ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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黄金竜の影響とダンジョン経営編

70、お仕置してBLチャットする

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 強くなることは、いいことだ。
 とりあえず、この問題は棚上げしといた。

 それより、お仕置しないといけないやつがいる。

 服をもらってはしゃぐ悪食と豚頭の横で、萎れている妖精が一匹。

「カーディス、覚悟できてるよね」

 ビクッと震えたカーディスは、「いや、だってね」と言い訳を始めた。
 曰く、醜いモンスターたちを押し付けられて不満だったということなのだが、俺的にそういう言い訳は逆に不機嫌になるのだが理解してないのだろうかカーディスこの自己中妖精めが。

「俺を怒らせて楽しいのかなカーディスは」
「何言ってるんだい? 僕が醜いものとは相容れないのは百も承知だろう。それなのに押し付けられた僕の気持ちも察して欲しいものだ」

 こいつ駄目だ。前からダメ妖精で紳士を履き違えたやつだとは思っていたけど、今回の件は最低だ。

「カーディス、部下の管理も出来ないようじゃ紳士の名折れだぞ」
「ノンノン、紳士は美を愛でるものだよ」

「阿呆な理屈が通じると思っているところがクズい」
「僕は紳士さ」

「紳士を勘違いしているのは、もう正せないとして、今回の罰と、ダンジョンで一緒に働く仲間への偏見を無くすために、を提案する」
「それは願ってもない罰だね」

 喜んでいるようなので、実行しよう。

「オルグキング、ウルクキング」
「へい、あるでぃ!」
「んだー、だー!」

「君たちには、この迷路、カーディス区担当モンスターたちの統率を頼みたい」
「へい! もちろんだあ。おでとおんなじ仲間は、おでがキングだと知らしめといただ」
「偉いぞ。ウルクもだな」
「んだー、同じやづら、仲間だ」

「よし、では皆で親睦を深めるために、他の階層の温泉地に行くぞ」
「温泉!」
「んだ!」

「さすがに全員丸々は一気に同じところへ行けないから軍編成を行う。小隊十人、班で五人だ。内訳としては……」

 と、徘徊モンスターズたちの、班を組んで冒険者を襲うやり方を解き、巡回場所や巡回順も決めた。
 その際にモンスターたちを集めたのだが、オーガの仲間もオークの仲間も、それぞれに百匹前後いる。大人数で時間はかかりつつも、早い内に迷路の経路も覚えてもらいたいから今やるに越したことはない。
 小隊編成から先にして、そこから五人組をつくり、冒険者襲撃のパターンを考えていく。

 その間、カーディスは放置。

 終わったら温泉に連れて行くぞと労いつつ、キング・オルグハイ率いる10小隊20班と、キング・ウルクハイ率いる10小隊20班を編成した。
 オープンの日までは自主トレ巡回だが、この階の温泉なら入り放題だし、他の階層への引率はカーディスがやる。

「ちょ、一緒にお風呂ってシオくんとじゃないのかい?!」

「誰が俺と一緒と言ったか。お前が仲良くすべきはオルグとウルクだ。お前が苦手という醜い者たちと共に湯に浸かり、友情を深めるのが勤めだ。異論は認めないし、逃げも許さない」

 魔法陣を展開する。

「え、それ」

 見ただけで分かったようだな。これは〈呪契約〉の魔法陣。あまりにも言うことを聞かないモンスターを、こいつで縛れるのだ。

【魔法使いたいだけ使い放題】は俺専用にカスタマイズされた魔法陣魔法が使いたい放題なサービスだが、その中でもこれは特別。
 ダンジョンマスター専用魔法陣なのだ。
 使い方PVを観ると、〈呪契約〉の魔法陣は暗い紫色に輝き演出も派手で、たいへん格好良い。

 敢えて言おう。
 使いたかったんです! と。

「おーしおーきだべー」
「ひィ、お許しくださいドクロベエ様あぁ」

 このネタを知っているとは、さすがカーディスだ。

「今のところ、第一階層から第五階層までしかスタッフ専用温泉がないから、時間ずらしながら一小隊づつ送り込めよ。一気に送り込むなよ。他のスタッフの迷惑になる。お前は必ずオルグかウルクと入るように」

「うっうっうっ、承知だよシオくん。初めてだよ呪いをかけられたのなんて。汚物爆弾を投げられたのも初めてだったけどね。なんだい僕の初体験ばかりを奪って更なるお仕置とか……こ、興奮したらどうするんだい……!」

 変態みしか感じない。カーディスが別の扉を開かない内に、おさらばする。

「じゃあな、オルグ、ウルク。カーディスと温泉楽しめよ」
「あるでぃ、ありがとう楽ちむだよ」
「んだー、服も、あんがどなー」

 最後まで、常識的で気の良い奴らだった。あの悪辣な称号は本当に何かの間違いなんじゃないかと思う。

 午前を潰したところで黒画面に通知。
『お弁当が届いています』
 お、橙鬼が今日も作ってくれたみたいだ。

 気分が上がってふんふんふん♪とハミングしながら橙鬼が待つツリーハウスへ飛ぶ。

「シオ様、どうぞ」

 何も言わなくてもお冷とおしぼりが出てきた。なんだここ喫茶店か?

