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黄金竜の影響とダンジョン経営編
53、産卵して真夏の夜の宴
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岩塩ダーたちを泳がせて、ひと月ほど経った頃、藻スラの産卵がダンマス湖でも確認された。
やった! 遂に、やったぞ……!
喜びのあまり、祝砲代わりに花火を上げる。〈日課トライ〉で「季節の装飾を買おう」が出るようになったから、丁度いい。
【打ち上げ花火(単発)】で金十枚、【打ち上げ花火(連発)】で金五十枚もするが、お祝いだ。連続打ち上げ花火を堪能するがいい!
【打ち上げ花火ショー(30分)】金百枚を購入し、しばし音と光の共演を楽しんだ。
空セットは既に全て購入済みであり、時間によって空模様が移り変わるよう設定もしてあるため、本日の夏の夜空だって自然に切り替わっていく様子が何とも言えない風情があって見事だった。
そんな夜空に花開く火花。
夏といえば、花火。これ鉄板。
他にも夏といえばの定番、前庭に朝顔、ヘチマ棚、家庭菜園にナスやトマトやトウモロコシも育ち、マザーの部屋では金魚も泳いでいる。
バッケン爺ちゃん家の縁側では風鈴がチリリンと鳴り、初夏らしい風が吹くその日の夜、大BBQ大会をしていたのだった。
うん、スタッフ一同(妖精とパート天使たち除く)集まってのBBQ大会中、日も暮れて夜の帳が降りた頃、産卵が始まったのだ。
そして祝砲花火を打ってから気づいた。
地底湖の方も産卵が始まっとるやん……。
これはさすがに想定外。
急いで黒画面を二つ、大きいのと小さいのを、ダンマス湖の上に並べた。
大きい方は映画館のスクリーンくらいでダンマス湖の様子を映し、小さい方はスクリーンの半分くらいで地底湖を映す。
地底湖の方だけダンジョン中に恒例の生ライブ配信したが、ダンマス湖の中継はここにいるスタッフ一同だけで視聴し、感動に打ち震えている。
「ふずーっ……やっぱ、ええもんじゃのう……」
今年もバッケン爺ちゃんは盛大に顔面崩壊を起こして、大量のちり紙を消費した。
魔クリスタルも藻スラも、爺ちゃんが手ずから育てたようなもんだし、感動も一入なのだろう。
「神秘的だなあ」
「宇宙みたい」
赤鬼夫妻はリクライニングチェアに寝そべり、寄り添いながらスクリーンを見上げている。
「ふあ~、ふわわ~んて、たまぎょ、しゅごい……!」
まだ舌足らずなミアちゃんは、感動を精一杯口にし、両手を上げ下げも駆使。卵が産まれ、ふわふわと水中を漂う姿を表現してくれた。
そんなミアちゃんを温かく見守る保護者たち。
「こんな現象が、本当に湖の中で起こっているのですね……」とジェイラルさん。
「養殖場があるの、対岸の方でしょ? ここからは……ん~少しぼんやり光り輝いて見える、かしらん?」
淫魔お兄さんのメイさんがそう見解を述べると、家臣の淫魔ズが「見えるかシーラ?」「ぼんやりだけど、あの辺だルディナ!」と、ウッドデッキの手すりに立ってまで光る湖面を見始めた。
この二人はいつも一緒で仲良しだなあ。
産卵は長丁場だ。真夜中が来る前に、お子様なミアちゃんは真っ先に寝てしまった。
「おやすみなの、シオ」
半目とろんとしているのに、律儀に挨拶していくの、可愛いなあ。
ミアちゃんを見送ったら、赤鬼がここぞとばかりに何やら出してきたぞ。
「シオさん、遅くなっちまったが、ハタチんなっただろ。たんおめ」
そう言ってくれたのは、樽いっぱいの日本酒だ。
以前、確かに話題にしたな酒造りのこと……え、あれ、本当に仕込んでいたのか!? 全然気づかなかった。どこで造っていたのかすら知らない。酒蔵なんか……あ、他の物見櫓を使わせてくれって言ってきたあれかなあ?
