11 / 89
三柱の世界
首チョンパの魔法と初キス
しおりを挟む『処刑?!ディケイド様を殺すというの…!?ちょっとアンタ!皇族なら女帝を止めなさいよ!』
あ、やっぱ王様だったんだねディケイド様。
アザレアさんが目の色変えてルークスさんを詰り出したぞ。
『まるで同情して戦後協定結んだみたいなこと言ってたけどロクなことしてないじゃないの!』
「協定を結ぶ場が紛糾してしまっただけだ。我が女帝は聖霊王国に同情している。
その証拠に王の身柄を帝国で預かることにしたのだ」
『美辞麗句並べ立ててんじゃないわよ。結局、帝国でディケイド様を処刑する気じゃないのさ』
そうだよねえ。ルークスさんの言い分はおかしい。
どう聞いたって帝国は漁夫の利狙って戦勝国を集めて、協定内容を自国に有利になるよう取り計らったってかんじ。二枚舌外交だ。交渉能力パネェわ。
「……………」
ルークスさんはこれ以上の情報は与えないとばかりに口を噤んだ。
この人も外交慣れしてるなあ。そりゃそうか、ディケイド様を迎えに行ってここまで引っ張って来た人だもんね。
てことは怪物に襲われてたあの船は、処刑人を運ぶ護送船だったんだねえ。
助けるんじゃなかったとは言わないけど、あそこで見捨ててたら確実に沈められてたよねあの船。そこんとこつっついてみよう。
「ルークス様、もし護送船が沈んだらヤバかったですか?」
戦犯で処刑されるとはいえ高貴な人物。王族だし、初代国王である勇者の血を濃く引く子孫である。そんな重要人物を乗せた護送船がもし沈んでしまってたら…
それは、帝国の沽券に関わる大問題だったと思うの。
「勿論だ。君に助けられて感謝しているよ」
「そうですか。それなら、ご褒美にディケイド様をくださいな」
『え、ハツネちゃん?!』
「─────!?」
私の爆弾発言に驚くアザレアさんとディケイド様。
二人の反応は至極まっとうだね。自分でもよう言ったと思う。
「…やはり君は王族なのかね」
「違いますよ」
そりゃ全否定だ。やっぱりとか言ってるアンタの方が驚きだよ。なんでそんな思考になったんだ。
黒髪の所為か。あとは怪物やっつけた魔法素養かな。だが残念。黒髪は日本人だからで、魔法はチートなんだ。きっと神様のバグってやつだ。
「違うのなら、何故、聖霊王国のことを気にかける」
「聖霊王国のことは知らないですよ。でも、聖霊に関しては知らんぷりできないと思いまして」
「それは聖霊様の伴侶としての願いかね」
「伴侶ではないですが、家族だと思ってます。私の大事な家族が悲しい思いをするのは許せないんですよ」
『ハツネちゃん…っ!』
おお、アザレアさんがとてつもなく感動している。
私よく言った。もうひと押しかなあ。
「それとも帝国の女帝とかいう人は、自前の船を助けられておいて御礼もしないほど心の狭い人ですか」
「これは手厳しいな。女帝カサブランカに暴言を吐くとは命知らずなのか、それとも…」
なんてこった。乗ってこない。
私は怒りを誘う言い方をしたのに、この男ルークスはにこやかに受け流しおった。
やるなあ。交渉事は熱くなった方が負けだ。相手を怒らすことが常套手段の私は、手強いやつに出会って意識が高揚してしまう。だけれど冷静を保たなければ…。
「私の実力はお見せしてるはずです」
「そうだね。見事な魔法だった。実に有益な魔法素養だ。我が帝国に招きたいくらいだよ」
「ありがとうございます。それでは、私のお願いも聞いてくださいますわよね」
「……うまいな」
「何をです?」
「いや、これも君の実力だと思うことにしておこう」
褒められてもあんま嬉しくないよ。たった今、自分を餌にしちゃったからね。
これで思った通りの結果が引き出せなかったら泣けるわ。
「…そうだな。女帝と直接交渉してもらえるかな」
「まあ、私そんな高貴な御方とは顔を合わせられる身分じゃございませんよ」
「それは気にしなくて良い。女帝は気さくな方だ。これは我が国の皇族全員に言えることだが、総じてリベラルなんだ」
確かにね。ルークスさんも皇族のはずだけど、初対面でも今でも普通の会話なら気さくだものね。真面目な話や交渉中は固めだったけどそれは仕方ない。
公私混同せず、けじめをつけてるということだ。
お喋りしながらも食事は進行していたのだが、最後にお茶を飲んで終わった。
あれ?デザートは?無いのかな。こちらの世界では甘いもので締めないのかなあ。
食後のお茶は緑茶に似た色で、緑茶より爽やかな後味だった。これはこれで美味しいけど、甘い物の方が良かったなあ。
会計を済ませた後に飴玉ひとつもらった。でもこれが不味いときた。
見た目は黒飴。味は甘いんだけど仄かな甘味の中に得も知れぬえぐみと苦味が地獄の協奏曲を奏で魔界の王がニヤリと嗤うような…うん、不味い。
私はさっさと噛み砕いて飲み込んでしまった。他の皆様は口にも入れてない。
不味いの知ってるんだね。教えておいてよそういうことは…。
帰りの道すがらのお喋りで、結局、女帝カサブランカに会うことになってしまった。ただ女帝も忙しいので、面会は当分先になりそうとのこと。
ちなみに今の私は、怪しさ満点の麻のフード付きローブ姿でございます。
「お会いする前にディケイド様を処刑しないでくださいませね」
「ははは。それは約束できないな」
笑いおった。笑いおったよこの野郎。所詮は小娘との口約束ってやつか。
そりゃそうだよね。私との口約束を破った場合の不利益が無いもの。
今のとこ、戦後協定を破ってディケイド様を私に渡すことで被る不利益の方が大きい。私の魔法素養を手に入れるみたいな利益は提示したけど、それだけじゃ口約束を守るには少なすぎるよね。こうなったら約束破ったら不利になる罰則でも設けたほうが良いかしら…。ルークスさんが逃げないよう鎖でもつけとかないとだねえ…鎖…鎖ねえ…鎖だったら首輪。首輪といったらワンワン。ちょっとズレた。
首輪で思い出したけど、ディケイド様の首に気になるものがあるんだよ。
首周りを一周、唐草模様に似た刺青が描いてあるのだ。
私の勘だけど、あれって囚人首輪なんじゃないかなあ。
「ところでルークス様、ディケイド様の首にある模様って何なのでしょう?」
「ああ、あれは罪人の印だよ。処刑実行日時になると、模様のある箇所が自動で斬れるんだ」
わお。えぐいね。考えた人は頭イカレてるね。
自動首チョンパの魔法がかかってるのか。これは使えそうだ。
私はディケイド様に「失礼します」と言って首を触らせてもらう。
その際に「"じろじろ"」と探索の魔法、「"カシャカシャ"」と解析の魔法を同時に発動させた。
「何をした?」
と、ディケイド様にも分からなかったようである。
魔法かけられてる本人が分からないようじゃ、ルークスさんにも気づかれてないだろう。
まだこちらの世界の人が魔法の呪文を唱えてるのを見たことないけど、長い呪文の果てにやっと発動するとか言ってたし、魔法てあまりメジャーじゃないのかもしれない。魔法を発動させる為の魔力というものの存在は確認されていて、それを利用したものはある。
プロジェクションマッピングみたいなやつとか、おそらく船の動力など。
だけど、魔法を扱える人ってのは少ないんじゃないだろうか。
たとえ使えても、あの怪物鯨は倒せてなかった。
そしてディケイド様も、魔力量はあるようだけど私の魔法を感知できていない…。
アザレアさんなら聖霊魔法でちょちょいのチョイとできそうなんだけどなあ。
やっぱ聖霊の存在ってチートだわ。神聖視扱いも頷けるし、逆に化物扱いもされてたんじゃなかろうか。
聖霊がいなくなった途端、攻め込まれたのにもその辺の事情が絡んでそうだね。
「ルークス様、約束してくださいませ」
言いながら私はルークスさんに近づき肩へと手を置いた。
背ぇ高っけえなこの人…。
見上げてルークスさんの澄んだ碧眼と視線を合わせる。
「何をだい?」
「まあ、分かってるくせに…」
しれっと私の腰に手を回したよこの男おおお!女慣れしてるわ。さすが皇族。
両腕でがっちりホールドされてしまったので自然と腰がくっついてしまう。
往来で下半身密着とか洒落にならない事態になりつつある。さっさと目的を果たそう。
「意地悪ですね」
「君が魅力的だからねえ」
「こんなフード被ったもっさい女相手によく言えますこと」
「君は鏡を見たことないのかい?とっても可憐な女性が映ってるはずだよ」
ははは。減らず口が。
その口を閉じてあげよう。
「約束してくださいませね。ディケイド様を処刑なさらないと。
でないと、アナタのこの首を "チョンパ" しますよ」
「ん?これ、は…──っ!」
かかった。ディケイド様の首にあった模様より遥かに濃い色した囚人首輪をつけてやった。ルークスさんは自分の首に走った違和感で、それに気づいたのだろう。気づいた時にはもう遅い。ディケイド様のを解析して、更に強固にした首輪はより複雑に蔦が絡み、決して解けないようにしてある。
「まさか私に罪人の印をつけるとはね…」
今度こそ怒っただろうか…?
私はルークスさんの様子を窺いながら告げる。
「約束を破ったら首が胴体から離れる仕掛けにしました。ディケイド様を処刑したら、その瞬間にアナタの首も落ちますよ」
「…なるほど。君には有り余るほどの魔法の才能が有るようだね」
怒るどころか腰に回された腕に、ぐっと力がこもった。腰が固定されて動けない。いい加減放してくんないかなあと睨み上げてみる。
そしたらこの男、ふっと笑って私の唇を奪いよった。
「──んっ!?」
突然、唇を塞がれて動揺する。キスされてる…。
キス…キス…キスだとおおおおうおおおお初キスなんだけどこれええええ
離れろこんにゃろーーー!と手足動かしてルークスさんの肩バッシンバッシン叩いてみたりしたが、開放してくれない。足蹴りも効かない。鉄でも仕込んでんのかと思うくらいブーツが硬いんだけど、どういうこったろうねえ。
しかも抵抗している間に何度も舌を侵入させようとしてくる。
くあああさせるかあ!私は懸命に唇を閉じてディープは死守した。
開かざること貝のごとしだ!
「…ふ、うぅーっ!よくも、よくもー!」
「これぐらい貰わないと割に合わないだろ。…もしかして初めてだとか?」
「そうよ変態!責任とれバカッ!」
「ああ無論だとも。私のとこへお嫁においで。苦労はさせないよ」
だからしれっと言うなーー!こいつ天性のナンパ男か?!
そういう責任じゃないわ!唇までやったんだから約束守れってことだよコンチクショーー!
「放してよ!誰が嫁になんぞいくもんかー!」
「あっはっは~子供は何人でも大丈夫だぞ。ペットも可だ。甲斐性のあるとこみせてやる」
「幸せ家族計画か!って、思わずつっこんじゃったけど、そんなもんいらん!
ええから放せやアホンダラーー」
どうやらルークスさんの婚活スイッチを入れてしまったようだが、どこでそんなフラグが立ったかさっぱり分からん。ひとしきりぎゅっぎゅと抱擁されてからようやく放してもらえた。私よれよれである。
「くそう。覚えてろーーっ!」
三流小悪党去り際の台詞みたいなのを吐きながら、アザレアさんに天馬の姿になってもらって、その背に乗っかった。周囲で「わあ!」「聖霊?!」「きれ~い!」みたいなザワつきが起こったが、知らん。
「待って。君との連絡手段はあるのか?女帝に謁見したいのだろう?」
口早にルークスさんが言ってくる。
「首輪に魔力を流してやろうかああああ」
「それしたら私は死ぬだろうが」
「ちっ。しょうがないからまたこの港町に遊びに来ます」
狩った怪物の肉も貰いたいしね。お前なんか二の次なんだからねルークス!
そんな捨て台詞も残して、私は天馬に跨り空へと駆け上がった。
ちくしょー!初キスをあんな見てくれしか良くないハンサムな守護騎士に奪われるとは…不覚!
今度会ったら金的かましてやんだからあ!キィー!
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる