ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

101、責任とってボスる

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 気づけば意識は浮上。起きて一瞬、ここがどこなのか理解が全く及ばなかった。

 辺りを見回す。

 ここは俺の安眠部屋。俺の布団の上。普通に寝て起きたというより────腰、重おぉ!!!!
 あ、あれだ。ガッツンガッツン掘られて俺のお尻が大ピンチな重みだ。
 タオジン、あの童貞早漏れ野郎めえ!

 慣れない下半身の違和感と共に目覚めるとは……なんて最悪な気分。
 腰を摩りながら身を起こす。誰もいない。

 辺りに気配がなく、肩が震えたので羽織るものを探す。
 だって俺すっぽんぽん。

 ここ鬼ヶ城のあるダンマスエリアは、朝昼夜のメリハリをつけるため季節に則った気候となっている。
 夏でも暑すぎず、冬でも寒すぎず、それでいて季節感は出す。この調節を覚えるまでなかなか難しかったが、今では春夏秋冬を適温で楽しんでいる。

 そして今は春先の陽気だ。朝夕は十度前後の設定にしてある。
 外を見れば日が落ちるところ。夕方なので、ちょっと冷えるのだ。

 着物を出して着る。白褌を巻く。羽織を羽織って下駄も履いて、夕日に染まる桜を見上げた。
 綺麗に咲いている。

 ここに初めて来た初日に買った【春セット 桜】だ。当時の、はしゃぐマザーの喜ぶ顔は今でも忘れられない。

 マザーは……無事なようだ。

 黒画面を開いて確かめた。マザーは台所で、ハルネラさん、ショータ君、シンラも一緒だ。
 
「ダンジョンは崩壊しなかったか」

 俺がヤられてしまいダンジョンクリアが認定されてしまったのではと危惧したが、こうして皆が無事であることが何よりの証拠だ。

 ダンジョン鬼ヶ島は変わらない。

 今こうして眺める鬼ヶ城も桜も、そこから続く並木道も、歩きながら自分の目で確かめた。

「黒鬼……」
「げ、腐れ桃野郎」

 途中で出会う憎いヤツ。

「名前で呼んで欲しい」

 まだその無茶ぶり継続してんのかよ。お前なんぞハエが集る腐った桃野郎で十分だぞ。

 たまに気が乗ったら名前で呼んでやらんこともないが……実はうっかり心の中ではタオジンと呼んでしまうことがある。口には出さぬよう気をつけねば……。

 多分、名前を呼んだ途端、こいつは調子に乗るんだ。何だかそれはムカつくのだ。
 些細な俺の我儘だから、こんなこと、そういつまでも続くとは思わないけども。でも今は、まだ、お前は腐った桃臭を撒き散らかす桃野郎だ。

 時刻は日が落ちる寸前、夕方の空が紅く染まる時間帯。

 夕陽を背負う桃野郎の表情は逆光で読めなくて、でもその背格好は紛れもなくタオジンで、夢の中で一生懸命魔法の練習をするあの少年と重なって視えた。

「黒鬼が目覚めたら、急に明かりが灯り始めた」

 桃野郎が言う明かりというのは、並木道に等間隔で設置してある燃えないし焦げないお子様にも安心してお使いいただける鬼印の行灯のことだ。

 俺が寝ている間は消灯するよう設定してある。逆に俺が起きれば明かりは灯るのだ。

「ダンジョンというのは、本当にダンジョンマスターと縁深いのだな」

 タオジンの声に少年の声が重なる。

 ────俺はこの桃精の精気と、黄金竜から受け継いだ竜気を必ずものにしてみせる。今は未だコントロールが未熟で、この部屋からすら出れやしないけど、でも、いつか、必ずものにしてみせる。そうしたら、絶対、黒鬼を迎えに行く────。

 あの少年はダンジョンマスターに興味を示していた。ダンジョンの分析までして、俺を迎えに来るだって……?

 バカだなあ。ダンジョンに、増してダンマスである俺に秘密なんかない。俺のところへ来たって、俺がお前に何か返すわけもない。もちろん俺自身がお前の国へ行くこともない。

「ダンジョンのことが分かったところで、お前に関係ないだろう。さっさとダンジョンコアを破壊して帰るがいい。お前の国へ」
「破壊はしない。まだ思い出さないのか?」
「​──────っう」

 一気に距離を詰められて桃野郎の顔が目前に迫る。
 ほんと無駄にイケメンだなこんちくしょう。
 これがあの少年だとは思えん。愛らしくも福福しい顔をしていたあの赤子でもない。
 ここに居るのはそう、ただのイケメンだ!

「お、思い出すとか、覚えてないのかとか、何のことだよ」
「お前が俺にキスしたことだ」
「ふぁ?! ありゃ人工呼吸だ! ただの救命措置! 深い意味なんてない!」
「幼い俺の唇を奪っておいてそりゃない」
「無駄に自信満々だなおいぃ」

 この世界に人工呼吸の概念はない。治癒の魔法があるから、魔法を使わない者が頭捻って考え出した蘇生法なんか理解できないのだろう。

 キスしたことなんて赤子のこいつが覚えているわけがないというつっこみは利かなかった。
 現場を目撃していた皇帝が証言しちゃっているからだ。
「お前のファーストキスは黒鬼だぞ」って具合にな。

 皇帝陛下めえ! 派手な服を着ている普通のおっさんにしか見えないおっさんで腐っても皇帝陛下なのだけど、桃野郎の父親でもあるのだ。
 あの夢の中でも我が子であるタオジンを溺愛していたように思う。
 しっかりしろ皇帝陛下。

「思い出したのなら、お前は俺に対して責任を取らねばならない」
「ああ? お前こそ責任とれ。俺のダンジョン滅茶苦茶にしやがって。商売あがったりなんだよ!」
「それは大丈夫だ。俺が働こう」
「働くって皇子のお前がか? 賃金なんざビタ一文払わねえぞ」
「安心しろ。責任取るだけだから、タダ働きだ」

 まじかよ。皇子殿下を顎で使っていいんだとよ。
 じゃあ、遠慮なく。

 この日からタオジンは俺のダンジョン十階層に住み着くことになる。
 第十階層は【階層(桃源郷)】。ここのボスであり、ダンジョン最下層の大ボスとなる。

 これまで何となく赤鬼が大ボスだったけど、その赤鬼を倒しちゃったもんなあ。桃野郎が大ボスになるのは当然の流れなわけだ。

 何と言うか、妖精カーディスが棲家にしてきた時より強引な所業だな。

 先ず、ダンジョンを荒らします。その後、ダンジョンマスターを犯します。そうしたら成れましたダンジョンの大ボスに……みたいな。

 いやこれ、他のダンジョン仲間たちにどう説明しよう?

 低級・中級モンスターは怯えそうだし、高級モンスターたちは……恨んでそうだよな。

「黒鬼、名前を教えろ」

 しつこい。

 俺は頭を悩ませているというのに、自然と腰に腕を回してくっついてくる。

「お前が身を粉にして働いてくれたら考えるぞ」
「本当か? 働くから、絶対に教えろよ」

 そう言いながら尻を撫でるな変態か腐った桃野郎め。
 しかも、どんどんと顔が近づいてくる。これは…………。

 最近の【鈍感】能力は一部限定オートマとやらになってしまい、これまで通りに能力は使えるが、桃野郎相手には手ぬるい感じがする。

 だから、この空気は読める。これは、キスだな。桃野郎からキスしたい雰囲気がビチバチに伝わってくる。鈍感になどなれない。

 顔を上げる。

 桃野郎のイケメンが迫ってくる。
 桃の匂いなんかしなくても、それを受け入れようって思ってしまったからには、もう手遅れなのだろう。

 唇が近づく。接吻まで三秒前────。

「兄上、ホモセックス気持ち良かった?」

「ぎゃああああああああああ」

 シンラの無邪気な問いに驚いた俺は、桃野郎を思いっきり突き飛ばした。
 こんな時だけ発揮される鬼パワーでタオジンは桜の木まで吹っ飛び、見事に大量の花弁を散らした。

「シンラ、お前、親父と同じこと言うなよ……」

 そっくり親子め。

「感想が聞きたくて」と、テヘペロする姿はこれ、無邪気かと思ったけど確信犯だな。腹黒いぜ。
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