35 / 89
三柱の世界
オープンザロイヤル大開脚
しおりを挟むしばらく和気藹々お茶してたら、また側付きの少年が来て「皇帝陛下がお見えです」と告げた。
皇帝陛下ってーと、女帝の配偶者ですかね。
カサブランカ様の夫がいらしたということでいいかな。
「タツユキ!エリオン…!」
女帝が腰を浮かせて皇帝陛下と、もう一人…壮年の男性に抱き抱えられたあどけない顔の坊ちゃんを呼ぶ。
「やあ。ここにいると聞いてね。エリオンも母上に会いたいと言うし、連れてきてしまったよ」
「まあ、エリオン。おねむの時間じゃなかったかしら?お目めさんはくっついてないの?」
女帝を見つけて「まーまー」と呼ぶ小さな男の子は、薄い茶髪の巻き毛で緑色した大きな瞳をしぱしぱさせてる。
何あの可愛い子。カサブランカ様のお子さんだよね。てことは皇子。
そしてルークスさんの甥っ子。女の子みたいに愛らしい顔立ちをしている。
将来はイケメンですね。ごっつぁんです。
そして皇帝陛下。聞き間違えじゃなきゃ、ものっそ和名で呼ばれてた気がする。
「義兄君、ご無沙汰しております」
「ルーくん、相変わらず固いなあ。もっと気軽にユッキーって呼んでおくれよ」
「さすがにそれは無理だ」
「でも好きでしょ異世界の名前。異世界の子に手ぇ出したくらい好きだよね」
異世界の子って…私のことかあああああああ
なんすかこの皇帝陛下。気易いにもほどがあるぞ。
て、これ女帝にも思ったことだけど、なんで帝国の人たちこんなにリベラルなの?開かれた皇室という表現はあれど開きすぎじゃね?
オープンザロイヤル?大開脚だよ。
「う。まあ…こほん。紹介する。ハツネ殿だ」
照れてるルークスさん珍しい眼福。
は。いかんいかん涎垂らしてる場合じゃない。紹介されてるので挨拶せねば。
「稲森初音と申します。ルークスさんには大変良くしていただいております」
主に性的に良くしてもらってますとは口を割かれたらさすがに言うけど今は言わない。
「ハツネ…可愛い名前だね。なるほど。お婆様に似てるなあ」
ん?お婆様とな。
お婆さんが異世界人というのは、ディケイド様の…じゃなかったっけ?
私がハテナー?な顔してたからだろう。
皇帝陛下は笑みを絶やさず自己紹介をしてくれた。
「俺の名前はトーリ・タツユキ。皇家オルデクス家へ婿養子で入ったけど、元は聖霊王国の王族だよ。元国王ベンディケイド・ヴランは俺の従兄だ」
あれま。だからそんなに和顔なのね。でも髪色は薄茶で瞳も碧眼だし、あまり日本人的要素はない。
「聖霊王国の王族は黒髪が多いんだけど、俺は恵まれなくてね。それで不憫に思われたんだろう。お婆様が異世界の言葉で名前をつけてくれたんだ。
トーリ・タツユキってどういう意味かハツネさんは分かる?」
訊かれて私はちょっと悩んだ。言葉の意味くらい名付けたお婆さんに教わってるだろうし、陛下は何を私に説明させたいんだろ。
言葉の意味を知るには漢字にするのが一番いいと思うんだけど、この世界に漢字はもちろん無い。私は紙とペンを借りて、漢字で名前を書いてみた。
トーリ…タツユキ、と…。
「たぶん、『桃李・龍雪』だと思います」
「ほお。美しい文字だ」
「これ異世界の文字なの?素敵ねえ!」
ルークスさんと女帝には大好評。
心なしか女帝の胸に抱かれてるエリオンくん(一歳)も、きゃっきゃしておるわ。
トーリは某有名男優さんから。
タツユキのタツは画数多い方が格好良いと判断して『辰』より『龍』にした。そうしたらユキの字も『之』とかよりも『雪』の方が似合う気がしたんだよね。うん、しっくりくる。
「ああ…こんなような形だったよ。お婆様にみせてもらったことがある……」
懐かしそうな口ぶりではあるが、どちらかというと不安げに私のへたくちょな文字を見詰める皇帝陛下。
私の字がもっと上手だったなら、確信も持てたのでしょうが…。
きっとお婆様は美文字だったのでしょう。
似ても似つかぬへた文字で申し訳御座いません。
「これは漢字と言います。私の国では、全ての国民が六歳頃から手習いを始めて、16歳くらいまでに日常で使われる常用漢字はマスターするのが普通ですね」
「こんな複雑な文字を10年かけて覚えるのか?全国民が?」とルークスさん。
「はい。大体二千文字ありまして、読み方は倍の四千通りほどだったと記憶してます」
「幼い内から何千も覚えるのね…全国民が」
小学生で千文字くらいだったと思うけど、まあ、細かいことは置いておこう。
二人共、全国民が覚えるのだということに驚いているようだけど、なんで?
とりあえず、漢字の意味を漢字の下に書いてみる。
「桃李は、ももとすもものことです。私の聖霊は桃の聖霊果実から降臨したので、こちらでも存在する果物ですよね」
「ええ。桃は甘くて美味しいわよねえ。私、大好きですの」
にこっと皇帝陛下に笑顔を向ける女帝様。お熱いですね。
「龍雪は…龍というのは蛇に似た長い胴体をもつ空想上の生き物です。雪は冬に空から降ってくる雪ですね。…陛下は、その年の冬最初の雪が積もった日にお生まれになったのですか?」
「そうだよ。よく分かったねえ。冬が始まって最初の吹雪があった翌朝だね。王国の北西にある連峰が雪に覆われているのを朝日と共に見たとお婆様から伺ってる」
「きっとそれです。細長い山脈が雪に覆われた様子が大蛇のうねる姿に似ているから、お婆様にはその景色が印象深かったのでしょう」
こう考えると、実に風流な名前である。
異世界人のお婆様は俳句や詩などを嗜む淑女に違いない。
「ハツネは?ハツネはどういう漢字を書くんだ?」
とルークスさん。え。なぜそんな食いついてくるんだ。
「わ、私ですか…そんなに風流な意味はないので」
「教えてくれ」
う。ぐいぐいきますな。そんなに知りたいんですか。
「私も知りたいわ。ハツネさん」
女帝まで。
「響きがすごく可愛いよね。漢字も可愛いに違いない」
「あーう」
皇帝陛下に皇子まで?!
四方から期待の眼差しで見つめられては書かないわけにもいかない。
てか、一歳児の眼差しずるい。キラキラお目めはまだこっつんこしないんでちゅかー?昼寝は大事だよ。うん。
私は皆の視線を浴びながら『初音』と名前を漢字で紙に書いた。
「初めての音で初音です。鶯っていう鳴き声が美しい鳥がいまして、春が到来すると鳴くんです。春になって初めて鳴くので、春の訪れを感じさせてくれる鳥でもあるんですが…私の名前の由来もそういうことです」
テキトーな説明ですみません。自分の名前の由来とか小学生の時に調べたきりだよ口に出すのは。発表という名の羞恥プレイだね。
「鳥の鳴き声か…確かにハツネ殿の鳴き声は美しい。特に胸を弄ると」
「なに言い出すか──!?」
私は慌ててルークスさんの口に手を当てる。それ以上しゃべんなアンタは!
