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桃野郎が君臨するぞ編
82、空豆むいて初クリア者歓迎
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「シオ兄様ですぞー!」
「シオ兄たまぁ」
可愛いのが二匹、手を繋いでやってきた。雑魚鬼ネオとタケちゃんだ。
ネオはこの十年、八咫目に鍛えてもらったおかげか、ダンベル持ち上げたくらいじゃ死ななくなった。いやもう基本がそこかよって感じで、普通のトレーニングが難しくて、あまり無茶はさせれなかったのだ。
それでも藻スラのドーピングは効いた。
見た目、十歳児くらいなのだが、その年齢ぐらいの体力はついたと思われる。
成長が物凄く遅いけれど、日々のラジオ体操と藻スラドーピングで何とかここまで来たのだ。
今後も励んで欲しい。せめて雑魚から橙鬼あたりまでランクアップしような。
タケちゃんは竹琉君という名で、赤鬼夫妻の次男。
長男のショータくんは赤鬼の赤毛とハルネラさんの金髪が混ざった色合いをしているが、タケちゃんは完全に母親似。金髪どスレートの碧眼だ。
つまり、そこにはちっちゃいエルフがいるわけだ。尊い。
雑魚鬼ネオの褐色肌と、タケちゃんの色白美人。まだ幼いふたりの並びは対照的で、見る者の心をほんわかさせる。
いと尊し。
「おう、どうしたネオ」
俺は空豆の下拵えをしながら応える。
空豆、好きなんだよね。茹で用にサヤから外して豆に切り込みを入れているところだけど、もう半分は炒める用に薄皮を剥いてある。
茹でても焼いてもビールに合うからな。夜はこれつまみながらナイター観るんだ。
「黄金郷が攻略されましたぞー!」
「ぞー!」
「────ふぁ?」
急にぶち込んできたな。
とうとう第三【階層(古代遺跡)】が攻略されたということで、この二人が伝えに来てくれたらしいが、一応は黒画面で『階層攻略』通知が届いている。
空豆むくのに気合いを入れていたから後回しにしていた案件だ。
別に蔑ろにしていたわけではなく、この件でショックを受けるやつが目に見えていたので、そいつの対処を考えたり、スキュラたんからの伝言も考えながらの豆むきだ。
スキュラたんとは、第三階層の古代遺跡、主に水辺で棲息している犬面のモンスターだ。彼曰く、「主様に会いたがっている冒険者たちがいるワン」とのことだ。その冒険者たちは第三階層の初クリアを目指しているという。
ならば、今回のクリア者はその人たちだろうか。誰だろうな……名前まで知っているような冒険者は少ないのだが……。
冒険者はお客さんであり、ごく稀にバイトに使ったり、たまに噂を聞き出す要員でもある。
ダンジョン内を快適に過ごせているか気になるだろう?
宿泊施設のAIたちが集めてくるお客様アンケートの情報だけでは見えないところもある。だから冒険者の背後に黒画面を忍ばせて話を盗み聞くと、様々な噂が聞けるので重宝していた。
そうやって一方的に知っている冒険者は知り合いではあるまい。
そうすると、誰かなあ……。
こういう答えの見えない考え事には反復作業が向いている。空豆の皮剥きもだが、さやいんげんの筋取りもいい感じで考え事ができるぞ。あと、一休さんのポクポクチーンもよくやるな。
とりあえず今は反復作業。これ最適。
もう少し考えていたかったが、可愛い二人が御手手繋いで来てしまったからには行かなくてはな。
「二人ともありがとうな」
ポテチとチョコとアイスをやる。俺の好きな三大お菓子だ。
「うわぁーい、ちょこお。カード!」
「アイス好きですぞー! おお、これは、前にフロスト兄がくれたやつですぞ」
ネオはガリガリ君にかじりつき、タケちゃんはチョコを頬張りつつもポテチ袋に付いている野球カードを開けて、ご満悦だ。
食べ終わったゴミはゴミ箱になと注意を促してから、三階層に飛ぶ。「はーい」と、元気の良いお返事が背後に響いた。
第三【階層(古代遺跡)】。
ここの黄金郷シナリオは橙鬼が最初にクリアしてから誰もクリア者が出たことのない、云わば、難攻不落の最強シナリオだった。
どの辺が最強かというと、他の階層のシナリオだとメインのシナリオがあってそこにどんどん追加されていくループ型なのに対し、ここは一強。黄金郷シナリオしかなく、これがまた複雑怪奇で推理型ホラーゲームの様相を呈していた。
知恵と勇気、パーティーの絆、賢さと時には豪胆な判断も迫られ、更に運要素もあるので本当にクリアできるものは最早いないと思われていた。
今日までは。
クリア者、出たらしい。
「僕の考えた最強シナリオが敗れた、だと……僕の、僕の最強が……丹精込めて育てた僕のシナリオが負けるなんて……有り得ない……これは夢だ……夢なんだ……僕は……最強……」