何にせよ、すごいな。マジで赤鬼、杜氏だ。
「仕込みの関係で初蔵出しが夏になっちまったが、正真正銘、今日が初物だぜ。新成人に相応しいだろ。呑んでみてくれ」
樽の封印の蓋を、パッカーンと景気よく手刀で割ってしまう赤鬼。途端に酒精が、ぶわっっと俺の鼻に押し寄せて、芳しい花のような香りが辺りに漂った。
「んええ、なにこれ、すげえいい匂い……!」
酒ってこういう風に開封するものなのか。
神社で樽が何段も積み重なって供えてあるのしか見たことないから、割ったらどうなるかとか、知らなかった。
お猪口になみなみと、柄杓で汲んで注いでくれる。零れるくらい猪口に酌んで、更に下の酒枡に零して飲むのが通だとか。
これが大人の世界……!
ごっくん、呑んでみた。
鼻に抜ける香りがなんとも言えない。美味しい。ごくごく夢中で呑んでいたら、周りのやつらも気づき出す。
「何それ赤鬼くん」
「橙くんも呑みなさい」
俺は有無を言わさず酒枡を、橙鬼に渡す。
「うまい!」
橙鬼の口にも合ったようだ。そこからは、我も我もと皆が寄ってきて、酒呑み大会になった。
赤鬼は俺に一樽プレゼントしてくれたが、他に幾樽も持ってきたようだ。全員、浴びるように飲んでいた。どいつもこいつも酒に強そうだから、心配は無いな。
でも次の日、俺は完全に二日酔いになった。おかしい。俺は鬼なのに。
橙鬼が、「シオ様、今日も張り切って工事に行きましょー!」と、元気なのが解せない。声が頭に響くし。
俺も鬼のはずだけどなあ……頭いてえ……俺、鬼なのに……鬼って酒強いよな……鬼なのに……思考がループしかしないから、寝た。
橙鬼、あとは任せた。俺の分も働いてくれ。
その日は昼まで起きれず、マザーの朝食も食べれず、昼に起きた時に、「シオちゃん、朝ご飯も食べれないような無茶な飲み方は駄目よ。節度を守りなさいね」と説教を受けた。
それでも二日酔いに効く、しじみ汁と柿なますを作ってくれた。マザーの優しさが腹にしみる。
初酒め、完敗だ。いつかリベンジしてやる。
こうしてまた祝い酒をたらふく呑み過ぎて翌日に寝込む黒鬼が出来上がるわけだな。
やった! 遂に、やったぞ……!
喜びのあまり、祝砲代わりに花火を上げる。〈日課トライ〉で「季節の装飾を買おう」が出るようになったから、丁度いい。
【打ち上げ花火(単発)】で金十枚、【打ち上げ花火(連発)】で金五十枚もするが、お祝いだ。連続打ち上げ花火を堪能するがいい!
【打ち上げ花火ショー(30分)】金百枚を購入し、しばし音と光の共演を楽しんだ。
空セットは既に全て購入済みであり、時間によって空模様が移り変わるよう設定もしてあるため、本日の夏の夜空だって自然に切り替わっていく様子が何とも言えない風情があって見事だった。
そんな夜空に花開く火花。
夏といえば、花火。これ鉄板。
他にも夏といえばの定番、前庭に朝顔、ヘチマ棚、家庭菜園にナスやトマトやトウモロコシも育ち、マザーの部屋では金魚も泳いでいる。
バッケン爺ちゃん家の縁側では風鈴がチリリンと鳴り、初夏らしい風が吹くその日の夜、大BBQ大会をしていたのだった。
うん、スタッフ一同(妖精とパート天使たち除く)集まってのBBQ大会中、日も暮れて夜の帳が降りた頃、産卵が始まったのだ。
そして祝砲花火を打ってから気づいた。
地底湖の方も産卵が始まっとるやん……。
これはさすがに想定外。
急いで黒画面を二つ、大きいのと小さいのを、ダンマス湖の上に並べた。
大きい方は映画館のスクリーンくらいでダンマス湖の様子を映し、小さい方はスクリーンの半分くらいで地底湖を映す。
地底湖の方だけダンジョン中に恒例の生ライブ配信したが、ダンマス湖の中継はここにいるスタッフ一同だけで視聴し、感動に打ち震えている。
「ふずーっ……やっぱ、ええもんじゃのう……」
今年もバッケン爺ちゃんは盛大に顔面崩壊を起こして、大量のちり紙を消費した。
