3 / 119
ゆるっとダンジョン構築編
3、ツノでたので腕毛毟る
しおりを挟む「え、あ、ああああ??」
頭の上にを手をやった。手指に触れたのは硬い、先が尖がった何かだ。
「何これ何これ何これぇぇええ?!」
「それはーツノ。モンスターらしくツノ、でたんだねー」
「ツノぉぉ?! 出たんだねーじゃねえよ! なっんで、こんなもんっ!」
引っ張ってみたが取れない。
「ふぬうっ!」
すっごい引っ張ってみたけど、やっぱり取れない。ツノとやらは相当固く俺の脳天に埋まっているらしい。
いや、生えているのか……もし、頭蓋骨が角の形だったらシャレにならん……。
「だいじなツノー。ね、そんなひっぱったくらいじゃ、とれない。そういうプレイがいいなら、あなーたより、ちからもちさんにやってもらうといい」
「プレイって?!」
「ツノ、とってもせんさいなぶぶん。きゅうしょといっしょ。ちからもちさんに、なでなでしてもらえば、とってもきもちいい」
何のことを言っているのかさっぱりわからねえ。チャワード訳分からねえ。
しかし俺がモンスター? になってしまったのだけは分かった。だって角。頭の天辺に角が生えてしまったのだ。もう人間じゃない。
「元に戻せ。人間に戻せ。日本に帰る。市役所に……俺は、今やっと自由になって、仕事してんだってば!」
児童養護施設では自由がなかった。友達と自由に遊べない。門限制限されて、外泊も出来ない。
服だって他の子供たちと着回しだから擦り切れた古着で、自分に似合うと思うものは選べれない。そもそも自分に合うサイズを着た覚えがない。お洒落したいと思えば、微々たるものだが小遣いを貰えていたので、それで少し自分のものが買えた。といっても服や玩具やお菓子より、プリペイドスマホを買うのを優先していたけれど。SNSとオンラインゲームするために。
門限だ小遣いだの問題は、両親のいる普通の家庭と変わらない生活じゃないかと思うかもしれない。けど、施設での生活は子供ばかりの環境だ。もちろん職員である大人たちはいる。けれど職員は赤の他人。肉親じゃない。家族じゃない。仕事で子供の面倒を見ているだけの大人たち。大人に監視されての集団生活ってのは窮屈でキツい。
特に人間関係。意地悪な年上男子に小突かれることなんか、しょっちゅうだった。職員の目を盗んで理不尽な暴力を受けることなど日常茶飯事だ。そんな時は自習室に逃げ込んで、宿題したりオンゲーしたりしていた。
逃げ場は他にもある。学校だ。施設よりも学校の方が良い所だった。高校の担任も良い人だった。進路に公務員を勧めてくれて、高卒見込みで地方初級試験を受けた。試験や面接の対策が大変だったけど、なんとか合格できたんだ。
春、俺は地方公務員になった。慣れない事務仕事を覚えて、まだ数ヶ月も経っていない。これからって時に、この仕打ちは一体何なのだ。異世界なんかに来ている場合じゃないっつーの。
俺は自称神様とかいう、とぼけた表情のチャワードを、キッと睨んだ。
けど、チャワードのやつ……。
「かえせない。むり。モンスター、このせかいにいるしかない。おしごと、あきらめて」なんて言うんだ。
「ん、な……!」
チャワードの言葉は簡潔だった。心無い言葉のようにも思える。けれど、チャワードの眉毛はハの字に。しょぼんと悲し気に垂れて瞳までウルウルしている。大の大人が、それも日本人離れしたゴツイ大男が、だ。こんな顔を見ちゃうと、俺が悪い奴に思えてくるじゃないか……。
いやいや、騙されないぞ。俺をモンスターにしたの、こいつこの野郎チャワードじゃねえか。
そのことをチャワードに主張したら、「てへぺろ☆」ってされた。
「こ、このやろぉぉぉぉっ!」
「お~やめてやめて。あなーた、けんかっぱやい」
怒りに任せてチャワードの腕を再度ペチペチ。ついでに腕毛を毟ってやる。
ブチィィッッて何本か腕毛を抜いてやった。
「いったーい。らんぼう、このこ。にほんなら、おとこのこはやさしくそだつってきいてたのにー。このこ、らんぼうになっちゃった」
「ふふふ。やんちゃで可愛いわ」
「うー。マザーちゃんがいいなら、いいのかなあ。ほんとうに、いーい?」
「ええ、チャワード。わたしの息子を誘ってくれてありがとう。これからは一緒に暮らせるのね」
そう言ってマザーとか呼ばれているミラーボールは、さっきよりカラフルなプリズム色を巻き散らかし始めた。心なしか光源が強くなった気がする。ギラッギラと辺りを照らし出す。
なんか俺、このミラーボールことマザーと一緒に暮らすことになっているけど、聞き間違いかなあ?
「じゃ、おやこで、なかよくね」
「がるるるるっ!」
「きゃー、たいさんたいさーん!」
今度は噛みついてやろうと思って牙を剥いてみたけど、チャワードは慌ててどこかに消えた。忽然と。跡形もなく。どうなってんだマジシャンか?
「きっと、神様の世界に還られたのよ」
「ふーん……」
マザーとやらが俺の背後にいるのがわかる。気まずくて、あんまりそっち見たくないのだけど、なんだか話をしたそうにしている気配がするので、仕方なく後ろを向いた。
既に、この時に違和感があったんだ。明るいものを急に見たら、本来なら眩しいと感じて、手を水平に頭へとつけ庇をつくるだろ? 俺も、それをやったんだ。でもこれは反射というやつ。実際には眩しくなかった。眩しくないけど手で瞳を庇ったからか、ミラーボールは俺を心配してくれた。
「あら、ごめんなさい。眩しかったわね。調節が上手くいかなくて……えと、あ、これでいいのかしら」
そうマザーが言った直後、光が収束する。暗くなったと思ったけど、すぐに明かりがパァァっと天井で散らばった。光の範囲が広がったみたいで、俺の周囲数十メートルくらいが昼間のように明るくなる。
俺は恐る恐る腕を下ろした。マザー本体が瞳に映る。
そこには────。
「初めまして。わたしの息子。わたしはダンジョンコア=マザー。あなたの母です」
母がいた。
11
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる