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黄金竜の影響とダンジョン経営編
50、戦争止めて帰れ
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「我が盟友の気配が消えてからの、世界の不安定さは危惧しておった」
ディプタスから得た情報を吟味するように、魔王は考え込む仕草をする。
涅槃な仏像が、座る姿勢になっただけで威厳が出るとは、これ如何に。
「その……魔王様がこちらにいるということで驚いておるのですが、魔王様は天界の危機をご承知で、いらしたのですか?」
「………………」
あの顔、あの魔王の顔は、知らなかったな。偶然ここに来たに過ぎないのだ。だって旅人だもの。
「『勿論だ。それで我が盟友の子が心配でな。ここに様子を見に来た』と、魔王様はおっしゃってます」
赤鬼ー! 嘘だ! 絶対この魔王そんな殊勝なこと考えてないぞ。なんとなくここに来たに違いない。
「そうでしたか。さすが魔王様、ご慧眼です」
持ち上げないでジェイラル。赤鬼の意訳だからさ。
「我々も、シオ様を……こう言っては何ですが、懸念しております。黄金の盟約が破られようとしている今、どのような影響を受けるか、想像がつきません」
え、俺、不安視されてんの?
「魔界は、これまでと変わらぬ。ダンジョンを盛り上げ、ダンジョンマスターを助ける。友のことは残念だ。しかし、その子は関係ない。友の後継者は他にある」
「なんと後継が……!」
「分かるのですか?」
驚く天使ズと、頷く魔王。魔王は心なしかドヤ顔である。俺には判る。魔王は今、調子に乗っている。
「後継は、友が最期に命を救いし者だ。わざとなのか、成り行きなのかは知らぬが、事情があったとみえる。ダンジョンマスターは関係ない。魔界は、これからもダンジョンの味方だ」
言い切ってくれたのは嬉しいが、ちょっと話が見えないな。後継ってなによ。
赤鬼に説明を求めてみた。先程からの魔王解説が面白いからじゃないよ。赤鬼なら知っていると思ったからだよ。
「シオさんはダンジョンマスターです。多分、黄金竜から既に、その権限は受け継いでるんすよ」
「おお、そうだな」
それに関しては納得しかなねえわ。俺、我が家以外、何も貰ってねえもん。お小遣い貰っただけだもん。
「黄金の盟約は、おそらく血筋じゃなくて黄金竜の力で行ったものです。黄金竜の力が途絶えた時、後継者が引き継ぐことを前提に約束されたものじゃないっすかね。本約定を知らないんで、俺の推測ですけど」
「それで合っております。ええと、」
「赤鬼っす☆よろ」
チャラーン☆てSE聴こえた気がするくらいチャラい言動でディプタスに自己紹介すな、赤鬼、お前の素は江戸っ子に近いくせに。
「承知しました。それなら、後継の存在を明らかにすれば、反対派の攻勢も止むことでしょう。更に魔王様のお考えを伝えれば、戦わずに済む。ありがたい。今日ここで魔王様にお会いできて、本当に良かった」
ディプタスは漸く心の底から安堵したようだ。ソファの背もたれに背を預け、リラックスした表情になる。
「お義父さん、良かったですね」
ジェイラルさんも、やっと笑顔が出せるようになった。
「ぱーぱ、じーじ、しごおわ、した?」
タイミングよくやってきた天使ミアちゃん、まじ天使。
後に続くメイさん、ハルネラさん、マザーの様子を見るに、こっちの様子を窺っていたようである。
この会談は非公式だけど、実質、天界と魔界の命運を懸けていたからな。気になるのは仕方ない。
「其方が、我が友の奥方か?」
魔王、マザーに話しかける。思ってもみなかった行動なので、俺ちょっと動揺した。魔王どうしたバグった?
「ええ、貴方様が私たち親子を助けて下さった魔王バズズネオル様ですね。主人から聞いておりますわ。その節はご尽力いただき、誠に有難う存じます」
魔王、そんな舌噛むような名前だったのか。ステータスにはなかったぞ。そういや俺の黒画面解説はややポンコツなところがあった。BIGBOSS並に。
赤鬼名解説ver.をインストールしたい。
と、俺がアホなことを考えている間に、マザーは魔王相手に頭を下げていた。お腹が目立ってきたので立ったまま礼するのどうかと思う。
「奥方、顔を上げてくれ」
あ、意外。魔王も気遣えるみたい。マザーの手を取って、マザー専用の椅子に導いて、ゆっくり話をし出した。
「私は友の願いを聞いただけだ。あの当時のことは、其方の記憶にないはずだ。生き残れたことに感謝し、親子共々に健やかでいてくれたら、それでよい」
「有難いことに御座います。確かに当時のことは記憶に御座いませんが、近しい者のことは憶えておりました。こうして、親子で暮らせるのも、魔王様のご尽力があったからこそです。遅れましたが──私の名前は花愛、古雅 花愛と申します」
マザー、花愛さんだったのね。苗字もだけど初耳……ん? 古雅って聞いたことあるな。養護施設を支援してくれている古雅議員と同じだが……まさか……。
────きづいちゃった? こがぎいん、マザーちゃんことおハナちゃんの、いとこよ────
チャワード! ええええ、じゃあ、じゃあ俺、日本にいる頃、母親の親戚に面倒見てもらってたの?!
