ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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灰天使と黒天使の時空超越ランデブー

【番外】堕天使の子育て

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 武器防具はもう見ただけで通常とは有り得ない性能なのが分かったので、アイテムを見ていく。この収納鞄を越える物品はないと願いたい。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 ホーリー・チャリス【聖餐杯】
 種類:伝説道具
 能力:聖能最高位値
 称号:『聖人供物』
 ――――――――――――――――

 食べ物が出てくる盃だな。皿部分が横に広い。鶏の丸焼きくらい簡単に盛れるだろう。

 これは天界にもある。ただし天主宮で特別な聖餐にしか使われないやつ。つまり、天界の主である天主しか使えないやつ……。

 いきなりの衝撃。いい先制パンチだったぜ。

 次のアイテム。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 ゴッド・ゴブレット【神金杯】
 種類:神具
 能力:神能超最高位値
 称号:『ゴールド・ラッシュ』
 ――――――――――――――――

 わあ、金がいっぱいでてくるやつだあ。わあ、しゅごおい。

 一瞬、脳がイカレタ。

 何とか戻し、冷静に考えて、こんな破格の代物、天界にだってないと思うとこう……さっきから神神神神うるさいぞ! なんて、逆ギレしながら魔力を込めたのが悪かったのか、金色のゴブレットから盛り盛りと金が溢れ、チャリンチャリンと積み上げられた額は金一万枚はくだらないだろう。
 
「どうなってんだ……」

 膝で平和な顔して寝てる幼天使よ、お前の親、若しくはその身内は、おかしい。絶対おかしい。
 正直言って堕天までした俺は非常識なやつだ。その俺がおかしいと言うのだ。きっと幼天使の親共は常識知らずの超越者なのだ。きっとそう。だから俺はまとも。

 丘を転がって行く金が勿体無いと思うくらいには。

 即席だが、回収の魔法陣を発動して金を手元に寄せた。この幼天使の養育費にもらっておこう。

 金を入れる袋でもないかと鞄の中を漁る。袋に入ったものが幾つもあったので、どれかに混ぜてしまおうと手前の袋を開けた。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 パープル・エッグ【紫卵】
 種類:ダンジョン産アイテム
 能力:精霊力超最高極位値
 称号:『完全回復薬』
 ――――――――――――――――

 またダンジョン産だ。下界の人間には回復薬や回復魔法までしか与えられていなかったはずでは?
 勇者が現れた時に蘇生の奇跡を大天使が授けるのは聞いた事あるが、完全回復とな……。

 気になったので詳しく視てみる。

『完全回復薬:傷痍復元効果のある薬。傷を完全に治し、欠損部分を再生する。この称号を授けたのは黒鬼』

 どこの黒鬼だ。魔界か?
 魔界って、堕天使が好む場所でもあるからして、堕天したやつが余計な知識でも授けたのか? 鬼に?

 偏頭痛してきた。体を休めているはずなのに、どっと疲れが出てくるとは何事だろうか。

 俺は決意した。

 これだけイカレタ代物ばかり持っている幼天使を、このまま放置にはできない。
 元より、幼子を見捨てては置けぬので何らかの対処はしただろうが、ここまで常識外れで厄介ごとのにおいもする案件、放っておいてはいけない。そんな気がしている。

 戦いしか知らぬ能天使。そう蔑まれ続け、とうとう天界を見限った堕天の身ではあるが、灰翼の一天使くらいは面倒見ようぞ。

 ただまあ、下界は俺も初めての所であるので、人間の様子を見極めてからだ。人間に紛れて生きるのは、幼天使がもう少し大きくなってからだな。

 と、黒き両翼を大空に広げた。

 光素エーテルを十分に吸い込んだおかげで、飛んで空からの偵察も可能になったのだ。
 この幼天使を抱っこしている限り、エネルギー切れの心配もない。堕天した初日だというのに、ラッキーな拾い物したもんだ。

 そういや、こいつの名前は何て言うのか……。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 エルセス・アリヨク【男】
 種族:天使族
 能力:天能低位値
 称号:上位坐天使カリオス・アリヨクの子
 ――――――――――――――――

 あ? 上位って、坐天使って、おま、え……!

「本気でヤバイ案件の子だった……」

 上位の大天使の子が、スペシャルなアイテムいっぱい持たされて下界に避難させられた。と考えれば辻褄が合うのではないか?
 避難の理由は政治闘争に巻き込まれたとかだろうか……。

「物騒なこった」

 天界の乱痴気騒ぎは見るに耐えん。
 悪魔と戦う現場は放りっぱなしで、天界議会で論争して足を引っ張り合う大天使ども。そんなくだらん政争に巻き込まれてのことなら、この幼子も不憫なことだ。

 空から見ていて目に付いたのは一軒の空き家だ。尖塔があるから教会だったのかもしれん。見る影もなくボロボロだが。

 ここを拠点に、人間の暮らしを観察することにした。

「むにゃ……ここ……ぱぁぱ、まぁま……」

 幼天使ことエルセスが起きた。まだ寝ぼけていて状況の把握が上手くいってないようだ。更に俺の姿をみつけ、固まる。

「お前の名前はエルセスだな。両親はここにはいない。俺はお前を拾ったのだ」
「……だあれ? エルのこと、しってるの?」
「鑑定魔法陣で調べた限りだが、お前のことを知っている。俺も天使だ、元な」

 そう言って黒い翼を広げ、エルセスに見せつけるように振り向いた。

「くろいよ。ぱぁぱといっしょ。まぁまはしろいよ。ぱぁぱじゃ……ない?」

 ぱぁぱといっしょ……ということは、坐天使カリオス・アリヨクは俺と同じで堕天使なのだろうか。
 堕天使なら天界に住めないはずだが。とすると、この灰色天使はどこで産まれ、どこから来たのか?

 疑問は尽きないが、今考えることも、この幼天使に尋ねることも出来ない。なぜなら、

「ぱぁぱじゃない……エルひとりぼっち……ふえ……ぷええええんんんん」

 泣いてしまったからだ。
 目覚めたら両親はいない。知らない場所。目の前には知らないおっさん。そりゃあ泣くわな。

 どうしたらいいか……。

 へたに慰めたとて、知らんおっさんから喋りかけられた触られたと更に泣かすことになるだろう。かと言って本当のことを話して現実を突きつけるのもまた違うし……。

 悲しい想いをずっと抱かせるのが忍びない。ならば、いっそのこと────。

「忘れてしまえ」

 幼天使の前に手をかざす。鈍色の魔法陣がエルセスの頭を包む。

 過去のことを思い出さないよう封印することにした。
 思い出すから悲しいのだ。ならば思い出さないようにする。だが、いつか過去の思い出が必要な時が来るだろうから、その時に思い出せるよう、そっと仕舞っておく。

「俺のことも曖昧に」

 続けて重ねがけ。
 知らんおっさんが傍にいたら怖いだろう。俺の認識を薄くし、怖くない印象を与える。

 この隠蔽の魔法陣は少々苦戦したが、まあ、薄っすら俺を覚えていても問題は無い。どうせ後で別れるのだ。エルセスが一人で生きていけるようになったら別れ、その時に俺の記憶は完全に忘却させよう。

 その前に両親と再会できるのが一番良いのだがな。

 こちらから探す手がかりはなく、再び会うには向こうから来てくれないと不可能な気がするが……運があれば出会えるのだろうか。

 そんなことを思い幾年か過ぎる。

 エルセスは十歳になった。
 年齢は鑑定魔法陣を重ねがけしたら出てきたし、エルセス自身も自分が何歳か知っていた。両方の情報が一致したので、十歳なのは間違いないはずだ。

 共に生きていて分かった。
 エルセスは俺の使う魔法に興味を示していることに。

 たまに野山で野生の生き物を狩る。それを町へ持って行って売ることで相場を見たり、人間の営みを観察したりしていたのだが、エルセスを連れて狩りをしていた時、どうも魔法陣の動きを追っているように思えたのだ。

 魔法を教えることに抵抗は無い。だが、俺は教えるのに向いてない。ずっと戦ってばかりいただけの男だから。

 どこかに教えるのに向いた良い適任者はいないものか……と、探していたら、丁度、獲物を売りに行った町に黒魔導士がいた。
 鑑定魔法陣で見たら〈魔導塔〉で役職に就いているやつだった。

 こいつが適任では?
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