ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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桃野郎が君臨するぞ編

76、十年経って物騒な話

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 十年の歳月が流れた。

 その間に弟シンラは立って歩いて喋って走って、健康で頑強な11歳男子に成長した。こいつ、俺よりガタイがいいんだぜ。

 二歳年下の赤鬼夫妻の子、松樹ショータ君とよく野球して遊んでいる。

「シンラめ、今日こそ、てめーのヘナチョコボール打ってやんだからな!」
「ははっ、じゃあ打てたらご褒美やるよ」
「褒美だと? ボクの欲しいものを知ってるのか?」
「甘くて蕩けるものだろ」
「ボクをお菓子で釣る気だな。いいだろう。乗ってやろう。チョコ食べたい!」

 ショータ君はどうしてうちの肉食弟の口車に乗ってしまうのだろうか。シンラの舌舐りとか見えないのか? 捕食獣の目をしているぞ。やべーぞ。

「くくっ、可愛いなショーちゃんは」
「シンラ、ほどほどにな。ショータ君はまだ九歳児だ」

「僕もまだ11歳だよ兄上」
「11歳だお前は」

 弟の本性を俺は知っている。こいつは腹黒白狼なのだ。
 赤子の頃の可愛いらしさなどとうに吹っ飛んで、すくすく成長した弟の身長は既に170センチある。俺より背が高いの納得いかない。

 更に、引き締まった強靭な体躯から繰り出す右ストレートは160キロを越える。赤鬼も大概だから、そこにあまり驚きはないが、普通にプロ野球選手と同じポテンシャルである。

 11歳なのに。

 子供と侮るなかれ。鬼だから。そこは白鬼で、あの親父の子なだけある。
 ショータ君に色目を使うとはホントうちの弟やばい。去勢した方がいいかもしれない。犯罪を犯す前に。

「兄上、妬かないで。兄上も可愛い顔してるから」
「妬いてなんぞいない。兄にまで色目を使うな」
「大丈夫。僕はショーちゃん一筋だよ」

 全然だいじょうぶじゃない発言した。既にヤンデレの片鱗を見せている。
 逃げてショータ君、逃げえ。

 肝心のショータ君、本気でチョコ貰えると思っている彼は、バットぶんぶん振って気合十分だ。

「早く、早くやるぞっ、シンラ!」

 あああ、可愛い顔して早くだなんて急かせちゃいけない。うちの変態弟の顔がニチャアと歪む。あれはいやらしいオッサンの顔だ。

 まだ11歳なのに……。

 明らかに親父のDNAを受け継いだ顔だ。顔のつくりも似ているしな。性格までそっくり。親父二世なんだぜ。

 ショータ君も可愛いからなあ。なんせあの赤鬼夫妻の長男だ。
 イケメン鬼×美人エルフの子供は、そりゃあ整った顔立ちで、さらさら髪の毛は赤毛に金髪が混じってキラキラ輝き、瞳もパッチリ大きい翡翠の瞳。女の子かと見紛うばかりの美貌だ。

 それでいて野球好き。性格はツンデレ寄りのちょいアホの子。うちの弟の性癖どストライクときた。

 ほんと逃げろくださいヤられる前に。

 十年前は橙鬼のお尻の心配をしていたけど、今度はショータ君か。なんだって俺の周りの変態は、俺の周りのショタっ子をターゲットにするかなあ。

 YESショタノータッチだぜ。
 看板つくって立てておこう。

 まあ、そんな風に緩い日常を過ごしていた時だった。

 ポンッと黒画面に通知が入る。魔界公爵からである。

 魔界公爵とは黒画面通信が出来るようになった。何年前のことだったか……魔界公爵がガチャで魔法陣スクロールを送ってきたから、それを黒画面で読み込んだら通話機能が増えたのだ。

 魔法陣スクロールがまさかQRコードだとは思うまい。

「黒鬼ちゃあぁん、たぁいへんよーお」

 魔界公爵、なかなか個性的な御仁だったのだが信じられるか? こんな台詞を吐いておいて見た目はサリーちゃんのパパなんだぜ。

「閣下、どうした」

 黒画面の向こうに映るサリーパパもとい赤鬼のパパ兼ショータくんのじいじに話しかける。

「やあだ、閣下なんてダサいの。名前で呼んでよお」
「ロゼさん、何が大変で?」
「うぅん、まあ、いっかあ。黒鬼ちゃん、あのねえ、とおっても物騒な話なんだけどお​────ダンジョン荒らしが出たらしいの」

 おおっと、急に真面目な低い声を出されると、見た目通りの威厳が発揮され、一気に緊張モードとなる。

「ダンジョン荒らしというのは……お宅のお子さん夫婦のことでは?」

 ここ数年の趣味で、赤鬼夫妻は揃って他ダンジョンへと出かけ、強いと噂のモンスターに挑んでは魔界に帰省させている。最初は逆に帰省させられていたが、このところは百戦錬磨だ。

 きっかけは、他のダンジョンのダンジョンマスターと交流があった時に、そこの高級モンスターと闘って負けたからだな。もっと強くならねばと思ったらしい赤鬼は、一人で武者修行しに他ダンジョンに挑むようになった。

 その頃のハルネラさんは子育てで動けなかったのが相当悔しかったらしく、三男の梅春ウメハル君がタッチしたのを機に、赤鬼について行くようになった。
 今では夫婦揃ってダンジョンマスターがいるダンジョンへ挑み、マスターに許可取ってから強いモンスターとの手合わせを希望しているという次第。

 ということを脳内で振り返りつつ、黒画面に映る魔界公爵へと問い返したわけだが。

「息子ちゃん夫妻のことじゃあないの。あの二人は武者修行なだけで、ダンジョンを荒らしてなんてないもの。噂のダンジョン荒らしはねえエグいの。ダンジョンマスターのいないダンジョンのコアを破壊しまくってんの」

 そいつぁやべえやつだ。

 ダンジョンマスター不在のダンジョンは、マスターのコントロールが無いからモンスターは本能のままに動く。マスターがいれば止められる事故や事件も、マスター不在なので取り締まりもない。犯罪の温床になっていたりする。

 だから、そういうダンジョンを潰せという動きは確かにある。それでも国が本腰上げてまでダンジョンを潰さないのは、ダンジョンだというだけでメリットがあるからだ。

 ダンジョンは宝箱を生む。

 伝説の武器や防具にアイテム、金塊に宝石に貴重な金属など金銀財宝が目白押し。宝箱には一攫千金の夢が込められているのだ。

 他にも、前に食人鬼たちから聞いた話、ダンジョンを監獄利用していたり、ダンジョン葬なるものもあるという。

 ダンジョンには自浄作用がある。とされている。人間の間では。
 遺体は消失し、血で汚れても直ぐに消えるからだが。

 特にダンジョンマスター在中ダンジョンだと、整頓され清潔に保たれた部屋や、美しい景色の階層もあるので、ダンジョンは自然と清掃され綺麗になるところという認識だそうだ。

 間違っちゃいないな。

 俺のダンジョンなど温泉地もあるしな。ダンジョン鬼ヶ島のダンマスは綺麗好きと思われていそうだ。

 自浄作用に関してだが、遺体は食人鬼たちのご飯として販売されているので、どのダンジョンでも死体が出たらさっさと回収されるのだ。勿論、ダンマスが居るところはダンマスに遺体管理の権限があるので、遺体を売るかどうかはその時のダンマス判断である。

 うちだと食人鬼たちのご飯が優先で、食指が動かないと断られれば売るか焼却炉ポイとなっている。その際、故人の遺物は預かり、受取人が名乗り出れば精査の上できちんと渡しているぞ。

 あと、ダンジョン内清掃は俺の魔力で賄われている。十年前に比べて俺の魔力も増えたので、掃除回数も増えた。
 今や、汚れたら直ぐに清掃、毎日の掃除、週一回のメンテナンス、月一で大掃除がある。わざわざ人手を割いてまで清掃業務をしなくても大丈夫だ。

 こうした恩恵があるからこそ、ダンジョンコアは破壊されない。はずだった。

 わざわざ破壊して回るなんて、ダンジョンを保有する国を敵に回しているようなものだと思うけどね。
 そりゃあ、ダンジョン荒らしって呼ばれちゃうよな。当然だ。そんな不名誉称号もらって嬉しいかね? 嬉しくないよな、普通は。普通じゃないやつなのだろう、ダンジョン荒らしは……。

「どうしてそいつはダンジョンコアを破壊しまくっているのか……閣下は何か情報を持ってる?」

「やぁぁんだ、ロゼちゃんって呼んでっ」

「…………あ、はい」

 話進まねえな。
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