ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

文字の大きさ
上 下
52 / 119
黄金竜の影響とダンジョン経営編

51、遺体はハタチになってから

しおりを挟む
 謎魔王は放置して、今日も階層工事をといきたいところだけど、ダンマス湖の様子を見にきた。

 魔クリスタルの件だ。

 地底湖では無事に産卵まで漕ぎつけれたけど、ダンマス湖の養殖は芳しくない。
 それなりに育っているように見える魔クリスタルだけに、藻スラが一向に見向きもしない原因が分からず、難儀している。

 様子を見つつ首を捻っていると、見知らぬ……いや、知っているのだけど半獣姿から人間になっていることで認識が遅れたのだ。エスプーサとモルモがいた。
 ひえ、食人鬼野郎たちだ。びくぷる。

「これは主様、お散歩……ではなさそうですね。我らに何か御用がおありでは?」

 エスプーサ、長鞭をビシビシ、地面叩きながら近づいてくる。

「主様はあたいらの様子を伺いにいらしたのではねいですか? 低脳共の躾は済んでるよお。あいつら低脳だから忘れちまってたこともあったけど、ちょいと尻を叩いてやれば思い出したんでねい。今後も主様の役に立てる筈さ」

 モルモって可愛い顔していながら見下し感半端ないよね。教鞭がヒュンヒュン唸っているのだけど、それで尻を叩いたのだろう。物理的に。

 俺は話題を変えようと、魔クリスタルのこと、藻スラのことを話した。すると、エスプーサが、

「委細承知しました。これより藻スライムの調教に移ります」

「違うよ?! 藻スラ悪くないよ!?」

「ですが、ヤツが食わねば宝箱の中身が賄えないのでしょう? 我々の魔力補給にも必要です。問題しかありません。対処します」

 そう言って藻スラを探しに行ってしまった。俺、藻スラに悪いことしたかもしれない。ごめん藻スラ……お前のこと大好きなのに、守ってやれそうにない。
 だって食人鬼、怖いもん。

 鬼だから、藻スラのことは食べないと信じてる。

 そういえば、この人らの食事ってどうしたら?

 ダンジョン内の人型モンスターは偽体ぎたいで、藻スラ卵の青卵を食べることで魔力を補給して稼働している。
 本体は魔界にあって本体が食事しているから、こちらでは食事をしなくていいはずだけど、食べること事態はできるし、食事を楽しむという嗜好は、そうそう止められないのだそうだ。
 だから、魔界で好きだったものは、こちらでも食べたい衝動に駆られるとか。
 そんなことを赤鬼が話していた。カワハギのみりん干しを食べながら。

 そして食人鬼のお食事といえば……。

「はふん……主様のほっぺって柔らかそうだねい」

 ギャー! モルモがこちらをおいしそうにみつめている!

「モルモっ、残念ながら俺は鬼だ。不味いぞ」
「そうかい? いい匂いするけどねい」

 ギャー! ねらわれている!

「あ、あわ、あわわ」
「怯える主様は可愛いねい。食べないよお。安心してねい」
「安心できないよおお」
「ダンジョンで死んだ冒険者を貰えれば、それでいいからねい」
「え、うちのダンジョン滅多に人死に出ないぞ」

 処刑も滅多に行わない。

「他のダンジョンで出た死体を買ってくれたら嬉しいねい」
「そんなことできんの?!」

 ​────て、購入画面を隈なく探したらあったよ。 検索窓に『遺体』って入れても、なぜかエラーが出たから手動で探したさ。カテゴリーから〈モンスターのごはん〉で。

 あなたは20歳以上ですかって確認が出る購入ページに、しれっと売っていた。

 俺、最近やっとハタチになったばかりだから、知らなかった。こんな購入画面あったんだーそうなんだーほへー。

「必要な頻度はどのくらい?」
「買ってくれるのかい? 嬉しいよお! そりゃあ毎日食べたいけど、主様の為なら一週間に一回でも我慢できるかねえい……じゅる」
「毎日あげるから! うちの従業員やお客さんは齧らないで!」
「やったよお、言ってみるもんだねい。主様、太っ腹だねい!」

 あとは好みを聞いて……子供がいいと言われたらちょっと入手が困難っぽいので、普通に成人した人間と言ってもらえて助かった。
 ただし……。

「男……」
「ああ、女より断然、逞しい壮年の男性だねい」
「そ、そう、調達がんばるよ」

 冒険者って逞しいし、壮年になっても強そうな男性が多いと思うし、イケルイケル。

 エスプーサにも聞かないとな。

 暫くして、移動陣が開いたと思ったら、エスプーサが藻スラを鞭でグルグルに縛って持ってきた。

 で、藻スラ、ぐってりしている。

「生きてる?!」
「生きてます。生きてなくては聞き出せませんから。さあ、藻スライムのムゥよ、主様にも話すのです。なぜ、魔クリスタルを食べないのですか」

 え、ムゥって名前なの? いつの間に名前が? 元から?

 ムゥ、縛られながらも懸命に訴えるが……ごめん、何言っているか分からん。不甲斐ない主人で、ほんとごめん。

「エスプーサ、通訳を頼めるかな」
「承知仕りました。ムゥの言によれば、ここの魔クリスタルは美味しくないそうです」
「たったそれだけのことだった?」

 もっといっぱい訴えていた気がするけど。たぶん、こうやって捕まったことに対する怒りとか、ご主人様のバカあたりは言っている気がする。

「もっと訳して宜しいのでしたら……『主様に何度も訴えたのに改善してくんないバカぁ。哀しい。泣いちゃう。でも我慢。はぁ、もっと塩味が効いた旨味あるまろやかでいてクリーミーな蕩けるものが食べたいなあ』だそうで」

 やっぱバカ言われとるやん。めっちゃ味の要望しとるやん。さすがにここまで切なに訴えているとは気づかなかった。我慢させてごめんよ。
 しかしすごく細かい要望だな。その味を出す為に何をしたらいいか、検討もつかない。

「分かったけど分からんなあ。それ、その味を出すのには、どうしたらいいの?」

「ふむふむ……『岩塩ダーくらいの濃さが好き』だそうです」

 岩塩ダー。そいつは盲点だった。あれは塩の塊だ。魔クリスタルの育成には海水が不可欠と聞いてから鬼ヶ島を囲う海の水を採取したけれど、岩塩ダーという塩味そのものモンスターが、我が家にはいたじゃないか。彼に協力を頼もう。

「よし、岩塩ダーにも話を聞こう」
「お任せあれ。やつは固いが調教してみせましょう」

 エスプーサは藻スラを俺に渡し、再度、移動陣で岩塩ダーを捕まえに行った。
 すまぬ岩塩ダー。怖いかもしれんが、調教されてくれ。

 はて、調教とは?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...