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その火の鳥リアル厨二につき
しおりを挟む不死鳥は火の鳥っていうくらいだから火がお好みだ。
火で遊びながら歌を謳うんだって。ワイルドだぜえ。
前もって調べたことによると、それぞれの不死鳥にお好みの火というものがあるらしく、良質な炎を愛すと【世界図書館】から引っ張り出してきた『不死鳥と俺』という本には書いてあった。
この本はどこの図書館にも属していない本で個人蔵のよう。おそらくこれ、不死鳥をお世話したことのある人が書いた自伝だ。
成長に応じてどうしたらいいかとか、卵が割れる時の様子とか、その他諸々とてもリアルに詳しく書いてあるから。
ふーむ。ならば……と、やって来たのは火山島だ。
ここにある活火山の一つが丁度噴火したばかりらしく、熱いマグマ溜が形成され、まるで血の池地獄。良質な天然ものだよ。ここなら、これから具現化する不死鳥くんも気に入ってくれるんじゃないかなという期待を込めての選択だ。
それに、思うのだけど、魔国に今残っているという不死鳥の卵もここで孵せばいいんじゃない?
お世話する一族が死に絶えたとはいえ、卵が残っているのなら孵す努力くらいしてあげたいなあとイーガンさんに提案してみたが……。
「不死鳥の卵は神聖視されて祀られている。彼らが、おいそれと手放すとは思わん」
ああ、土着信仰されちゃってんのね。生きてるかもしれないのに。
孵る可能性があるのに大変勿体無いことです。
火山島には鬼神とハイエルフ様と、それからディムナとイーガンさんと、あと白緑竜のピエタ。五人と一匹でやってきた。
私とピエタはディムナにくっついて【転移魔術】である。
火口が見える位置に居るが、これが熱いったらありゃしない。上着脱いでも熱いから下着一枚になりたいくらいだ。
実際、服の端に手をかけて脱ごうとしたらハイエルフ様に、「リリエイラちゃん、ステイステイ」と止められてしまった。ステイって、犬ですか私。
「これで涼しいでしょ」
ハイエルフ様が巨大な氷柱と氷塊で簡易的な休憩所を造ってくれた。
ヒャハー! パ〇テノン神殿みたーい! 氷の神殿である。ささっと建造した割にクオリティが高くてすごいっす。
火口の直ぐ近くに氷の神殿という、なんとも相容れない組み合わせ。熱い冷たいのコラボがなんともいえない。だが快適ならばよし。
ピエタも快適らしく、氷の床を舐めていたと思ったら今は寝そべって涼をとる。腹出して可愛いな。あの腹撫でくりたい。
涼しい神殿内にて、三代目タブレットちゃんこと神器を起動する。
以前に描いた不死鳥の絵をアプリ【ペントゥラート】の『ファイル→開く』で画面に出して、それを『ファイル→指定の大きさで出力』から更に細かく『使用寿命→割り振り』と決めていく。
鬼神とハイエルフ様からそれぞれ五百年づつもらうんだっけ。
最終画面のボタンを、二人で仲良く同時押ししてもらおうと促したら、なぜか牽制し出した二人……え。
「ちょっとアスタロさん先に押そうとしたでしょ今」
「早いもん勝ちだろこういうのは」
「五百年づつって約束じゃないですか」
「ちょいと手が滑っただけじゃねえか」
「嘘つき」
「あんだよ」
「意地悪」
「なんでだよ」
遂には喧嘩腰で鬼神を罵るハイエルフ様……え。
夫婦喧嘩は犬も食わないのでこんなところで揉めないでくださーい。
これ、どうやって止めたもんやら……。
私が迷っている間にディムナが動いた。
「ジジイ、ずるすんな」と鬼神の手を掴んでしまう。
はっ、と私も察したよ。私はハイエルフ様の手を持って、画面に近づける。
「あ―――――」
「―――――え」
はい、ぽちっとな。
私とディムナでそれぞれ二人の手を掴んで強制的に、且つ同時にボタン押し成功。
途端に眩い光がディスプレイいっぱいに広がり『契約完了』って出た。はい? 契約なんか結んだ覚えはないけど……。
ただいつものようにアプリ【ペントゥラート】で描いたものを出力しただけで、どうして契約なんか結んだことになったんだ?
疑問に思っている間にも画面では注意事項が自動読み上げされていく。
『この度は"良き魂"とのご契約、誠に有難うございます。魂の休養所より魂紋の照合に基づき転生契約が為されました。不死鳥は卵の状態からの発現となりますので、"炎の揺り籠"のご用意をお願い致します。不死鳥によっては転生先の環境が悪ければ即死も有り得ますので御注意くださいませ』
即死だってえ?! 私は驚いてハイエルフ様の方を見る。
こ、ここここれ、これ、どうしたらいいですか? このまま実行する? それとももう実行されたから止めるの無理?
「ひええ、どうしたらいいのこれええええ」
「落ち着いてリリエイラちゃん。この神器の言ってることが本当なら、この場所は不死鳥にとって楽園だと思いますよ」
「そうだぜ。"炎の揺り籠"よりも立派な"マグマの寝床"があるからなあ。ただ、その、転生っつーのが気になるが……」
不死鳥を具現化するのに、この場所を選んだのは最適だったみたい。そのことはハイエルフ様と鬼神の指摘通り。落ち着いた今なら大丈夫だって分かる。
狼狽えてすいません。チキンなもので。
でも転生って……また転生契約をしちゃったんだろうか私……。
未だ明滅するタブレット画面には先程読み上げられた注意事項が文字になって表れている。スクロールできそうな気がして画面を下に動かしてみたら、出てきたのが<異世界転生契約書>だ。
=======================
<異世界転生契約書>
転生先:魔法世界 <ウィーヴェン>
種族:魔獣族魔鳥種変形 <不死鳥>
身分:聖獣
性別:男
家族:寿命の父母
転生特典:恋愛成就
転生記念:魔眼
=======================
これ読む限りだと転生者ってのは不死鳥くんのことだね。
男の子なんだ。寿命の父母ってのは鬼人とハイエルフ様のことだろうか。
特典が恋愛成就って……お守りか?
そして魔眼て……厨二臭い。
「なあ、あれって不死鳥の卵じゃないのか」
ディムナが指差した先を見れば、丸い形した灰色のボールが踊っていた。ん? なんで踊ってんだ。てかそれ、卵なの? 小汚いボールじゃなくって?
その卵、どこからどう見ても子供が遊びに使いまくって汚したボールである。それをピエタがつつく。あ、踊っているんじゃなくて、ピエタがつついて転がしているんだね。ピエタが竜の鼻先で卵をつつけば、どんどん卵が転がって、氷の神殿の階段すら転がっていく。
「ほわっと?! どこまで転がすのピエター?!」
「ピッヒエエーイイ!(訳:超たのすいー)」
ピエタにしたら、転がすの楽しくなっちゃってどこまでもとことんやりたいという気持ちに違いない。でもちょい待ったんご。
夢中で灰色ボールこと不死鳥の卵っぽいものを追っかけていくピエタを私も追いかけた。そしてピエタの足に並ぶ。
勿論、人間が竜の足に追いつくのは無理なので【風操魔術】を使い脚力を補助してます。それでもキツイけどね。
どんどん転がる卵。最初はピエタに鼻でつつかれて逃げていただけっぽい。でも今は、あちこちの岩にぶつかりつつどこかを目指しているみたい。
あれだけ色んなところにぶつかっても割れないなんて、頑丈な卵だ。
卵は遂に火口まで辿り着き、そのままダイブ。マグマの海に飛び込んだ。
「おおおおピエタ、ストップストップぅぅっ!」
「ピエッ! ピエエエエェェッッ」
卵を追いかけてマグマに飛び込もうとするピエタを止める。急なことだったので尻尾を持って引っ張るのが関の山だ。
それでもピエタは不死鳥の卵を追いかけたいらしく、グイグイ先へ行こうとする。ずるずる引きずられる私。
「駄目だってピエタ、さすがの竜でもマグマへ飛び込んだら死んじゃうよおお」
必死で止めるけど言うこと聞かないぞ。どうしたピエタ。そんなにあの卵が気に入った?
ここまで目の色を変えているピエタは初めて見る。同類だとでも思ったのだろうか。同じ竜の卵だと。
そうだとしても、ピエタったら私の声も聞こえてないみたいで、気が狂ったように「ピエッピエッ」鳴き続けるから怖いよ。
引きずられて火口の縁まで来ちゃった。
あ、あかん、このままだとピエタも私もマグマ溜まりにドボンである。
「ひゃお!?」
「後ろに倒れておいで」
私の体が急に後ろへ傾いだと思ったら、ディムナが支えてくれたらしい。
というか後ろへ引っ張ったのもディムナである。その拍子にピエタの尻尾を放しちゃった。
ピエタが火口へ一直線?! と慌てたのも束の間、ピエタは見えない壁に阻まれて火口へは飛び降りれなかったみたいだ。
「ちょっと大人しくしててくださいね。白緑竜の子よ」
見えない壁はハイエルフ様が出した結界だったみたい。
ピエタは結界に勢いよくぶつかって顔面強打。そのままずるずると地面へ伏してしまった。気絶した?
「ピ、ピエタぁぁ?!」
「大丈夫ですよリリエイラちゃん。結界にぶつかった瞬間に弱電流を流しただけですから」
弱電流……それってスタンガンみたいなものだろうか。竜をも気絶させる弱電流って、弱じゃない気がするけど……。
でもまあピエタが止まってくれたからそれはそれでありがたい。あのままだったら確実に私も一緒に火口ダイブしていたから。
しかしハイエルフ様ってけっこう過激なんだねえ。ピエタが急に止まったら尻尾掴んでた私まで結界にぶち当たってた気がしないでもない。
そう思ったら後ろから引っ張ってくれたディムナに感謝しなきゃ。
「助けてくれてありがとうディムナ」
「……ああ」
そっけない返事だが、支えてくれてる腕に力を込められたのが分かる。
「あ、あの」
なぜか腕の拘束をもう一本増やされた。背後からぎゅっと抱き締められる。
こんな時に何故に?! 嫌じゃないんだよ。でもなんで今……。
「ディムナ、あの、私、だいじょぶだから……」
オロオロしてる私に「しばらくそうされとけ」と鬼神が言う。え、え、な、なんで?
