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三柱の世界

なんでそうなりますか*

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 とりま、双陽神は放っておいて、私は急いでアザレアさんのとこへ駆け付ける。
 変わらず天馬の姿のまま、ぐったりとして動かない。
 神々しいほどに輝いていた毛並みも汚れていて、特に前脚の負傷が痛々しい。

 私は涙が出そうになるのをこらえながら、ルークスさんに青林檎をあずけて、アザレアさんの体に両手をかざした。
 大丈夫。アザレアさんの魔力を感じる。

 降臨の絆を使った魔力の同調。
 これで体の抵抗力を高めて自己治癒を促す。
 回復は微々たるものだろうけど、やらないよりはマシだろう。
 しばらく魔力を同調させるのに集中してたらアザレアさんの瞳がぴくぴくし出した。

「アザレアさん…!」

 うっすらと開いた天馬のつぶらな瞳を覗き込んで言う。

「安心してください。あいつは逃げちゃったし、双陽神が来てくれましたから……寝ててください。もう、大丈夫です」

 大丈夫だから眠ってと重ねて言う。そしたら安心してくれたんだろう、アザレアさんは目を閉じて、そのまま意識も閉じた。

「お休みなさい」

 と声をかけ、眠ったアザレアさんの馬首を撫でる。するといきなり手首のブレスレットが光りだした。目の前のアザレアさんも光りだす。

 ええええ何これ何かこれこの現象みたことある。
 あ、そだ、家を仕舞う時がこんなかんじ。
 光り輝いたと思ったら家は消えてブレスレットに収納されちゃうの。

 そうして思った通り、アザレアさんの姿が光の中に消えたと思ったら、手首のブレスレットに天馬型のチャームが増えた。

「アザレアさんが収納されちゃった…」
『そーそー、そのブレスレットは聖霊回廊と繋がってるのよ』

 と、ミルビナさん。

「聖霊回廊?…もしかして聖霊ボックスのことですか?」
『変な名前つけんな。聖霊回廊は聖霊が眠る安息の場所とか…まあ、色々あるところだ。亜空間に存在するから押入れみたいに使われてしまうがな』

 まったく神の采配を何だと思ってんだと、ラオルフさんがぶつくさ言う。
 なーるほど。このチャームはモ○スターボールみたいなもんだね。
 そしてブレスレットの輪っかが聖霊回廊だとすれば、輪っかで繋がったチャームは全部繋がってると思っていい。
 アザレアさんの聖霊ボックスは私の家と繋がってるって言ってたものね。
 これは便利。すごく便利。

 天馬型のチャームにそっと触れる。ちゃんとアザレアさんの魔力を感じる。
 もう一度、お休みなさいと呟いて…。

 *

 帝国道でドンパチやってた割に、帝国の方からも南のアダシュラ自由都市の方からも、人が通らないなあと思ってたら、どちらからも交通規制されてたみたい。
 解除されるだろう明日は大渋滞だろうな。
 すみません。

 装甲車は半分近く融解してて中にいるはずの王子の安否が気遣われる。

 案の定、中でぐってり気絶してた王子。たしか鉄の融解温度って一千度超えるよね。高熱と熱波の中でよく生きてたなあ…あ、アザレアさんが守ったのか。納得。

 …て、王子、めっちゃイケメンですやーん。和顔家系のはずなのに、鼻が高くて可愛い顔立ちしてる。こりゃあ女子高生にキャピキャピいわれる系男子だわ。
 まあ、そんなイケ顔も煤がついて黒くなっちゃってるんですけどね。
 それでもイケメンはイケメン。ジャ○ーズ系イケメンだ。東京行かないとなかなか拝めないご尊顔。拝んどこう。南無南無。

「…食べる気か?」
「なんでそうなりますか」
「いつも食事の前にしてる仕草だろう、それは」

 ああ、手を合わせてるからか。これは「いただきます」ではなくて「なむなむ」ですよと教えてあげる。

「珍しいから拝むのか?」

 イマイチ理解してもらえなかった。でもまあ、その解釈でいいや。

「惚れたのか?」
「なんでそうなりますか(二回目)」

 変なこと言いながらも、ちゃんと王子を運んでくれたルークスさん。
 聖霊回廊から私の家を出して中へ、客室のベッドに寝かせた。その枕元に青林檎も置く。

 家を出る。

 神二人は家に居たいというから置いてきた。
 好きに寛いでてください。

 家は帝国道に出すと通行人に邪魔だと思ったので、渓谷の頂上にある針葉樹林あたりに出した。
 一歩家の外に出れば崖。
 崖の上のマイハウス。いいね。

 さて、なんで王子を私の家に匿ってるのかというと…。

「奴隷の鎖紋ですか…」
「ああ。王子以下、聖霊王国の王宮で働いていた者たちは全て奴隷堕ちした」

 王子の両手首には奴隷の証、蔦が絡んでまるで鎖のような模様の刺青がついている。
 囚人首輪の"首チョンパ魔法"と同じで、これは奴隷にかけられた"手首ちょん切り魔法"である。
 首は処刑時刻に切り落とされるが、手首は奴隷先から脱走した時に発動する。
 両手無くしてもいいなら脱走すればいいが、両手が無いと生きていけないだろうから、どっちみち待つ未来は絶望しかない。奴隷とは人間の尊厳を踏み躙る酷な制度である。

「ルークスさん、ヴァーニエル王子様を私にくださいませね」
「そう言われると思った」

 読まれてましたか。

「どうせなら死んだことにしよう。この現場を見れば生きてるとは誰も思うまい」

 装甲車も地面も溶けてドロドロだもんね。
 死体も溶けたと思ってくれたら万々歳だ。

 ルークスさんが協力してくれるのはありがたい。
 ディケイド様の時は他人の目があったから、その場で引き渡してくれなかったのかな。

 この協力ぶりを見ると、初めっから聖霊王国の処遇は女帝が決めたシナリオ通りだったように思える。他国向けのパフォーマンスで厳しい処罰にしておいて、実は裏で匿ってしまうというシナリオだ。

 英雄や偉人や有名人が、実は生きてたって語られるの多いけど、案外、歴史の裏で本当にそんなことはこっそり起こってるものなのかもしれない。

 王子を匿って現場を隠蔽した頃に、帝国の方から兵士が来た。
 ファガラムさんも一緒に来た。なんでも、フルオラ・ナビルミが現れる前に装甲車を牽いてた馬に乗って、帝国の方へ報告に行ってたんだって。それで兵士も連れてきてくれたわけだ。
 往復ご苦労様です。

「皇弟殿下!よくぞご無事で…!」
「なんとかな。事後処理は全部お前に任せるぞ」
「はい!精鋭を連れて参りましたのでお任せ下さい!と…女帝も、その~」
「いいさ。私の方から報告を入れる」
「ありがとう存じます。よし、皆の者、手はず通りかかってくれ」

 パンパンとファガラムさんが柏手を打って、兵士たちが作業に取り掛かる。
 融解した装甲車に新たに馬たちをつけて帝都まで引き上げさせ、負傷者を救護馬車へと運ぶ。負傷者の中には、最初に襲ってきた武器を持った集団の仲間もいるので、そいつには尋問も行うらしい。

 現場に残っていたこの事件の当事者、負傷して気絶してたといえあの戦闘の中よく生きてたねな人たちは、全て帝都へと運ばれた。ヴァーニエル王子だけを除いて。

「それでは、また明日お迎えに上がります」
「ああ、頼む」

 ファガラムさんも帰っていった。
 現場には私とルークスさんと、あと、自動車が残された。
 自動車は変態ストーカー野郎に壊されてしまったので廃車である。

 点検しつつお掃除「"ピッカピカ"」もしたのだが、屋根は曲がって穴空いて大事なエンジン部分も熱で溶け、肝心の魔力機構がズタボロらしい。
 よく爆発しなかったもんだと思う。

 動かないので明日、解体作業の人たちが来て運んでくれる手筈である。ついでに我々もお迎えに来てもらえる。
 別に歩いて帝都入りしても良かったのだけど、それだと女帝の謁見に間に合わない。きちんとした馬車で迎えに来るとファガラムさんは何故だか意気込んでいた。

 ルークスさんは車をみてる。
 大事な愛車だったのだ。
 感慨深いものもあろう。
 私はその場をそっと離れ……れなかった。

「あ……」

 なんで抱き締められてるんですかねえ。
 まただよ。またこれだよ。
 つくづくハグが大好きな皇族…いや、皇弟殿下でしたっけ。
 そんでもって私もハグ返しが大好きだからもうしょうがないね。
 ぎゅっぎゅ~~~と目一杯、抱き締め返してやった。

「甘えられると疼くんだが」
「抱きしめてきたのあなたでしょうが」

 疼くってなんだ。傷口でも痛むのか。気づいてなかったけどルークスさん、どっか怪我でもしてたのかと心配になる。

「怪我は………無い」
「その間はなんですか」
「いや…まあ、平気だ」
「平気じゃないです。ちょっと診せて」

 ルークスさんの軍服を剥ぎ取ってやる。
 左腕の付け根あたり、赤く腫れてるじゃないか。

「腕動かすと痛いですか?」
「まあ……」
「痛いなら痛いって言わないと」
「ああ……」
「放っておいたら悪化しますって」
「その時はその時で…」
「駄目です。悪化した時は手遅れと思え」

 何をやせ我慢してんだか知らないけど、これは放っておいていい負傷ではない。
 肩の負傷…私が分かるのは炎症と脱臼かな。これ、放置したら熱持って大変だぞ。

 …私を庇った時かな。
 車から脱出はできたけど爆風に煽られて地面に落ちたもんな。
 私と青林檎はルークスさんの腕に匿われてて無事だったわけだけど、ルークスさんの方は無事じゃなかったみたい。
 その後もずっと我慢してたとか…バカ。

「泣かないでくれハツネ殿…」
「泣いてない。バカ!」
「痛ッッ?!」

 涙なんか見せてやるもんか。落涙しそうになったけど目をこすって意地張った。
 フラグ回避大事。
 心配させたお前なんぞこうしてやるとばかりに身体強化「"ぐんぐん"」で腕力を強化して外れてた肩の骨を無理やりハメてあげた。
 医者じゃないので脱臼の治し方なんぞ知らん。だから無理やりです。痛いでしょうね。ここまで我慢したんだ。まだ我慢できるね。

「……ぐッ…うぅぅ」
「たぶんこれでいいです」
「痛かった……」
「素直でよろしい」
「でもちょっと気持ち良かった」
「変態です」
「違うぞ」
「まごうことなき変態です」
「違うんだ。これはハツネ殿にしてもらったことに興奮して」
「ド変態です」
「な?!階級が上がっただと…!」

 どうなってんだアンタの思考回路は。痛覚と性刺激を結びつけちゃ駄目です。
 それは変態の所業です。そして変態にまたギュッとされてる私。肩の脱臼が治ったからなのか、さっきより強めの抱擁の上、耳たぶを舐められた。

「ひゃ…」
「我慢できそうにないんだ」

 耳へ吐息と共に囁かれる。くすぐったい。
 何を求められてるかくらい分かるけど…。

「夜まで待ってください。つか、怪我してんだから控えてください」
「待てない。今直ぐ君が欲しい」

 そう言って私を抱き上げるルークスさん。
 肩ハメたばかりで無茶すんなおまー!とは思うが姫抱きは嬉しいよ。
 何度されても照れるね姫抱きってやつは。されちゃったらもうしょうがないので首に縋り付くよ。 

 …て、どこ行く気だい。

 てっきりマイハウスへ帰るのかと思ったのに、車の後部座席に乗り込んだ。
 屋根はへこんで穴空いてるけど、護符のおかげで座席は無事だったんだよね…
 まさかここで…?

「んぅ…っ」

 そのまさかのようです。
 いきなり齧り付くようなキスをしてきて、私の理性を奪う気らしい。

「んーっ、ん」

 角度を変えつつ何度も唇を食まれて、舌もくちゅくちゅ絡む。
 性急なキスは余裕が無いからだろうか。
 後部座席に座っているルークスさんのお膝で抱っこされながら、私の理性は確実に溶けていった。
 ええ、完敗です。

「ふぁ…っふ、ん…」

 時々、口から息を吸わせてもらえるけど、すぐにまた口を吸われてしまう。
 口吸いながら胸も揉んでくるしブラウスのボタンも外してくる。相変わらず器用だね。バードキスもディープキスも気持ちいいから…ホントお手上げだ。

「ぁん…っ、あう…」

 下半身をまさぐられる。スカートを捲られて露わになった太腿、その付け根。
 大事なお股の間を、容赦なく大きな手で弄られてしまう。

「もう挿れたいが…」
「ま、待ってえ…」

 ナニがビンビンなのは太腿にあたってる異物感でわかるよ。
 でもまだ、まだ待とう。どうどう。いつもなら私が達した後に挿入だろうに、今日のルークスさんには本当に余裕が無いみたい。
 がっついてるっていうか、本能に忠実というか、よく言えば若さに溢れエネルギッシュですねみたいな。
 でもちょっと待とう。まだ私、濡れてないと思うんだ。
 今、無理やり挿入したら悲鳴あげるぞ。強姦魔ー!て叫ぶぞ。

「やばい…ハツネ…準備ができたら…君が入れてくれ」
「ふぁ?!どしたルークスさん…げ、限界なの?」
「今、私がしたら…君を傷つけそうで…怖い」

 ふおう。怖いとかそんな憂いの含まれた瞳で言わないでおくれ。
 …分かった。私も女です。覚悟を決めました。
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