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愛し竜のために何ができるか
しおりを挟むこの半年、どんな職業があるのかエルフ村はもちろんインスーロ全域に足を運んで職場見学をさせてもらっていた。
色んなお仕事がある中で、どの仕事も面白いと感じてしまう。どうして一つに絞れないのだろうと悩んだ。どれもこれも興味深くて私は迷う。
どの職業も、ちょっとづつ体験したい。それフリーターって言わないか……。
うーん、そうなるとやっぱり、私がやりたいのは冒険者が一番近い気がするんだ。
冒険者なら色んな仕事できるし、世界を見て回れるし、竜神探しもできそうだもの。鬼神はあてにしてません。
潤沢な資金があれば仕事しないで物見遊山世界行脚をすればいいけど、私は所詮田舎の島エルフ。現金収入はお小遣い程度だ。稼ぎながら旅するしかない。
ただ一番のネックは、今のままじゃピエタとフェオを旅には一緒に連れていけないことだ。希望的観測はある。この子たち二匹とも成長したら人型をとれるかもしれないから。アプリ【魔物図鑑】には竜も不死鳥も人型になれると書いてあった。
成長して人型になった二匹と大冒険。いいじゃないか。夢ふくらむね。
「竜について知りたいなら、東国……特に神国フソクベツへ行くといい。竜を崇める人々が暮らす国だから」
と、クール先生。
へ? 竜を崇める?
「そんな本、世界図書館では見当たりませんが……」
「本がないのは多分、形態が違うからじゃないかな。東国はなんていうか、こちら側とは文化がまるで違うんだ」
「文化が……。それって本を残す文化がないってことでしょうか?」
「いや、そうじゃなくてね。俺の知る限りだと、製本じゃなくて巻物が主だってことだ。我々が使う綴じ本と違って、長くて薄いのに丈夫な紙でね。魔法保存してるわけでもないのに全然劣化しないから、紙を作る技術が凄いなと思った記憶がある」
クール先生は東国を旅したことがあるんだそうだ。前に魔国も旅したと言ってなかったっけ。クール先生が行ったことのない国はないのでは?
でも、そんなクール先生でも旅の仲間たちと入れなかった国がある。それが東国の中心国家である神国フソクベツ。限られた人にしか入国許可が下りないらしい。
過去にクール先生が入国したのは幼い頃の話。鬼神に連れられて『大龍神宮』と呼ばれる龍神の居城だった場所へ、ほんの少し滞在しただけだという。
その時に龍神の遺蔵書がある部屋を覗いたそうだ。遺蔵書があるなら龍神図書館があってもいいと思うけど、残念ながら世界図書館からは覗けない。
これはどういうことだろうか。龍神が亡くなったからじゃなくて、蔵書が巻物だから検索できないということだろうか。
それとも普通に行っては入国できない国にある図書館だから、元からアプリにも入ってないとかだろうか。
それにしたって、個人蔵まで検索できちゃうアプリのくせに一部だけ抜けるのは何だかおかしい。簾ハゲオッサンの策謀な気がする。
世界の空洞や超爆発に関しても調べれないみたいだしねえ……。
「竜神の図書館はあるのになあ」
と思わずぼやく。ちなみに竜神の図書館には幼児や子供向けの本が多かった。絵本や説話などだ。辞書など文字数多くて難しそうな専門書の類は皆無。
唯一これはインテリだなと思ったのが『魔導蓄積回路を読み解く』とか『魔水晶の見分け方』といった魔導具に関する本があったこと。
竜神て何者なんだろう……。
「今も竜を崇める人々は、その昔は龍神の眷属だったなんて話も残ってるよ」
「へ? えーと、それって……眷属っていうのは人なんですか?」
「さてね。東国のフソクベツじゃない他の国で聞いた話だから」
眉唾かもねとクール先生は肩をすくめる。
いや~眉唾だろうとなんだろうと貴重な情報をありがとうございました。
私は厚く御礼申し上げて、お二人と別れた。
うーん。ずっと変な姿勢で寝ていたからか肩と腰が痛いやバッキバキ。軽く伸びをして、それから帰路につく。
ピエタと歩いていたら、フェオも戻って来て、竜の背中に着地した。最近そこがお気に入りだよねフェオ。
ちょっと前まではピエタに近づくことさえしなかったくせに、鬼神に鍛えられてから度胸がついてきたっぽい。よきかなよきかな。
このままビッグに、そして強く逞しくワイルドに育って欲しい。ほぼ育児放棄している私が言うのもなんですが。
玄関の鍵を開ける。
今日はお父さんもお母さんもいないので鍵を渡されているのだ。
実はお父さん只今神殿での常駐勤務中。神殿での挙式は参列できたみたいだけど、披露宴へは来れなかった。
お母さんはシャドランの親族だから、そっちのお手伝いに行っている。終わったら帰って来るはずだ。
私もお手伝いしなければならない身内なれど、漫画担当ということでお手伝い免除されている。
すいません自堕落な元漫画家で。連徹とか普通にして今もけっこう寝不足気味だ。さっき寝こけちゃったしね。夜の方が作業はかどるんだよねというのは計画性のない漫画家の言い訳です。きちんと朝起きて昼間仕事して夜寝る漫画家さんが殆どです。尊敬するよね。真似ができないのが辛いところ。
所詮はどこまでも三流少女漫画家だった私なのである。
前世のことはもうどうでもいい。
ねむねむ眠~~……と、着ていたパーティードレスを脱いで、身を清める魔法を使ってから床に就いた。
無精ですみません。魔法って便利。でも、こういう理屈の通ってない魔法ってのは歪な力で、あの空洞に溜まっている、んだっけ?
なんかそんなような話をハイエルフ様としたような……。
脳の一部でそんなことを考えながら、やがて脳の全部は睡眠を選択した。
おやすみなさい。ぐう。
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