エルフに優しい この異世界で

風巻ユウ

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リリエイラ50歳

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 えー、私は大変アホなことをやらかしました。
 成人するんだから体が大きくなって月のモノがくることも予想がついたはずなのに、何の心構えもなくホイッと寿命30年神器に捧げたら、下半身から盛大に流血した上に貧血で倒れました。自業自得です。穴があったら入りたいです。

 気絶して、目を開けたら見慣れた天井。ああ、ここ自分ちだ。頭ボーとして何も考えない状態のまま視線を横にずらす。いやーまあ今は何も考えれんよ。

「目が覚めた? リリィ」
「お母さん…………」

 マイママと視線が合う。目覚めたばかりで、はっきりとしない頭で考える。
 お母さんがいるということは、ここは私の家。私の部屋。私のベッド。
 起き上がろうとしたけど全身だるい。何コレ起き上がらない。
 それどころか、少し腰に力入れて上半身を浮かしかけたところで下半身に走る痛みすごい。鈍痛の嵐。じんじん腹の中が痛む。

「ううぅぅ、お腹が……」
「生理が来てるのよ」
「あ…………ごめんなさい」

 お母さんに言われて思い出した。私、神器で魔水晶だしちゃったんだ。それでこの痛み。成長痛に生理痛のダブルコンボである。
 具現化直後の大激痛に比べれば大分マシになったみたいだけど、まだ痛む。頭くらくらする。ベッドへ再び撃沈。えあーと、貧血ですなこれ。

「寝てなさいな。お腹が痛むのね。処方していただいた薬があるから、お食事の後に飲みましょうね」

 生理痛に効く薬はありがたい。ご飯……あー……言われたらお腹が空いてるような空いてないような。やっぱ空いてるかな。

「ごめんなさい、お母さん……」

 ご飯欲しいと言おうと思ったのに謝罪が先に口から飛び出す。
 いきなり成人した私。親にとって子供の成長を見守る時間がどれだけ大切か。その気持ちを蔑ろにして、挙句の果てに月経……。下の世話までさせてすみません。
 どうにも股間に違和感がありますが、これ生理用の何かでしょうか。この世界の生理用品を知らないので何がどうなっているのやら? 起きた時に確認してみよう。

「悪いことしたと思ってるのね」
「はい……」
「反省してるのかしら」
「うあ、はい……」

 これはママがお叱りする時の口調だ。私は神妙にするしかない。

「こんな勝手なことをして……リリィ、あなたはまだ子供なのよ」
「はい。勝手な事してすみませんでした」
「子供なのに…………リリィ……あなたったら妙に聞き分けよくて……」

 ああっと、しまった。またリリエイラちゃんらしくないことを言ってしまったようだ。普通の子供は本能全開で我儘し放題かもしれない。
 そこを親が躾けるのだろうけど、中身が成人女性である私な時点でリリエイラちゃんから子供らしさというものを奪ってしまっている。
 なるべく子供らしくと思ってみても、そう振舞えないことは多々あった。そういうことの積み重ねで「聞き分けが良い」と評されてしまうのも必然だ。
 わざと子供らしくするのって難しい。某探偵漫画の、体は子供頭脳は大人のあの人は親しい人たちによく身バレしないもんだと感心する。

「あなたは私たちの子よ……私たちの子供なのよ…………っ」
「お、お母さん、ごめ……」

 私がアホなこと思っている間にお母さん泣いちゃった。泣かせてしまったオロオロ。
 腹痛いとか言ってる場合じゃねえ。気合入れて起き上がって、お母さんを抱き締める。
 ごめんなさいごめんなさいリリエイラちゃんじゃなくてごめんなさい……。

 しばらく、さめざめと泣くお母さんを慰めていると、「あ、泣いてる場合じゃなかったわ」と自ら発起。お食事持ってくるわねと部屋を出て行ってしまった。
 お母さん……さっきまで泣いていたのに……強いよね。小柄でどこかのほほんとしているけど芯は強い女性だってこと、改めて気づきました。

 そういやフェオはどうなったんだろ。私と一緒に苦しんでいたのに、この部屋にはいないみたい。と、部屋の隅にある止まり木を眺める。
 ピエタもいないな。あれからどれくらいの時間が経ったかも分からないや。頭のクラクラ治らない。もうちょっと寝よ……。

