ダンジョン鬼ヶ島には変なやつばっかくるぴえん

風巻ユウ

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ゆるっとダンジョン構築編

22、鬼だって風邪引く

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 湖から上がって来た紫藻スライムに思わず抱きついた。

 おおおお、ぷよんぷよんボディだあ。俺の顔と上半身が埋まった。紫藻スラはけっこうでかいのだ。ウォータークッションみたいで気持ちがいい。
 ただ、冷たいな。今、水の中から出たばかりだからかな。

「うぇっきし!」

 くしゃみ出た。鼻水も。そういえば背筋がゾゾゾってしたんだった。肩も冷える。風邪引く前に帰ろう。

 藻スラ卵ひと掬い分だけ持って、鬼ヶ城へ帰った。

 そして夜、案の定、風邪を引いた俺。

「ううう、さびぃ」
「あらあら大変大変、シオちゃんが、シオちゃんが、こういう時はどうするんだっけ? あ、頭を冷やすのよね」

 熱が出てしまった俺を前に、うろたえまくるマザーに申し訳なさが募る。人間だった頃の記憶があやふやだと言っていたけれど、何か局面に立てば自ずと思い出してくるものらしい。
 俺を寝かせたら、テキパキと桶に水を汲んでタオルを冷やし、おでこに乗せてくれる。氷枕と氷嚢も作ってくれた。

 これは嬉しい。

 ひと眠りしようとしたところでバタバタと誰か駆けてくる音が廊下に響く。うるさいなあ。

「シッオさーん! 魔力給餌お願いしまーす!」

 元気よく強請ってくるあいつがすごくウザイ。今日はもう魔力給餌しただろうが。

「これでも食らえ」

 青藻スライムの卵を赤鬼に食わせる。

「うおっ、これ、うま……!」

 みるみる顔を輝かせ、もう一個、もう一個と強請るお前がやっぱりウザイ。

「地底湖にいっぱい浮いてるから好きなだけ食え」
「マジすか。色んな色があるんすね。りょか。行ってきます!」

 藻スラ卵の説明をし、赤鬼なら冷たい水も平気だろう風邪なんぞ引くまいと湖に浮いている卵の全回収を任せ、俺はやっと目を閉じる。

 傍にはマザーの気配。

 風邪は病気平癒効果のある緑藻スライムの卵を食べれば治るだろうけど、マザーの看病には代えがたい。

 これまでは病気になったって親身に世話してくれる人はいなかった。施設の職員が確かに面倒は見てくれてはいたけれど、それは仕事の範疇だから。肉親からの無償の愛を感じたのは今が生まれて初めての経験だ。

 なぜだろう……心がくすぐったくなるものなんだな……。

 病気に罹った心細さを埋めてくれるマザーのぬくもりを感じながら、この日は意識を落とした。

 翌朝の食事、マザー特製お粥さんが物凄くうまかった。こんなに良い思いが出来るのなら、今後も軽い病気程度で貴重な藻スラ卵に頼るのは控えようと思った。

 風邪が治った俺は早速働いた。初行動で貰える魔天卵の回収をしたのだ。
 なぜか風邪で伏していた間も魔天卵が貰えていたので、何に対しての魔天卵か〈行動一覧〉で履歴を確かめたところ、『風邪で一回休む』という休業手当だったっぽい。

 すごろくかよ。

 何にせよ、お見舞い金として貰えたわけだからありがたい。五個だけだけど。

 魔天卵は、ある程度の数が溜まったら孵化させている。いちいち一個づつ孵化とか面倒だろ。
 あと、一気に十個以上孵化させた場合、一つ良いものが出る気がしている。十連ガチャみたいな気分で。魔天卵は腐らないし、溜めておいて損はない。

 レア狙うワクワク感も楽しみたい。赤鬼以上のレアは出る気がしないが。ダンジョンレベルが上がれば可能性も有りそうなので、やっぱりもっと冒険者が来て欲しいと、今度は〈日課トライ〉である『壁の補強工事をしよう』と『ダンジョンを拡張しよう』をやってみることにした。

 まだこの世界に来て数週間だけど、着実にチャワードの手の平で踊らされているよな俺。

 まあ、楽しいからいいや。
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