送ってもらえてる。中身は白檀や竜脳などの香料である。
でも焚くための香炉が無い。帝都で探してみるか。あと、和室をそれなりに設えたいから各種小物などを購入する算段をつけつつ出掛ける準備をした。
アリステラ姫に「いってきまーす」と声をかけ、玄関に来たところで扉が勝手に開く。うえ?!
「お、ハツネ殿。おはよう」
「ルークスさん…!」
驚いた。めっちゃ驚いた。玄関が勝手に開くとか予想だにしなかったことが起こったのもあるけど、何よりルークスさんを朝っぱらから直視したのが意表を突かれた原因である。
昨日のことが頭を過ぎる。いつも以上に乱れた上に恥ずかしい台詞を連発してしまった気がする。もっとしてとか…。うおおお穴があったら入りたい…!
「出掛けるのかい?だったら私も行く。実は今、神殿に行かないか誘いに来たとこなんだ」
「神殿…ですか」
「ああ。前に連れて行くと言っただろう。忘れてたわけじゃないが仕事が立て込んでてな。やっとネリーも説得できたし、今日行かないか」
確かに前、護符の話になった時、神子に口添えしてくれると言ってた。
私も神殿には行く気満々だったけど、ルークスさんにはきちんと執務してて欲しかったから忘れたふりしてたんだよね。
「あ……はい」
「…どうした?元気が無いようだが」
「だ、だいじょうぶでありますよ」
「…?あまり大丈夫には見えないぞ。また熱が出たんじゃないのか」
そう言って私の額に手を置くルークスさん。おひええええ今は勘弁してくんろ。
昨日の思い出がまだ頭ん中でフィーバーしてんだよ。
中出し強請ったこととか忘れ去りたい思い出がわんさかあんだよ。
「どあ、どあいじょうぶっです!」
額に添えられた手を握って外す…ことができない。
ルークスさんの手に触っちゃったら何故か意識して固まった。
なんでだ。今更こんな初心な反応しちゃって自分でも自分が分からないぞ。
「顔が赤い。やはり熱があるんじゃないのか。体調が悪いようなら今日は…」
「いや!いやいやいや行きますよ神殿!晃さんとはもう一度話をしておこうと思ってましたしね」
うん。そう、これは、とっさの言い訳とか照れ隠しとかじゃなくて本当に純粋に神子の晃さんには護符のこと聞いてみたかったから。ルークスさんに紹介してもらえるなら護符も買えそうだし大変喜ばしいことである。
必死で神殿に行きたいぞアピールをする。今日の買い物予定は神殿の後でもいいし、明日でもいいし、とにかく今日はお出掛けしようと、ルークスさんも一緒に!を強調してまくし立てた。
「んーまあ、そこまで元気に喋れるならいいだろう。だが体調が悪くなったら直ぐ連れて帰るぞ」
「はい。それでいいです私は元気です。病気になる予定はないです」
「病気の予定は立てれないと思うが…」
そこは真面目に返さなくてもよいところです。
さ、行きましょうと握ってた手からどさくさ紛れに腕を掴んで引っ張った。
「ん、ああ…そうだ、変装はいいのか?」
「一人の時はローブでいいでしょ」
最近のアザレアさんは、やたら短いスカート履かせようとしてくるんだよね。
「若い女の子はお肌出してナンボよ~ん」とか言って。
アリステラ姫が肌出すのは良いと思うけど私が肌を露出すんのはねえ…。
誕生日が来て年を一つとった所為もあるけど、元からズボン派なのもあって足出しはあまりしたくない。ちなみに誕生日は熱出して寝てる間に、月経と共に過ぎました。23歳ですよろしく。
ルークスさんと腕を組んで家を出た時だ。
「待ってハツネさん、わたくしも連れていってくださいな」
振り返ればそこにピンクうさぎリュックを背負ったアリステラ姫がいた。
リュックの中にはもちろん青林檎もとい聖霊のアオちゃんがインだ。
家を出る時はいつでもどこでもこのリュックを背負っているので、アリステラ姫は今、皇居宮殿の中で「あのウサギ姫は誰だ」と噂になってたりする。
が、そんなこと今の私たちは知ったこっちゃないので、いつもの姫スタイルを違和感なく受け入れてるのであった。
