ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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黄金竜の影響とダンジョン経営編

62、オタクきて天を知る

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 はい、お次はこの御方です。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 カリオス・アリヨク【男】
 種族:天使族
 職業:ダンジョン派遣使徒
 能力:天能超最高位値
 称号:上位坐天使『意思の支配者』『光素宮の主』『半堕天使』
 ――――――――――――――――

 天界の偉い人が来ちゃった。中位主天使ディプタスより偉いよね、称号に上位ってあるし。

「上位坐天使カリオス・アリヨクと申す。カリオスと呼んで戴きたい。好きな食べ物は伴侶の手料理。特にマリトッツォが美味。以上である」

「はい。俺はダンジョンマスター塩板シオ。シオって呼んで欲しい。好きな食べ物はマザーの手料理。最近は橙鬼のご飯も好きになってきたところ」

 お互いに名乗って、好きなものを言い合う。俺たち、気が合うね。

 心做しかカリオスもニヤッと笑った気がした。ちょっと893みたいな笑いだった。鬼能力【鈍感】がなければチビっていたかもしれない。

 このカリオス、天使らしく八等身だけど、灰髪灰瞳で目に切り傷入っていて顔面が尋常なく怖い。
 それと背中の翼、片方が黒色だぞ。あれが半堕天使というやつだろう。

 格好良くない? 中二心を大いにくすぐってくる御仁だ。わくわく見つめる俺。

「服を……貸して貰えぬだろうか?」
「あ、そうだよね」

 真っ裸はマズイ。細身だけど筋肉バッキバキに割れた肉体美を晒しまくっているじゃないか。

「野球ユニふ」
「服を! 普通の服を貸してはくれぬだろうかあ」

 ……はい。とても必死だ。

 黒コート似合いそうだからベルトいっぱいついた中二病くさい黒ロングコートをメインに、インナーと黒褌と黒ズボンと黒ブーツ、そしてこれだいじ、黒眼帯をあげた。傷入っている右眼、隠したいだろうし。
 これでビジュアル系メイクでもすればロック歌手になれるぜ。

「ありがたき。やっと人心地つき申した」
「いえいえ、この仕様は本当に謎ですから」
「おそらく、物体の比重値が本体の組成を優先して生物的反応の無いものを後回しにした結果、具現化に失敗。偽体を生成する上で不必要な無機物は分解してしまったのであろう」

 うーん、難しいこと言われているぞ。起動せよ俺の脳細胞!
 ……たぶん、服が破れて変身するスーパーヒーローみたいな仕様だよと説明された気がする。

 ヒーローとちょっと違うのは、彼らは正義の味方だからか際どいところは光のイリュージョンなどで隠され、変身後もパワースーツなどに身を包んでいるが、この魔天卵の召喚陣は何も隠さず配慮の欠けらも無い。どんなに着込んでいようとダンジョンに着いた瞬間、産まれたてオギャーである。

 容赦ない。ヒーローと同じにしてほしかった。

「解決策としては、陣に無機物も再生できる陣回路を仕込むか、生体優先回路を太くして無生物も組成するよう大量のエネルギーを使うか、となる。ただし、両方共にコスパが悪いから採用されぬだろう」

 今後も解決の見込みなしということか。

「では、こちらで服を用意して待つということで、いつも通りですね」
「うむ、忝ない」

 武士かな?
 何かまだ固い気がしたので、お茶に誘う。天界の様子も聞きたいし、どこに住むのかも聞かなくてはいけない。

 案内したのは、我が家の応接室。魔王の威厳のために座らせた椅子があるところだけど、ちょっと整えると会議室になる部屋である。椅子が多いので。
 特に我が家で会議はなく、なんなら家族会議がちゃぶ台で行われる程度で、普段はこの部屋の出番はないが、偉い人が来たらこうして使えるから必要なのだ。

 カリオスを上座に座らせようとしたら、「こちらはダンジョンマスター殿が座るべきである。持て成す側の主座とお見受けする」と指摘され、そういうものかと納得し、前に魔王がちょっと座った椅子に俺が座る。
 この椅子、深く腰掛けて足組んじゃうと威厳が増すんだぜ。カリオスにそんな偉そうな態度はとらないけどな。

「それにしても、召喚陣に関して詳しいね」

 バッケン爺ちゃんも、ここに来た当初は陣について興味津々だったけど、それ以上に魔クリスタルの養殖を優先して、そのまま藻スラ卵の研究に移ったから、召喚陣に関してノータッチだった。

 カリオスは魔法陣について詳しそうだぞと、その辺を話題に会話を繋げたいところなので話を振った。

「吾輩の管理する〈光素エーテル宮〉では主に光陣開発を行っているのである。陣の構築からそれを陣回路に落とし込むところまで、一連のプロセスを描く陣が正確無比であるからこそ陣の形成は繊細であり且つ豪胆な運用が求められており吾輩としては云々」

 急に早口になったぞ、この天使、いや半堕天使。堕天しているのかしていないのか、中途半端でややこしいな。
 しかしこの独特の口調といい、己の得意分野になると情報量過多で早口になる習性といい……もしかして、オタク?
 魔法陣オタクとでもいうのだろうか、カリオス氏曰く『光陣魔法』らしいが、魔法陣とは違うのだろうか……聞いている限り、同じものに聞こえる。

 とにかくカリオス氏は、陣の魅力を語りまくる。

「しかして、このように陣研究できるのもこれまで。今後はダンジョンマスター殿の指示を仰ぎ、ダンジョンの発展に貢献していきたい所存」

「貢献してくれるのはありがたいことだけど、陣研究したけれは、すればいいよ。好きなことなんだろ。やめなくていい。むしろダンジョンに役立つ陣を、たくさん開発して貢献してくれ」

「へあ? え? 戦わなくて良いので? 否、そんな訳にもいきますまい。ダンジョンは常に冒険者に襲われるところ。特にこちらには戦に不向きな天使しか派遣されていない筈で」
「うん、ジェイラルさん筆頭に管理職だね。とても助かっているよ」
「わ、吾輩も、それでいいと?」
「いいよ。それぞれ、得意なことで活躍してくれれば」

 理解不能な顔で眉毛を八の字にしてこちらを見てくるカリオス氏。強面なのに柴犬みたいなことになっている。

「……天界の事情は、知り得ているのか?」

「そうだね、大体は知っていると思う。我が家で魔界との講和会議みたいなこと、したしね。ディプタスが、そっちに情報を持ち帰っているでしょ?」

「確かに……それで、吾輩の派遣が決まり申して……」

 カリオス氏が言うには、普段は〈光素エーテル宮〉に引っ込んで楽しく陣開発しているカリオス氏であるが、ディプタスが戻った時に大天使の要職者が全員集められ、天界の騒乱ぶりを聞かされたそうな。

 大天使なのに、ずっと〈光素エーテル宮〉に引きこもっていたカリオス氏は賛成派・反対派の争いには巻き込まれておらず、天然中立派だった。

 この集まりでやっと争いの内容を把握したカリオス氏。今更というやつだが、折角集合したのだから、そのまま天界議会に参加したという。

 しかしてその天界議会では、賛成派・反対派、お互いにダンジョン派遣については協力すると合意が成されたものの、重要な人物は派遣に出したくないという大人の事情しかない駄目な政治家たちの見本市​────腹の探り合いが始まっていた。

 大人の事情の第一に、ダンジョンにはこれからも天使を派遣せねばならなく、魔王との話し合いの場を用意してくれたダンジョン、しかも黄金竜の実の息子がダンジョンマスターであるダンジョンに、下位天使を派遣するわけにはいかないという謎のプライドがあった。

 それでは、上位の天使をとなるが、どの大天使も自身の派閥を固めるのに腐心しており優秀な人材は傍に置きたい。増して己の腹心を出向などさせたくなく、勿論、自ら行くと名乗りを上げる粋な大天使などいるはずもなく、お前やれよいいやお前やれと牽制ばかりが続いたのだった。
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