34 / 89
三柱の世界
金平糖が紡いだ甘い告白
しおりを挟む案内された先には普通の一軒家があった。皇居宮殿の区画内ではあるのだろうが、薄緑色した石で造られたどでーんとでかい立派な宮殿に対して、案内された家はあまりにも小さくこじんまりとしている。まさに、おうちといった風情で、こちらは薄橙色した石で造られたゲストハウスなのだそうだ。
「遠くからいらしたお客様や友人しか招かないの。普段は家族でプライベートに使ったりね」
それって某合衆国のホワイティなハウスみたいなものですか。
私それ…めっちゃ身内に認定されてませんか。
なんだか恐れ多いなと思いながらも手土産をお渡しした。
手土産をどこから取り出したかというと、魔法で"くいっ"である。
私ったら手土産を鞄に入れて持ってきたはずなのに、ドレスアップさせられてあれよあれよと磨かれてる内に謁見の場に持ってくるの忘れてしまったのね。
でも、謁見の最中に手渡せたとは思えないし、渡すならゲストハウスに招かれた今だ!と魔法で呼び寄せた次第。魔法チート万歳。
手土産に選んだのは金平糖である。実家からの荷物に入っていた。
最初は町で手土産探しをしていのだけど、この世界ってなぜか甘味処が無いのだ。
女性には甘いものをと私の脳内にはインプットされてるので、どうしても甘味をプレゼントしたくてこうなりました。引越し荷物に金平糖を入れた私グッジョブ。
瓶に色とりどり入っていて、可愛くラッピングしたのを手渡したよ。
「まあ愛らしい!」
女帝もご満悦である。
「とっても甘いわ…口の中で溶けて上品なお味…これ素敵ねえ…」
しかし味見というか毒見とかはしなくて良いのかなあ。
直で手渡しした私が言うのもなんですが、高貴なご身分の御方には毒殺やらの恐れもありそうだし、てっきりさっきの付き人っぽい人が毒見するかと思ったのに、お茶の用意をしただけでさっさとお部屋から出て行ってしまった。
「こんなに甘くて美味しいものを口にしたのは…幼い頃に少しだけ…随分と昔で…忘れていたわ」
えーと。
なんだか思い出と感激の嵐の中を漂流しているような口ぶりですね女帝様。
「気に入っていただけたようで嬉しいです。あ、ルークスさんもどうぞ」
「いや私は…甘いものは食べない」
おや?そうだっけ。そういえばレストランでもらった黒飴も食べなかったね。
あ、私が食後にクッキー摘んでた時も食べなかったよ。
あれ?甘いものが極端に無いこの世界で、甘いものが苦手になるってこと、あるんだろうか。甘いものの希少価値が高いなら、女帝様のように感動して食べるのが正しい反応だと思うのだけど…。
この世界に甘味が少ないのは知っていた。だってお砂糖が無いんだよ。
それどころか蜂がいなくて蜂蜜も無いんだよ。料理は多彩なのに甘味が無いっていうのは、おかしな傾向だと思ってはいたんだけど、何か理由がありそうだよね…。
「ルーちゃん、このお菓子はハツネさんの世界のものだから大丈夫よ」
「あ…いや、しかし…」
甘いものが嫌いだというわけでもなさそうだけど…。
「ふふ…。気を悪くしないでくださいねハツネさん」
私が不安げな顔をしていたからか気を使われてしまったみたい。
女帝もちょっと困った顔で事情を話してくれた。
曰く、この世界の甘味類は徐々に世界から減ってしまって、今ではもう無きに等しいということ。
いつの頃からか、砂糖が精製できる甘味のある野菜が採れなくなり、蜂も絶滅。
唯一あるのがあの漢方くさい甘草だけ。それでも甘草だって希少で、高級レストランだからこそ提供できた貴重な甘味だったわけだ。
「そういえば、あの時もらった飴ってどうしたんですか?」
「ああ、その辺にいた子供にやったな。聖霊様も同じことをしていたはずだ」
え。気づかなかった。私ってばどんだけ鈍いんだろ。
しかも舐めて不味いとか文句垂れてたわ。なんという無礼者。
手討ちにされても文句言えない。人知れず青ざめて猛省する。
貴重な甘味を子供に譲るのは大人として最高に立派な行為だと思います。
だからこの金平糖も遠慮したのね。お姉ちゃんに譲るために。
遠慮しなくてもいいよ。金平糖は瓶詰めでいっぱいあるからさ。
「ねえハツネさん。ルーちゃんたらこういうの頑なになっちゃう方だから、ハツネさんがあげたらいいと思うの。口移しで」
ほ?いいアイデアだ!
