エルフに優しい この異世界で

風巻ユウ

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発掘あるある珪藻土

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緑茶をすする。甘いパフェ後の温かい渋みが五臓六腑に染み渡るのう。

「…それじゃあ、ハイエルフ様は『神を名乗る者』じゃないんですね」
「違いますね。【神の御業】は使えませんから」
「あれ?でも【転移魔術】を使われてましたよね」
「あれは…」

と教えてくださったのは、転移ができるのは神器"理法門"のおかげだということ。
"理法門"は世界に空洞ができた"超爆発"にも耐えてその地にとどまっていたらしい。
今は東西南北に設置されて交易の入り口として重宝されてる"理法門"だけど、元は爆発で消えた大陸に栄えてた王国が、勇者の遺物ってことで管理してたんだって。
ちなみにその勇者ってのが…。

「俺の中の勇者がハルに任せるって言ってな。何にせよ管理だけはしねえと、あれはあれで特殊な神器だかんな」

一万年以上前の勇者で神器"理法門"の持ち主って、お前のことだったんかい鬼神。
そういや鬼神、世界樹の森は"勇者の神殿"が本拠地だったね。納得。

「神器って頑丈なんですねえ」

と、自分の持ってる三代目タブレットちゃんを見やる。
これにも千年保証とか付いてたはずだけど、勇者の神器"理法門"は一万年以上も保たれてる上に"超爆発"でも壊れなかった。私のもそれくらいもつのだろうか。

「神と付くものはなんでも丈夫に出来てますよ。『神器』も『神を名乗る者』もね。だからディムナ君も大丈夫です」
「…やっぱり、ディムナは『神を名乗る者』なんですか…?」
「ええ、きっと…」

ハイエルフ様の答えの歯切れが悪い。肯定はしてるんだけど懐疑的ってことだろうか。常々思ってはいたのだ。ディムナは【神の御業】を神器もなしに使える。
それも連発して。普通の人じゃ魔力が足りなくて発動できない魔術も易々と無詠唱でこなしてしまうのだ。
常人から見ればそれはチートであり『神を名乗る者』だと…誰でも思うよねえ。

「俺から見たらヒヨっ子だけどな。あいつはまだ成りきれてねえ」
「どういうこった鬼神。あ、いやさ鬼人様どういう意味なんですの」
「卑屈だねえ。そんなにあいつがいいのかい。抱いてもらわないと夜も眠れねえってか」
「混ぜっ返さないで変態鬼神。その発言もセクハラだからね」

あとキモイわ。

「意味も何もそのままだ。あいつはまだ『神を名乗る者』に成ってねえ。レベルが足りてねえってとこだな。本物なら俺と対等に闘えるはずだ。
ボロッカスに負けてベッドで唸ってるようじゃまだまだ…───て、何かくるな」

と、ここで鬼神がご高説を途中で打ち切り空を見上げた。私もつられて見上げるがそこには天井しかない。
鬼神のお膝の上にまだいた私は、私の周りに、瞬時に結界が張られたのを見た。
…ハイエルフ様が張ってくれたのかな?
鬼神は私に【絶対防護】があるの知ってるし、傷ついたら蘇生させればいいと考えてるくらい防御に関してはアッパラパーだと思うから、きっとハイエルフ様である。
それすら確信が持てないくらいの早業で防御されたので、一人感心する私。

ピエエエエ────バッキャドゴーーン……!!!

屋根が落ちてきた。正確に言うと、屋根を壊して天井から何かが降ってきた。聞き間違えじゃなきゃ何かの鳴き声はピエタだ。
白緑竜のピエタ…そういえばずっと傍にいなかったよ?!今頃気づいた。ごめんよピエタ!

「ピエタ?!ピエタなの?!」
「ピーエエエエエエ…………」

土煙や砂埃がもんもん上がる中でピエタのなんだか情けない声だけが聞こえる。
ああ一人にしてごめんね。悲しいの?お腹空いてるの?
舞ってた埃が落ち着いた頃、ピエタの白緑色した鱗の煌きが見えた。
大きな瞳いっぱいに涙を溜めているピエタがそこにいる。

「ごめんねピエタ!私を探してたの?ありがとう頑張ったね!」
「ピエピエ~~~~ン!!!」

ひし…!感動。涙の再会ハグである。

「なんでえこれ…」
「…竜?リリエイラちゃんのお友達?」
「はい。ピエタは白緑竜なの。ハイエルフ様が神殿に残していった卵から孵ったんですよ」
「あの卵から?でもあれ、もう鼓動が聞こえなくなってて…」
「生きてたんです。卵殻の中でインスーロの大地と世界樹の森から魔力を少しづつもらって、最後は私が魔力を注いだら爆誕したんですよ。魔力をあげたからか私に懐いてくれて、離れたがらないから一緒に暮らしてるんです」

という内容をお父さんがハイエルフ様宛にお手紙出したと思うんだけど届いてないのかなあ。あと、水晶通話もしたみたいだけど繋がらなかったと言っていたのを思い出したのでハイエルフ様に訊いてみる。

「あ、ごめんなさい。この島にはお手紙届かないんです。多分、ここに来る前にいたところへ届いてるはず。水晶通話も、魔力が乱れてる所為で通信状態悪いんですよね。だからずっと使ってない…本当にごめんなさい」

ハイエルフ様に謝られてしまった。
そうか。そりゃこんな辺鄙なとこに手紙が届くわけないわな。
水晶を使った電話みたいな通信機も、火山島地下から染み出る大量の魔力に力場を乱されて使用不可ということか。

改めてピエタのことをお話して、ピエタの成長には私の魔力がまだ必要だと判断。一緒に暮らす許可をいただいた。

「ピエタ、これからもよろしくね」
「ピエ~」
「わぷ。甘えんぼだなあ」

頬をすりすり通り越して、長い舌で顔面をべろんべろん舐められる。
よっぽど寂しかったんだね。置いてってごめんよ。ディムナのことで頭いっぱいだったんだ。

「竜がこんなに懐いてるの初めて見ました…随分長いこと生きてきたけど、まだ初見なものってあるんですねえ」
「あー俺も。まさか竜を手懐ける子が生まれるなんてなあ…わからんもんだぜ」

そんなに珍しいことなのか?ご長寿の二人をここまで驚かせるなんて…ピエタすごい!かわいい!うちのこ世界一!
手放しでベタ褒めしてピエタに抱きつき愛情を注ぎまくる。

「なあこれ、アブノーマルじゃね?種族間越えてね?」

鬼神め、また変態的発言すんな。
お隣のハイエルフ様も呆れて…ない、だとお?

「どうなんですかねえ…」

心配されてますがなぜか…そ、そんな危険な関係に見えますかピエタと私って…。



食べた後は運動だ。ピエタもご飯もらってお腹が膨れたから超ご機嫌である。
ピエタの好物は甘いものだと言ったら『抹茶アイスクリーム白玉あんみつパフェ』をバケツに一杯もらえたよ。バケツパフェって初めて見たわ。伝説だと思ってた。
パフェを腹膨れるまで食べるって…幸せか!いいねえピエタ、お前は太るの気にしなくて。ピエタは今が成長期だからいっぱい食べることはいいことだ。

腹ごなしに散歩がてら火山島見学でもしようかと思ったとこで、鬼神が珪藻土について言ってきた。

「採取に来たんだろ。護衛が伸びちまってるから俺がついてってやろう」
「ディムナを気絶させたのあんたですけどね。ここは護衛されてあげましょう」
「そんな反発ばっかされると可愛いから抱き締めるぞ」
「て、もう抱っこしてんじゃん?!」

私は鬼神の腕にひょいっと抱えられて、ピエタも一緒に火山湖まで転移で行った。散歩の意味はない。
火山湖は変わらず野鳥たちの楽園である。川魚もビチビチと元気よく泳いでいる。
この自然を壊してまで採取する意味はない。私はナチュラルな志向を鬼神に語り、鬼神もまた「この火山島に人が住んでねえ意味、わかるか?」と謎めいた質問をしてきた。

「いくら活火山があって大地が動き熱湯が沸いてるわその熱湯が吹き出すわで危険な地とはいえ、誰も温泉利用を考えつかないわけ、ねえだろが」
「…もしかして、あんたが何かしましたか?」

