ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

78、人狼被害だよメンドイ村

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 ダンジョン荒らしの噂を魔界公爵から教えてもらい危機感を持ち始めた頃、もう一つの、の噂が俺の耳に届いた。

「人狼被害?」
「そうっすね。今、荒らし回ってんのは、退治し損ねたやつがいて、そいつ本人か、若しくはそいつに噛まれた被害者ってとこじゃねえかな」

 話してくれたのは赤鬼だ。
 武者修行の途中、その噂を拾ったらしい。

 十年以上前、鬼ヶ島と大陸を繋ぐ唯一の村、その近所の町であるチンパゲールが人狼に襲われた。
 噂によると、特級ランク討伐が発動されて人狼は退治されたらしいが、どうもその生き残りが昨今になってまたチンパゲールの町を襲ったという。

 人狼は、人狼に噛まれると伝染る。噛まれた人も人狼になる。人狼は増える。
 人狼は人間のふりをする。人に紛れたり、退治されたふりをする。逃す可能性が高いから、人狼退治には人手が必要だ。

 人手とは冒険者たちのことである。特級ランク討伐ともなれば近隣の冒険者が一斉に集まり狩りをする大イベントなのだそう。
 報酬は出来高なので数多く討伐した者ほど金がたんまり入る。早く現場に駆けつければ、それだけ多くの報酬をいただけるというわけだ。
 他のチンケな依頼なんかやってらんねえぜとばかりに、皆がチンパゲールを目指すだろう。

「ええー、道理で。ここ最近、うちのダンジョンに来るお客さん減ってると思った」
「さすが鬼ヶ島のダンジョンマスター、常に客数の増減を気にかける心意気。天晴れっす」
「あれ? それ褒めてる? 褒めてなくない?」
「褒めながら感心してるっすよ」
「えー、嘘くせえ」

「他にも問題があってなシオさん」
「ほいほい」
「チンパゲールは主要街道の近くの町だ」
「ふんふん」
「鬼ヶ島へ渡る村、メンドイ村って呼ばれてるんだが」
「変な名前」
「そのがな、チンパゲールからしか街道が通ってないもんだから、干上がっちまう可能性がある」
な」

 変な村じゃないよ赤鬼。わざとかな?
 だが、名前が変すぎて重要なことを聞き逃しかけたのに変わりはない。メンドイ村がピンチだよって話だな。
 それってイコール……。

「うちのダンジョンに客が来なくなるでは?!」
「メンドイ村が飢饉に陥る心配をして欲しかったっす」

 あ、いやさ、そうそう、分かっているよ赤鬼、そんな「こいつ自分のことしか考えてねえな」って顔で見ないで。

「メンドイ村は農業してねえの?」
「してたけど、ダンジョン好景気に沸いて放っぽり出したんで、ここ十年で廃れたらしいっす。で、チンパゲールの町頼りで暮らしていたものだから、ここにきて人狼騒ぎの影響で、共倒れの気配ってやつっす」

 なんかそれ、巡りに巡ってダンジョン鬼ヶ島が悪いってならねえ?
 それで恨まれでもしたら嫌なのだが。

「普通に村長の失態なんで、シオさん悪くねえっすよ」
「そう言ってもらえるのはありがたいが……」

 ダンジョンという宝に目が眩んでメンドイ村を停滞させたのは、村長だけの責任になるのだろうか……?
 メンドイ村に無理やりダンジョン特需を持ち込んだのはモダンガ王国だ。鬼ヶ島に渡るための転移魔法陣は国の事業であるはずだ。村だけの責任とは、とても思えない。

「そうさな、中央の責任もあるのう」とはバッケン爺ちゃん。

 バッケン爺ちゃんは元魔導塔の首座しゅそである。塔で二番目に偉い人だったそうだ。一番はお孫さんね。
 二番目だろうと、モダンガ王国の中枢にも顔が利く立場の人物だったのだろう。

「おそらく中央はダンジョンの好景気でメンドイ村は発展すると踏んでおった。それは確かに、そうなったのじゃ。冒険者が押し寄せるから新しく開店する食堂や宿屋には開業資金を渡しておったし、冒険者と共にチンパゲールとの惣流も増えた。これを発展と言わずしてなんと言おう。じゃが、新事業に従事する者が増え、農作業をする者が減ってしまうことは見通せておらんかったといえるの」

 それだな。完全に村長の采配能力を越えていた。
 冒険者は増えても、それを支える村人は増えなかった。元いる村人たちで一次産業からサービス業まで全てを回すのは不可能なのだ。
 人員を補充すれば良かったのだが、中央はそれを見過ごしたらしい。

 そんなことある?

 一国を運営している王様だぞ。しかも賢王と名高い。
 新事業を始めるのに人をよこさないとか、あるのか? と、爺ちゃん聞いたらば。

「あるのじゃろうなあ。現場の実態を把握していないと、こうなるのう。逐一、連絡要員の上位魔導士でも張り付けておけば上も理解できたじゃろうに。大方、上位魔導士の出向をケチったのじゃろ。すなわち、魔導塔のミスじゃ。ほんに、長老になったお方は自己都合しか考えんオナニー野郎じゃのう~ざまぁぁ」

 おっと、バッケン爺ちゃんったら、孫のこととなるとすぐ愉しくディスるのだから。

「正味な話、陛下も、まさか村人が農業を捨てるとは思わなかったんじゃろな」

「えええ、そりゃあ農業より手間も掛からず儲かるものがあって、しかも国の推奨事業ならそっちやるってば」

「しかも近くの町、チンパゲールから物資は十分に届くとくりゃ、畑なんぞ耕さんわな」

 わかるわーな顔で腕組んでうんうん頷く赤鬼。何やら前世で農家の苦労を知ったから共感が持てるらしい。赤鬼の前世って確か農夫Aだったかな。

「如何に賢王とはいえ、下々の働きまで見通せなんだということよ」

 要はそれって、王様だから農業従事者の気持ちわかんないって無知を晒しているだけのやつ。悲しいことに王国だから階級社会で、下賎な民は王侯貴族の腹を満たす作物をつくって納税しろというやつ。

 そりゃあ見逃すよね。農民だって人間だってことを知らないやつらが政治やっているのだもの。

 何にせよ、王国中央からの援助は見込めない。中央が腑抜けなのはもちろん、街道を通って物は運ばれるから、チンパゲールが人狼被害に遭っているなら、その周辺も厳戒態勢で、それは街道の一時閉鎖も含まれているだろう。惣流も止まってしまう。

 街道が使えないなら転移魔法陣があるじゃないか。それで物を運べばいい。と、俺など普段からほいほい転移を使っている身としては思うが、一般的に転移は高位の魔法陣らしい。
 上級魔法を極めた上での極級魔法。それが転移魔法。使えるのは魔導塔でも上位ひと握りだけということで、メンドイ村から鬼ヶ島に陣を敷いたのはバッケン爺ちゃんだそうで。

「俺もだけど、妖精や天使、下手したら高級モンスターでも使えるやついるぞ」

 我がダンジョンの従業員たち、実は凄かった説。

「天界や魔界に暮らすもんは、この世界の人類より一段階上位であると、わしは思うがな」

 これまでこのダンジョンで暮らしてきた人類最高位魔導士なバッケン爺ちゃんが言うと、説得力あるな。

 とにかく、メンドイ村が倒れると俺も困る。ダンジョン鬼ヶ島へ、気軽に人が来れなくなってしまうからな。

 魔法陣が開通するまで、どれだけ金のやり繰りが大変だったか……。

 収入少ないカツカツ時代を思い出した俺、メンドイ村に同情したことも思い出した。
 そういや村長、白魔導士の婆ちゃんに俺とのことまでブン投げられていたような……。

 よし、メンドイ村に行ってみるか。
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