「姉君なにを言い出す?!」
「あ~ら、嬉しいくせに遠慮すんじゃないわよ」
そうそう遠慮しちゃ駄目。
甘いものは幸せの味なんだから、ルークスさんも味わうべきだ。
私は早速、緑色した金平糖を摘んで口に入れる。おおスイーティー。
「後ろ向いててあげるから遠慮なくがっつりやっちゃいなさいな」
あざーす、お姉様!
「ハツネ殿も乗り気だと…?!」
私は口の中の金平糖が溶けきる前に早くルークスさんに渡したくて、座ってる彼の上に乗っかった。肩に手を置く。
「…っ、ん…」
「ふぁい…ちゃんと受け取ってくださいよお…」
いつもなら直ぐに舌を絡めてくるくせに口閉じてんじゃない。
私は角度を変えてディープに口付けし、舌上で転がる金平糖を無理やりルークスさんの口の中へと入れてあげた。
「んっ、んう…」
「ふあ…甘いですか?」
ちゃんと渡ったけど、もっと味わって欲しくて、もう一つ口に含んで再びキスをした。しばらく、くちゅくちゅと舌先で攻防したけど、今度も無事に金平糖をルークスさんの口の中へと捩じ込むことができた。私の勝ち。
征服心からニヤリと笑って、自分の口周りについた唾液を舌で舐めとる。
私の唾液はすっかり甘くなってた。
「すごく甘い…それと」
「………?」
腰を取って引き寄せられる。ぎゅっと下半身を押し付けられて気づいた。
待って…固いです。ドレス越しなのに感じるこれすごい異物感パネェ。
「こんな風にした責任は取ってもらうぞ」
「え。いやさ。待ってくれ。今は駄目でしょ今は…っ」
「夜の話だ。が、ここから自力で収めるのは大変なんだ。今夜は絶対に寝かせない」
ひいいいいいい墓穴を掘ったらしい私。
昨日のカーセックスでは寝てもいいって言ったくせに今日は駄目なの?
詐欺だああ。異議あり!
「終わったかしら。今夜の相談も終わったようで何よりだわ」
聞いてらしたのお姉様?!
「姉君、プライベートの詮索は」
「してないわよ。聞こえちゃったの。偶然」
そう言って朗らかに笑うお姉様には勝てそうにないねルーちゃんも私も。
「そういえば。堅苦しい場では訊けなかったけど、二人はどこまで進んだのかしら?」
おっふ。ストレートですね女帝様。
私はルークスさんのお膝から降りて自分の席に着く。
淹れてもらったレモングラスのハーブティーを飲んで心を落ち着かせた。
色々と動揺しちゃってて、もじもじしちゃうけどね。
「訊かなくても【目】で覗いてるから知ってるだろう」
「あら。いくら姉でも弟のプライベートまで覗くことはしないってば。さっきのだって偶然よ偶然。だからこそ訊いてるのに…」
ぷくーとむくれる女帝、可愛いです。どうなってますのんこの姉。
ルークスさん32歳でしょ。だったらお姉ちゃんはもっと年上なわけで…。
三十代だろうけど可愛すぎます。声も天女です。はふう。
「あれからルークスさんとは…きちんとお付き合いをさせていただいてます」
「まあ良かった。それじゃあそろそろルーちゃんの駄目っぷりも分かってきた頃でしょう」
「姉君…駄目っぷりって…」
「だってそうでしょう。前に女の子泣かせて逃げられてるじゃない。お姉ちゃん、ちゃんと覚えてるんですからね」
あ、ミザリーさんのことですね。
本人から暴露してもらったので知ってますよ。
「忘れてくれとは言わないが、せめて話題に出さない配慮をしてほしかった…」
「まあ!それなら、ハツネさんに黙ってろというの?!」
「ハツネ殿はもう知っているよ。イーファが話したらしい」
「え…ハツネさん、それで……いいの?ルーちゃんで」
真剣に尋ねられてしまえば真剣に答えるしかあるまい。
私は居住まいを正してから、正面の女帝──ルークスさんのお姉様と、しっかり、視線を合わせた。気分は「娘さんを嫁にください」状態の彼氏である。
「正直、今のルークスさんが大好きでして…大事にされてる自覚もあるので……
お姉様が宜しければルークスさんと結婚したいです」
「あらあらまあまあ…!」
「ハツネ殿…!」
どうやら二人いっぺんに感動させてしまったらしい私の発言。
言ってしまった後に心臓が高鳴りまくってるが後悔はしてないぞ。
だからルークスさん、私の手をこっそり握った上で股間まで導かないでください。
まだ固いですね。はい。私が悪うございました。
----------------------------------------
ルークスさん、それセクハラです。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる