衣食住に満たされた異世界で愛されて過ごしました

風巻ユウ

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三柱の世界

とんだ逆マネーロンダリング

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 向かいの部屋の扉は岩のよう。でかくてゴツイ。
 なんだか重要なものが入っていそう。
 そしてやはりここも魔法で鍵が掛かっていた。

「ふおおおお……!」

 開けた先には宝の山が待っていた。
 でかい箱の中には黄金黄金黄金…。
 立派な装飾が施された箱には宝石宝石宝石…。

『ハーツネちゃん!』
「きゃあああああーーーーっ」

 突如、背後から抱きつかれた。
 誰だと思う暇もなく、抱きつき魔の顔がドアップで迫る。

「ほあああおおおオカマさんですか?!」
『そうよーん。よく分かったわね。えらいえらい』
「こ、こここ…声が…一緒で、すから…」

 動悸息切れが激しいわ。
 いきなり抱きつかれたのにもビビったのだけど、それ以上に目前の美しい男は誰ぞ?!声がオカマさんなので、直感的に同一人物だとは分かった。
 でもね、でもね、まさかそんな美形とは思ってなかったよ!鼻筋通ってて彫り深い。顔面というキャンバスに均等に配置された目鼻口のパーツ。
 めっちゃ整ってるわー。
 ビジュアルキレイ系イケメン?なんかそんなかんじ。
 髪なんてふわふわカーリーヘアでピンクのグラデーションだしね。光輝いとるわ。
 お肌も白くて透けるような美しさ。オカマさん綺麗すぎだお。

「あの…離れてくれません…?」
『それは~できないのよねん』

 なんでやー。頭なでなでまで加わって、私の心臓は破裂寸前なんだけどー!
 どうせなら地下へ行く前に人型になっててくれよ。
 そしたら、ここまで驚かされることはなかっただろうよ。
 オカマさんも人が悪い。いや、馬が悪い。どっちにしろ意地悪だ。

『まさかもうね、人型になれるとは思わないじゃない。ハツネちゃんと別れた後にね、試しにやってみたら出来たわけ。すごいわ。普通こんなに早く魔力が復活することないんだけどね。ハツネちゃんのお陰ねー。魔力も美味しいし言うことないわん。いい寄生先みつけたわ~ん』
「き、寄生先って…もしかして私の魔力を吸い取ってるんですか?!」
『ええ。美味しいわよ。お腹も膨れて満足満足~ぅ』
「いやあああ聖霊ってそういう生き物なわけ?!わ、私なんか美味しくなんてないですよ!」
『美味しいってば。それに無尽蔵に湧き出てくるわね。本当に人間なのかしらん』
「また人間疑惑まで…勘弁してください……」

 魔力がいっぱいあるのは、おそらくチートってやつだよ。
 異世界に飛ばされた主人公は等しくスペシャルなスキルを持ってるもんなんすわ。お約束ってやつでな。

 この家といい、この地下のお金といい…。
 これらも異世界トリップの副産物なら、納得のいく説明を頂きたい。
 私をこの世界に飛ばした張本人めえええ。
 未だに現れず私を放置するとはいい度胸だ。
 不親切にも程がある。もし会うことがあったら…覚えてろ。

『うふふ。そうねえ、名残惜しいけどここまでにしておくわ。ご馳走様ん』

 はい。お粗末さまですわ。
 最終的に頭なでなでされながら腰に腕まで回されたよ。
 色っぽいオカマさんにここまでされたのは初めての経験だ。
 今まで会ったことあるオカマさんは、もっとシャイだったように思う。
 それはオカマとはいえ日本人だからなのか、それとも異世界のオカマは進化を遂げているのかは分からない。

『そんなに照れるとは思わなかったわん。初心なのねえ』
「うー…………」

 呻きながら両頬を抑えてみる。うん、まぢ真っ赤だわ。心臓もまだドキドキしてる。初心と言われればそうだとしか言いようがない。こんなボ~とした性格だから今までに彼氏なんていたことないし。
 身近にいた男性といえば兄と父くらい。父は仕事人間で帰宅することは滅多にない人。兄はオカマ。ちな女子高。大学も女子大。
 …うん。これでどうやって男に対して免疫つけろと。無理っす。
 鼓動がうるさい。ええい、静まれ、静まらぬかー。

『ところでハツネちゃん、元の世界ではマンションっていうの持ってたのん』
「んへ?ええ、持ってましたが…て、なんでオカマさんがそのこと知ってるんです?」
『そこに書いてあるからよ』

 美人オカマさんが指差したのは、このお宝いっぱい部屋の奥にある壁だった。
 壁には光る文字で言葉が書かれていた。内容は、この家やお金についてである。
 見たことない文字だが何故か読める。
 てか、地下の壁に大事なこと書かないでほしいわ。誰が書いたか知らないけれど。

 この家は、日本で購入したマンション相当の一軒家であること。
 システムキッチンやバスや水洗トイレはマンションについていたのと同じ製品であること。こちらの世界の方が物価が安いので、差額で家具や照明、日用品に家電やらをプラスしたこと。
 それでも余ったお金はこの地下宝物庫に置いてあること。
 地下宝物庫のお金は、私が日本にいた時の全財産を、こちらの世界に換金した総額だということ。
 こっちの相場に合わせたら数十倍の価値になったそうな。

 …道理で、金銀パール宝石が山盛りなわけだ。とんだ逆マネーロンダリング。
 ここまで予想外で法外な金どうしろっちゅーねん。
 来年の確定申告で認めてもらえないと思うよこれ。
 そしてこの異世界に税金の仕組みがあるのかも分からないけど、家はいざとなったら隠すしかないね。
 不法所得で不労所得だもの。犯罪者の家だねここ。

「オカマさん、この世界の貨幣価値一般を教えてください」
『いいわよ~つか、ハツネちゃんて順応早いわよね。普通、ここまで異常事態起こったら頭パンクすると思うけどん』
「十分頭パーンしてますって……」

 実は痛んでいた頭をぐりぐりしながら答える。
 確かに生真面目な人だったら、この時点で狂うかもね。
 幸いなことに私は超がつくほどマイペース。ドマイペースを自負してる。
 あんまり物事に動じないし、細かいことも気にしない。ズボラって言われればズボラだ。兄からはよく「俺より男らしい」と評されていた。オカマの言である。

『それにしても大銭ばかりねえ。市場で食材買うくらいなら小銭でいいのだけど…』
「金貨は大銭なんですか?」
『それ一枚で一家四人一年は余裕で暮らせるわね』

 そんなにか!それが山盛り。
 もうひとつ真珠山盛りの箱があって、この真珠、よく見ると金貨や銀貨とくっついてて繊細な装飾も施されている。
 貨幣としてだけでなく、芸術品にしても、とても価値が高そうだ。

『その貝貨は海南商人たちが取引に使うお金ね。海辺の町でも使えるわよ』

 へー。珍しいな。貝のお金か。
 真珠以外にも水晶やダイヤなど宝石もざっくざくある。
 こちらの世界でも元の世界と似たような鉱石がとれるのかな。

『ああ、あったわ。ちゃんとあるんじゃな~い。これが小銭よ、青銭って呼ばれてるわ』

 青銭というだけあってコバルトブルーが美しいガラスのような小銭だ。
 形は平ペったくて角丸な四角。そんなに大きくなくて手のひらにちょこんと収まる程度。一センチ四方くらいの大きさ。
 これを太陽にかざすと、中にキラキラ光る雲母が見えるんだそうだ。
 残念ながらここは地下。太陽には翳せないので、機会があったらやってみることにしよう。

 何はともあれ、これでやっと朝ご飯を買いに行ける。
 青銭を持っていた巾着いっぱいに入れ、ついでに金貨も財布に数枚確保して、家を出た。

『そんじゃま乗るといいわよ~』

 そう言ってオカマさん、もといペガサスもといユニコーンもとい馬が、私に背中へ乗るよう促した。
 相変わらず綺麗なお馬さんだ。
 淡く輝いてるのはどういう仕様なのだろう。

「こ、この辺に乗ればいいですか?」

 乗ったのは翼の付け根あたりなのだが、少々ゴツゴツするのでお尻の位置を下げようか上げようか迷う。

『あらん…そんな、お股でご奉仕とか役得よねー』
「はああ?!」

 ちょっとこの馬なに言ってるか分からない。

『いいのよいいのよ。貴女が処女なのは知ってるから。じゃなきゃ乗せないわん』
「ほげーー?!」

 ますますなに言ってるか理解不能。
 なにがどうなって私の処女性に結びついたんだ。
 いやさ、確かに未開通なんだけどさ。

「オカマさんはユニコーンなの…?」

 乙女しか乗せないとかいうセクハラ馬なのかね。

『ちゃうわよ。聖霊だっつってんでしょ。敢えて種別するなら天馬ってとこよん』

 天馬。そうか、この淡く光る桃色毛並みの鬣ふわふわ尻尾ふさふさ生き物は天馬か。私は馬首の根元あたりに落ち着いた。やはり鞍無しじゃ背中は乗り辛い。
 鬣を撫でる。すんごい手触りいいんですけどー。
 乗馬クラブで乗っていたトゥインクル号を思い出す。
 あの子の毛並みも素晴らしかった。馬らぶ。

『落っこちそうならそこ掴んでていいわよ。じゃ、出発ーぅ』

 言うやいなやオカマさんこと天馬は駆け出して行く。
 ここは広い河原だけど助走するには短くないかなーという危惧は一瞬で終わった。
 次の瞬間には馬体がふわりと浮いて、直ぐに地上から足が離れたからだ。
 空中に登りながら駆けていく。すんごい爽快感。ヒャハー。前から風が吹き付けてくる。バランスとるのに四苦八苦するけれど、でも、何かに守られているみたいに私の体幹はぶれなかった。
 きっとこれも魔法だろう。空気の層を割いて進む割には寒さも無い。

「すごい…!キレイ………!!」

 天馬が飛翔する羽端からピンク色の帯が後ろへ延びていくんだ。
 それが空の色と相まってキラキラ光る。スターダストのよう。朝日に輝いていた。

 地上は緑が多い。
 私たちが居たところは、やはり森の中だったようだ。
 川沿いに下流へ進めば街道に行き当たり、街道沿いの麦畑が豊作そうなのをみて、私は頬を緩ませた。

 街に焼きたてパンあるかなー。
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