ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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ゆるっとダンジョン構築編

43、さよならしてこんにちは

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 どうしようもないドスケベ変態親父だけど、腐っても黄金竜──ドラゴンだ。

 この世界のドラゴンは、決して破壊の象徴ではない。まあ、ちょっとおイタが過ぎる国を滅ぼしたりの前例はあるけれど、基本、幾千万の時を生きる大賢者の認識が強い。

 時に人へまぎれアドバイスをし、時に国に降り立ち政治手腕を揮う。

 悠久を生きるドラゴンにとって、人の世での戯言は単なる暇潰しかもしれないけれど、人類にとっては必要な叡智だ。

 人の想像が及びもしないところで生き続ける黄金竜が俺の父親だと知って、実は嬉しかったのだ。

 殺人人形と呼ばれた母親を救い、俺のこともチャワードを利用してまで救ってくれた。母親と俺に、ダンジョンという家を残してくれた​────。

 俺は任せとけと言わんばかりに鷹揚に頷き、皇妃様のお腹に手を付いた実の父親が、人の姿を崩しドラゴンの特徴を露わにしていくのを見守った。

 竜の角と翼と鬣が生え、竜の鱗が素肌を覆うにつれ、莫大な力が膨れあがるのを見て取れる。

 ビリビリと空気が引き裂かれていく。
 竜気の乗った覇鱗光が、俺の肌身に直撃した。

 俺には眩視・鈍感の能力があるから何も感じないけれど、これで生身の普通の人間だったら、眩しさに目を焼かれ、恐怖に駆られ、狂っていたことだろう。

 絶大なる黄金竜の力、その波動が辺り一面を、否、おそらくこの部屋を飛び出し桃城中に、むしろ都中、国中を覆って行った。

 何分、それが続いたかは計っていないから知らない。数十分ぐらいの出来事だったろうか​……。

「​──────」

 ​やがて覇光は鎮まり、親父が赤ん坊を抱いて立っていた。

 俺と目が合った親父から、赤ん坊を手渡される。

「あと、よろしく」

 短い言葉を残し、親父の体が金の鱗粉みたいな、細かな粒状に変わって、どんどん飛んで、散って────逝ってしまうのを止められなかった。

「あ、」という間だった。俺の目と口はずっと開き切っていただろう。声が出た時、喉は乾いていたし、瞳も乾き切っていたのか、涙も出なかった。

 部屋の扉が、ガタンッッと音を立て倒れた。倒したのはガタイの良い中年のおじさんだ。高品質な仕立ての服を着ている。帽子の刺繍や身に着けた宝飾品からも身分の高い人物だと知れる。

「っ、無事か……?!」

 よろめいて部屋に入って来たおじさん。俺が赤子を抱いているのを見て、一安心してから皇妃の眠るベッドへと駆けていく。

「おおおおおお……!」

 声にならない声を上げ嗚咽を漏らす彼は、この国の皇帝に違いない。皇妃の手を取って擦り、涙をボロボロ零して顔面崩壊だ。

 この時に俺は、赤子を初めて見やった。これまでにも何か違和感があったけど、やっと気づいたんだ。

 この赤ん坊、息してない────。

「やばい……!」

 俺が動揺して声を出したからか、皇帝が顔を上げた。

 焦る俺が皇妃様のベッドの空いているところに赤子を寝かせたからだろう、皇帝はサッと体を捻って避けてくれたが、その手は皇妃の手を掴んで放さない。仲睦まじいこって。

 赤子の細い手首や首筋、胸を探り、触診してみる。
 脈拍も心音も小さい。急いで心臓マッサージをする。

「戻れっ、戻れっ」

 心臓の上で手を重ねて何度も押す。が、心音は弱っていくばかり。なんということだ。日本ではこれが一番の蘇生方法だったのに……!

 異世界では勝手が違うのかもしれない。残念ながら、これまでに蘇生方法について考えたことがなかった。藻スラの卵に頼り切っていたからだ。

 この時の俺は、かなり焦っていた。目の前で父親が死ぬという悲劇も目撃していたし、それに対して涙が出ない自身に複雑な気持ちでいた。

 頭がパニックになっていたなりに、もう一つ思いついた蘇生方法は、人工呼吸だ。

 鼻摘まんで口から息を入れる。大きく息を吸い込んで、ふ​────っと、マウストゥマウス。

 やってみたけど……ははは、これも効果ねえわ。
 それでも心臓マッサージを続け、弱い落雷陣で電気ショックも試してみた。

 ぐうぅ……効果なし。

 更に口移しで空気を吹き入れ、ふと魔力も同時に流したらどうかと思いついて、また思いっきり息を吸ってから、唇を重ねた。

 ふわぁ……と、赤子に力が吸い込まれていく手応えを感じた。

 これだ……!

 その後、何度も人工呼吸して唇をくっつける。接触と同時に魔力を送り込んでいくと、ドクドクと心臓の音が大きくなるのを聞いた。

「ふにゃあぁぁぁぁ」

 赤ん坊が啼いた。猫みたいな鳴き声だ。可愛いじゃないか。

 この後も元気に泣き続け、三日ほど泣き止まなかった。
 尋常じゃない体力がある赤子だ。素晴らしくパワフルだけれど普通の赤ん坊。そう思っていた。

 けど、この赤子が成長するに連れてティリン・ファ皇国は徐々に大変なことになっていった​────らしい。

 俺は、竜気にあてられた城中の人達がダウンしていたから、ひと月くらい赤子の面倒を見ていた。それからダンジョンに帰ったので、赤子が更に大きくなり成長していく様は見ていないのだ。

 さよならの時。
 行きは親父のドラゴン臭い口の中だったが、帰りは黒画面から〈地図〉を見れば世界が映り、ダンジョン鬼ヶ島も直ぐに探し当てれた。

 楽々、転移で帰ったとも。
 でも、気は重い。

 うあ~、マザーに親父のこと、どう話そうか……。
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