ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

95、拳で語って大ピンチ

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 ────自爆用爆破陣。

 こいつを起動したら最期、このダンジョン鬼ヶ島の終焉である。

 敵を巻き込んでの自爆なんて橙鬼に先を越された時は驚いたものだが、俺も同じようなことを考えていたから本気出して止めれなかったんだよなあ……。
 今後、これを実行に移すかどうかは桃野郎次第だけども、果たして────。

「シオちゃん」
「マザー、その格好……」

 いつもと違う格好のマザーが俺の部屋に入って来る。着ているのは白い着物、死装束だ。

「シオちゃんが覚悟しているのに、私が逃げるわけないでしょ。ダンジョンコアとして、ダンジョンマスターの近くに居るわよ」

 にっこり笑っておっしゃるが、俺としてはシンラと一緒に逃げて欲しい。
 マザーさえ無事なら、このダンジョンは再起動可能なのだ。ダンジョンマスターだってシンラがやればいいし……ということを口にしたら、マザーに唇をつねられたのだが。

「いひぃ、いたひよ」
「悲観するようなこと言うのはこの口かしらあ? 二度と言えないように唇を縫い合わせようかしらあ」

 ええええ、めっちゃ笑顔で怖いこと宣告された。

「あーあ、母上を怒らせた。兄上はおバカだなあ」

 シンラには馬鹿にされたのだが?!
 マザーと共に、この部屋に入ってきていたらしい。

「ショータ君を腕にぶら下げている弟に言われたくねえ」
「可愛いでしょ」

 ひっついて離れないらしいショータ君。 
 魔界のじいじのところに避難しないでシンラと一緒にいることを選んだシンラ大好きっ子は、不貞腐れた顔してシンラの腕にしがみつき瞳は潤んでいるけども、絶対に離れないぞという決意が滲んでいる。
 健気だなあ。

 うちの肉食弟のどこがいいのか知らんが、幼い頃からの刷り込み効果だろうな。
 ひたすらシンラなしでは生きていけないと思わせるようなことをして依存させたのだ。
 具体的にどんな手口かは俺の口からは憚られるぜ。
 まあ、一種の洗脳だな。我が弟のくせにこの腹黒さ。末恐ろしや。

「僕だってね、考えたよ。ショーちゃんを傍に置いたら危ないから離れようって」

 シンラのその言葉へと顕著に反応したのがショータ君だ。涙スイッチでも押してしまったのかというくらい瞬間的に、目から悲哀の液体がダバーと溢れた。
 ただでさえ潤んでいた瞳だ。決壊した涙川をシンラがどこからともなく取り出したハンカチで拭う。

「でもね、一緒じゃなきゃ駄目だ。一緒にいないと寂しいどころか心が死ぬとまで思ったんだ。実際、別れると思ったら心が痛いしさ。兄上も、母上と別れると思うと心が痛いんじゃない?」

 ショータ君の鼻水も拭きつつ、俺に問いかけてくるシンラ。
 シンラめ、12歳のくせに恋愛マスターみたいなことを言う……。

「一緒にいないとね。家族なんだからさ」

 しまった。恋愛よりも家族愛を出されると俺は弱い。
 前の世界、地球は日本の養護施設で育って家族ってやつには飢えていたのだ。逆に今、異世界に来て、俺はそれに十分満たされている。

 やっと手に入れた愛情を手放すとなると、確かにシンラが言ったように心が死ぬかもだな。
 一応、親父を失った時だって涙は出ずとも喪失感が甚だしかった。

 マザーに向き直る。

母上マザー、俺、どうなるか分かんねえけど、運命を共にしてくれる?」

「当たり前よ」

 真っ直ぐと視線が合い、鷹揚に頷くマザー。

「それに、このダンジョンを荒らしに来た子は黄金竜の後継者だって言うじゃない。金さんの後継者なら……ふふふ、私がこの目で見極めないとね」

 マザーって意外と血の気が多いよな。過去、殺人人形と呼ばれた経歴があるだけに、戦闘能力も高そうなのだ。

 でも、マザーにはダンジョンコアらしくマザーの部屋に鎮座してもらうことにした。

「特等席ね」

 お気に入りの座布団をいそいそ用意して座るマザーは初めて会った時のように神々しい球体になった。
 ミラーボール再び。

「ハルネラさん、マザーとシンラのことも頼みます」

「ええ、任せておいて。ダーリンがヘマしても私が防波堤になるわ」

 家族の護衛をハルネラさんにお願いした。
 ショータ君がシンラと離れないと言い張るのでダンジョンに残ったハルネラさんは、赤鬼のことが気になる素振りを見せつつも、最終防波堤になることを承諾してくれたのだ。

 則ち、赤鬼が抜かれ、俺も倒れた場合、ダンジョンコアであるマザーを守るのはハルネラさんだけになる。

「どうしようもなくなったら、魔界に逃げてもらって構いませんから」
「あら、シオくんは私があの坊やに負けるとでも?」

 おお、ハルネラさんにとったらチート桃野郎も坊やなのか。
 そりゃそうか、前前世から記憶のある偉大なるビッグマザーだもんな。

 いえいえ滅相もないと、首を振って苦笑いしておいた。

 黒画面の赤鬼ドーム内中継を観る。
 赤鬼も、桃野郎も、実に泥臭い試合をしていた。

 お互いがボロボロ、満身創痍になりながらも瞳だけは闘志を燃やし、赤鬼など全力が出せる喜びで口元を歪めて渾身の拳を放つのだ。

 少年漫画かな?

 往年のスポ根漫画を実写化したような場面がそこにはあった。
 本人たちだけが楽しそうなやつ。そしてストレートパンチが交差して二人同時にノックダウンするやつ。
 正にそうなったのだが。

「くっそ、やるじゃねえか……」

 悪態を吐くことはできるけど、体は俯せに倒れたまま動けないらしい赤鬼。

「お前もな……」

 ふらふら立ち上がりつつも赤鬼の強さを認める台詞を吐く桃野郎。

 やはり少年漫画の王道的展開だ。拳と拳を交えた者は好敵手同士となるのだ───て、友情を芽生えさせてどうする赤鬼ぃ! そいつは敵だぞ! 好敵手と書いてライバルと呼ぶだなんて、許さないんだからね!

 ……何にせよ、まずい。赤鬼がやられた。我が鬼ヶ島で最強の鬼が倒された今、俺を護るやつがいない。
 俺、丸裸。大ピンチだ。

「シオ様、僕がお供します。逃げましょう」
「リアン……」

 ハイネの方は引っ込んだらしい。リアンが蜘蛛じゃなく人の姿でやってきた。その辺の時空が割れているから、そこに飛び込めってことらしい。
 時空蜘蛛なら、確かに俺を連れて逃げることも可能だな。けど、ここで逃げたくないので首を振った。

 桃野郎が赤鬼に近づく。とどめを刺そうとする動きだ。

「させるか」

 地図上で赤鬼ダブルタップ。『拠点に呼び戻しますか? はい/いいえ』で『はい』を選ぶ。

「へたこいた……すいません、シオさん……」

 ダンマスルームへと赤鬼が戻って来た。
 藻スラ卵を全色分け与え、苦労を労う。

「いいから、休め。ハルネラさんとショータ君のところに送ってやる。万が一の時は魔界に避難しろ。許可する」

「シオさん、やつはシオさんのことを」

 聞く耳持たーん。赤鬼さくっと転送。

「いいのですか? 赤鬼君、何か言いかけてましたけど」
「うん、何となく分かるから、いい」

 友情の拳を交わしちゃったようなやつらだから、相手を庇うようなことでも発言する気だったのだろう。

 やめようぜ、そういうの。聞いちゃったら桃野郎に絆されちまうだろ。

 俺はあくまで、桃野郎を敵として扱わねばならんのだ。そうしないと、ダンジョンを守って散っていった勇士達に顔向けできない。
 ゴーレム連隊に麒麟様に八咫目、フロスト、オルグにウルク、妖精たち、橙鬼、それと一応のカリオス夫妻と星屑野郎────皆、雄々しく戦い、散ったのだ。

 彼らのダンマスである俺が怯んでどうするってえの!

 気合いを入れて桃野郎を迎え打とう。

 リアンは不承不承ながら時空の彼方に引っ込んだ。
 俺は白装束に着替えてダンマスルームこと安眠部屋にて桃野郎が来るのを待つ。

 ただ座して待つのもなあ……。

 ちょっとだけ【鬼ヶ城 レベルMAX】の威力でも試そうかとも思ったが、相手は最強チート野郎だ。城内の下手な罠など通用しないだろうし、お城変形ロボを繰り出しても瞬殺のビジョンしか見えない。 
 不毛なことは、やめよう。

 そうそう、この鬼ヶ城はな、ロボになるのだよ、ロボに。今は『ver.1 鬼ヶ城』だけど、他のver.にも変形できのだ。

 俺の中の中二が騒ぐぜ。
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