ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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ゆるっとダンジョン構築編

35、処分して犯罪者

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 今やこのダンジョンは、まだ二面ながらも有意義でレアな宝物が出るし、温泉施設もあってリラクゼーションできると評判だ。

 【泡の湯】温泉施設内、売店や食堂の他にフィットネスジムや図書室、トイレにパウダールームも備え、長時間滞在が可能になっている。
 うちの天使たちが働いてくれるおかげで目立った不備も事故もなし。客入りも売上も順調そのもの。

 低級モンスターは隙あらば増やしているし、一面の洞窟迷路は宝箱だらけ。中身は相変わらずの野球用品とコスメセットだけど、コスメのラインナップは頻繁に変わって客を飽きさせないようにしている。

 更に最近はぬいぐるみを加えた。当たった人はゲーセン帰りの大きなぬいぐるみを抱えた人みたいになっている。そしてたまに出る藻スラ卵で極レア感を狙う。

 ミミックも豊富にいるので、偽宝箱に騙されたくない人は敢えて宝箱を取らず、一直線に温泉を目指す人も居るくらいだ。
 そういう人は、ここを何だと思っているのだろうか?

 ダンジョンぞ? ここ、ダンジョンぞ?

 ダンマスルームだってあるぞ。相変わらず一階層の奥にあって、手前に野球ドームことボス部屋ならぬ赤鬼ドームがある。ここでは、たまに冒険者が貸し切って野球の練習試合をしていく。試合が終わったら帰るので、ダンマスルームが脅かされたことは無い。

 もし赤鬼ドームで戦闘が始まっても、赤鬼は不敗だし、赤鬼ルーム手前には【泡の湯】と、二階層への階段もあるので、大抵はそっちへ流れるから、俺は安泰だ。

 続く二階層目、こちら洞窟と打って変わっての山だ。イメージは熊野古道。山頂に【美人の湯】があるので、それを目指してトレッキングしてもらう仕様。

 モンスターを倒しながら山を登るだけでもキツいのに、途中でアスレチックがある。アスレチックには正しい使用方法と手順があり、その看板も設置してあるので、案内通り正確にこなさなければ前には進めない。
 間違えるとブッブーと音が鳴るので、もう一度やり直せばいい。だが、途中でパスしたりズルしたり案内を外れると……入口に戻る。

 再度の挑戦にはペナルティとしてウエイトがかかる。手首に重りが装着された状態で山頂を目指さなければならないのだ。
 もちろん、またルール違反したら再ペナルティ。どんどん負荷が掛かるので数回で動くこともできなくなるだろう。
 まだそこまで酷い人はいないが、一度ペナルティを食らった人は多い。

 たまに「やってられっかー!」と癇癪起こしてアスレチックを壊すやつがいるが、そういう破壊魔は犯罪者なので、魔法を使う【岩ゴーレム レベル5】筆頭にゴーレムズが集ってお仕置だ。
 袋叩きにして追い返す。また来ても追い返す。三度目は、ない。

「シオくん、ゴミが出たの。処分してくれる?」
「ん? メイさん、ゴミなら集積所に置いておいてくれれば俺が処分するよ」

 焼却炉のマグマ溜りアイコンにポイすれば終わりだ。数日に一回は集積所に回収に行っている。そのことをメイさんも知っているはずだが……その手に持って引き摺るボロ雑巾みたいなの、何だろう? 人間に見えるなあ。

「集積所に放置したら息を吹き返すかも知れないでしょ。そうしたら、また悪さするわ。その前に、処分しなきゃね♡」

 あ、処分て、そゆことかー。

 極力、人死は避けているダンジョンだけど、不運で勝手に死ぬやつはいるし、こちら側が仕方なく悪人を成敗する時もある。
 今回は、成敗の方な。秩序の乱れは法の乱れ。このダンジョンに法はないが、マナーと規律はある。それなりのルール、暗黙の了解ってやつで、『三度目はない』のだ。

「おい、起きろ」と犯罪者を起こし、「なんだてめえ!」口だけ突っかかってきたけど、ゴーレムにお仕置され、メイさんに骨抜き(文字通り)にされた体は動かないようだ。

「ここで即死して遺体を残さず処分されるのと、生きたまま焼かれて、その様をダンジョン中に中継されるの、どっちがいい?」
「ああん? いい気になるんじゃねえクソが」

 処置なしだな。なんで俺がなんだよ。目も脳も狂っているらしい。

「〈浮遊〉」

 浮かせてポイに決定。

 俺の焼却炉は生きた人間も放り込むことができる。金を払えば。
 普段は生物を燃やさないようセーフティロックがあるが、これを外すのが金一枚。処分費用と思えば高いのか安いのか……たぶん、安いのだろう。人の命の値段だと考えれば、本来ならもっと重いはず。
 たった金一枚で処分される男は、それだけの価値しかなかったということ。

「それじゃあ、中継するよ」

 ダンジョン中に黒画面を飛ばして、生中継。画面上下に流れるテロップには、犯した罪、どうして処分されるのか、処分方法を明記の上、しばらく待って人を集める。

 モンスターと戦っていた人も、温泉でゆったりしている人も、ジムトレに夢中な人も、アスレチックで歯を食いしばっていた人も、足を止め、手を止め、突如現れた黒画面を見つめた。

 処分する男の前には、自分が注目されている様を映し出す。

「な、んだよ、これ……俺が、処分? なんもしてねえ! 俺は無罪だ!」

 してないはずがない。テロップにはこの男の犯罪歴が流れている。

『器物破損。強姦未遂。婦女暴行。恫喝、喝上。窃盗、置き引き』

 すべてダンジョン内でやった犯罪なので、事細かに映像付きで罪が流れる。
 この映像、既に編集済みのが〈所持品〉に届いていたので使ったが、誰がつくったのやら。
 チャワードかな?

 ────うえ~い あなーたは かみーを しんじまーすかー────

 チャワードだな。自称神の。

「無実との主張だが、実際はえげつないほど罪を犯しているのがこの男だ」

 黒画面から俺の声が響き、テロップに同文が載る。

「俺はダンジョンマスター。これから、この男を焼却処分する。異議申し立ては受け付けない。この男の罪は明らかだ。
 一度目は許そう。二度目も許そう。だが、三度目は、許さん。生きたまま、焼却処分だ。それが嫌ならダンジョン内で罪を犯さぬことだな」

 そう告げてから、犯罪者をポイした。
 黒画面の映像は、犯罪者が焼却炉であるマグマ溜りの空中で、手足をジタバタさせているところまで追いかける。

「たあ、たぁすけて、くれぇー! ぎゃあ熱いアツイあづイイイイ」

 空中で、まだマグマ溜りまで距離があるのに、その熱さと熱風にやられ、犯罪者の皮膚はジュッと溶ける。瞬間、体に火がつく。

「ぐああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」

 生きたまま、火だるまだ。すぐ死ねない。滞空時間が長いから、その間ずっと苦しむ。苦しむ様を、黒画面がダンジョン中にライブ中継してくれる。

 テロップには『処刑中。処刑中。処刑中』の文字が点滅して流れた。
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