5 / 89
三柱の世界
とんだ逆マネーロンダリング
しおりを挟む向かいの部屋の扉は岩のよう。でかくてゴツイ。
なんだか重要なものが入っていそう。
そしてやはりここも魔法で鍵が掛かっていた。
「ふおおおお……!」
開けた先には宝の山が待っていた。
でかい箱の中には黄金黄金黄金…。
立派な装飾が施された箱には宝石宝石宝石…。
『ハーツネちゃん!』
「きゃあああああーーーーっ」
突如、背後から抱きつかれた。
誰だと思う暇もなく、抱きつき魔の顔がドアップで迫る。
「ほあああおおおオカマさんですか?!」
『そうよーん。よく分かったわね。えらいえらい』
「こ、こここ…声が…一緒で、すから…」
動悸息切れが激しいわ。
いきなり抱きつかれたのにもビビったのだけど、それ以上に目前の美しい男は誰ぞ?!声がオカマさんなので、直感的に同一人物だとは分かった。
でもね、でもね、まさかそんな美形とは思ってなかったよ!鼻筋通ってて彫り深い。顔面というキャンバスに均等に配置された目鼻口のパーツ。
めっちゃ整ってるわー。
ビジュアルキレイ系イケメン?なんかそんなかんじ。
髪なんてふわふわカーリーヘアでピンクのグラデーションだしね。光輝いとるわ。
お肌も白くて透けるような美しさ。オカマさん綺麗すぎだお。
「あの…離れてくれません…?」
『それは~できないのよねん』
なんでやー。頭なでなでまで加わって、私の心臓は破裂寸前なんだけどー!
どうせなら地下へ行く前に人型になっててくれよ。
そしたら、ここまで驚かされることはなかっただろうよ。
オカマさんも人が悪い。いや、馬が悪い。どっちにしろ意地悪だ。
『まさかもうね、人型になれるとは思わないじゃない。ハツネちゃんと別れた後にね、試しにやってみたら出来たわけ。すごいわ。普通こんなに早く魔力が復活することないんだけどね。ハツネちゃんのお陰ねー。魔力も美味しいし言うことないわん。いい寄生先みつけたわ~ん』
「き、寄生先って…もしかして私の魔力を吸い取ってるんですか?!」
『ええ。美味しいわよ。お腹も膨れて満足満足~ぅ』
「いやあああ聖霊ってそういう生き物なわけ?!わ、私なんか美味しくなんてないですよ!」
『美味しいってば。それに無尽蔵に湧き出てくるわね。本当に人間なのかしらん』
「また人間疑惑まで…勘弁してください……」
魔力がいっぱいあるのは、おそらくチートってやつだよ。
異世界に飛ばされた主人公は等しくスペシャルなスキルを持ってるもんなんすわ。お約束ってやつでな。
この家といい、この地下のお金といい…。
これらも異世界トリップの副産物なら、納得のいく説明を頂きたい。
私をこの世界に飛ばした張本人めえええ。
未だに現れず私を放置するとはいい度胸だ。
不親切にも程がある。もし会うことがあったら…覚えてろ。
『うふふ。そうねえ、名残惜しいけどここまでにしておくわ。ご馳走様ん』
はい。お粗末さまですわ。
最終的に頭なでなでされながら腰に腕まで回されたよ。
色っぽいオカマさんにここまでされたのは初めての経験だ。
今まで会ったことあるオカマさんは、もっとシャイだったように思う。
それはオカマとはいえ日本人だからなのか、それとも異世界のオカマは進化を遂げているのかは分からない。
『そんなに照れるとは思わなかったわん。初心なのねえ』
「うー…………」
呻きながら両頬を抑えてみる。うん、まぢ真っ赤だわ。心臓もまだドキドキしてる。初心と言われればそうだとしか言いようがない。こんなボ~とした性格だから今までに彼氏なんていたことないし。
身近にいた男性といえば兄と父くらい。父は仕事人間で帰宅することは滅多にない人。兄はオカマ。ちな女子高。大学も女子大。
…うん。これでどうやって男に対して免疫つけろと。無理っす。
鼓動がうるさい。ええい、静まれ、静まらぬかー。
『ところでハツネちゃん、元の世界ではマンションっていうの持ってたのん』
「んへ?ええ、持ってましたが…て、なんでオカマさんがそのこと知ってるんです?」
『そこに書いてあるからよ』
美人オカマさんが指差したのは、このお宝いっぱい部屋の奥にある壁だった。
壁には光る文字で言葉が書かれていた。内容は、この家やお金についてである。
見たことない文字だが何故か読める。
てか、地下の壁に大事なこと書かないでほしいわ。誰が書いたか知らないけれど。
この家は、日本で購入したマンション相当の一軒家であること。
システムキッチンやバスや水洗トイレはマンションについていたのと同じ製品であること。こちらの世界の方が物価が安いので、差額で家具や照明、日用品に家電やらをプラスしたこと。
それでも余ったお金はこの地下宝物庫に置いてあること。
地下宝物庫のお金は、私が日本にいた時の全財産を、こちらの世界に換金した総額だということ。
