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三柱の世界

お医者さんに相談だ

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これで安心して内緒話ができるね。

「今、強力な魔法が幾つも展開した気がするんだが…キミの仕業かね」
「ロザンナさんには魔法の気配が分かるんですね。エルフだからですか?」
「ああそうだ。私がエルフだとよく気づいたな」
「耳長いじゃないですか」
「ふむ…キミには通用しないということか。これは興味深い」

なんでも、エルフだとバレないよう認識阻害の魔法を常にかけてるらしい。今あの長い耳につけてる耳飾りがそういう魔法道具だという。
え。知らなかったよ。どうして私はエルフだと見破ることができたのだろう。
エルフを感知する嗅覚でも標準で備わってんのかな。これがエルフ萌えという能力の真髄か…!
と、脳内バカ騒ぎフィーバーだけど努めて表情には出さず黙していた。
いやあ~そんなに見詰められても分からないものは分からないのです。

「それで?結界を張ってまで私に聞きたいことがあるのだろうか」

どうやら追求はされないようだ。
これ以上つっこまれても私が困るだけだから引いてもらえてありがたい。
私は生理不順の相談をした。こういうの相談するのってたとえお医者さんにでも恥ずかしいもんだ。ロザンナさんが女医さんで良かった。もし男性医師だったら相談すらしなかったと思う。

「さっき診た限りならキミは健康体だ。今までも遅れはなかったのだろう。
それなら考えられるのは…」

妊娠…。まじでー。それだけは勘弁。

「それも早計だな。生理周期は計算したのかね。前回、生理になった日から今日までで何日経っているか数えてみろ」
「んえーと……ざっと40日は経ってます」
「正常なら25日~38日だ。いつもならどれくらいの生理周期なんだね」
「ん~~~大体、月末の一週間を生理でうんうん唸ってますが」
「重い方ということだな。それなら本来は30日の周期だから…十日前には生理になってて良いはずだ」

十日前ってーと…あ、ちょうど女帝様に謁見した日だね。
その日の夕方に熱が出たのだ。

「…ああ、思い出したぞ。初めてキミを診察した日だ。夜、殿下に呼び出されてな…そういえばキミ、月経帯をしていたぞ」
「はい?月経帯って…?…というか、まさか寝てる間に生理がきて終わってたということでしょうか」
「そのまさかだな。発熱は月経の所為もあったかもしれん」

アンビリーバボー。知らない間に生理終了。
そら生理になった覚えがないわけだよ。帰ったらセナさんに尋ねてみよう。寝てた間もいっぱいお世話になったはずだから。

聞けば月経帯というのは月経時に腰に巻く帯だそうで。股に吸収帯を挟んで、その月経帯で抑えるという…ほうほう。
生理時の詳しい処置方法を教えてもらい、やっと一安心した。これでまた生理がやってきても大丈夫。あとは避妊ですな。

「お恥ずかしながら、こちらの世界での避妊方法を教えていただきたいのですが」
「…そこは男に任せろ」
「大雑把ですね先生…」

アリステラ姫がつっこむなんてよっぽどですよロザンナ医師。

「手っ取り早いのは膣内に射精を受けないことだ。精子を拒否しろ」
「それができないから相談してるのですが…」

根性論じゃないんだから精子を拒否するとか不可能っす。

「なんだ。殿下は話も聞いてくれないのかね」
「聞いてはくれますが聞き流されてるのが現状です」
「授かっても大丈夫なんじゃないですか?マタニティ婚も流行りと聞きますし」
「アリステラちゃんは耳年増ですね」

ポッと頬を赤く染めたアリステラ姫。何を想像したか大体わかりますぞ。
ヒースラウドさんといちゃつく白昼夢でも見ててくれ。
マタニティ婚はこちらの世界でも存在するんだね。しかし個人的には清く正しいお付き合いの上で初夜にて授かりたいものです。
たとえルークスさんの色香に負けて同衾しまくってようと…ああ、うん、矛盾してるのは自覚した。だからこその避妊。避妊大事。

「ぶっちゃけ避妊魔法ってどうやるんですか」
「…よくその存在にたどり着けたな」
「この世界、魔法があるのだから出来ると思いまして」
「確かにあることはあるな。魔法使いじゃない限り使えんと思うがね」
「魔法使いに訊けということでしょうか」
「それが一番確実だ。本で調べても、余程の素養がなければ実践できないだろう」

本という手もあったのか。
魔法チートもあることだし調べて知れば使えるような予感もする。

「あの…ロザンナ先生がお教えすればよろしいのでは?」

遠慮がちに発言したのはアリステラ姫である。白昼夢は見終わったのかな姫。

「残念ながら私の魔力は封じられてる。この手鎖によってな」
「あ…」

白衣の袖を捲って見せてくれたのは奴隷の証である刺青。
両手首に一周、鎖の紋様が刻み込まれている。
脱走した際に発動するという"手首ちょん切り魔法"だが、その上で、魔力を所持し一定以上の魔法素養がある者は危険人物とみなし、魔力を必要最低限に封印されているのだそうだ。

ああだから、護送船が怪物に襲われた際、魔力が少なくなったディケイド様は出てこなかったんだ。
ディケイド様の首にも罪人の証である紋が入っている。
"罪人の首輪"と"奴隷の手鎖"は同じものなのは、前にアリステラ姫がヴァーニエル王子の姿で寝てるときに解析させてもらったので知っている。

もし魔法が普段通りに使えれば、ディケイド様は怪物退治に出て来たに違いない。
少ししか会ってないのにそんな評価をつけてしまうのは、アザレアさんのパートナーという部分も踏まえて、戦争を体験した王でもあるし戦闘には慣れてるのではないかと思うからだ。

そんなわけでこの手鎖紋、私なら外せる。解析し、真似たものをルークスさんの首にもつけたし、それを外してまた新たに"茨の鎖"までつけた実績があるのだ。
"罪人の首輪"も"奴隷の手鎖"も外せるだろう。だけど、それはしちゃいけないことだ。なぜならこれらは戦後協定の規約に沿って負わされた戦争責任という名の"罪"なのだから。私が勝手に外すことは戦後協定に反することである。
外したら最後、私の"罪"になってしまい、またあらぬ容疑をかけられることにもなって、ひいては帝国へも迷惑をかけてしまうだろう。
それはいけない。駄目だ。ここは女帝の筋書き通りに事を運ぶことこそが肝要である。ということを私はあの謁見の場で学んだ。

「でも知識としてはあるでしょう。ハツネさんは魔法素養がすごいんです。教えてあげてくれませんかロザンナ先生」

アリステラちゃんの純真な瞳キラキラ攻撃~☆
この攻撃に耐えれる人はそうそういないと思うね。ロザンナ医師も例外ではなかったみたいで、「オッケー分かったよ」と折れてくれた。
ただし魔法は診療時間外のことだから、仕事が終わったらと約束をして、私たちはその場を辞した。

「ふあ~い!お天道さんが眩しい」

病院の外へ出た途端、双陽神のご加護が目に飛び込んできた。
二つも光り輝きまくって眩しいっす神様。
でも気風は穏やかで小春日和。こんなに麗らかな日和だけど、後半年もしたらば帝都も雪景色に染まるんだそうだ。それはそれで楽しみである。

馬車まで戻ったらヒースラウドさんがいた。
また煙草を吹かしてお待ちいただいてたようで恐縮です。
事情を説明して馬車を出してもらう。
ロザンナ医師のお仕事が終わるまでの時間、どこかで暇を潰そうということになり、時間を見ればお昼時でもあったので、どこか美味しいご飯食べれるところへ向かってくださいとお願いした。

「食堂しか知りませんがいいですか」
「もちろん。食堂は立派にご飯食べるとこじゃないですか。大丈夫に決まってます」
「洒落たところではないという意味だったのですが…」
「美味しければどこでもいいよ。ねえ、アリステラちゃん」
「うは、は、はい。わたくし食堂という所には行ったことございませんので、楽しみです」

うん。ヒースラウドさんを見詰めてたところ声かけて悪かったね。
恋する乙女よ。今は目先の欲、お昼ご飯のことを考えん。
馬車でカッポカッポ揺られながら帝都の中心街へ行く。

帝都の中心はすごーく広い広場なんだけど、そこから放射状に道が広がり、上空から見ればまるで蜘蛛の巣のような街づくりをしているのが分かる。
神殿はその広場を見守るように重厚で豪華な佇まいをしているのだけど、皇居宮殿は中心から外れて住宅地を抜け、さらにその奥の貴族たちの住まいを抜けた先にある。ほぼ郊外である。
なぜそんな遠くに…と最初は思ったが、よくよく立地を見れば砦として最適な場所だと分かる。
皇居宮殿は山の手にある。背後にネスラ山が聳え前衛は扇形に貴族街。守りの陣形そのものなのだ。
神殿と離れているのも利点だ。宗教が政治に関与してない証拠でもあるんじゃないかな。
そんなことを考えつつ帝都のどこからでも見える神殿の大きな鐘楼を窓から眺め、アリステラ姫ともお喋りしていたら、いつの間にか目的地に着いていた。

「おお混んでる。店の前、人がけっこういるよ」
「お昼時ですからね。お嬢様方、ここで少々お待ち下さい。お席を用意して参ります」
「席まとめなくても大丈夫だからねーカウンターでもいいからねー」

店の前でたむろってる人たちをかき分け、食堂の中へと消えるヒースラウドさんへ声をかける。声が届いた証拠に、彼は片手を小さく上げて応えてくれた。
ああいうさりげない仕草が似合うとか正統派美形はやっぱモブとは違う。
隣のアリステラ姫なんかもうポ~と見つめっぱなし。彼のすべての仕草にドッキュンしちゃうわけだね。

私たちは店の外で待つ。お店の外観は、確かにお洒落じゃないね。普通の木造建家だ。店先にはビール樽が置いてある。あれはお洒落…じゃないな。
居酒屋のショーケースに酒瓶とか酒ラベル貼ってるのと同じことだろう。この店での取り扱いビールを、お客さんに一目してもらうための展示である。
そんなビール樽を横目に見やりつつアリステラ姫とたわいのない話をする。

「一緒にランチもいいけど、やっぱ手作り料理がいいと思うよ」
「胃袋を掴むわけですね。アナスタシア様にご教授いただいて頑張ってみます」
「私も習おうかな」
「ハツネさんは、料理がお上手だと伺ってますわ」
「いや~大雑把なのしか作れないよ。特にお菓子作りは苦手。そういえば、ここの世界にお砂糖が無いって…」
「ええ…わたくしが小さい頃にはもうお砂糖を精製できる品物が枯渇したと聞いております」
「不思議だよね。なんでだろー…」

と、その時、誰かから声をかけられた。

「そこのお嬢ちゃんたち、おんなじカッコしてどした。俺たちと飯食わね?」

ナンパイベント発生である。
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