私がディムナから厚い抱擁を受けてる間に、不死鳥の卵は火口にあるマグマの湯でいい気分だったみたい。
(ふふんふふんふんふ~ん♪ ビバノノ)
こ、このメロディは……。
エルフの長い耳に届いた陽気な鼻歌は、不死鳥が歌ってるのだろうか。まだ卵から孵ってないはずだけど、卵のままでも歌うのだろうか。
なんにせよ謳い鳥の第一声が某有名温泉歌って……。
(はあ~~~いい湯だなあ)
おっさんくさい不死鳥である。
(誰だおっさんていうやつ。俺はまだピチピチのヤングメンだぞ)
え。私の声が届いた……! つか、ヤングメンてなによ。何歳なの?
(聞いて驚け。14歳だ)
リアル厨二病患者でしたか。
(はあ? そんなこと言うお前は誰だ)
喜べ。エルフだよ。
(―――――ま、まぢでえええええ)
予想通りの反応だね。こいつマジで中坊だな。
しかし、何故に会話できているのか謎。
(おあああエルフエルフ生エルフ……! 声からしてキレイなお姉さん。転生してすぐ生エルフ美人お姉さんに声かけられるなんて俺ってばツイテるうー)
あえーと、君は転生者なんだよね。<異世界転生契約書>を読む限りだと、男の子で寿命の父母は鬼神とハイエルフ様になってます。
転生特典が恋愛成就。転生記念に魔眼を授かってる。で、オッケー?
(うん、そう。父母とか別にいらんけど、早速、エルフお姉さんとの恋が叶いそうで嬉しいよ)
いや叶わないから。
君から今の私の状況は見えてないかな? 魔眼とかいうやつで視てごらんよ。
(はあ? て、ぬああんで男とくっついてるかな?!)
ね。無理でしょ。私には恋人がいるからさ。その魔眼、便利だね。
(ぐうう……いきなり失恋した。おかしい。この転生特典、間違ってる……っ)
間違ってないよ。きっとこれから出会うんじゃないかな君との運命の……鳥? とりあえずディスティニー信じてごらん。
(くう。適当な慰めなんかいらないんだぜ。転生したらすぐ目の前に恋人が現れるってあの簾ハゲが言ってたのに! 嘘だった騙された! チキショオォ)
ん? 転生したらすぐ目の前にって、それって、もしかして……。
「ピエタのことじゃない?」と、つい口に出る。
いやさ、だって、ピエタに転がされているところを私たちは発見したわけだし、我々より先にピエタと出会ってたってことだよねえ。
ピエタもピエタで卵転がしするくらい気に入っちゃってるから、これってばひょっとしたらひょっとする……かも?
「リリエイラちゃん、どうしました。なんだかボーとしてたようですが」
「ハイエルフ様。えーとですね、どうやらあの不死鳥……」
かくかくしかじか、不死鳥と話したことをぶっちゃける。
テレパシーで通じ合ったかのように、とりあえずのコミュニケーションがとれました。やつは厨二です。それも現役です。ということと、特にピエタと運命の恋人かもしれないあたりを詳しく喋ったら……。
「ぶふっ。マジでか」吹き出す鬼神。
「では早速お見合いを」と、やり手婆みたいなことを言い出すハイエルフ様。
寿命の父母がこの反応なら不死鳥くんの恋も叶いそうだ。良かったね!
(よくねーわ!)
なぜか怒声を響かす不死鳥くん。そんなこと言うなよ。
ピエタは好奇心旺盛で猪突猛進なところがありますが、それはそれは気立ての良い坊ちゃんです。お似合いだよ。
(気づいて! 俺も男!)
そんな些細なこと……ダイジョブ、私はホモに偏見はない。
(俺が嫌だああああー! 俺は美人エルフのお姉さんがいい! こんなん契約不履行だクーリングオフを要求する!)
我儘言わないの。転生契約したでしょ。魂紋照合しちゃったら契約破棄は出来ないよ。それに、契約履行の相手は私だと思う。こうして思ったことが聞こえる仲みたいだし。
「観念しろや」
にこっと優しく笑って最終宣告をしてあげた私。不死鳥くんは泣いた。
そんな不死鳥くんに、いつ卵から孵るのか尋ねたけど(知らん)と本人いや本鳥、ふてくされて寝てしまった。
ちょっといじりすぎただろうか。ごめん。なんか君、面白くってさ。
「困った。早く卵殻を手に入れないとメイニルの体力が……」
イーガンさんに言われて気がついた。
そうですよね。<血の絆>を心臓から外すのを実行するにしても、卵殻がないと、外した後の保管に困りますから。
早急に、不死鳥くんには卵から孵ってもらわないと……。
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