こっちの相場に合わせたら数十倍の価値になったそうな。
…道理で、金銀パール宝石が山盛りなわけだ。とんだ逆マネーロンダリング。
ここまで予想外で法外な金どうしろっちゅーねん。
来年の確定申告で認めてもらえないと思うよこれ。
そしてこの異世界に税金の仕組みがあるのかも分からないけど、家はいざとなったら隠すしかないね。
不法所得で不労所得だもの。犯罪者の家だねここ。
「オカマさん、この世界の貨幣価値一般を教えてください」
『いいわよ~つか、ハツネちゃんて順応早いわよね。普通、ここまで異常事態起こったら頭パンクすると思うけどん』
「十分頭パーンしてますって……」
実は痛んでいた頭をぐりぐりしながら答える。
確かに生真面目な人だったら、この時点で狂うかもね。
幸いなことに私は超がつくほどマイペース。ドマイペースを自負してる。
あんまり物事に動じないし、細かいことも気にしない。ズボラって言われればズボラだ。兄からはよく「俺より男らしい」と評されていた。オカマの言である。
『それにしても大銭ばかりねえ。市場で食材買うくらいなら小銭でいいのだけど…』
「金貨は大銭なんですか?」
『それ一枚で一家四人一年は余裕で暮らせるわね』
そんなにか!それが山盛り。
もうひとつ真珠山盛りの箱があって、この真珠、よく見ると金貨や銀貨とくっついてて繊細な装飾も施されている。
貨幣としてだけでなく、芸術品にしても、とても価値が高そうだ。
『その貝貨は海南商人たちが取引に使うお金ね。海辺の町でも使えるわよ』
へー。珍しいな。貝のお金か。
真珠以外にも水晶やダイヤなど宝石もざっくざくある。
こちらの世界でも元の世界と似たような鉱石がとれるのかな。
『ああ、あったわ。ちゃんとあるんじゃな~い。これが小銭よ、青銭って呼ばれてるわ』
青銭というだけあってコバルトブルーが美しいガラスのような小銭だ。
形は平ペったくて角丸な四角。そんなに大きくなくて手のひらにちょこんと収まる程度。一センチ四方くらいの大きさ。
これを太陽にかざすと、中にキラキラ光る雲母が見えるんだそうだ。
残念ながらここは地下。太陽には翳せないので、機会があったらやってみることにしよう。
何はともあれ、これでやっと朝ご飯を買いに行ける。
青銭を持っていた巾着いっぱいに入れ、ついでに金貨も財布に数枚確保して、家を出た。
『そんじゃま乗るといいわよ~』
そう言ってオカマさん、もといペガサスもといユニコーンもとい馬が、私に背中へ乗るよう促した。
相変わらず綺麗なお馬さんだ。
淡く輝いてるのはどういう仕様なのだろう。
「こ、この辺に乗ればいいですか?」
乗ったのは翼の付け根あたりなのだが、少々ゴツゴツするのでお尻の位置を下げようか上げようか迷う。
『あらん…そんな、お股でご奉仕とか役得よねー』
「はああ?!」
ちょっとこの馬なに言ってるか分からない。
『いいのよいいのよ。貴女が処女なのは知ってるから。じゃなきゃ乗せないわん』
「ほげーー?!」
ますますなに言ってるか理解不能。
なにがどうなって私の処女性に結びついたんだ。
いやさ、確かに未開通なんだけどさ。
「オカマさんはユニコーンなの…?」
乙女しか乗せないとかいうセクハラ馬なのかね。
『ちゃうわよ。聖霊だっつってんでしょ。敢えて種別するなら天馬ってとこよん』
天馬。そうか、この淡く光る桃色毛並みの鬣ふわふわ尻尾ふさふさ生き物は天馬か。私は馬首の根元あたりに落ち着いた。やはり鞍無しじゃ背中は乗り辛い。
鬣を撫でる。すんごい手触りいいんですけどー。
乗馬クラブで乗っていたトゥインクル号を思い出す。
あの子の毛並みも素晴らしかった。馬らぶ。
『落っこちそうならそこ掴んでていいわよ。じゃ、出発ーぅ』
言うやいなやオカマさんこと天馬は駆け出して行く。
ここは広い河原だけど助走するには短くないかなーという危惧は一瞬で終わった。
次の瞬間には馬体がふわりと浮いて、直ぐに地上から足が離れたからだ。
空中に登りながら駆けていく。すんごい爽快感。ヒャハー。前から風が吹き付けてくる。バランスとるのに四苦八苦するけれど、でも、何かに守られているみたいに私の体幹はぶれなかった。
きっとこれも魔法だろう。空気の層を割いて進む割には寒さも無い。
「すごい…!キレイ………!!」
天馬が飛翔する羽端からピンク色の帯が後ろへ延びていくんだ。
それが空の色と相まってキラキラ光る。スターダストのよう。朝日に輝いていた。
地上は緑が多い。
私たちが居たところは、やはり森の中だったようだ。
川沿いに下流へ進めば街道に行き当たり、街道沿いの麦畑が豊作そうなのをみて、私は頬を緩ませた。
街に焼きたてパンあるかなー。
0
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる