ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

83、うっかりして衝撃の事実

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 エルセス君は確かにいる。六年前にやらかしたカリオス氏とテネリアさんの子供で、もうすぐ五歳。ここにいるエル君とは年齢が違う。
 エル君は32歳。あれから14年経っているけど見た目が当時のままだ。さす天使族。

 ということは、同じ名前の長男を既に拵えていたということか?
 これは……どういう案件だろう?
 若しくは事案ですぞ。調停ものですぞ。動揺してネオ喋りになってしまう程だ。

 カリオス氏に浮気を問い詰めればいいのか……?

 でも、俺が知らないだけでテネリアさんとの子かもしれないじゃないか。
 早まるな俺。

「ダンジョンマスターともなると鑑定陣なしでステータスが閲覧できるのか……。ならば、お話をした方が良いかもしれません。それと、お見せしたいものがあります。今、お時間とれますか?」

 リーダーのタモンが何やら真剣な様子なので、ツリーハウスの一つに入って話をすることにした。
  
 俺の他にはタモンとエル君だけ。

 他のメンバーは何か知っている風に、「エルぅ、わかるといいねえ」「ご武運を」「俺ら、この町を見学してくら」と去って行った。

 適当なツリーハウスに入ってAIにお茶を頼む。ハイスピードで茶菓子も付けて出してくれた。魔法陣に届くから、そこからはセルフサービスだ。

 座って腰を落ち着けてから、話す。茶がうまい。新茶だなこれ。

「スキュラたんに聞いたけど、俺に会いたくてクリア目指してた冒険者って、君たちのことでいいか?」

「え……、そうです。スキュラたんに伝言を頼みました。でも、まさか、本当にダンジョンマスターに伝わっているとは思ってもみなくて、こうして会えて光栄です」

「タモンだっけ。いいよ、普段通りに喋って。俺もこういう性格だから、敬語とか、ぶっちゃけ苦手なんだよね」

「あ、ははは。参ったな。でも、ありがたい。そうさせていただく」

 うん、さっきまで苦手な敬語を無理やり使ってた感あったからね。こっちの方が、彼らしい。

「それで! あ……。えと、あの、不躾ですみません」

 エル君どうした。別に謝らなくても……ああ、そうか。

「こちらこそ、ごめんよ。君たち、恋人同士だったな。うちの赤鬼の前で、ぶっちゅーしてたもんなあ」

「ひえっ、忘れてください!」

 忘れられない出来事だったからこそ覚えているわけで。

 赤面したエル君を抱き寄せるタモンは、こいつ可愛ええなあダンマスの前で嫉妬するとか可愛いことしやがって滾る……みたいなこと考えている顔だぜ、あれ。

 俺、詳しいんだ。周りにやたらとゲイカップルやらホモカップルやらいるから、BでL的な思考が読めるようになっちゃったんだ。
 この世界に来て身についた要らないスキル筆頭だよ。

「それで、」

 と話を戻そうか。

「俺に見せたいものがあるんだっけ?」
「あ、ああ、そうだ」
「あえ、え、そうですそうです」

 戻って来てね二人も。

「これを見て欲しい」と、タモンが出したのは……無限ポシェットかな?

「それ、うちのダンジョンの宝箱から出たの?」
「いや、これは時空ポシェット。たぶん、このダンジョン産ではあると思われる」
「んんん? だよねえ。それ、うちのリアンとハイネが作るものにそっくりだもの」

 だとしたら、何だ?
 宝箱に入れた覚えのないリアンとハイネが作ったポシェットが、ここにあるという不思議……。

「それから、エルセス」
「はい。このマントを見てくださいダンジョンマスター様」

 それはエル君が今着ているマントだ。
 裏地には数多くの魔法陣が縫い付けてある。

「それら魔法陣は元々、幼いエルセスが着ていた服にあったやつです」

 この魔法陣、丁寧に刺繍で縫われている。これ絶対テネリアさんの刺繍である。うちのエルセス君も、似たような刺繍が施された服をいつも着ている。むしろこの服の生地、昨日着ているのを見た気がするぞ。

 ということは何か、エルセス君はエル君で、エル君はエルセス君なのか……?

 俺の頭はこんがらがったままだが、タモンは続けてエル君を拾った時の状況を語ってくれた。
 そしてポシェットの中身についても……。

「うわあ、藻スラ卵って明らかにうちのダンジョン産アイテム……この中二病くさい武器防具のラインナップも、如何にも俺が選んでそう……!」

 自分で言って自分にダメージを与えたぞ今。へこんで机に突っ伏す。

「あの、自分たちはこれらのアイテムにたくさん助けられましたから、だから、落ち込まないでっ」

 いやいやエル君、慰めてくれるのは嬉しいけど、これは自分の黒歴史っぽいものを目の当たりしたダメージというかね、そういうどこか憐れみ漂うものなのだ。
 放っておいてくれるのが吉だよ……。

 まあ、そんな感じで暫く突っ伏していたけど、この問題は棚上げに出来ないぞと一念発起。

「わかった。エル君は、うちのエルセス君だ。いつかエルセス君はタモンと出会ってラブラブになるのだ。そうだ。それでいいじゃないか」

 だとするとエルセス君をタモンの元へ届けたのは我が家の蜘蛛たちだな。聞けば今から約26年前の出来事だ。過去へ行くには時空を渡るしか手段はなく、それができそうなのは時空蜘蛛なリアン&ハイネしかいない。

 タモンがエルセス君を拾った時、エルセス君は六歳くらい。来年あたりに、エルセス君を過去に飛ばす事情が生まれるのかもしれない。

 どうしような。このことはカリオス氏に伝えるべきか、伝えないでおくべきか……。
 テネリアさんに伝えたら泣いちゃいそう。カリオス氏にだけ伝えよう。

「そうだ。エル君、カリオス氏に会うといい」
「えと、突然ですね。両親は……やっぱり、このダンジョンにいるのですね」

 そこからだったか。ちょっと衝撃のあまり説明不足だったかもな。

「いるねえ。カリオス・アリヨクは第七階層のボスだ」

「え──?!」
「父が……?」

 なんかタモンの方が驚いているけど、何で?

「カリオス・アリヨクは堕天使ではないの、か……?」

 おっと、そのことか。

「カリオス氏は半堕天使だよ」

 引き篭もり過ぎて天主に忘れかけられているということ、ここには左遷っぽい感じで追いやられた理由まで話した。

「て、天界は、そんなことに……」

 ありゃ、今度はタモンが俺みたいに机へと突っ伏した。
 この反応、タモンは天使っぽいなあ。でもステータスは人間だ。もしかして偽装している?

 そのことを訊ねたら、神笏とかいう神具で中二病くさいアイテムを見せられた。
 やめて、それは俺のハートを抉るよ。でも、来年にはそれ買うんだろうな、俺。
 心を強く持つんだ、俺……!

「それで、カリオス氏には会うかい?」
「いえ、自分は遠慮しておきます」

 エル君は辞退した。今、愛すべき幼少のエルセス君が傍にいるのに、そこに未来の自分が出て行って悩ませちゃいけないと慮ってのことだ。

 エル君は賢いなあ。

 同様にタモンも「今のエルセスがどうなるか、見守ってから名乗り出た方がいいように思う」と、慎重な姿勢を見せた。

 だったら俺も、カリオス氏にエル君のこと告げない方がいいかも。
 来たるべき時に備え、こそっと中二病アイテム類を用意することとしよう。

 と思っていたのに、こういう時に限ってやって来るのがカリオス氏なのかもしれない。

「第三階層が制覇されたと聞き申した」

 本日も恐怖の893顔をしている。

 ちょうど晩飯時で、タモンとエル君との会談は終え、俺はプロ野球中継を観ているところだった。昼間に剥いていた空豆が調理され、それをつまみにビール開けたところでもあった。

 顔の怖いカリオス氏にも注いであげる。

「おっと、忝ない」

 冷えたグラスに冷えたビール。泡はきめ細かく口当たりはまろやかなのに爽やかな発泡音と爽快な喉越し。

 最高の時間だね。

 邪魔した罪は重いよカリオス氏。今から重い話をする。
 お前に受け止め切れるかな……?

 な~んて、重い雰囲気を出しつつも、どっちかと言うと談笑。和気藹々に話をする。
 酒呑み中だから、こんなものだ。

「だからな、来年あたり何かあるから、今からリアンたちに服の他にも時空ポシェット作りの提案をだな」
「はっはあ、了解である。しかしこの件はテネリアには話せんなあ」
「うんうん、無理だよお。内緒しといてな」

「あら、何が内緒なのでしょう?」

「テネリア……!」
「わあい、見つかった」

 あっさり白状して、うっかり全部喋って、泣いちゃうかと思ったテネリアさんは、「それが本当のことならば、今から準備しませんと」と、どこまでもできる秘書であったのだった。

 一緒に来てくれたエルセス君にはチョコをあげといた。

「食べたら歯を磨くんだぞ」
「あい、わかりまちた」

 うん、良いお返事。
 やっぱり賢いなあエル君は。
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