 ありがたく喉を潤し手を拭いてからランチをいただく。

 今日のも松花堂弁当のように十字の間仕切りが入った弁当箱だが、中身が違う。洋風だ。ハンバーグはもちろん、オムライス、ミニグラタン、ツナマヨコーンのサラダに鳥の唐揚げなどが美しく盛られている。これは映えの予感。
 ぜひSNS投稿したいがこの世界には存在しないので、身内だけに黒画面でライブ映像を流す。

『唐揚げいきまーす。うまい!』
『ハンバーグ、敢えてケチャップをつけない。美味しい!』

 などなど、小学生並みの感想テロップを送っていたら、

『シオちゃん、お野菜も食べなくちゃダメよ』
『シオさん、野菜くえ』
『シオくぅん、バランスよく緑黄色野菜も配置してくれている橙鬼くんの心を無駄にしちゃ駄目よ♡』

 と、皆、好きなように黒画面の右側に出るチャット画面へコメント返しをくれた。
 ハートマークコメは淫魔のメイさんだな。アイコンもハートマークだ。

 頑張って葉っぱかじる。レタス? そんな名前のやつもいたなあ。ツナマヨコーンとプチトマトを巻いて食えば葉っぱの苦味なんてないさ。水飲んでいるようなものさ。

 ラタトゥイユっていうんだっけ。セロリが、セロリがっ……鼻つまんで食べた。

「牛乳ありますよ、シオ様」
「か、かたじけない……」

 カリオスみたいな武士言葉になってしまった。黙々と野菜を処理し、牛乳を飲み干す。

 大好きなグラタンを食べよう。うまー。しゅきー。チーズのびー。

 打って変わっての笑顔だったらしく、橙鬼も苦笑い。

『ぐふっ、野菜の時と顔が全然違うではないか』
『だー、うっだー、あばばば』

 魔王と弟まで笑うし。音声入力だから普通に笑い声が可視化されて倍のダメージを負うな……。
 どうせ子供舌さ。和食にすれば野菜も食べれるのだけどな。洋食味付けになった途端に食べられなくなる。不思議だな。

「デザートです。初夏のゼリー寄せ、間にミルクプリンが挟んであります」

 プロかよ。めちゃくちゃうまいんだが。ほっぺた溶けそう。

「橙鬼はどこ目指してんの?」
「どことは?」
「いやそれ俺が聞きたい」

 才能がマルチ過ぎてもはや鬼らしさの欠片もない。

「そういやカーディスとデートの約束してただろ。もう行った?」

『きゃ♡ なになになぁに橙鬼ちゃんたら、そうなの? 実は、そうなの? シオくん狙いだと思ってたのにー』
『橙鬼やるなあ、あのチャラ男とかよ』
『チャラ男って……ルディナがそれ言う?』
『なにぃ、俺のことそう思ってたのかよシーラ』
『だってこの前、冒険者をナンパしてた』
『あれは! 道を教えて、案内しただけだ』
『嘘だ。手を握ってたもん』
『違う。握られたんだ』
『抱きしめてたもん』
『こけそうになって支えただけだ』
『な、仲良さげだったもん!(涙)』
『泣くなああ』

 おっと、右横のチャットで臣下淫魔の二人、シーラとルディナが「BL劇場~愛の勘違い拗れ編」を繰り出してきたぞ。
 ルディナ、素直に謝った方が身のためだ。シーラ泣いているけど淫魔の角とか妖しげなフェロモンとか垂れ流して怖いことになっている。

 しかしほんと仲良いな、あいつら。あれが本当のおホモだちというやつか。

 あちらはあちらで拗れているが、今は橙鬼の話が聞きたかったので、カーディスどうよと再度ふってみた。

「どうと言われましても……」

 デートレクチャーはしてもらったそうだ。無難にダンジョン内のデートスポット歩きして、洒落たカフェでお茶して解散したという。

 あのカーディスが?

 現在、悪食と豚頭の群れの中で湯船に浸かっているカーディスが……何もしてないとは思わない。

 橙鬼をじっと見る。じっと見る。じっと見る。

「う……」

 逸らした。目を逸らしたぞ。怪しい。

「橙鬼、正直に吐け」
「ちゅっ、と……おでこにされました」

 アオハルかよ。
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