ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

96、死なば諸共と色仕掛け*

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 桃野郎が迫り来る。

 鬼より鬼らしい強さを見せつけ、恐ろしい桃臭を巻き散らかす野郎が、俺の居城である【鬼ヶ城 レベルMAX】に来訪し、俺の安眠部屋であるダンマスルームまでやって来た。

 ドドドドドドドーッと走ってきて、スパァァーン!
 部屋の襖が開く。

 ここまで一直線だ。罠など仕掛けなかったからな。

 俺は畳の上で正座をして待ち構えていた。いざとなったら腹くくろうと、白い装束を身につけてのご対面だ。

「髪が黒い。角も黒い。お前が黒鬼だな」

 赤鬼との全力対決の後、走ってここまで来ただろに新品の服装だし埃ひとつ被っていない。
 怪我だって負っているはずだが、それも魔法で完治させてしまったのだろう。
 さす最強チート野郎。憎らしいぜ。

 疲労濃く息の一つでも乱していれば可愛げがあったものを……。

 桃色ロングな髪の毛のキューティクルも失わず、むしろ爽やかに桃の香りを撒き散らからし、やつは淡々と俺に向かって誰何する。

 初めて会った人には「はじめまして」だろうがああああ。そう、つっこんでやりたいのは山々だが、ちょっと気になることが。

「黒鬼って……。確かにそう名乗ったことはあるな。でも本名は違う」

 本名は塩板シオ。この世界に来て定着した名前だ。

「本名があるのか。教えろ」

 上から目線の命令口調で言われて素直に教えるわけなかろうが。
 こいつ傲慢だな。皇子だからだな。

 まったく、本当にこいつの教育係は何やってんだ。いくら宰相であった親父がいないとはいえ皇子を教育する人間はいるだろうに。

 まさか、これが皇族教育の弊害というやつか……!?

 ジャイアン育てる帝王学は如何なものかと思うよ。だから国が滅ぶんだよ。うちの親父が滅ぼしたんだけどね。再建したのも親父だけどね。
 その親父が消えて元の木阿弥ならば、再度、国など滅べばいいのにとまで思うぞ。この傍迷惑桃皇子を見ていると。

「うっせえ、ダンジョン荒らし野郎めが。うちのやつらいっぱい腑抜けにしといてそりゃねーわ。教えてなんかやんなーい」

 べーと舌出して拒否した。最期のあがきだ。せめて何か一矢報いないと、こいつのピーチスメルで狂わされたダンジョンの愉快な仲間たちに申し訳が立たん。

 あいつら、まだホモォしているんだぞ!

 ホモォして無防備なあいつらにはアフターケアを施し、然るべきところに避難させておいた。が、一度発情したからには止まらないらしく、まだまだお楽しみは続いているのだ。

 楽しそうでなにより。俺ことダンマスは大ピンチ中だよ。

 自爆用爆破陣の位置を再度確認する。鬼ヶ城中に仕込んではあるが、一番のメインは俺が正座するこの真下、畳の裏に爆破陣がある。
 いくら鬼強い桃野郎でも間近に強烈な爆発を食らえば死ぬだろう。死なば諸共というやつだ。

「ふむ、べーとな。舌など出して……口からして欲しいのだろうか……愛いやつよ……」

 桃野郎は自らの顔を手のひらで抑えてプルプルしている。
 どうしたトイレか?

「黒鬼、やっぱり可愛いな。俺が見込んだ通りに可愛いし可愛い。可愛いのでちょっとだけ股を開け。可愛いところが見えるかもしれない」

 は? こいつ頭おかしくね? 可愛い可愛い連呼されて挙句に股開けだあ? 寝言は寝てからほざきやがれ!

 もうこいつ吹き飛ばしてやろうと思ったが……ちょっと考え直す。

 どうせならこいつの口車に乗って身近に誘い込み、自爆してやろう。
 股が好きなら股を見せてやる。油断したところをボカンと一発吹き飛ばした方が確実じゃねえか。
 男相手に色仕掛けせにゃならんのが俺の有終の美を汚す気がするけど、そこは恥を忍んで目的を果たすまでだ。

 死を覚悟しての白装束。前袷の薄い着物だ。脚を崩して裾を開け、ゆっくりと開脚していく。やつに見せつけるように。

「これでいいか? いいなら、こっちへ来い。望み通りにして​────っ」

 て、おい、まだ台詞途中だ。なのに桃野郎、瞬間移動したぞ。一瞬で俺に最接近。
 さっきまで桃野郎の全身を目に映していたはずなのに、今はもう目の前で桃野郎の顔がドアップだ。

