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珪藻土に関して一考察
しおりを挟む珪藻土製乾燥剤は、毎度お馴染みアプリ【ペントゥラート】で創った。
細長い延べ棒型の絵を描いて、これは珪藻土だと念じながら『ファイル→指定の大きさで出力』。長さ六センチくらいの延べ棒型珪藻土乾燥剤が出来上がったよ。
寿命コストはこれまたお安い。ひとつにつき0.1秒だった。十本で1秒だ。なので、十本セットで料理人のコスタさんにも渡した。
こうやって神器で量産は簡単だけれど、実際にこの世界にある珪藻土を採取に行ってみて生産できるようならインスーロの名産品にしたいくらいだ。
珪藻土は、ここから近いところだとインスーロより北西にある無人島の火山湖に埋まっているらしい。
吸湿剤になる他にも、抗菌に優れ空気浄化や脱臭剤にもなるから生活必需品として重宝する。
さらに「食べられる土」であり、日本の江戸時代なんか飢饉対策でお城の内壁に使用したくらいである。ただし食べ過ぎると糞詰りになる。
これさ、絶対に売れると思うんだよね。今のところ、ライバル国は無いし。
他にこの世界で珪藻土が埋蔵されている国を調べてみたけど、神国に鉱床があるっぽい。火山湖と違って坑道掘りで、主に建材利用しているみたい。
ちなみにこれ、【世界まるっみえ】という某番組とは関係ない名称の学習型アプリで調べたこと。地図男くんと地理子さんというふざけたネーミングのキャラが優しく社会科を教えてくれる。
然らずんば珪藻土は名産品にするとして、誰に相談すればいいだろう?
珪藻土が眠っているらしい火山湖のある無人島は、ここから近いけど、インスーロの領土じゃないと思うし。
それでもやっぱり、インスーロの領主様へ相談するのが最善かなあ。
領主といえばイーガンさん……え、私ひとりで対峙しろと? それは無理っす。
試作品の検証も済んでないのに社長へ吹聴しにいくようなもんじゃん。
せめて検証データとってからだ。
「俺はそれ、いいと思うけど。試作品をお祖父様に見せたら、きっと興味持つ」
「本当? でもまだ実物を採取できてもいないんだよ。領主様へ不確かな情報はもっていっちゃいけないと思うの」
「そうだな……よし、明日は火山湖に行ってみようか」
「ほ?」
突然だなディムナさんや。
善は急げとばかりにディムナのご両親へと報告に行く。
「火山島なんて危険なとこへ……何しに行くんだい?」
「新婚旅行? それにしても殺風景なところを選んだわねえ」
新婚旅行じゃないですメイニルお母様。
相変わらずズレておりますが、その可愛らしいお顔で言われるとほんわかしちゃうのはなぜでしょうかお母様。
そしてクールさんの言い分は最もです。
火山湖がある島が無人島なのは活火山がいっぱいあって危険だからこそ人が住んでいないのだ。だから火山島と呼ばれている。
あと、沸騰したお湯がそこかしこに沸いてるんだって。それって温泉じゃないかな。温泉利用されてないんだね。
いつ噴火するか分からない山がいっぱいあって、ぐらぐら煮立つお湯が時々地面から噴出するような危険地帯に、好き好んで行く人は皆無である。私たちは物好きということだ。
私は珪藻土で作られた乾燥剤を取り出す。お二人に見せて使い方の説明をした。
ついでに珪藻土マットと珪藻土を卵型にした置物も作ったよ。
こちらもまだ試作段階で、原材料が火山湖に眠っているのだと解説した。
物は試しと、珪藻土マットに【水操魔術】で出した水をジャーとこぼす。
濡れたところがあっという間に乾くと「え?」「まあ」と驚きの声をいただけた。あざーす。
「魔法じゃないのにすごいわねえ」
「本当にこれの原材料があるのかい? まあ、神器で調べたんだろうし……ディムナ、きちんとリリィをエスコートするように」
「わかってる」
ディムナは頷いて、クールさんは半信半疑ながらも許可をくれた。
メイニルお母様は卵型脱臭剤を手に持って興味深げになでなでしている。
ドライング卵さんの使い方も一通り説明して、試作品は全部メイニルお母様にあげた。卵の大きさは大中小の三種類。どれが使いやすいか検証するためだ。
白色だけでなく桃色や黄色や水色とカラフルレインボー小隊で差し上げたら、嬉しそうに腕に抱えておられたよ。そんなに気に入りましたか。
早速、机の上にあるクッキーポットの中に入れて使ってくださってます。ありがとうございます。
私たちは御夫婦の部屋を辞してから、ディムナの部屋へと戻る。
今夜は一緒の部屋である。
一緒の……一緒……また一緒のベッド……。
「エリ……」
「ふぁい!」
名前呼ばれたら心臓縮み上がったぞ。
ディムナは二人っきりになると前世の名前で呼んでくれる。
それが嬉しくてこそばゆくてなんだかムズムズしちゃうわけで……。
「そんなに緊張しなくても、まだ手は出さない」
まだって……。いつかは手を出すって言ってるようなもんだ。
「きちんと待つつもりだが……我慢できなかったらごめん」
今から予防線張らないように。そこはきっぱり宣言しとこうよ。
また背中から抱き締められて眠る。
目を閉じても心臓の音がうるさくてなかなか寝付けない。
今夜はあの日と同じで蒼月だ。青白い光が窓の外を幻想的に染めている。
ドキドキしながら眠りに就いて…………朝、予期せぬ騒動と共に目覚めた。
「ピエッピエエエエ~~!!」
おっふ。おふぁようピエタ朝から元気ね。
…………じゃなくて、なんでおまえここにいるの?
