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三柱の世界
帝国の聖騎士カテル
しおりを挟む寝落ち。セックスの最中に寝落ち。
そしたら次の日は決まってるよね。
毎度お馴染み朝チュンです。
ぐ~~~~~
プラスアルファ、自分の腹の音で起きた。
は、腹減った…。
よく考えたら昨日は朝ごはんをリバースして、その後なにも食べてない。
ストーカー野郎の襲撃に巻き込まれ、事件の後片付けして、その後も性行為に夢中になっちゃってりゃ世話ないな。なぜかお腹が空いたとは思わなかったのは謎だ。
あれか。戦闘ハイでセックスハイとかになってたんだろうか。
水くらい飲もうよ私。アホみたいに唾液交換しかしてないよ。
そういやルークスさんどこだ。
てっきり隣で寝てるかと思ったのにいない。
「んむう。とりあえず食べるか…」
ぐーぐー腹鳴るから先にこっちをおさめよう。服着て洗顔してから台所へ。途中、リビングで声がすると思ったら神二人だった。
『ラオ!ゲッソーやめなさいよゲッソーは!ぎゃーぶつかったあああ』
『くっくっく。連続ゲッソーたあ神がかりだぜえ。お先にミル、あばよー!』
『キー!負けるもんですかーーっ』
楽しそうですね。
前もどっかの大の男が二人でやってたけど、神もやるんですねゲーム。
こっそり台所でご飯の支度をした。
あるのはパンと卵とハムとトマトと…
ホットサンドでも作るか。
こちらのパンは丸いのが多い。今あるのもブールである。これだとホットサンドメーカーからはみ出るので少々の成形をして具を挟む。
焼き上がったら包丁で半分に切る。はい。2丁あがり。
一回で二つ作れるのはどう考えてもお得である。
真ん中を切って皿に並べつつ、もうひとつ、ふたつ、みっつ…と大量に焼いていく。
十個はつくったな。
「神様たちーご飯食べますかあ?」
一応、訊ねた。
神って霞食べて生きてそうだけど…そりゃ仙人か。
『頂けるものをいただくのが神の流儀よ』
『お布施は大事にしねえとな』
『信仰力いっぱいですものね』
なるほど。信仰パワーで動いてるんだ。
双陽神はこの世界中で信仰されてるから、そりゃあパワーもすごいもんだろう。
降臨した時の光の柱はどえらいエネルギーだったのを思い出す。
私を異世界から呼び寄せたりチートにしたり、この家だってきっと信仰パワーで創ったんだな。ありがたやありがたや。
「じゃあ、ホットサンド焼いたので、どうぞお召し上がりください」
と、オレンジジュースも付けてテーブルの上に置いた。
『美味しそ~う!稲森初音さん、ありがとう。あなたの心が毎日穏やかでありますように』
『うむ、いただくぞ。稲森初音よ、今ならなんでも答えてやるし祝福も授けてやるぞ。どんどん聞きたいこと聞くが良い』
なんでご飯食べるだけでそんなに偉そうなのか聞きたいけど…それは口には出さない。
「ルークスさんどこにいるか知りません?たぶん、一緒に寝てた?と思うんですけど…」
『そんなことでいいのか?もっとこ~~この世界がどうなってるのかとか、なんで自分が召喚されたかとか…いいのか?』
「今のとこいいです。教えてくれるならまた後で聞きますよ」
て、なんでラオルフさんは、がっくりした顔してんだ。
一番聞きたいことを真っ先に聞いただけなのに。
『ふふふふ。一筋縄じゃいかない子で嬉しいわ。それでこそ選んだ甲斐があるってもんよ』
『なあミル、俺の慧眼は曇ってたのかなあ。別に答えてやらんこともないけど、もっと重要なことあるだろうがよ…』
ブツブツ言うラオルフさんがなんかウザイ。
勝手に宝くじに当てた上に異世界召喚までしくさったくせに、まだ上から目線とか。神だから偉ぶるのは分かるけど、人間の信仰心で生きてるなら、きちんと人間に還元すべきだわ。納めた血税を袖の下に使われたようで腹が立つ。
『稲森初音さんにとっては重要なことよね。目覚めた時に恋人が隣にいなかったら不機嫌にだってなるわよ。あら、これ美味しいわあ』
『なんだ。乙女か。お前の恋人なら帝国から迎えが来たとかで出てったぜ』
乙女だよ悪かったな。
迎え…え、もうそんな時間?!
私はリビングにある置時計へと目をやり、時刻がもうすぐお昼をお知らせしてるのに気づく。
このホットサンドはモーニングのつもりだったのに、これじゃあランチじゃん。
時計くらい確認すればよかった私のアホ!
急いで残ったホットサンドを紙ナプキンに包んでバスケットに詰める。
包んで、詰める、包んで、ぎゅっぎゅ寄せては詰める。入った!ちょい無理やり感あるけど。それと水出し紅茶で水筒をつくって用意してた鞄も抱えて家を出た。
「家このまま置いていきますので管理よろしくです!行ってきます!」
『はいはーい。どんと任されました。気をつけていってらっしゃい』
『リア充爆発しろー!』
ラオルフさんは欲求不満かね。それに比べてミルビナさんのおっとり余裕なことよ。双神なのにこうも性格違うと面白い。
私はスカートを翻しポゾドルの崖を降りる。
要所路なだけあって、渓谷の街道は一定距離毎に待避所が設けられ、待避所によっては崖の上へ登れるよう階段やスロープがついていたりする。
場所によっては簡易宿泊所みたいな小屋まであるらしい。
ここには小屋は無いが私の家がある。
家を出てすぐに階段を降りて昨日の事件現場へと走る。
案の定、お迎えの馬車が来てた。
私だけ遅刻だ。
「す、すみ、すみませーーーーん…!寝坊しました…ごめんなさい…!」
ハァハァ息切れ。
物持って全力疾走したからか、息やばいよ。
「おはようハツネ殿。まだ出発しないから気にするな」
「この子がそうなのか。可愛いじゃん。お名前なんてーの?」
息を整えるのに精一杯で、ルークスさんの横に誰かいるのに気づかなかった。
誰ぞ?