 そのまま私は再び寝始め、次にちょっと起きた時に食事を摂り、お薬も飲んでまたぐっすり。昏々と眠り、再度目が覚めた時は周りが暗くて焦った。
 夜だ。夜じゃないか。暗い中、目が慣れてきたら変わらぬ天井に気づいた。
 あ、よかったここは私の部屋だ。
 ほっと安心したのも束の間、何だか気配を感じて横に視線をずらせば……。

「……起きた?」
「ディムナ……」

 わーい。ディムナだ。夢じゃないよね。
 はっきり言って頭の中まだふわふわで夢見心地だけどこれ現実よね。
 ディムナは白い髪でフィンの姿だけど、やっぱディムナって呼んじゃうなー。いつからだろう。暴虐の白い牡牛フィンヴェナフなんて渾名、格好良いとは思うよ。
 でもやっぱ渾名だしな。本名で呼んであげたいなって思ったのかな。どんな姿の彼もディムナって呼んじゃう。

 私は嬉しくなって起き上がる。お、今度は眩暈もしないし普通に起きれたぞ。
 下半身はお布団の中だが、上半身は起こしてディムナの方を見る。
 仄赤い薄明りを背景に、ディムナはベッド横に立っていた。
 そうか、今日は赫月なんだ……。

「気分は……」
「ディムナ見たら元気でた。いつからそこに?」
「さっき来たとこ。夜だけ、こっそり見に来てた」

 聞けばそれ不法侵入である。
 転移すれば玄関を通らなくて済むからって、横着だねえ。

「ふふっ。駄目だよディムナ」

 注意しようと思ったのに逆に笑えてしまった。
 普通だったら夜の訪問なんてしないでしょ。
 それでもこんな時間に来るってことは昼はどうしてたのかな。お仕事かな。

「ごめん。どうしても君の顔が見たくなって……」
「えあ。大丈夫だよ、会えて嬉しいし、私もディムナの顔、みたい……」

 て、近っ。いきなり間近に寄ってくるから、視界いっぱいにディムナの秀麗なお顔が広がる。何これパラダイス?
 ディムナはベッドに片手をついて私の顔を覗き込み、もう片方の手で私の頬に触れる。
 こ、これは……キスじゃあないよね。私は空気を読む女。自分がキスしたくてもディムナから伝わる気配は労わりのそれだ。

「カラダ、大丈夫か」
「だ、だいじょぶ。すっかり痛みは引いたみたい」

 お薬のおかげだろうか。お腹に響くような鈍痛は治まったし、成長もここで打ち止めなのか節々も痛まない。

「大人になったんだな」
「あーうん、50歳です。よろしく」

 笑顔で答えたんだけどディムナの眉間に皺が寄りました。私は何かイケナイことをのたまいましたでしょうか。
 あ、寿命削ったことを怒ってんのかな。それはまあ許してよ。
 年齢に関しては両親には不義理だったと思うけど、ディムナにしたら嬉しくないかね。エルフ年齢50歳だよ。立派に初潮迎えて大人の仲間入りだよ。

「君がこうすることくらい予測すべきだった。気づいてたら俺の寿命も一緒に使ったのに」
「ややや。駄目だよディムナは人間じゃん。何十年も捧げたらお爺ちゃんになっちゃうよ」

 一緒にいられる時間が減っちゃうじゃんか。それだけはダメっすわ。
 ただでさえ私はエルフでディムナは人間で、人間の方が先に老いるし死んじゃう。
 ディムナはまだ若いけど……て、26歳だっけ微妙だな。貴族様なら婚約者と結婚でもして子供の一人や二人くらいこさえていてもいい年齢だ。
 あれ? この年齢までディムナよく無事だったな。社交界の女狐たちに食われてないといいけど、それを確かめるにはディムナの自己申告しかない。