魔クリスタルも藻スラも、爺ちゃんが手ずから育てたようなもんだし、感動も一入なのだろう。
「神秘的だなあ」
「宇宙みたい」
赤鬼夫妻はリクライニングチェアに寝そべり、寄り添いながらスクリーンを見上げている。
「ふあ~、ふわわ~んて、たまぎょ、しゅごい……!」
まだ舌足らずなミアちゃんは、感動を精一杯口にし、両手を上げ下げも駆使。卵が産まれ、ふわふわと水中を漂う姿を表現してくれた。
そんなミアちゃんを温かく見守る保護者たち。
「こんな現象が、本当に湖の中で起こっているのですね……」とジェイラルさん。
「養殖場があるの、対岸の方でしょ? ここからは……ん~少しぼんやり光り輝いて見える、かしらん?」
淫魔お兄さんのメイさんがそう見解を述べると、家臣の淫魔ズが「見えるかシーラ?」「ぼんやりだけど、あの辺だルディナ!」と、ウッドデッキの手すりに立ってまで光る湖面を見始めた。
この二人はいつも一緒で仲良しだなあ。
産卵は長丁場だ。真夜中が来る前に、お子様なミアちゃんは真っ先に寝てしまった。
「おやすみなの、シオ」
半目とろんとしているのに、律儀に挨拶していくの、可愛いなあ。
ミアちゃんを見送ったら、赤鬼がここぞとばかりに何やら出してきたぞ。
「シオさん、遅くなっちまったが、ハタチんなっただろ。たんおめ」
そう言ってくれたのは、樽いっぱいの日本酒だ。
以前、確かに話題にしたな酒造りのこと……え、あれ、本当に仕込んでいたのか!? 全然気づかなかった。どこで造っていたのかすら知らない。酒蔵なんか……あ、他の物見櫓を使わせてくれって言ってきたあれかなあ?
何にせよ、すごいな。マジで赤鬼、杜氏だ。
「仕込みの関係で初蔵出しが夏になっちまったが、正真正銘、今日が初物だぜ。新成人に相応しいだろ。呑んでみてくれ」
樽の封印の蓋を、パッカーンと景気よく手刀で割ってしまう赤鬼。途端に酒精が、ぶわっっと俺の鼻に押し寄せて、芳しい花のような香りが辺りに漂った。
「んええ、なにこれ、すげえいい匂い……!」
酒ってこういう風に開封するものなのか。
神社で樽が何段も積み重なって供えてあるのしか見たことないから、割ったらどうなるかとか、知らなかった。
お猪口になみなみと、柄杓で汲んで注いでくれる。零れるくらい猪口に酌んで、更に下の酒枡に零して飲むのが通だとか。
これが大人の世界……!
ごっくん、呑んでみた。
鼻に抜ける香りがなんとも言えない。美味しい。ごくごく夢中で呑んでいたら、周りのやつらも気づき出す。
「何それ赤鬼くん」
「橙くんも呑みなさい」
俺は有無を言わさず酒枡を、橙鬼に渡す。
「うまい!」
橙鬼の口にも合ったようだ。そこからは、我も我もと皆が寄ってきて、酒呑み大会になった。
赤鬼は俺に一樽プレゼントしてくれたが、他に幾樽も持ってきたようだ。全員、浴びるように飲んでいた。どいつもこいつも酒に強そうだから、心配は無いな。
でも次の日、俺は完全に二日酔いになった。おかしい。俺は鬼なのに。
橙鬼が、「シオ様、今日も張り切って工事に行きましょー!」と、元気なのが解せない。声が頭に響くし。
俺も鬼のはずだけどなあ……頭いてえ……俺、鬼なのに……鬼って酒強いよな……鬼なのに……思考がループしかしないから、寝た。
橙鬼、あとは任せた。俺の分も働いてくれ。
その日は昼まで起きれず、マザーの朝食も食べれず、昼に起きた時に、「シオちゃん、朝ご飯も食べれないような無茶な飲み方は駄目よ。節度を守りなさいね」と説教を受けた。
それでも二日酔いに効く、しじみ汁と柿なますを作ってくれた。マザーの優しさが腹にしみる。
初酒め、完敗だ。いつかリベンジしてやる。
こうしてまた祝い酒をたらふく呑み過ぎて翌日に寝込む黒鬼が出来上がるわけだな。
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