衣食住に満たされた異世界で愛されて過ごしました

風巻ユウ

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三柱の世界

金平糖が紡いだ甘い告白

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 案内された先には普通の一軒家があった。皇居宮殿の区画内ではあるのだろうが、薄緑色した石で造られたどでーんとでかい立派な宮殿に対して、案内された家はあまりにも小さくこじんまりとしている。まさに、おうちといった風情で、こちらは薄橙色した石で造られたゲストハウスなのだそうだ。

「遠くからいらしたお客様や友人しか招かないの。普段は家族でプライベートに使ったりね」

 それって某合衆国のホワイティなハウスみたいなものですか。
 私それ…めっちゃ身内に認定されてませんか。
 なんだか恐れ多いなと思いながらも手土産をお渡しした。
 手土産をどこから取り出したかというと、魔法で"くいっ"である。
 私ったら手土産を鞄に入れて持ってきたはずなのに、ドレスアップさせられてあれよあれよと磨かれてる内に謁見の場に持ってくるの忘れてしまったのね。
 でも、謁見の最中に手渡せたとは思えないし、渡すならゲストハウスに招かれた今だ!と魔法で呼び寄せた次第。魔法チート万歳。

 手土産に選んだのは金平糖である。実家からの荷物に入っていた。
 最初は町で手土産探しをしていのだけど、この世界ってなぜか甘味処が無いのだ。
 女性には甘いものをと私の脳内にはインプットされてるので、どうしても甘味をプレゼントしたくてこうなりました。引越し荷物に金平糖を入れた私グッジョブ。
 瓶に色とりどり入っていて、可愛くラッピングしたのを手渡したよ。

「まあ愛らしい!」

 女帝もご満悦である。

「とっても甘いわ…口の中で溶けて上品なお味…これ素敵ねえ…」

 しかし味見というか毒見とかはしなくて良いのかなあ。
 直で手渡しした私が言うのもなんですが、高貴なご身分の御方には毒殺やらの恐れもありそうだし、てっきりさっきの付き人っぽい人が毒見するかと思ったのに、お茶の用意をしただけでさっさとお部屋から出て行ってしまった。

「こんなに甘くて美味しいものを口にしたのは…幼い頃に少しだけ…随分と昔で…忘れていたわ」

 えーと。
 なんだか思い出と感激の嵐の中を漂流しているような口ぶりですね女帝様。

「気に入っていただけたようで嬉しいです。あ、ルークスさんもどうぞ」
「いや私は…甘いものは食べない」

 おや?そうだっけ。そういえばレストランでもらった黒飴も食べなかったね。
 あ、私が食後にクッキー摘んでた時も食べなかったよ。
 あれ?甘いものが極端に無いこの世界で、甘いものが苦手になるってこと、あるんだろうか。甘いものの希少価値が高いなら、女帝様のように感動して食べるのが正しい反応だと思うのだけど…。

 この世界に甘味が少ないのは知っていた。だってお砂糖が無いんだよ。
 それどころか蜂がいなくて蜂蜜も無いんだよ。料理は多彩なのに甘味が無いっていうのは、おかしな傾向だと思ってはいたんだけど、何か理由がありそうだよね…。

「ルーちゃん、このお菓子はハツネさんの世界のものだから大丈夫よ」
「あ…いや、しかし…」

 甘いものが嫌いだというわけでもなさそうだけど…。

「ふふ…。気を悪くしないでくださいねハツネさん」

 私が不安げな顔をしていたからか気を使われてしまったみたい。
 女帝もちょっと困った顔で事情を話してくれた。
 曰く、この世界の甘味類は徐々に世界から減ってしまって、今ではもう無きに等しいということ。
 いつの頃からか、砂糖が精製できる甘味のある野菜が採れなくなり、蜂も絶滅。
 唯一あるのがあの漢方くさい甘草だけ。それでも甘草だって希少で、高級レストランだからこそ提供できた貴重な甘味だったわけだ。

「そういえば、あの時もらった飴ってどうしたんですか?」
「ああ、その辺にいた子供にやったな。聖霊様も同じことをしていたはずだ」

 え。気づかなかった。私ってばどんだけ鈍いんだろ。
 しかも舐めて不味いとか文句垂れてたわ。なんという無礼者。
 手討ちにされても文句言えない。人知れず青ざめて猛省する。
 貴重な甘味を子供に譲るのは大人として最高に立派な行為だと思います。
 だからこの金平糖も遠慮したのね。お姉ちゃんに譲るために。
 遠慮しなくてもいいよ。金平糖は瓶詰めでいっぱいあるからさ。

「ねえハツネさん。ルーちゃんたらこういうの頑なになっちゃう方だから、ハツネさんがあげたらいいと思うの。口移しで」

 ほ?いいアイデアだ!

「姉君なにを言い出す?!」
「あ~ら、嬉しいくせに遠慮すんじゃないわよ」

 そうそう遠慮しちゃ駄目。
 甘いものは幸せの味なんだから、ルークスさんも味わうべきだ。
 私は早速、緑色した金平糖を摘んで口に入れる。おおスイーティー。

「後ろ向いててあげるから遠慮なくがっつりやっちゃいなさいな」

 あざーす、お姉様!

「ハツネ殿も乗り気だと…?!」

 私は口の中の金平糖が溶けきる前に早くルークスさんに渡したくて、座ってる彼の上に乗っかった。肩に手を置く。

「…っ、ん…」
「ふぁい…ちゃんと受け取ってくださいよお…」

 いつもなら直ぐに舌を絡めてくるくせに口閉じてんじゃない。
 私は角度を変えてディープに口付けし、舌上で転がる金平糖を無理やりルークスさんの口の中へと入れてあげた。

「んっ、んう…」
「ふあ…甘いですか?」

 ちゃんと渡ったけど、もっと味わって欲しくて、もう一つ口に含んで再びキスをした。しばらく、くちゅくちゅと舌先で攻防したけど、今度も無事に金平糖をルークスさんの口の中へと捩じ込むことができた。私の勝ち。
 征服心からニヤリと笑って、自分の口周りについた唾液を舌で舐めとる。
 私の唾液はすっかり甘くなってた。

「すごく甘い…それと」
「………?」

 腰を取って引き寄せられる。ぎゅっと下半身を押し付けられて気づいた。
 待って…固いです。ドレス越しなのに感じるこれすごい異物感パネェ。

「こんな風にした責任は取ってもらうぞ」
「え。いやさ。待ってくれ。今は駄目でしょ今は…っ」
「夜の話だ。が、ここから自力で収めるのは大変なんだ。今夜は絶対に寝かせない」

 ひいいいいいい墓穴を掘ったらしい私。
 昨日のカーセックスでは寝てもいいって言ったくせに今日は駄目なの?
 詐欺だああ。異議あり!

「終わったかしら。今夜の相談も終わったようで何よりだわ」

 聞いてらしたのお姉様?!

「姉君、プライベートの詮索は」
「してないわよ。聞こえちゃったの。偶然」

 そう言って朗らかに笑うお姉様には勝てそうにないねルーちゃんも私も。

「そういえば。堅苦しい場では訊けなかったけど、二人はどこまで進んだのかしら?」

 おっふ。ストレートですね女帝様。
 私はルークスさんのお膝から降りて自分の席に着く。
 淹れてもらったレモングラスのハーブティーを飲んで心を落ち着かせた。
 色々と動揺しちゃってて、もじもじしちゃうけどね。

「訊かなくても【目】で覗いてるから知ってるだろう」
「あら。いくら姉でも弟のプライベートまで覗くことはしないってば。さっきのだって偶然よ偶然。だからこそ訊いてるのに…」

 ぷくーとむくれる女帝、可愛いです。どうなってますのんこの姉。
 ルークスさん32歳でしょ。だったらお姉ちゃんはもっと年上なわけで…。
 三十代だろうけど可愛すぎます。声も天女です。はふう。

「あれからルークスさんとは…きちんとお付き合いをさせていただいてます」
「まあ良かった。それじゃあそろそろルーちゃんの駄目っぷりも分かってきた頃でしょう」
「姉君…駄目っぷりって…」
「だってそうでしょう。前に女の子泣かせて逃げられてるじゃない。お姉ちゃん、ちゃんと覚えてるんですからね」

 あ、ミザリーさんのことですね。
 本人から暴露してもらったので知ってますよ。

「忘れてくれとは言わないが、せめて話題に出さない配慮をしてほしかった…」
「まあ!それなら、ハツネさんに黙ってろというの?!」
「ハツネ殿はもう知っているよ。イーファが話したらしい」
「え…ハツネさん、それで……いいの?ルーちゃんで」

 真剣に尋ねられてしまえば真剣に答えるしかあるまい。
 私は居住まいを正してから、正面の女帝──ルークスさんのお姉様と、しっかり、視線を合わせた。気分は「娘さんを嫁にください」状態の彼氏である。

「正直、今のルークスさんが大好きでして…大事にされてる自覚もあるので……
 お姉様が宜しければルークスさんと結婚したいです」
「あらあらまあまあ…!」
「ハツネ殿…!」

 どうやら二人いっぺんに感動させてしまったらしい私の発言。
 言ってしまった後に心臓が高鳴りまくってるが後悔はしてないぞ。
 だからルークスさん、私の手をこっそり握った上で股間まで導かないでください。
 まだ固いですね。はい。私が悪うございました。

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ルークスさん、それセクハラです。
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