「あらら。うふふふふ」
「へえ。ルーくん、ちゃんと彼女を可愛がってるんだね。えらいよ」
こっちの夫婦からはなんだか生暖かい視線を感じる。
何これ針のむしろっていうか公開処刑みたい。
居た堪れないことばかり暴露して、なんだか頭がくらくらしてきたよ。
「そうだハツネさん。首輪の付け方教えてちょうだいな」
おおっと。忘れてなかったのですね女帝。
「首輪って?もしかしてルーくんの首にあるやつかな」
「ええそうなの。あれ、ハツネさんが謁見中に"囚人の首輪"から付け替えたものなの。浮気防止なんですって」
「え?!ほ、本当に…?…浮気したら斬られるの?うわあ」
皇帝陛下はドン引いちゃってますけどどうしよう。
本当に教えなきゃいけないのかなあ。
「私が教えて欲しいのは、他の用途もあるって聞こえたからよ。斬り裂く以外にも、気持ち良いことに使えるのでしょ?」
あー女帝は聞き逃さなかったらしい。
「気持ちの良いこと?」
ほーらほら皇帝陛下が興味持っちゃった。
「ちょいと。ルーちゃんの所為ですよ。責任もって説明してください。私には分からない感覚ですし」
ルークスさんの口を覆ってた手を外し、私はもうこの事に関しては口を開かないことにした。すべてルーちゃんにお任せである。
「ふむ。姉君、教えてやってもいいが、ひとつ条件がある」
なんでアンタいきなり偉そうやねん。という私のつっこみは心の中だけで、とりあえず成り行きを見守る。条件てなんだろう。
「なによ。言っておくけどルーちゃんて呼ぶのは姉の特権なのよ。今更やめないわよ」
どうしても呼びたいんですよね。わかります。
その信念は捨てないでいいと思いますよ。
「やめてほしいが条件はその事ではない」
「じゃあなによ」
もったいぶらず早よ言えやとお姉ちゃんは申している。
「聖霊王国の元国王ベンディケイド・ヴランに面会させてやってくれないか」
「ハツネさんを?軟禁状態の囚人に会わせろというの?」
ちょっとそれは厳しいんじゃないですかねー。
ディケイド様は一応、死刑囚なんでしょ。後で逃がす?とはいえ、今は国の体面を保つ為にも、協定に沿って行動したほうがいい。どこに監視の目があるか判らないから。
「いや。ハツネ殿もそうなんだが…聖霊様を会わせてやりたいんだ」
私はハッと気づく。聖霊様ってアザレアさんのことだよね。
ルークスさん、アザレアさんのこと…ちゃんと考えて…?
あんなに嫉妬しといて…あんなにライバル視しといて…なのに…なのに…アンタ、それ、それ、ツンデレってやつだよ?!
「ルークスさん──っ!!」
私はたまらず抱きついた。これが抱きつかずにいられようか。
ルークスさんがアザレアさんのことで心配りしてくれるなんて思ってもみなかった。
「そんなに喜んでもらえるとは…」
ルークスさんも抱き返してくれる。
「だって…だって…アザレアさんのこと思ったら、そうすべきだったのに…私は思いつかなかった。ありがとうルークスさん。
私もアザレアさんとディケイド様を会わせてあげたい」
ぎゅっぎゅ抱き締めても感情が爆発したかのように胸が震えて収まりが効かない。
粋なこと言い出しやがってこの皇弟殿下め。ハンサムのくせに生意気だぞ!
「そういうことならいいわ。ただし、タツユキも立ち会わせてね」
「……いいの?」
「当たり前よ。気になってるんでしょ?」
「うん…ありがとうハニー。俺のお嫁さんは世界一だよ」
と、女帝を抱きしめる皇帝陛下。
「タツユキも世界一の旦那様よ。国の都合で振り回してごめんなさいね」
ああ大変だ。ロイヤル夫婦もラブラブしだしちゃったぞ。
私たちもなんの磁力が働いたのか離れることができないからおあいこだね。
----------------------------------------
(蛇足)
熱いムードの中、エリオンくん(一歳)だけは、呑気に机へと這い上り、なんだか素敵なものを見つけたらしく「あーい」とか声を上げている。
皇子、それは金平糖である。カラフルだし目を引くよね。
舐めると甘くて美味しいが、一歳児にあげて良いものだろうか。
虫歯になる危険性と喉に引っかかる恐れもある為、私は見守りつつ、そのことをルークスさんに尋ねた。
「さすがに瓶の蓋は開けれないだろう」
ですよね。開けちゃう心配はしてないけど、食べさしていいものなら是非お食べとも思うのだ。
「あらあら。エリオン、それはハツネお姉ちゃんから貰ったものよ」
「へえ。綺麗な飴だねえ」
「タツユキ、これは飴じゃなくて金平糖というのだそうよ。砂糖の塊なのですって」
「砂糖?こんなにいっぱい…?」
皇帝陛下は信じられないものを見るような目で金平糖の入ったガラス瓶を掴んで開けた。
「ぷやー!」と皇子が抗議の声を上げるので「ごめんごめん。あげるから怒るな」と、一粒指先に摘んで皇子のお口に近づけた。
ちゅぱ…と皇子の小さなお口に吸い込まれる皇帝陛下の指先。
おそらく皇子は、そのちっちゃな舌先で金平糖を味わってしまったのだろう。
彼の瞳がみるみる輝いていく。
「ぷあ!ちゃー!」
「ああ、これは気に入ったね」
皇子のちっちゃな手が皇帝陛下の指先を握って離さない。
だってその指の先には甘い甘い金平糖があるのだもの。
「まーんまー」
「まだ欲しいの?」
「んまー!」
無くなったら再度のおねだりである。皇子、君は逞しいな。真っ直ぐ育てよ。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
【R18】国王陛下はずっとご執心です〜我慢して何も得られないのなら、どんな手を使ってでも愛する人を手に入れよう〜
まさかの
恋愛
濃厚な甘々えっちシーンばかりですので閲覧注意してください!
題名の☆マークがえっちシーンありです。
王位を内乱勝ち取った国王ジルダールは護衛騎士のクラリスのことを愛していた。
しかし彼女はその気持ちに気付きながらも、自分にはその資格が無いとジルダールの愛を拒み続ける。
肌を重ねても去ってしまう彼女の居ない日々を過ごしていたが、実の兄のクーデターによって命の危険に晒される。
彼はやっと理解した。
我慢した先に何もないことを。
ジルダールは彼女の愛を手に入れるために我慢しないことにした。
小説家になろう、アルファポリスで投稿しています。
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました
indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。
逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。
一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。
しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!?
そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……?
元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に!
もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕!
【R18】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!【完結】
茉莉
恋愛
【R18】*続編も投稿しています。
毎日の生活に疲れ果てていたところ、ある日突然異世界に落ちてしまった律。拾ってくれた魔法使いカミルとの、あんなプレイやこんなプレイで、体が持ちません!
R18描写が過激なので、ご注意ください。最初に注意書きが書いてあります。
異世界転移したら、推しのガチムチ騎士団長様の性癖が止まりません
冬見 六花
恋愛
旧題:ロングヘア=美人の世界にショートカットの私が転移したら推しのガチムチ騎士団長様の性癖が開花した件
異世界転移したアユミが行き着いた世界は、ロングヘアが美人とされている世界だった。
ショートカットのために醜女&珍獣扱いされたアユミを助けてくれたのはガチムチの騎士団長のウィルフレッド。
「…え、ちょっと待って。騎士団長めちゃくちゃドタイプなんですけど!」
でもこの世界ではとんでもないほどのブスの私を好きになってくれるわけない…。
それならイケメン騎士団長様の推し活に専念しますか!
―――――【筋肉フェチの推し活充女アユミ × アユミが現れて突如として自分の性癖が目覚めてしまったガチムチ騎士団長様】
そんな2人の山なし谷なしイチャイチャエッチラブコメ。
●ムーンライトノベルズで掲載していたものをより糖度高めに改稿してます。
●11/6本編完結しました。番外編はゆっくり投稿します。
●11/12番外編もすべて完結しました!
●ノーチェブックス様より書籍化します!
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる