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ゆるっとダンジョン構築編
42、危険だよ桃城
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風呂から上がった。
綺麗な格好した女官たちが、ズラっと並んでお出迎えしてくれた。
え、正直、引いてしまったのだが。な、なにごと?
「坊ちゃん、きれいな肌してらっしゃいますこと」
「まあまあ玉のお肌ね羨ましいわ」
「宰相様の息子たんやっば! カワユス!」
「お姉さんたちがペロペロもとい綺麗に磨き上げてあげますからね」
おしろいの匂いと共に近づいてくる女官たち。どうにかならんか怖い! 女官たちの目、爛々と光って獲物を見定めた獣のようだよ!
結局、されるがまま。光沢があって高そうな美しい布の服を纏わされ、長く伸ばした黒髪も複雑変幻に編み込まれ、ついでとばかりに宝石にも飾られ、やっとこさ支度が整ったらしい。
ここは『桃城』だっけ。親父の職場だ。
ティリン・ファ皇国の中枢、皇族の住居。皇帝のお住まい。
皇居寝殿か……。
廊下を歩いただけでも豪華絢爛なの、わかるよ。朱塗りの柱や梁、金箔の外観など派手な色合いをしている。屋根の裏まで金色だったり、柱の間に硝子細工が施されていたりする。
あの硝子細工……尻?
いや、桃か。桃の木がモチーフなのだろう。等間隔に燈籠が灯り、光が乱反射しまくりだ。
こういうの見て、人間だったら「まぶしいっ」て、ならないか?
だが幸い、俺には鬼能力【眩視】がある。キラッキラ輝くものに眩しさを感じないのだ。おかげで、それら豪勢で権威ある様を十分に観察することができた。
見学しながらも時に長い裾を踏み、こけそうになるが歩き、やがて、とある一室に招かれた。
部屋は、さほど広くなく八畳くらい。
入る時に気づいたけど、部屋の外も中も大量に魔法陣が施されている。見える陣だけでも百はあるな。見えないものも含めれば、星の数ほどあるんじゃないかな。
見るからに特殊な部屋の中心には天蓋ベッドがあり、そこに一人の女性が薄衣姿のまま寝ていた。
「皇妃だ」
マジでか。親父、とうとう見境なく皇妃様にまで手を出しちまったか。
憐れんだ目で親父を見つめた。
「お前、勘違いしてるだろ。俺は一応この国の宰相だぞ。皇妃に手を出すわけねえだろが」
人妻にはセクハラすんのに?
胸張って答える親父だが、別に威張ることではない。当たり前のことだから。
「見ての通り、皇妃は出産間近だ」
そうなんだよね。仰向けに寝ている皇妃様のお腹は大きくて、今にもはち切れそう。と言うか、はち切れるんじゃないかこれ本気で。
「危険な状態なのも一目瞭然だな。守りの魔法、結界、古今東西の悪魔避けに安産祈願と、やることやってやり尽くしたが、この状態だ」
親父の説明によると、皇妃はその立場上、様々な妬み恨み嫉みを背負ってその地位にいた。懐妊しても気は休まらず、とうとう毒殺されかかった。
弱った皇妃へ更に追い打ちをかける新たな事実が発覚する。
お腹の子供は化け物かもしれない────。
母の腹を内側から破ろうとするのだ。普通の人の子が、そんなことをするはずがない。代々、大いなる力をもつ皇帝一族の直系だからだろうか。それにしたって、これまでに母の腹を蹴破ろうとした鬼畜な赤子はいなかった。
「塵も積もったり魔法陣てんこ盛りなのは、そういうことか……」
皇妃の守りもそうだけど、お腹の中の赤子を抑えているようだ。星の数ほどの抑制、気逸らしの陣や護符でも抑えきれていない。所々のほころびを見つめ、それだけ赤子の力はヤバイものだと、その得体の知れない巨大な力に慄くしかない。
「親父の守りがないのはどうしてだ?」
黄金竜の守りがあれば、もっと安定するだろうに。
「俺のは昨日、外した。一日、魔力の安定を待ったとこだ。これから赤ん坊を助ける」
「赤ん坊を……赤ん坊だけ?」
「そう思うよな。皇妃は深い眠りの魔法で眠らせてあるが、この状態になる前に遺言してんだ。お腹の子を優先する。未来の皇太子をよろしくってな」
「気丈な人だなあ」
俺は感心で鼻を膨らませた。自身がそんな状態で、肉体的にも精神的にも辛いだろうに、お腹の中の子の未来を守ろうとするなんてね。なかなかできることじゃない。
「俺は何をすればいい?」
「何が起こるか分からねえから、お前を呼んだ。何が起こっても対処できる奴を、俺はお前以外に知らねえ」
「おお。俺を信用してんのか」
「信頼してるぜ息子」
おいおい、急に褒めるなよ頼るなよ。照れるじゃねえか。
しかしこの危機的状況で、どうすんのかね。親父なら何とかできるのだろうか。
綺麗な格好した女官たちが、ズラっと並んでお出迎えしてくれた。
え、正直、引いてしまったのだが。な、なにごと?
「坊ちゃん、きれいな肌してらっしゃいますこと」
「まあまあ玉のお肌ね羨ましいわ」
「宰相様の息子たんやっば! カワユス!」
「お姉さんたちがペロペロもとい綺麗に磨き上げてあげますからね」
おしろいの匂いと共に近づいてくる女官たち。どうにかならんか怖い! 女官たちの目、爛々と光って獲物を見定めた獣のようだよ!
結局、されるがまま。光沢があって高そうな美しい布の服を纏わされ、長く伸ばした黒髪も複雑変幻に編み込まれ、ついでとばかりに宝石にも飾られ、やっとこさ支度が整ったらしい。
ここは『桃城』だっけ。親父の職場だ。
ティリン・ファ皇国の中枢、皇族の住居。皇帝のお住まい。
皇居寝殿か……。
廊下を歩いただけでも豪華絢爛なの、わかるよ。朱塗りの柱や梁、金箔の外観など派手な色合いをしている。屋根の裏まで金色だったり、柱の間に硝子細工が施されていたりする。
あの硝子細工……尻?
いや、桃か。桃の木がモチーフなのだろう。等間隔に燈籠が灯り、光が乱反射しまくりだ。
こういうの見て、人間だったら「まぶしいっ」て、ならないか?
だが幸い、俺には鬼能力【眩視】がある。キラッキラ輝くものに眩しさを感じないのだ。おかげで、それら豪勢で権威ある様を十分に観察することができた。
見学しながらも時に長い裾を踏み、こけそうになるが歩き、やがて、とある一室に招かれた。
部屋は、さほど広くなく八畳くらい。
入る時に気づいたけど、部屋の外も中も大量に魔法陣が施されている。見える陣だけでも百はあるな。見えないものも含めれば、星の数ほどあるんじゃないかな。
見るからに特殊な部屋の中心には天蓋ベッドがあり、そこに一人の女性が薄衣姿のまま寝ていた。
「皇妃だ」
マジでか。親父、とうとう見境なく皇妃様にまで手を出しちまったか。
憐れんだ目で親父を見つめた。
「お前、勘違いしてるだろ。俺は一応この国の宰相だぞ。皇妃に手を出すわけねえだろが」
人妻にはセクハラすんのに?
胸張って答える親父だが、別に威張ることではない。当たり前のことだから。
「見ての通り、皇妃は出産間近だ」
そうなんだよね。仰向けに寝ている皇妃様のお腹は大きくて、今にもはち切れそう。と言うか、はち切れるんじゃないかこれ本気で。
「危険な状態なのも一目瞭然だな。守りの魔法、結界、古今東西の悪魔避けに安産祈願と、やることやってやり尽くしたが、この状態だ」
親父の説明によると、皇妃はその立場上、様々な妬み恨み嫉みを背負ってその地位にいた。懐妊しても気は休まらず、とうとう毒殺されかかった。
弱った皇妃へ更に追い打ちをかける新たな事実が発覚する。
お腹の子供は化け物かもしれない────。
母の腹を内側から破ろうとするのだ。普通の人の子が、そんなことをするはずがない。代々、大いなる力をもつ皇帝一族の直系だからだろうか。それにしたって、これまでに母の腹を蹴破ろうとした鬼畜な赤子はいなかった。
「塵も積もったり魔法陣てんこ盛りなのは、そういうことか……」
皇妃の守りもそうだけど、お腹の中の赤子を抑えているようだ。星の数ほどの抑制、気逸らしの陣や護符でも抑えきれていない。所々のほころびを見つめ、それだけ赤子の力はヤバイものだと、その得体の知れない巨大な力に慄くしかない。
「親父の守りがないのはどうしてだ?」
黄金竜の守りがあれば、もっと安定するだろうに。
「俺のは昨日、外した。一日、魔力の安定を待ったとこだ。これから赤ん坊を助ける」
「赤ん坊を……赤ん坊だけ?」
「そう思うよな。皇妃は深い眠りの魔法で眠らせてあるが、この状態になる前に遺言してんだ。お腹の子を優先する。未来の皇太子をよろしくってな」
「気丈な人だなあ」
俺は感心で鼻を膨らませた。自身がそんな状態で、肉体的にも精神的にも辛いだろうに、お腹の中の子の未来を守ろうとするなんてね。なかなかできることじゃない。
「俺は何をすればいい?」
「何が起こるか分からねえから、お前を呼んだ。何が起こっても対処できる奴を、俺はお前以外に知らねえ」
「おお。俺を信用してんのか」
「信頼してるぜ息子」
おいおい、急に褒めるなよ頼るなよ。照れるじゃねえか。
しかしこの危機的状況で、どうすんのかね。親父なら何とかできるのだろうか。
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