ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

84、桃色イケメンきてダンジョン荒らし

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 一年が過ぎた。

「ダンジョン荒らし……だと?」

 前に人狼被害と共に話題になったダンジョン荒らし。確か犯人は、ダンジョンマスター不在のダンジョンのコアを破壊して回っているとか、最高狂ったやつだったはず。

 え、そいつ? そいつが我がダンジョン鬼ヶ島に来たの? マジで?

 スピード攻略を繰り返すのでなかなか捕捉されないやつだったが、あれから度々の目撃情報が集まり、外見が割り出されたらしい。

『桃色の髪、桃色の瞳、桃の花の香りを纏った絶世の美男子……だそうよ。イケなメンだからって悪いことしてるんだから、いけない子よ。ぷんぷん』

 黒画面に映る魔界公爵ローゼンバッハ卿は、本日もいかめしいサリーちゃんのパパルックなのに喋り口調がオネエである。
 もう慣れたが、慣れるまで脳がバグってしまい、いつも「はあ、はあ、そうですか」と冴えないサラリーマンみたいな受け答えしかできなかった。
 今はもう普通に会話できるけどな。

 そんなロゼさんのおっしゃる特徴とそっくりなやつが、とうとう我がダンジョンにやって来たわけだ。
 まだ第一階層の洞窟を進んでいるところだけど、ダンジョンのモンスターたちには一斉に警戒の一報を伝えた。

 悪い予感がするのだ。

 もしかしたらダンジョン荒らしが来るかも。そう仮定して災害対策準備の如く事前に手は打っていたものの、まさか本当にやって来るとは想定外である。

 ダンマス不在ダンジョンにしか現れないんじゃなかったのかよ……!

 焦燥に駆られながらも監視モニターの黒画面を開き、ピンクで桃色なイケメンとやらを映し出す。

「げ。本当にイケメンだし」

 やや昭和よりの二枚目だが、整った顔してやがる。
 ステータスを覗き見る。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 タオジン・ユア【男】
 種族:精天児
 職業:ティリン・ファ皇国皇子
 レベル:最強チート【全能力超絶最高峰極位値】
 能力:ピーチスキル【:)>:(:)...;)】
 称号:『桃精の血脈』『黄金竜の後継者』『;/$ END』
 ――――――――――――――――

 衝撃情報が多いな。

 皇子のくせにダンジョン破壊魔やっているなど言語道断だろ。
 祖国にお帰り下さい。
 宰相であるうちの親父が居なくなってから、ティリン・ファ皇国とは没交渉だ。皇子が出歩いてんぞ。なんとかしろ。そう訴える相手すら知らん。

 ピーチスキルの内容は……文字化けかなこれ……? んんん? どこかで見たことあるような……?

 タップしてみる。

『:)>:(:)...;):喜怒哀楽のbǽfəlgæ̀b』

 より難解になった。

 更にタップしたけど、もう詳細は出て来ない。ダンジョンをスピード攻略できる能力だろうから詳しく知りたかったが無理だった。
 俺よりレベルが上だからだろうな。全能力超絶最高峰極位値ってどんだけだ。能力渋滞にも程がある。

 称号にも文字化けがある。辛うじて読めるENDが不気味すぎる。何を終わらせる気だ。

 そして『黄金竜の後継者』。
 魔王が言うには、親父が最期に命を救いし者が後継者のはず。最期……俺の目の前で消えた親父が、俺に託したやつか……。

 ティリン・ファ皇国の皇子な。

 あの時は赤ん坊だったけど、大きく育ったなあ。ダンジョン荒らしできるくらい立派な若者に育ってよかったよかった────て、よくねえよ?!
 やってること悪行だよ! 誰だ皇子を教育した馬鹿は! ダンジョン荒らしはいけないこと、皆が困ることだって教えとけ!

 ステータスを調べたのに意味不明なところが多い。ムカつく野郎だ。
 黒画面の監視と地図を並行に開きっ放しにして位置情報をしっかり把握しておく。

 そうこうしている内に、第一階層から降る階段まで辿り着いたようだ。
 低級モンスターたちにはダンジョン荒らしを発見した時点で直ちに退避をアナウンスしておいたから、実質の敵なしで第一階層を抜けれたわけだ。
 宝箱に目もくれず突き進み、一階層の突破時間は一時間ってところ。
 宝箱くらい開けろよと思う。それで大分時間をロスできるのに……。

 稼いだ時間は弱いモンスターたちが逃げる時間になる。あんな最強チート野郎に適うわけないからな。はよ逃げ。

 第二【階層(山)】。

 トレッキングコースは丸無視、アスレチックなんかやってくれない。
 なんて不敬なやつだ。俺のダンジョンを何だと思ってやがんだ。
 当然、ルール違反を繰り返す不届き者には我がダンジョンの番ゴーレム連隊が黙っちゃいない。

「グオオオオオッッ」

 おお、岩ゴーレム隊長はいつになく気合いが入っている。ゴーレム特有の唸り声を上げて非常識な侵入者へ向け突進。

「無機物なのに喋った……」

 ダンジョン荒らしも喋った。

 あれ? これ迄、終始無言だったから無口な野郎だと思っていたのに、もしかしたら違うかもしれない。その後も何やらブツブツ言っているんだよね。
 不気味だ……。
 ステータスも不気味なら、その生態も不気味とは不審な野郎だ。お巡りさん、コイツです。

 と、我が家のお巡りさんこと【岩ゴーレム レベルEX】が突っ込んだー!
 レベルEXはレベルMAXを超越した存在である。我がダンジョンでEXに至ったのはこの岩ゴーレム君だけである。

「ブオッ……!?」

 そんな中級モンスターの中で最強つおいはずの岩ゴーレムの一撃は、あっさり避けられ、次の瞬間には岩ゴーレムの方が膝をついていた。

 ホワット?! 何が起きた?!

 理解不能なことが次々と起こる。最強EX岩ゴーレムを皮切りに、他のゴーレムたちも膝を屈していくのだ。
 瞬く間にゴーレム連隊は壊滅。
 ダンジョン荒らし野郎が背中を向けて去った後には、ピクピクと打ち震えるゴーレムたちが残っただけだった。

「……どういうことだこれ?」

 やられてしまったゴーレム連隊を回収。
 地図から転移指定、『ここに召喚しますか? はい/いいえ』でダンマスルームへ召喚したわけだけど、目の前でプルプル子犬の如く震えるゴーレムたちが、なんだかとっても哀れを誘う。

 急いでエスプーサも召喚。事情を通訳してもらう。

「『言葉にならない……そういうこと……』だそうです」

「ますます、どういうこったよ」

 せめて震えている原因、寒いとか、怖いとか、あるよな。それすら言葉として表現できないらしい。

 これが、意味不明なピーチスキルを使われた結果だというのだろうか…………。

 可哀想な感じになってしまったゴーレム連隊は魔界に帰る許可を出した。ダンジョンマスターである俺が許可を出せば、敵に倒されなくても帰省できるから。
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