「アリスちゃんも行くの?神殿だけどいい?」
「はい。お話、聞いてて、すみません…でも、あの、わたくしも護符っていうのを見てみたくて」
おお。立ち聞きしてたんだね。バツが悪そうに謝ってくる姫。
そんなことは気にしなくてよいよいと、まるで好々爺のように眦下げてアリステラ姫も一緒に神殿へ行くことになった。
すると必然的に変装しないといけなくなるわけで…。
「バッチリ任せてよん☆」
アザレアさんのお部屋へ行ったら快く受け入れてもらえた。アザレアさんは私の家にも寝泊りできる部屋を持ってるけれど、皇居宮殿内にもお部屋を用意してもらっている。
いつ誰にお部屋の交渉をしたのか知らないが、ディケイド様の軟禁されてる部屋から一番近くて日当たりの良い部屋を無事ゲットしてるわけである。さすがです。
「お手柔らかにお願いします」
せめて膝丈下十センチがいいです。
膝小僧は出したくないのでありますと念を押してコーディネートしてもらった。
ロングスカートばかりのこの世界でよくこんな短いスカート探してこれるもんだとも思うけれど、きっと短く切って再度縫製してんだと疑う余地は多分にある。
だってこの服ミザリーさんのお店で買った時はこんなにショートじゃなかったもの…。
「これ、手直ししたんですかアザレアさん」
「そうよん。このふんわりフレア感出すのにレース二重につけたり工夫したんだから~」
「…………」
どうやって縫製したかまで詳しく教えてもらうのだが、余計なことをと文句は言えない私であった。かと言ってありがとうも言えないな。だってこれ膝丈だもの。
「スカート丈が短いですアザレアさん」
「色違いで買っておいて良かったわ。アリステラにも着せれるなんて…まるで娘を二人もった気分…!」
「感極まってるとこすみませんが、足出したくないです」
「こっちの方が断然いいわよーう。ね、アンタもそう思うでしょう」
「ああ。素晴らしく可愛いぞハツネ殿」
「…………」
ううううう褒めるだけ褒めてくる彼氏なんか連れてくんじゃなかった。これ以上の抵抗は無駄と悟る。
髪型は神殿参りということで清楚系に。私のは左に向かって編み込んで、アリステラ姫は右へ向かって編み込んで、くるくるっとシニョン風にまとめてもらった。
大きなリボンも赤と青を色違いで付けてもらって完了。服も赤青の色違い。髪色もなんとピンクとブルーで色の統一感パネエ。アニメキャラみたーい。
「これはコスプレ…これはコスプレ…これは私じゃない…」
いつものように自己暗示を唱えてから出発した。じゃないと自己崩壊起こすわ。
「とても似合う…ハツネ」
「はい。手をスカートの中に入れないでください」
「…ちょっとだけ」
と言って生太腿撫でてくるコイツどうにかしろ。
またパンティーぐちょぐちょにされたらたまらんので、馬車に乗るまで腕組んで歩いた。この手を腕ごと抑えてないと何しでかすか分からんからね。
「あらん。ラブラブね~もうじき結婚間近なだけあるわあ」
「アナスタシア様もご一緒されるのですか?」
「あのバカップルに一人で付いて行く勇気があって?アリステラ」
「勇気…………ありません」
そう言って遠い目でどこかを見つめるアリステラ姫。
きっとその先にはヒースラウドさんが居るに違いないね。
彼は今日、本来のお役目に就いているはずである。私たち女子が二人っきりで出掛ける時だけ護衛してくれるけど、普段は皇族及び皇居の警護が職務なのだ。
アリステラ姫には悪いが、今日はルークスさんが護衛である。今の私はこの手癖の悪い皇弟殿下が悪さしないように腕を抑えてるだけであって、決してラブってるわけではないので、そこんとこよろしくです。しかし、こうやって抑えてる今でも、手首捻ってまでお尻撫でようとしてくるエロ殿下。
「人前でセクハラやめて下さい」
「分かった。二人っきりになったら頑張る」
そうしてくれ。
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