「ディムナ……、あの」
「もう待たなくていいのか」
「────え」

 今なんて言いましたか。その真意はなんでしょう。
 ディムナはベッドの縁に座って私をじっと見つめてくる。

「今日、お祖母様を救出してきた」

 なんと?! もうですか私は寝てましたよ。もしかしてメイニルお母様の魔導具外しの方も片付いてますか。そうですか。私、完っ全に寝過ごしましたね……へこむ。

「エリのおかげだ。ありがとう」

 御礼言われちゃったけど私なにもしてないよー。
 ゴロムト大公国とやらに一緒に乗り込んでみたかったなんて今更、言えないよー。
 まあ、言えたとしても連れてってはもらえなかっただろうことは百も承知ですがね。
 エルフ好きの大公だっけ。キモイったらありゃしない。そんなやつにずっと捕らわれてたアネッサさん。お労しゅうございます。

 魔水晶も使えたようで良かった。こっちに関しても御礼を言われちゃった。
 6個の魔水晶が追加されたおかげで、メイニルお母様は倒れずに済んだって。良かった。今度またお菓子焼いて持って行きますね。

「アネッサお祖母様に会ってみたいな」
「いつでも遊びに来るといい。お祖母様も君の話を聞いて会いたがっていた」

 わあ、嬉しいな。鬼神とハイエルフ様の娘さんでクール先生のお姉さんなんだよね。絶対美人じゃん。会うの緊張しちゃう。まだ会ってもいないのに美人さんとの出会いにワクテカが止まらない。
 と、そういや鳥のくせに美人大好きフェオはどこへ行ったのかディムナに聞いてみた。ピエタもいないのです。今頃どこで寝てるのやら。

「二匹とも火山島にいる。ジジイが特訓だとかで鳥と戯れてたな」
「フェオは鬼神の玩具になってるとゆーのかね」
「そうともいうな」

 そうか。強く生きろよフェオ。
 ピエタはハイエルフ様が面倒見て下さっているようで安心しました。やんちゃな竜ですが宜しくお願いします。回復したら迎えに行きますね。

「エリ……」と、ディムナが呼ぶ。
 真剣な眼差しで見詰められてドキドキしちゃう。
 布団の上に置いていた私の手に彼の手が重なる。
 あったかい。ディムナの手、好きだ。男らしく節くれ立った指はゴツゴツしてるけど、握ってくれる手の平は広くて、私の指をすっぽり包んでしまう。

「俺は家を出ようと思う」
「え────」

 突然だなディムナ。なんの前触れもなかったよ。
 私は数秒間、ほけーと彼の顔を眺めてから「どうして?」と聞き返した。

「前から考えてた。お祖母様を救出できたら、俺はやることがなくなる。
 ……前にエリが言ってただろ、好きなことすればいいって」

 あ。確かに言いました。初めてディムナのお部屋に忍び込んだ時の話だね。
 あの日は蒼月だったなあ。

「君はいつも新しい風をくれるんだ。俺には夢中になれるものなんかないって思ってたけど、無いなら探しに行けばいいって考え直した」

 家を……トレアスサッハ家を出るのは新しい自分を探す為ってことでいいのかな。
 ディムナったら私のこと過大評価しすぎだよ。私は何もしてない。ディムナがちゃんと自分で考えて未来に向かって歩こうとしているんだよ。
 だったらそれを私が邪魔しちゃいけないね。

「どこへ行くの? ゴロムトじゃないよね」
「流石にあの土地にはもう住みたくない。恨まれてるから、おちおち街も歩けないし」

 何やったのディムナ。問い質そうとしたところで、私は別の気になることを発見してしまう。

「ねえディムナ、また顎の下のとこ怪我してない?」
「あ。これは……」

 前にもあったよね同じようなこと。私はあの時、その傷は剃刀負けなんじゃないかと勘違いした。実際は違うでしょ。
 ディムナは顎下の傷に手を触れて何か黙考したみたいだけど、直ぐに私に目線を合わせながら話してくれた。この傷を付けたというか、付けられた理由。
 魔人と戦った痕だって……。

「避けたつもりでも付けられてた。前に、エリに見つかった時は隠そうとした。だけど今は……何だかそんな気分じゃない」
「あの時は疚しい気持ちだったってことかな。今はそうでもないなら、それは私に秘密を打ち明けたからだよ」
「そうだな……君には全部知っててもらいたい。俺がやってきたこと、今日のことも話そう」

