ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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ゆるっとダンジョン構築編

33、羅生の門は建ち天使は笑う

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 次は悪魔っぽいお兄さんに挨拶。彼にも野球ユニフォームを着せたけど、なぜか色っぽい。なぜだ。胸ナイのに。

 ささっと自己紹介。

「ダンジョンマスターの塩板シオです。シオと呼んでください」

「シオくんね。メイナス・ウトナよ。メイって呼んでちょうだい。ヨロシクね♡」

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 メイナス・ウトナ【男性体インキュバス
 種族:淫魔族
 職業:ダンジョン派遣モンスター
 能力:淫魔能力高位値
 称号:子爵『風紀取締官』
 ――――――――――――――――

「淫魔族……風紀取締官ですか?」

 どちらかというと、風紀を乱しそうなのが淫魔だと思うのだが。

「ええ、ダンジョンなんてところ、欲望の坩堝でしょ。性犯罪を犯す前に、私が合法的に搾り取ってあげるわ♡」

 ナニをどう搾るのかは内緒だ。

「よ、よろしくお願いします」
「ふふっ、そんなに畏まらないで、気楽にしゃべってちょうだい。可愛い主様で嬉しいわ。張り切ってお仕事しちゃうわね♡」

 すごい色香だ。これならダンジョンに来る男たちを性的に食べ、搾っては飲み干すだろう。
 お手柔らかに頼みます。冒険者たちにはリピしてもらいたいので。精根尽き果たさせないように。

 住みたい場所を聞いたら、水辺に住みたいという。淫魔だけに。意味深ですな。

「小さくていいの。できたらキッチン付きで。ウッドデッキも欲しいわ。建てて下さるかしら?」

 意外にも、可愛い家をご所望のようだ。
 庭の池の片隅に、ミニマムなコテージ風の家を建ててあげることにした。

 あとで建てるから待っててと言い置き、残りの天使たちに向かう。

 たぶん天使で合っている。服を着る前は、背中から白い翼が生えていたから。
 一人だけ、小さな子が灰色の産毛が目立つ翼だったのを見たけど、他の大人たちは白色なので、幼い頃だけ灰色なのかなと推し量る。

「お初にお目にかかります。ダンジョンマスター様、我々は皆、天使族です。私が代表を務めますが、皆でやることは変わりません。これからお世話になります」

 壮年のおじさんで眼鏡だけど、すごい美形だな天使族。背が高くて髪も長くて足も長い。リアル八頭身、初めて見たかも。野球ユニフォームが、つんつるてんである。
 申し訳ないので、他の服を買ってあげなくては。

 ≪ステータス≫
 ――――――――――――――――
 ジェイラル・クレモン【男】
 種族:天使族
 職業:ダンジョン派遣型使徒
 能力:天能中位値
 称号:一級天使『監察官』
 ――――――――――――――――

「最初に声かけてくれた人だよね。ジェイラルでいい? 俺はシオって呼んで」

「はい、よろしくお願いします。シオ様」

 真面目な人だな。さすが『監察官』。あと眼鏡。

「ほな、あたしらも自己紹介してええか?」

 グイッと入ってきたのが、関西にお住まいの方ですか?と問いたくなるようなオバチャンたちだ。
 オバチャンだけど天使だ。背中に天使の羽が容赦なく生えていたから。今は服を着たので羽を仕舞っている。出し入れ自由とは、便利だね。

 野球ユニフォームは、縦縞のやつを渡しておいた。今はセもパもメジャーすら、どのチームのも揃っているのでコーデには困らない。
 しかし阪神圏のオバチャンたち。縦縞も確かに似合うけど、おそらく一番似合うのは虎柄か豹柄だ。
 それぞれに、似合いそうな柄物シャツを買ってプレゼントした。

「家はどうします? 住みたい場所あれば、善処します」

「あー、あたしらパートだから、家はいらないよ」

 パートときた。派遣とは違う勤務形態らしい。派遣は住み込み前提で、定期的に帰省可。
 パートはローテーション組んで早上がりと遅上がりがあり、上がったら天界の家に帰るという。24時間経営のダンジョンに対応するためのシフト制だとか。

「そいで、通用門をここに設置して欲しいねん」
「天界は遠いし、召喚されんとここのダンジョンには戻れんのですわ」
「せやから、通用門な」
「わてら〈通行許可証〉を持つ天使のみ、通れる仕組みやさかい」
「あっち帰るんも、こっち出勤するんも、許可証を門にかざせば楽ちんやで」

