ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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黄金竜の影響とダンジョン経営編

48、迷子きて混迷する

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「私はハッグ。旅人ハッグだ」
「魔王ですよね?」
「………………」

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 彷徨いのハッグ【男】
 種族:魔王族
 職業:旅人
 能力:全能最高極位値
 称号:『迷子の王様』
 ――――――――――――――――

 やはり魔王である。魔界にいると噂の、魔王である。
 再度ステータス確認して、鬼とあるので頭頂を見てみたが、特に角はないのだった。謎。

 そもそも、ダンジョン派遣モンスターじゃなくて、この方は旅人……らしい。どうやって魔天卵に割り込んだのやら。それを言ったら妖精どもも。

「迷子なら、魔界に連絡を」
「しなくていい」

 食い気味に言われた。

「ここに住むんで?」
「私は旅人。風の吹くまま、気の向くままに旅をするまでだ」
「カッコつけてるけど、それ無職フーテンじゃん」

 寅さんだ。養護施設に古いVHS全巻あった。施設長のコレクションらしいが。

「…………」

 なんだろう、とても面倒くさい人な気がする。裸のまま、仏陀像みたいに寝そべるこのお方こそ魔王だと言うのなら、魔界の人は今、魔王を探しているのでは?
 やはり連絡した方がいいと思ったところで、手を掴まれた。

「連絡するな」
「いや、でも、迷子でしょ? 心配してるよ魔界の人たち」
「書き置きはしてきた」
「それはいいけど、保護したことくらい、こっちからも連絡す」
「しなくてよい」

 そう言い捨てて、魔王は逃げた。
 ここは天守の頂上だ。天使のように窓から飛び降りなければ、階段から降りるしかない。魔王は階段を選択した。

「うぐわああ」

 誰かにぶつかって、一緒に階段落ちする魔王。役者顔負けの名演技だ。え、ガチ落ち?

「なんなんっすか、もう!」

 赤鬼だった。一緒に階段から落ちたけどピンピンしている。
 俺を呼びに来た赤鬼にぶつかってしまった魔王は、素っ裸で今、俺の愛用ソファにて、不貞寝することにしたようだ。すごく邪魔だ。

「赤鬼、なんか用事あった?」
「ああ、マザーが、藤棚できたって大喜びしてたから、シオさんに伝えようと思って」

 ガチャから出た藤棚か。早速、気づいてくれたんだな、マザー。しかし、そんなに喜ぶとは思わなかった。これからは桜以外にも季節感を出して前庭を飾るかな。

「そういうことね。ありがとうよ赤鬼。ついでに、魔界公爵に連絡取って欲しい」

 あまりにもこちらの情報が魔界に筒抜けだから、誰かが意図的に報告している気がしていたのだ。それはやっぱり、赤鬼かなと思うわけで。だってこいつ、初期からいるからね。

「んー、親父に? 今、居るかねえ……」

 ほら、案の定。隠す気もなく魔界公爵との繋がりをにおわせてくる。

「魔王は預かったって言っといて」
「げえ。やっぱ、そうなのか、これ」

 魔王を、これ呼ばわり。やるな赤鬼。魔王のことは、赤鬼に任せた。

 訳アリのイケオジ天使を探さねば。
 地図で居場所を探したら、ダンマス湖畔コテージにいるようだ。うちで働く天使ならそこを拠点にしてもらおうと思っていたので、もういるなら丁度いい。俺が転移することにした。

「じゃ、魔王のことよろしく赤鬼。服くらい着せてやれよな」

 すっかり服出すの忘れていた俺が言う。
 赤鬼は櫓AIとツーカーだし、俺の黒画面にアクセスして出前も通販も自由自在なはずだ。頼んだ。

「ええっ、そーりゃないぜシオさーん」

 どこぞの怪盗みたいな台詞を耳にしてから、目的地に飛ぶ。次の瞬間、目の前にコテージの玄関が現れた。玄関までの階段を登らなくていいのが地味に嬉しい転移だ。

 ドアノッカーを叩​──くよりも、インターフォン押した方が楽だった。ここのドアノッカー馬蹄なのだけど、めちゃデカくて重いから。 

「シオくん、いらっしゃ~い♡」

 相変わらず色っぽい淫魔お兄さん、メイさんが出迎えてくれた。ここの玄関は自動扉で、インターフォンで客を確認したらボタン一発で扉は開けれるはずだが、わざわざ迎えに来てくれたのだ。

 そのまま一緒に歩いてリビングに通される。リビングには、目的のイケオジ天使とジェイラル、ミアちゃんもいた。ミアちゃんは玩具に夢中である。

「シオ様、お呼びいただければ、こちらから出向きましたのに」
「気にしないで。魔王がいて面倒くさくなったから、逃げてきたんだ。いい口実になったし」

「魔王?!」

 ガチで驚く主天使ディプタス・アルコン。長いな。ディプタスでいいか。

「魔王自ら来たと?! やはり魔界は下界に進出を……!」

 何がやはりか知らないけど、そんな野望は抱いてないと思うね。あの旅人魔王を見る限り。

「こうしてはいられないっ。私も天界議会で進言を、いや、まず魔界の動きを探って」
「落ち着いて下さい、お義父さん。まだ魔界が動いたわけではありません。それに、魔王がここにいるということは、動きは無いということです」
「そ​────そうだな。来るなら一気に来るはずだ。魔王を旗頭に」

 なーんか、天界は迷走しているなとは思っていたけど、思った以上におかしくなってないか?
 話を伺いに来た俺が首を傾げていたからか、ジェイラルさんが先に色々と教えてくれた。

「シオ様、この度はご足労をおかけしました。こちら、主天使ディプタス・アルコンは、私の義理の父です」

 あー、噂の、奥さんを押し付けた上司だ。
 だからなのか、メイさんの目が、めっちゃ厳しいよね。さっき出迎えてくれた時も、口調はいつも通りだけど、目が剣呑な光を帯びていたもの。

「取り乱しまして、すみませんシオ様。天使ジェイラルとは義理の親子関係を結びましたがな、娘とはとうに精算させておりますから、本来なら義父などと呼んでもらえるような立場じゃないはずなんですわ」

「そんな、義父は尊敬する亜父です。ジェミアルだって」

「じーじ!」

 大人しく積み木をしていたミアちゃんだったが、呼ばれたと思ったのか、ディプタスまで甘えに行く。

 あーこれは、じーじと認めないといけない展開な。

「こうして懐いています。元妻のことは抜きにして、縁を繋ぎたいと思ってますよ、お義父さん」

「…………そうか」

 うん、修羅場になりそうだったけど、無事いいとこに収まってよかった。
 メイさんも、ミアちゃんが懐くなら……な感じで、息をついているしね。

「それで、天界で何があったの?」

 重要なところを聞かないと、来た意味が無い。俺の言葉に促されて、ディプタスが語り始めた。

「……天界では、前から意見が割れてましてな。下界のダンジョンを手助けする派と、反対派。結果、知っての通り手助けする方向で、天界王子を中心にまとまっていたのですが、盟約の主──黄金竜が亡くなったこと、また魔界が好調であることで反対派が発憤しました」

 天界の内部分裂て……うちの親父のせいかよ。
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