「カテル、気安く声を掛けるな」
「えーいいじゃん。可愛い子には声かけるのがオレの信条なんだぜ」
「そんな信条捨ててしまえ」
「かったいなあ守護騎士殿は」
「お前は聖騎士のくせに気軽すぎる」
和気藹々で楽しそうだね。
騎士仲間かな?聖騎士って聞こえたけど…。
「私は稲森初音と申します。ハツネと呼んでください」
「ハツネちゃんていうんだ可愛い名前~声も可愛い。最高に可愛い」
それしか言うことないのか自己紹介ぐらいしろ軟派野郎。とは口が裂けても言えない。でも第一印象は概ねそんなとこだ。
「俺は本日お姫様を迎えに来たカテル・グリンデュア。なんとなく聖騎士やってる」
「帝国最強の聖騎士をなんとなくでやるな」
ルークスさんがつっこむとは珍しい。いつもボケ中のボケ真打マジボケって感じなのに。
聖騎士のカテルさんとやらは、どうにもチャラ男だね。ウェーブがかった水色の淡い髪を無造作に撫で付ける仕草といい、あの甘いマスクといい。
鼻筋も通ってて、まあ、美男子だ。帝国最強なら女の子にもモテてるに違いない。モテ男でチャラ男。きっとパーリーピーポーである。
「お迎えありがとうございます。今日はお世話になります。あの、じゃあ、ホットサンド作ってきたのでランチにしましょう」
「手作り?食べる食べるー!女の子の手作りなんて久しぶり~」
「差し入れでよくもらってるだろう。何が久しぶりか」
「えー久しぶりだよ。昨日まで地方任務だったもん。地方ってね、差し入れしてくれるのはおじちゃんおばちゃんばっかなんだよ」
「貰えるだけありがたいと思え」
「貰えるなら可愛い女の子からがいい。できたらそのまま夜まで一緒に」
こいつは本当にチャラ男だな。ルークスさんが「黙って食え」とカテルさんの頬っぺた抓って、やっと黙った。
食事は馬車の中で摂ることにした。外には座る場所も無いから。敷物くらい持ってくるべきだった。急いでたから失念してたね。
水筒からカップに紅茶を注いで、それぞれ二人の前に置く。馬車の中には簡易テーブルがあって、そこに食べ物を広げている。
「ありがとう」
そう言って甘いマスクでにこりと微笑むカテルさん。手はカップ。私はまだカップをはなしてないのに、取るフリして手を重ねてきたわけだ。やるなあ。
おそらく、これで舞い上がる女子は多い。残念。私には効かんよ。伊達に青春時代を無気力に過ごしてない。元より男子にキャーキャーいうミーハー心は薄いのだ。
イケメンは好きだけどな。イケメンはしっぽり愛でてこそイケメンです。そう、ヴァーニエル王子のように。あれはイケ神。
「どういたしまして」
必殺、微笑み返し。とまではいかないが、それなりに優しい笑顔で対応してあげた。
私って優しい。今機嫌いいからかな。なんせ昨夜は思いっきり欲求解消しちゃったもんな。
カーセックスなんて初めてやったわ。車中狭いから体曲がっちゃって…なかなか辛かった。
もう二度とやらないぞ!バカ!
そんなバカを見詰めてみる。
ホットサンドどうかな?
ちょっと焦げちゃったけど、それはそれで香ばしいと思うんだ。
「ふーん。ルークスには勿体無いよ、この子」
「いきなり無礼だぞ貴様」
「だって、オレに惚れないもん」
「なぜハツネ殿が貴様に惚れないといかんのだ」
「だってオレ、格好良いでしょうが」
「頭沸いてるのか貴様」
ほんと仲良い。ルークスさんて友達多そう。アザレアさんともすぐ仲良くなったし、男友達を大事にしてそうだよね。
「ほら、この瞳。これはもう完全に恋する瞳。ルークスしか見てないし、ルークスのことしか考えてないよ、この子」
ん?なんの話だ軟派野郎。
「オレが茶々入れる隙ないじゃん」
「貴様が何か企んでいるのは分かっていたが…」
「オレは命じられて来ただけだよ。文句はハゲたおっさんに言ってくれ」
「ファガラムか?」
「元締めはそこじゃないかな」
「あいつめ……」
なになにどゆこと?私抜きで楽しい会話しないどくれ気になるじゃないか。
「ハツネ殿」
「はい。どうしました?」
「どうやら我々は試されてるようだ」
「はい?」
「道中、色々とちょっかいかけられると思うが…気にしないで欲しい」
「ほうほう。陰謀ですか。受けて立ちましょう」
わくわく楽しそうに答えたら「ぶは!おもしろ!」とカテルさんが大声で笑い始めた。
「こんな子みたことない!やっぱルークスには合わない。俺と付き合おうよ」
「けっこうです。間に合ってますから」
「うわっ、やべ、まぢ面白い…!」
今度は腹抱えて笑いだした。なにこの人笑い上戸かね。紅茶にお酒を混入させてはいないはずだけどなあ。
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