 うっ、無駄にイイ顔をしている……。

 不覚にも桃野郎の整った顔面を目の前で見て固まってしまった。

 祖国日本では、なかなか見ることのない桃色髪はコスプレイヤー並の派手さだな。男のくせに似合っている。
 桃の色のような瞳も、こちらの世界に来て長いけど、こいつしか持っていない神秘的な色合いだと思う。

 要はティリン・ファ皇国皇族の独特の色なのだろう。

 美しい桃李の色だ。
 産まれたばかりの頃、俺の指をちっちゃな紅葉の手で握って、じっと見つめてきたあの瞳と同じだ。
 そりゃそうか、あの赤ん坊が今の桃野郎だもんなあ。変わらないのは瞳だけか────。

 ​────て、せっかく懐かしいものを思い出していたのに、桃野郎の手が不埒だ。
 開けた裾の隙間から、すすっと入ってくる手によって意識が現実に戻された。

「なっ、」
「肌理細かい無垢な肌だ。誰にも触られていないな?」

 太腿を撫でられている。その触り方が、というか手つきが、あやしい。なでなでというより、ねっとり気味。指腹でさわさわしつつも手のひら全体を使って俺の……確かに誰も触れたことがない太腿を撫で回す。

 変態だ。紛うことなき変態の所業だ。うちの亡き親父にも似た変態的行為。セクハラだ。

「っ、桃野郎め、何がしたい」
「この柔肌に、俺の証を刻んでやりたいだけさ」
「は​────くぅ、っ」

 桃野郎から、噎せ返るような桃臭がしてきた。

 咄嗟に鼻へと両手をやってピーチスメルを遮るが、遅かった。けっこう嗅いでしまった。この芳香をもっと嗅ぎたいと思ってしまう。抗えない。
 少量ならば鬼には効かないはず。けれど間近で大量の桃臭を食らった今、覿面に効いた。鼻だけではない。全身の毛穴からも染み込んで脳神経を刺激してくる気がする。
 こうならないためにも防護陣を張っていたけれど、それすら無駄だったようだ。

「俺の匂いに狂え」

 何だその中二っぽい台詞! 格好良いじゃないか! ある意味ドキドキソワソワして共感性羞恥を呼び起こす。俺の中二心よ鎮まれ。
 
「うぅぅ……」
「黒鬼……美しい黒髪だ。肌は白く、手に吸いついてくる。噂以上に美しいお前が欲しい。俺のものになれ」

 男に俺のもの宣言されても、普段ならウゲロロロ死ねクソがって思うだろう。だが、ピーチスメルにやられた今の状態では桃野郎の言葉が魅惑の言霊に早変わり。言霊は耳の奥に溶け込んで、頭はくらくら心臓ときめき、更に悪いことに下半身へと血流が集中して背筋をぞくぞくさせてしまう。

 なんてこった俺、まさか発情してんのか?

「硬くなってきた。効きが良いな。素直で可愛いな黒鬼や」
「っ、てめえが触るからだろう……!」

 太腿どころか股の間のブツまで優しく丁寧に撫でられた。しかもわざと性感煽るような手つきで。
 他にもあっちこっち撫でられた。帯はそのままに、着物の裾、衿、袖を乱して開けていくのもわざとに違いない。この痴漢!

 たすけてーえ! お巡りさん、こいつ変態です!

 って、叫ぶ勇気。持てないよね。恥ずかしいよね。痴漢されても何もできない女子の気持ちを今知った。知ったところで、この桃野郎が痴漢をやめてくれるわけもないけど。

「はぁ……美しい黒鬼……、間違いない。この黒髪、この黒角、黒鬼だ、黒鬼がそうなんだ……」

 なんかハァハァしているこいつマジ痴漢変態犯罪者。

 俺の股間の物体を褌の布越しに手のひらで弄びながら、髪を手で梳いて、頭の天辺にある黒鬼のシンボルたる角にまで手を這わせてくる。

「ぁえ? あ、そこ、やめろ、やぁぁ……っぅぅ」

 そこというのは角だ。俺の黒角を桃野郎がなでなでしただけで、脳天から背筋に沿って快感が走った。

 え、これどゆこと気持ちいい……。

 決して桃野郎にそんなことは告げないけれど、股間の敏感なところも布越しに触れられているから、そちらの刺激と混同しているのだろうか?

 ああ、いや、違う。本当に気持ちいい。角に触れられるだけで性的な快感が走り抜ける。

 あれえ? このこと、前にチャワードが何か言ってなかったっけ?
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