ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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黄金竜の影響とダンジョン経営編

58、出産して白鬼たんおめ

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 秋の終わり頃、マザーは元気な男の子を産んだ。

 鬼ヶ城の前庭には形の良い紅葉が苔むした岩に囲われ秋の庭の主を務めており、その身影がマザー愛用の台所の窓に映っている。

 マザーは自室で出産した。
 俺を産んだ時は親父がついていたらしいが、親父はもういない。俺が立ち会ってもなあ……。ティリン・ファ皇国での経験はあるが、あれは出産立ち会いと呼べるか微妙なやつだし……。

 兎に角、経験の浅い俺がいても足でまといだと思ったが、前世で出産の経験があるハルネラさん曰く、「近くに家族がいるだけで励みになるから」とのこと。
 マザーの傍に待機が本日の俺の簡単なお仕事となった。

 緊急時に備えて藻スラ卵いっぱい用意。
 陣痛でへとへとになったマザーに、赤卵の体力増強、青卵の魔力増量の効果は劇的だった。直ぐにまた陣痛がきて苦しむが、体力魔力が回復するから何度でも陣痛に挑める。

 出産とは体力勝負なのだ。

 この世界にある魔力も、体の免疫を上げるのに役立っているらしい。体力回復と共に魔力を上げる。これが一番、回復効果があり母体の安定にも繋がるという。

「私の出産の時も欲しいわ。生理痛にもいいのよね藻スラ卵」とハルネラさん。

 女の人は大変だ。

 痛みは完全に取れないが、体を頑強に、耐性がつくというだけで生理時の痛みは軽減されるらしい。

 産んでもらって良かった藻スラ卵。藻スラが凄すぎる。またエスプーサに通訳してもらって藻スラの要望を聞くようにしよう。

 そんなことを考えている内に……。

「はい、イキんで! そこ! そこで、だすの! だして! そう! でるよ!! はい、でた!! 出ちゃったよ、おめでとう!」

 ハルネラさんの声が、どんどん野球観戦に前のめりになる熱血ファンみたいになっていったが、最終的には出ちゃったらしい。

「ぴぎゃーっ」

 小怪獣みたいな鳴き声が部屋に響く。
 ヌルッと出てきたなあ、弟よ。お股にちゃんと付いていたのを確認した。間違いなく、お前は男子おのこだ。

 血塗れなのを拭いて、産湯に浸からす。ゴシゴシしなくていいそうだ。湯の中で、ゆ~っくり揺蕩う弟の、血糊が剥げて顕になった髪色を見るに……白色なのだが……。

 俺は確実に両親がピーして、マザーがこの子を腹に宿したのを知っている。それでも、日本で知り得た知識が邪魔をするんだ。

 こいつの遺伝子どうなって??

 親父が白金だからいいのかな。無理やり納得する。俺の髪色は黒髪のマザーからだ。間違いない。
 しかし、頭のてっぺんには二つのツノがある。俺と一緒で鬼らしい。俺の場合も謎だった鬼問題、ここにて再浮上。

 なんで竜と人間の子供が鬼なんだよ。今は鬼だけど日本では人間だったのも謎だ。
 そこんとこ、説明してくれチャワードォ!

 ​────そういうもの、なんだねー。きにしな~い。アハハハハ~​────

 気にするわーい! 鬼だぞ鬼! なんか、魔界の鬼な赤鬼とも種族違うっぽいし、なんなの俺たち謎鬼だよ?!

 ​────しょーがないなー。セツメイ、するとね、そこの、かんきょー、オニにサイテキ。​ニホンだと、オニきらわれてる。だから、ニホンでは、ヒトにギタイ、させた。こっち、カエッテきてホンタイ、もどっただけーて、キンちゃんいってたー────

 キンちゃんて……金さんか、どこの金さんだよ桜吹雪の? 違うよね。うちの親父だよね。また、うちの親父の仕業だってことだよね。

 で、俺、日本では偽体だったの? 魔力なんてない世界だったけど、生きてたぞ?!

 ​────ヒト、だもの。ふだんの、おしょくじで、まかなえて、いたのよ。​でーも、たまーに、キンちゃんが、ちょっかい、かけてたかも────

 くっ、親父め……もう、いいや。謎は全て解けなくて、真相は全て親父のせいで、いいや……。

「お疲れ、ハナエ。頑張ったな。元気な男の鬼だ」

 解けない謎筆頭の魔王がキタ。
 いつの間にマザーのこと呼び捨てにする仲になっているんだ。俺は認めないぞ。
 元気な男のであるお前もそうだよな、弟よ。

 魔王が抱っこしたそうにこちらを見ているので、ハルネラさんにも了承とって、弟を魔王の腕に渡す。

 弟は産まれてからずっと泣いている。ティリン・ファ皇国の皇子もそうだったが、赤子ってのはずっと泣いているものらしい。初めての肺呼吸を頑張っているのだ。

「我が友から、この子の名前を預かっているのだが」

 マジか。いきなりだなオイ魔王コラ、お前はいつも突然だ。

「ここで私が宣言してしまっていいのか……」
「構わないわ。金さんが考えてくれたのでしょう?」
「ああ、そうだが……名付ける、宣言すると、名前に力が宿ってしまう。それは親の加護であり、親の特権だ。私がそれを奪うのもどうかと」

 また世界の謎仕様か。
 俺も赤鬼にシオって呼ばれてシオになったからな。ということは、俺の名付け親って赤鬼なのか?

 ​────そのあとにー、チャワードが加護あげたのよ。わすれてなぁーい?​────

 知るかよそんなこと。加護って、あの呪いの名札のことか? あれ、外しても外しても、いつの間にか服についているんだぞ。呪いだ。今も胸に付いているんだからな。​

 ────どんなに、ちがーうふくにきがえても、きづけばアナタのソバに​────

 ホラーだよ!

 それで、俺のは呪いとして、弟の場合はここで魔王に名付けられたら魔王の加護をもらえるのか?

「大丈夫よ。金さんがハッグさんに名を預けたのだもの。あなたが名付け親に相応しいわ」

「ハナエが良いなら……」

 話はさくさく進み、魔王が弟の名前を宣言した。弟は泣きっぱなしだったが、名前を受け入れた途端、「ぴあ」と鳴いた。

 マザーの胸に吸い付く弟。初めてのマザーミルクはOK牧場らしい。喉を「グルグル」鳴らして飲んでいる。

 ……さっきから弟の出す音が爬虫類っぽいのだが。気のせいかな。気のせいにしておこう。

 マザーは休み、俺たちは部屋を出て行く。弟はおっぱい飲んで満足したらしく、泣きやんで微睡んでいる。

 魔王の腕の中で。

 まさかのイクメンパワーを発揮しだした魔王。この後も、おしめ替え、ぐずり泣きの対応、いないいないばあ、ベビーカーで散歩や読み聞かせなどした。
 もはやお前が父だろうという育児ぶり。

 魔卵で、魔界公爵から届く育児グッズをフル活用である。もしかしたら魔王が育児用品の選定もしたのではないかという使い慣れっぷりにも驚いた。新生児服の着替えを迷いなくテキパキこなすから。

「布製も通気性があっていいが、やはり使い捨ての紙製の方が効率は良くなるな。だが、尻がかぶれるのは可哀想だ。両方兼用でいこう」

 オムツの話である。

「色艶ともに健康だ。変な色でもなく、変な臭いもなく、異物混入もしていない。量も申し分無し。与えた分だけ出す。適量だ」

 ウンコの話である。
 ウンコソムリエだよこの魔王。
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