鬼神は「おうよ」とニヒルに笑い、この島に結界を張って誰も近づけないようにしたことを暴露した。

「え。私たちあっさりたどり着いちゃったけど」
「そこはあいつも『神を名乗る者』だったってことだ」

おお。ディムナのおかげでしたか。
ここへ来るのに最初に転移した時、地場が崩れてるのもあったろうけど、鬼神の結界もあって座標がずれちゃったんだね。原因が分かってスッキリした。

「ここの大地は生きてる。お前も気づいてるだろ。世界の空洞と、この火山島は近しい存在だってこと。空洞を調べてる奴らがこの大地を知ったら、こぞって押し寄せてくるに決まってら」

人が沢山この島に来たら、この島の生態系が荒らされるかもしれない。
人は自然を利用して生きる。そして資源が枯渇するまで貪欲に求め自然を壊す傾向にある。
前世に生きてた地球でも同じことが起こっていた。私たちはそれを知ってるからこそ先手を打って、この大地を守ることができるのだ。

「…珪藻土の発掘は諦めた方がいいね。私が資源開発して世界に広めちゃったら原産地がバレちゃうもの」
「お、神妙じゃねえか。俺は別にいいと思うがね」
「ん?今、自然を守りましょうなお話しなかったかな?」
「だからさ。自然も守りつつ開発すればいい。それが人類に出来るんなら、俺はいつでもこの島を明け渡してやんぜ」

まだまだ先の話だろうけどなと鬼神は付け足す。
ふむ。鬼神が超然と『神を名乗る者』らしい発言をすると調子狂うな。
普段が駄目神だからだな。

「自然に優しいのもいいけど、もうちょっとディムナにも優しくしてあげなよ」
「十分に優しいし可愛がってやってると思うが」

そこは認識の違いってやつだね。
普通は孫に対してあそこまでボロッカスな目には遭わせないと思う。

「鬼神はボーリング調査の仕方知ってる?」
「おお。ボーリング標準貫入試験ってやつだな。なるほど。それで地層を調べるのか」

くっ。やはり知ってたか。しかも察しの良いことに、地盤の硬さだけじゃなくて地層を見たいことまで気づかれてしまった。

「同じことを"理法魔術"で再現してやろうか」
「そんなことできるの?!」

聞き間違いじゃなければ鬼神は今とんでもないこと言い出した。
"理法魔術"…理力と魔力の両方を使った合わせ技なんじゃないかな。
どちらの力も存在するけれど、理力は空洞が出来た時に滅びたとさえ言われている稀有な力。魔力の方が多い今、どうやってバランスとって扱えばいいのか、それすら私には分からない。

「やってみてやらんこともない」
「どっちだ」
「お前が目指すのはそこだろう。だったら実践してやっから、よく見とけってこった」

ぐう。打倒鬼神の為にも研鑽は積みたい。
だがステップアップ手段を当の本人である鬼神から教えられるというこの状況。
これはなかなかの屈辱ですぞ。でも、それでも学びたい。
私は三代目タブレットちゃんこと神器を出す。神器標準装備カメラを起動。
これで余すことなく動画にしてやるわ。後で編集もしてやるわ。だから早く見せてちょうだい鬼神。

「それ本当に便利だな」

鬼神の言葉が空から降ってくる。彼は既に中空へ飛んでホバリング状態である。
タブレットのカメラを鬼神に向ける。画面には火山島の空と鬼神しか映ってない。

「湖の真ん中でいいかあ?」
「オッケーです。お願いしまーす!」

声拡大魔法を使う余裕すらなく私は声を張り上げた。
鬼神から湖の真ん中へ照準を合わせてズームの調整をする。

「ピエ?」
「あ、ピエタは魔法…"荒原の植被魔法"できる?」
「ピーエ」

頷くピエタ。心強いね。どんどん周囲の空気が変わっていくのが分かる。
鬼神がどんな理を発生させてるのか知らないが、魔力の高まりで風圧が上がってるのは感じ取れてるから、ピエタに竜種族の魔法ドライグ・マギキをお願いしたのだ。
ピエタの魔法が発動すればヘザーの壁が出来て、かまくらのように私たちを囲い、風から守ってくれるはずだ。
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