 そう言ってからディムナは私の背中に両腕を回してくっついてくる。ハグだ。私はディムナの胸の中で彼の昔語りを聞いた。

 これまで、魔人を屠ってきたこと。最初のきっかけはクール先生の仇討で、その時に暴虐の白い牡牛フィンヴェナフの渾名をつけられたこと。クール先生が帰ってきてからは私情で魔人たちを敵に回していたこと。これの所為でゴロムトの街を歩けないらしい。
 魔人オズワルドのことも聞いた。絶対に会いたくないやつだな。大公よりキモイかもしれない。

「そんなやつに傷つけられて……大丈夫なの? よく見たらこんなとこにも傷あるし……」

 私はいつの間にかベッドに戻されて、ディムナと一緒にお布団の中にいます。
 あら不思議。
 ディムナが襟首のボタンを外して首元を開けてくれたので、鎖骨部分から首にめがけての薄い傷痕も目間近に発見した。それを指摘する。
 指で傷痕の上を辿ってみたり。

「毒性はないみたいだから平気だ。細かい傷まで手当てするの面倒だろ」
「いやいやどんな傷でも手当してよ。破傷風とか怖いじゃん」

 んもー。なんでそんな無頓着なんだ。自分で手当てするからこうなるのだろう。
 明日きちんとハイエルフ様に診てもらえと念を押す。
 腕の傷とかここより酷いじゃん。前ボタンを全部外して上着を脱がせたら、右腕に真新しい包帯を見つけて私はふくれっ面になってきちゃったぞ。

「痛いでしょ。我慢しちゃ駄目だよ」
「そんなに。別に……」

 罰悪そうな顔してるけど、これ絶対に反省はしてないな。
 他にも隠してる傷はないかと探ったら、左脚にも包帯が巻いてあるじゃあーりませんか。激おこぷんぷん丸ですよ。

「ディムナ、口開けて」

 私は聖水の入った小瓶をマイ鞄から取り出す。聖水とはフラナンの泉の水を汲んだもののことである。効能は回復(小)。
 聖水は無暗矢鱈に汲んではいけないが、村長に許可をとればエルフなら誰でも汲み置きして良いのだ。私はこれを数本だけ所持している。何かあった時の為に。
 むしろ、こういう時の為だ。私ったら先見の明があるね。

「いや、いい。それって母様が飲んでたやつだろ。エルフの大事な収入源なんじゃないのか」

 ディムナ知ってたんだね。そうなのだ。聖水は売れる。時々来る人間の商人ジュンタックさんに規定数だけ卸してるんだよ。
 確かに数少ない我々の収入源だけどね。別に希少価値が高いってわけでもない。フラナンの泉は枯れたことがないからさ。
 ただ、聖水を売り出しすぎると欲深な人間が何考えるか分からないから規定数を設けているだけなんだ。

「気にしないで。これは私のだから私の意思でディムナに飲んでもらいたいの。さ、口を開けて」

 と言ったのにディムナは頑なに口を開けてくれません。それはこの態勢が悪いのでしょうか。ベッドに仰向けに寝かせたディムナの上に、私は跨って聖水の小瓶を掲げるこの態勢が……。
 ふーむ、よし。意を決して小瓶の蓋を取る。中身をグイっと煽ってから、私はディムナに口付けた。マウストゥーマウスで飲ませる作戦である。

「──────っ、」

 こくっとディムナの喉が鳴って飲み込んだのが分かったから唇を放してあげた。
 はふー。世話の焼ける恋人ですこと。

「どうだいディムナ、回復したでしょ」

(小)とはいえ回復は回復。怪我を劇的に治してはくれないけど、ちょっとだけ免疫力や体力を向上させてくれる。これで破傷風も怖くないね。私も安心して床に就けるというものです。
 ふぁ~とあくびをして、ディムナの胸に頬と耳とを押し付けた。私の尖り耳はディムナの心音を拾って、その心地良いリズムでますます眠気を誘ってくる。

「エリ……こんなことして、何もないとか思わないでくれよ」

 おや? ディムナさんの方から不穏な空気が流れてくる。これはもしや……。

「子供じゃないんだ。もう解禁でいいだろ」
「あ……っ」

 と言う間に寝間着を剝がされて、めくるめく大人の世界へ旅立つことになった。
 今まで我慢させていた分なのか、それとも戦いの後は女が欲しくなるという男の本能に従ってなのか、なんにせよ男は狼さんなのだと、この日この時、初めて実感したのだった。前世含めて。
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