────なるべく、えんのあるところに、あずけたかったの。だから、めぐりめぐって、そんなかんじよね────
そんなかんじ……そうか、そうだったのか……。
今となっては会うどころかお礼も言えないけど、ありがとうございました。
────だいじょうぶよ。いんたいするまで、せんきょはとうせんするから────
それは安心。
「ハナエ殿、今後も良しなに頼む」
「はい」
て、そこ、和んでいるけど、息子が置いてきぼりだから。ちょっとチャワードと話している間に二人がいい雰囲気だ。何がどうなって?
それと魔王、魔王が過去に、俺とマザーに何してくれたかぐらい把握しておきたいのだけど。
「ダンジョンマスター」
「ほいほい。シオだよ」
気づいてくれたようで何より。さあ、話せ。
「シオ、これから世話になる」
「いや、帰れ」
そうじゃない。過去のこと聞きたかった。魔王は魔界の王だろが。王様不在でどうすんの。帰れ。
主天使ディプタス・アルコンは一旦、天界に帰った。俺、ダンジョンマスターの許可があれば〈通用門許可証〉がなくても羅生門を使っていいのだそう。
あ、うん、すっかり通用門のこと羅生門って呼んでいるね。誰も突っ込まないから気にしてないぜ。
一旦の帰宅なのは、帰り際に「また来る」「孫かわいい」を連呼していたので、天界を何とかしたら、戻って来る気満々だと思ったからだ。
魔王は帰らない。
今日もソファで涅槃像が如くポテチを貪り、MLBに夢中だ。野球用品が魔卵から出るのは、魔界公爵ではなくて魔王の趣味だったっぽい。俺と推し選手語りができるほどだから相当だ。
こちらの世界に来てからも【日本の動画 観たい放題】で応援しているわけだが、魔王も詳しいってことは、彼も中継を観ているってことだよね。
魔王って、何なの?
ディプタスから得た情報を吟味するように、魔王は考え込む仕草をする。
涅槃な仏像が、座る姿勢になっただけで威厳が出るとは、これ如何に。
「その……魔王様がこちらにいるということで驚いておるのですが、魔王様は天界の危機をご承知で、いらしたのですか?」
「………………」
あの顔、あの魔王の顔は、知らなかったな。偶然ここに来たに過ぎないのだ。だって旅人だもの。
「『勿論だ。それで我が盟友の子が心配でな。ここに様子を見に来た』と、魔王様はおっしゃってます」
赤鬼ー! 嘘だ! 絶対この魔王そんな殊勝なこと考えてないぞ。なんとなくここに来たに違いない。
「そうでしたか。さすが魔王様、ご慧眼です」
持ち上げないでジェイラル。赤鬼の意訳だからさ。
「我々も、シオ様を……こう言っては何ですが、懸念しております。黄金の盟約が破られようとしている今、どのような影響を受けるか、想像がつきません」
え、俺、不安視されてんの?
「魔界は、これまでと変わらぬ。ダンジョンを盛り上げ、ダンジョンマスターを助ける。友のことは残念だ。しかし、その子は関係ない。友の後継者は他にある」
「なんと後継が……!」
「分かるのですか?」
驚く天使ズと、頷く魔王。魔王は心なしかドヤ顔である。俺には判る。魔王は今、調子に乗っている。
「後継は、友が最期に命を救いし者だ。わざとなのか、成り行きなのかは知らぬが、事情があったとみえる。ダンジョンマスターは関係ない。魔界は、これからもダンジョンの味方だ」
言い切ってくれたのは嬉しいが、ちょっと話が見えないな。後継ってなによ。
赤鬼に説明を求めてみた。先程からの魔王解説が面白いからじゃないよ。赤鬼なら知っていると思ったからだよ。
「シオさんはダンジョンマスターです。多分、黄金竜から既に、その権限は受け継いでるんすよ」
「おお、そうだな」
それに関しては納得しかなねえわ。俺、我が家以外、何も貰ってねえもん。お小遣い貰っただけだもん。
「黄金の盟約は、おそらく血筋じゃなくて黄金竜の力で行ったものです。黄金竜の力が途絶えた時、後継者が引き継ぐことを前提に約束されたものじゃないっすかね。本約定を知らないんで、俺の推測ですけど」
「それで合っております。ええと、」
「赤鬼っす☆よろ」
チャラーン☆てSE聴こえた気がするくらいチャラい言動でディプタスに自己紹介すな、赤鬼、お前の素は江戸っ子に近いくせに。
「承知しました。それなら、後継の存在を明らかにすれば、反対派の攻勢も止むことでしょう。更に魔王様のお考えを伝えれば、戦わずに済む。ありがたい。今日ここで魔王様にお会いできて、本当に良かった」
ディプタスは漸く心の底から安堵したようだ。ソファの背もたれに背を預け、リラックスした表情になる。
「お義父さん、良かったですね」
ジェイラルさんも、やっと笑顔が出せるようになった。
「ぱーぱ、じーじ、しごおわ、した?」
タイミングよくやってきた天使ミアちゃん、まじ天使。
後に続くメイさん、ハルネラさん、マザーの様子を見るに、こっちの様子を窺っていたようである。
この会談は非公式だけど、実質、天界と魔界の命運を懸けていたからな。気になるのは仕方ない。
「其方が、我が友の奥方か?」
魔王、マザーに話しかける。思ってもみなかった行動なので、俺ちょっと動揺した。魔王どうしたバグった?
「ええ、貴方様が私たち親子を助けて下さった魔王バズズネオル様ですね。主人から聞いておりますわ。その節はご尽力いただき、誠に有難う存じます」
魔王、そんな舌噛むような名前だったのか。ステータスにはなかったぞ。そういや俺の黒画面解説はややポンコツなところがあった。BIGBOSS並に。
赤鬼名解説ver.をインストールしたい。
と、俺がアホなことを考えている間に、マザーは魔王相手に頭を下げていた。お腹が目立ってきたので立ったまま礼するのどうかと思う。
「奥方、顔を上げてくれ」
あ、意外。魔王も気遣えるみたい。マザーの手を取って、マザー専用の椅子に導いて、ゆっくり話をし出した。
「私は友の願いを聞いただけだ。あの当時のことは、其方の記憶にないはずだ。生き残れたことに感謝し、親子共々に健やかでいてくれたら、それでよい」
「有難いことに御座います。確かに当時のことは記憶に御座いませんが、近しい者のことは憶えておりました。こうして、親子で暮らせるのも、魔王様のご尽力があったからこそです。遅れましたが──私の名前は花愛、古雅 花愛と申します」
マザー、花愛さんだったのね。苗字もだけど初耳……ん? 古雅って聞いたことあるな。養護施設を支援してくれている古雅議員と同じだが……まさか……。
────きづいちゃった? こがぎいん、マザーちゃんことおハナちゃんの、いとこよ────
チャワード! ええええ、じゃあ、じゃあ俺、日本にいる頃、母親の親戚に面倒見てもらってたの?!
────なるべく、えんのあるところに、あずけたかったの。だから、めぐりめぐって、そんなかんじよね────
そんなかんじ……そうか、そうだったのか……。
今となっては会うどころかお礼も言えないけど、ありがとうございました。
────だいじょうぶよ。いんたいするまで、せんきょはとうせんするから────
それは安心。
「ハナエ殿、今後も良しなに頼む」
「はい」
て、そこ、和んでいるけど、息子が置いてきぼりだから。ちょっとチャワードと話している間に二人がいい雰囲気だ。何がどうなって?
それと魔王、魔王が過去に、俺とマザーに何してくれたかぐらい把握しておきたいのだけど。
「ダンジョンマスター」
「ほいほい。シオだよ」
気づいてくれたようで何より。さあ、話せ。
「シオ、これから世話になる」
「いや、帰れ」
そうじゃない。過去のこと聞きたかった。魔王は魔界の王だろが。王様不在でどうすんの。帰れ。
主天使ディプタス・アルコンは一旦、天界に帰った。俺、ダンジョンマスターの許可があれば〈通用門許可証〉がなくても羅生門を使っていいのだそう。
あ、うん、すっかり通用門のこと羅生門って呼んでいるね。誰も突っ込まないから気にしてないぜ。
一旦の帰宅なのは、帰り際に「また来る」「孫かわいい」を連呼していたので、天界を何とかしたら、戻って来る気満々だと思ったからだ。
魔王は帰らない。
今日もソファで涅槃像が如くポテチを貪り、MLBに夢中だ。野球用品が魔卵から出るのは、魔界公爵ではなくて魔王の趣味だったっぽい。俺と推し選手語りができるほどだから相当だ。
こちらの世界に来てからも【日本の動画 観たい放題】で応援しているわけだが、魔王も詳しいってことは、彼も中継を観ているってことだよね。
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