それで若干廃人になりかけているのが、橙鬼だ。予想通りショックを受け、虚ろな瞳でブツブツ呟いている。
お前、疲れてるんだよ、休みな……。
そんな気持ちを込めて睡眠の魔法陣を額にあて、橙鬼を眠らせお布団へと転移させた。本物の夢の中へようこそだ。
「それで、君たちが第三階層の初クリア者か。おめでとう。ここのツリーハウスはどうだ? 一泊しての感想、意見もあったら遠慮なく言ってくれ」
何せ十年以上前に創ったきりだ。定期的な掃除やシステムメンテナンスは俺の魔力で賄われていたが、こうして人に利用されたことは橙鬼以外にいない。宿泊者の貴重な意見はフィードバックしないとな。
「貴殿が……このダンジョンのダンジョンマスターで宜しいか?」
あ、名乗り忘れたな。
「そうだぞ。ダンジョンマスターの黒鬼だ」
胸の名札は気にするな。見ると呪われるぞ。たぶん。
村長の前では手で隠した俺だが、冒険者の前では特に隠すこともない。冒険者はお客さんだからな。ショップ店員が名札を付けて売り場にいるのと同じ感覚だ。
「失礼した。私はタモン。このパーティーのリーダーだ。一泊させてもらえて助かった。物資も尽きていたし、まさか最後の最後でこのように豪華な温泉付きの宿に泊まれるとは思わなかった」
「タモンね、よろしく。ここのツリーハウスタウンはクリア者だけしか入れない特別な町なんだ。好きなだけ滞在してくれ。二泊目からは料金掛かるから、稼ぎながら泊まればいいよ。ところで君たち、このダンジョンができた当初に来たことあるパーティーだよね?」
そうなのだ。どこかで見たことある御一行と思って過去の履歴を調べたら付箋が貼ってあり、ダンジョン開通して初めて来たお客さんだと思い出した。
リーダーのタモンは神官武芸者。
忍者娘のパティ、女刀士マルグリット、重武者はガイストル、そして付箋を貼っておいた黒魔導士のエル君を引き連れ、上級冒険者として大活躍中のようだ。
今回の第三階層初クリアで更に注目されちゃうだろうな。
「えっ、我々を存じているので?」
「うん、ステータスが変わってたけど、エルくんに付箋つけておいたから、すぐにわかった」
付箋つけておいてよかった。
いつの間にかエル君たらステータスめちゃ上がっている。俺の黒画面の性能が上がったのか種族は天使族って出ているのも、びっくり。
更にびっくりなのがフルネーム。
『エルセス・アリヨク』
うん、この名前にピンときたんだが。
「シオ兄たまぁ」
可愛いのが二匹、手を繋いでやってきた。雑魚鬼ネオとタケちゃんだ。
ネオはこの十年、八咫目に鍛えてもらったおかげか、ダンベル持ち上げたくらいじゃ死ななくなった。いやもう基本がそこかよって感じで、普通のトレーニングが難しくて、あまり無茶はさせれなかったのだ。
それでも藻スラのドーピングは効いた。
見た目、十歳児くらいなのだが、その年齢ぐらいの体力はついたと思われる。
成長が物凄く遅いけれど、日々のラジオ体操と藻スラドーピングで何とかここまで来たのだ。
今後も励んで欲しい。せめて雑魚から橙鬼あたりまでランクアップしような。
タケちゃんは竹琉君という名で、赤鬼夫妻の次男。
長男のショータくんは赤鬼の赤毛とハルネラさんの金髪が混ざった色合いをしているが、タケちゃんは完全に母親似。金髪どスレートの碧眼だ。
つまり、そこにはちっちゃいエルフがいるわけだ。尊い。
雑魚鬼ネオの褐色肌と、タケちゃんの色白美人。まだ幼いふたりの並びは対照的で、見る者の心をほんわかさせる。
いと尊し。
「おう、どうしたネオ」
俺は空豆の下拵えをしながら応える。
空豆、好きなんだよね。茹で用にサヤから外して豆に切り込みを入れているところだけど、もう半分は炒める用に薄皮を剥いてある。
茹でても焼いてもビールに合うからな。夜はこれつまみながらナイター観るんだ。
「黄金郷が攻略されましたぞー!」
「ぞー!」
「────ふぁ?」
急にぶち込んできたな。
とうとう第三【階層(古代遺跡)】が攻略されたということで、この二人が伝えに来てくれたらしいが、一応は黒画面で『階層攻略』通知が届いている。
空豆むくのに気合いを入れていたから後回しにしていた案件だ。
別に蔑ろにしていたわけではなく、この件でショックを受けるやつが目に見えていたので、そいつの対処を考えたり、スキュラたんからの伝言も考えながらの豆むきだ。
スキュラたんとは、第三階層の古代遺跡、主に水辺で棲息している犬面のモンスターだ。彼曰く、「主様に会いたがっている冒険者たちがいるワン」とのことだ。その冒険者たちは第三階層の初クリアを目指しているという。
ならば、今回のクリア者はその人たちだろうか。誰だろうな……名前まで知っているような冒険者は少ないのだが……。
冒険者はお客さんであり、ごく稀にバイトに使ったり、たまに噂を聞き出す要員でもある。
ダンジョン内を快適に過ごせているか気になるだろう?
宿泊施設のAIたちが集めてくるお客様アンケートの情報だけでは見えないところもある。だから冒険者の背後に黒画面を忍ばせて話を盗み聞くと、様々な噂が聞けるので重宝していた。
そうやって一方的に知っている冒険者は知り合いではあるまい。
そうすると、誰かなあ……。
こういう答えの見えない考え事には反復作業が向いている。空豆の皮剥きもだが、さやいんげんの筋取りもいい感じで考え事ができるぞ。あと、一休さんのポクポクチーンもよくやるな。
とりあえず今は反復作業。これ最適。
もう少し考えていたかったが、可愛い二人が御手手繋いで来てしまったからには行かなくてはな。
「二人ともありがとうな」
ポテチとチョコとアイスをやる。俺の好きな三大お菓子だ。
「うわぁーい、ちょこお。カード!」
「アイス好きですぞー! おお、これは、前にフロスト兄がくれたやつですぞ」
ネオはガリガリ君にかじりつき、タケちゃんはチョコを頬張りつつもポテチ袋に付いている野球カードを開けて、ご満悦だ。
食べ終わったゴミはゴミ箱になと注意を促してから、三階層に飛ぶ。「はーい」と、元気の良いお返事が背後に響いた。
第三【階層(古代遺跡)】。
ここの黄金郷シナリオは橙鬼が最初にクリアしてから誰もクリア者が出たことのない、云わば、難攻不落の最強シナリオだった。
どの辺が最強かというと、他の階層のシナリオだとメインのシナリオがあってそこにどんどん追加されていくループ型なのに対し、ここは一強。黄金郷シナリオしかなく、これがまた複雑怪奇で推理型ホラーゲームの様相を呈していた。
知恵と勇気、パーティーの絆、賢さと時には豪胆な判断も迫られ、更に運要素もあるので本当にクリアできるものは最早いないと思われていた。
今日までは。
クリア者、出たらしい。
「僕の考えた最強シナリオが敗れた、だと……僕の、僕の最強が……丹精込めて育てた僕のシナリオが負けるなんて……有り得ない……これは夢だ……夢なんだ……僕は……最強……」
それで若干廃人になりかけているのが、橙鬼だ。予想通りショックを受け、虚ろな瞳でブツブツ呟いている。
お前、疲れてるんだよ、休みな……。
そんな気持ちを込めて睡眠の魔法陣を額にあて、橙鬼を眠らせお布団へと転移させた。本物の夢の中へようこそだ。
「それで、君たちが第三階層の初クリア者か。おめでとう。ここのツリーハウスはどうだ? 一泊しての感想、意見もあったら遠慮なく言ってくれ」
何せ十年以上前に創ったきりだ。定期的な掃除やシステムメンテナンスは俺の魔力で賄われていたが、こうして人に利用されたことは橙鬼以外にいない。宿泊者の貴重な意見はフィードバックしないとな。
「貴殿が……このダンジョンのダンジョンマスターで宜しいか?」
あ、名乗り忘れたな。
「そうだぞ。ダンジョンマスターの黒鬼だ」
胸の名札は気にするな。見ると呪われるぞ。たぶん。
村長の前では手で隠した俺だが、冒険者の前では特に隠すこともない。冒険者はお客さんだからな。ショップ店員が名札を付けて売り場にいるのと同じ感覚だ。
「失礼した。私はタモン。このパーティーのリーダーだ。一泊させてもらえて助かった。物資も尽きていたし、まさか最後の最後でこのように豪華な温泉付きの宿に泊まれるとは思わなかった」
「タモンね、よろしく。ここのツリーハウスタウンはクリア者だけしか入れない特別な町なんだ。好きなだけ滞在してくれ。二泊目からは料金掛かるから、稼ぎながら泊まればいいよ。ところで君たち、このダンジョンができた当初に来たことあるパーティーだよね?」
そうなのだ。どこかで見たことある御一行と思って過去の履歴を調べたら付箋が貼ってあり、ダンジョン開通して初めて来たお客さんだと思い出した。
リーダーのタモンは神官武芸者。
忍者娘のパティ、女刀士マルグリット、重武者はガイストル、そして付箋を貼っておいた黒魔導士のエル君を引き連れ、上級冒険者として大活躍中のようだ。
今回の第三階層初クリアで更に注目されちゃうだろうな。
「えっ、我々を存じているので?」
「うん、ステータスが変わってたけど、エルくんに付箋つけておいたから、すぐにわかった」
付箋つけておいてよかった。
いつの間にかエル君たらステータスめちゃ上がっている。俺の黒画面の性能が上がったのか種族は天使族って出ているのも、びっくり。
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