ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

80、匿名希望してモラハラまとめ

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 人数が増え、余裕を持って村人へと食料を供給できるようになった。やはり持つべきものは良き隣人というか冒険者たちだな。頼りになる。

 村長から話を聞いたら、明日食べるものすら尽きたらしいので、米などの穀物類と豆類、芋類、根菜類に干し果物を、村の倉庫いっぱいに詰めてあげる。
 これだけあれば、チンパゲールの町が再開通するまで持つだろう。

「ありがとうございます。ありがとうございます。ここまでして下さるとは……! ダンジョンの方とはお聞きしましたが、貴方様は一体……どのような御方なのでしょうや?」

 村長、粥を食べて少しは体力回復して精神も安定したらしい。ナイフは仕舞って、今はスプーンを持っている。デザートのとろけるプリンをあげたからな。

「ふ、俺が誰かって……村長、本当は気づいているんじゃないか? 俺はダンジョンマスターの……」

 はたと気づく。名前を名乗るべきかどうかについて。

 左胸に付いているチャワードの呪いの名札は、今も健在だ。
 名札には、『ダンジョン創造主 塩板シオ』と、堂々と書かれているのに、村長は気づかなかったのだろうか?

 気づいてないといい。むしろ見ないでくれ。

 そう思ってしまったからには名札をそっと右手で隠し、更に左腕を前に交差させ二重隠し、そのまま左手は片目を覆うという……なんかこう、中二病を患っているやつみたいなポーズをとってから、名乗りを上げてみる。

「黒鬼だ。俺の名前は……黒鬼だから」
「ダンジョンマスターの黒鬼様ですか」
「そう、そうそう、そうだよ」

 決して塩板シオじゃないよ名札見ないでね呪われるよ。たぶん。

 別に本名が恥ずかしいとかじゃない。ただ、こういう時は匿名希望というか、本来なら名乗らないで、ささっと善行して立ち去るのが格好良いっていうかさ。
 ほら、養護施設にランドセルをプレゼントする伊達直人みたいにさ。偽名でもいいわけで。あの御方からランドセルもらったことがある身としてはだな、そういう頭があったからリスペクトとしてだな。うん、決して、恥ずかしくなどない。

「ダンジョンマスター様自らが来て下さるとは嬉しい限りです」

 うわああめっちゃ純粋な目で感謝を真っ直ぐ伝えられた……! 俺、村長の清き瞳の視線で貫かれ死にそう!

「き、きき、気にするな。それより、どうしてこうなったか、事情を聞かせてくれ。俺もダンジョンマスターとして、メンドイ村とは仲良くしていたいのだ。もし、モダンガ王国から無理難題を押し付けられているなら、俺の方から直接に話をつけてやる」

「ううぅ───ありがとう存じます! 実は……」

 感極まりつつも、プリンも食べながら話してくれた村長。これまで誰にも打ち明けれなかったのだろう胸の内をも、詳しく喋ってくれたとも。

 そして分かったのは予想通り、この村がモダンガ王国の言いなりであるということ。

 以下、モダンガ王国からの無茶ぶりとその影響を時系列でまとめてみた。

 ①ダンジョン鬼ヶ島と転移魔法陣を繋げるから土地を開けろ、建物つくれ。ダンジョンマスター様の機嫌を損ねるな。不和を起こしたらどうなるか分かっているな。

 ②冒険者人口が増えるから宿屋つくれ。土地は農耕地をつぶせ。物資はチンパゲールから買え。商売始めるなら支度金をやるから儲けを税金として納めろ。

 ③人員が足りないなら村人を動員すればいい。村人一丸となって労働力になれ。魔導士を派遣するから使え。

 ④遊んでばかりの使えないぺえぺえ魔導士たちがやってきた。魔導士たちは娼館など遊ぶところをつくれとうるさい。せっかく儲けた金は納税義務と冒険者や魔導士たちへの賄いで消えていく。

 ⑤チンパゲールから物が届かなくなった。魔導士に頼んでも国へ報告すらしてくれない。種を買いに行かせた若者も戻って来ない。

 ⑥食料が尽きた。国からの供給はない。魔導士は真っ先に逃げた。村人に申し訳ない。死にたい。

 以上。聞いているだけで切なくなってくる村長の苦労話だった。
 モダンガ王国、どんだけえ。

 どのエピソードも酷い。国の横暴さが見え隠れするし、魔導士の使えなさには呆れ果てるばかりだ。

 底辺魔導士クリスが言っていた虎の子の転移スクロールで遊びに行ったというのは……。
 おそらく、その転移スクロールは国との連絡に使うやつだ。国からの支給品を勝手に使ったのだから、遊びに行った者たちが戻ってくることはないと思われる。

「その、種を買いに行かせた若者というのは?」

 村長も飢餓対策をしなかったわけじゃない。
 少ない儲けから種を買い、こっそり作物を育てようとしたらしい。しかし、その種を買いに行かせた若者が帰って来ない。

「持ち逃げ、したのでしょうなあ……ははは」

 力無く笑う村長が気の毒すぎるのだが?!

「村長、その若者の名前と外見の特徴を教えてくれ」

 黒画面〈地図〉は優秀でな、こいつの検索窓に個人情報を放り込めば、知らない人でも居場所を特定してくれる。
 普段はダンジョン内で迷子の冒険者を探すくらいしか使わないが、ダンジョンの外でも大丈夫なようだ。そりゃそうか、普通に転移も通販もできているしな。
 あまり外に出ていなかったから気にしてなかったが、この黒画面で色々とやれるのはダンジョンマスターだからではなく俺個人の能力ということなのかも。

 何にせよ、これでリサーチ開始。
 ものの数秒で居場所が割れ、種を買いに行った人がチンパゲールの町にいることが分かった。

「チンパゲールの町にいるな」
「え? ならば、買い出しはできたということでしょうか。あれ? なぜ帰って来ないのでしょう」
「足止めされてるんじゃないのか。人狼退治で」

 チンパゲールの町に人狼被害が出たということは、その周辺はバイオハザード真っ最中ということだ。
 普通の人間なら外に出れまい。

「なんということだ……いくら腹が空いて弱っていたとしても、私は息子を信じてやれなかった……」

 実の息子だったのか、この種を買いに行った人は。
 村長は一番信頼していた者に大事な金を預けて送り出していたはずが、沢山の危機が降り掛かって身も心もすり減ってしまい、それで息子を信じてやれなかったということだ。

 後悔して項垂れている村長に缶コーヒーを、そっと出しておいてやる。俺の好きなBOSSだよ。

 そうだな、町の様子を見てみようか。

 黒画面に鳥の俯瞰図もといゴッド視点で、チンパゲール周辺が映る。
 わあ、真っ赤だ。
 敵対するものには赤く映る光点が、煌々と町を取り囲んでいる。

 人狼って、こんな急速に増えるものなのか……退治が追いついてないとか?

 既に数多くの冒険者が討伐に向かい、十数年前だって特級ランク討伐で迅速に終えたような人狼退治が、今回は時間が掛かっているように思う。

 あれかなあ、人狼と人間の区別がつかない、とか?

 んー、でも、この赤点滅の塊を見るに、人間と人狼の線引きは出来ているように思う。
 現在、チンパゲールの町は門を閉じて立て篭もっている。門の内側には人間、門の外側には人狼の群れと、明確に別れている。

 これなら、外側にいる人狼をやっつけてしまえばいいのだが、その数が尋常じゃなく多いようだ。

 外側の人狼を退治しようと周辺から冒険者たちが取り囲もうとしているが、人狼の圧倒的な数により、減らすことが出来ないとみえる。

 そんな現場の音声を拾いつつ、状況を見ていることしばし、冒険者たちに撤退の命令が下される。

『魔導士たちの一斉砲撃がくる! 皆、撤退だ!』
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