 なるほど自動扉みたいな通用門か。天界はそういう仕組みなわけね。魔界とは違うな。
 魔界のモンスター、中級モンスター以上は偽体ぎたいだから冒険者にやられたら帰省できる。インターバル置いて復活するので、それでダンジョンに戻れるのだ。

 で、その通用門が通販で買えるそうな。
 ここでポンと通知の音。お知らせやリリース情報が届くと時々に鳴るのだけど、それだな。

 黒画面を開いて見てみたら、『通用門のご案内』が来ていた。それに従って通用門を買う。無料だった。天界王子が支払ってくれるそうな。

 そして​────。

「……………………」

 ​なんか、羅生門みたいなやつが天守閣へと繋がるように生えたのだけど。
 まさか壁を抜いて門へ繋がる廊下ができるとは思わず、その大きさにも驚く。設置というより大工事が一瞬で行われたのだが?!

 これを全部無料とは天界王子、太っ腹である。

「完成しましたね通用門。常にこちらには二~三人の天使を配置できるようシフトを組ませていただきます」

 と、冷静なジェイラル。さす眼鏡。

「ですが、私はこちらでお世話になりますので、できれば住居の手当をいただきたく……」

「あ、はい、ジェイラルさんと……そちらの子も?」

 ずっとジェイラルさんの長い脚にくっついている幼児がいるのだ。顔や髪がジェイラルさんにそっくりなので、きっと娘さんだ。

「ジェミアルです。私の子で、その……お恥ずかしながら別れた妻との子でして、こちらに付いてきてしまったのです」

 なんと、ジェイラルさんちは父子家庭。父のダンジョン派遣が決まり、祖父母に面倒を見てもらおうと天界に置いてきたが、いつの間にか足にくっついて離れなくなっていたという。

「余計なご面倒をおかけしますが、私と、この子の住居もお願いできますか?」

「当たり前だよ。俺んちに来てくれたんだ。歓迎するよ。えーと、ジェミアルちゃん?」

「………………」

 人見知りなのか、ぎゅっと父の長い脚にくっついて目も合わせてくれない。コアラみたいだなあ。

「ジェミアル、挨拶なさい」

 と、父ジェイラルはおっしゃるが、幼い女の子は目にいっぱいの涙を溜めて、首を振る。

 これは……まだ、父親が離れて暮らすと思っていたりしないか?

「初めまして、俺はシオ。シオって呼べばいいよ。ここのダンジョンマスターをしている。パパの上司になるから、俺はパパの住むところを決めれるんだ。ジェミアルちゃんも一緒に住むのだから、住みたいところや住みたい家があれば、意見が欲しいな」

 俺は腰を屈め子供の目線に合わせ、聞き取って貰えるようゆっくりと話した。

 その甲斐あってか、

「……ほんと?」
「ああ」
「ほんとに、パパいっしょ、いいの?」
「勿論だとも」

 なんとか、ジェミアルちゃんと喋ることができた。

「……ミア」
「うん」
「ミア、ゆって、シオ」
「ああ、ミアちゃん。よろしくね」

「ありがとうございます。シオ様、私は貴方様がマスターで幸せ者です。我が子共々、再度、よろしくお願い申し上げます」

 めちゃくちゃ丁寧に頭下げられたぞ。
 こちらこそ、いつまでも袖と裾が合ってないユニフォーム着せて、つんつるてんにして申し訳ない。

 ミアちゃんは子供用ユニフォームがピッタリだけどね。幼児なのに子供用が丁度いいとは……天使は幼児でもスタイルが抜群らしい。

 それでも、折角だから可愛い服も着せてあげたいよな。

 購入画面で大人紳士服と子供服を、親子コーデで買った。
 そうしたら、淫魔お兄さんであるメイさんが、すすすすっと寄ってきて、

「シオくん、オネエサンにも服、欲しいなあ」

 耳元で囁やかないで欲しい。ゾクッとしたから。というか、オネエサン?
 まあ、いいや、親子コーデのレディース服を買ってあげた。なんとなく。
 そして出来上がったのが、お揃いの服で出掛ける休日のファミリーです。

 え、待って、あの淫魔はお兄さんのはずだけど?

 色気あふるる淫魔お兄さんはミアちゃんに、「お揃いね、私たち」と声をかけ、ミアちゃんも嬉しそうに笑ったので、これも有りなのかなと思うことにした。

 深く考えない。こんな時こそ俺の鬼能力【鈍感】よ働け。

 しかしまあ、美幼女天使の笑顔が尊いこと。

 この時の俺は、すっかりミアちゃんが女の子だと思い込んでいたのだが…………。
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