メンテナンスの日は毎度お留守番なピエタ。半年に一回のことだし、一日くらい離れてても大丈夫。だけど昨夜はお泊りで、私が帰ってこなかったから寂しくなっちゃったのかな。と、ここまでは分かるんだけどピエタよ、どうやって入った?
このトレアスサッハ屋敷のセキュリティは高難易度なはずだ。以前は私が結界魔術に干渉して【偽装魔術】で侵入したけど……。
まさかピエタ無理やり……?
そう思って窓の方へ首ひねったら見事に窓が全壊。目玉が飛び出たわ。
突然バーンと部屋の扉が開く。
「侵入者はそれかね?」
イーガン・トレアスサッハ男爵様の御成りだ。お怒りの御様子である。
「ピエッピエ」
きちんとお返事した。えらいねピエタ。でも不法侵入は駄目だよ。
「見たところ竜種だが」
「ピエタは白緑竜の子供です。まだ追っかけ時期で私に懐いてくれて……ここまで来てしまったみたいです。お屋敷に勝手に入ってすみません」
「竜を飼っているのかね」
「いいえ。ピエタは世界樹の森にある神殿で卵から孵りました。だからエルフの守護竜であり、延いてはこのインスーロの守護竜でもあります」
たぶん。生まれた環境に合わせて成長していくみたいだし、成長して飛べるようになったピエタは、世界樹の森だけでなく、このインスーロ全体も居住エリアにしているみたいだから、インスーロの人々も守ってくれる守護竜になれたらいいと……。
まあ、私が勝手に思っているだけかもしれないけど。
「竜は飼い慣らす生き物だと思っていたが、違うようだ」
「竜本来の生態は地域密着型です。その環境に合わせて"竜種族の魔法"を使います。決して首輪で縛って飼う生き物じゃありません」
そう言ってピエタの前に立ちはだかる私。イーガンさんが魔法を使う気配はないけど、もしピエタに何かしたらゆるさないんだから。
「お祖父様おはようございます。騒々しくしてすみません」
ディムナがさらに私の前へ、イーガンさんから見えないよう庇ってくれる。
はう。朝から安定の低音ボイスと庇われたお姫様気分で私の乙女部分がときめいた!
「……また今度、竜の生態について教えてくれ。家だけは壊さないよう竜に言っておきなさい」
「はい。おうち壊してごめんなさいでした。窓は直しておきます。ピエタも謝ろ」
私が促せば、ピエタも私の真似して頭を下げる。
家に入ってくるときに結界を破壊した上に部屋の窓もぶっ飛ばしている。
豪快だねピエタさん。
さしてイーガンさんには叱られずに済んだ。怒ってたと思ったけどなあ。
それに竜の生態に興味もってくれるなんて……イーガンさんは可愛い生き物に弱いのかしらん?
窓の修理は三代目タブレットちゃんこと神器の出番である。
【ペントゥラート】で描いてもいいし【時操魔術】で壊れる前の状態に戻してもいい。どっちでも直るけど今日の予定もあるので早く直せる【神の御業】を選択した。たぶん、こっちの方が寿命の代償も少ないはず。
早く直せて寿命も短くて済むなら、まあ、こっちを選ぶよね。さっさと修理して朝ごはんに向かいます。と、その前にお顔を洗いましょう。
貴族の館イメージその2として、朝、メイドさんが盆にお湯を張ってくれるの想像するけど、この世界は魔法世界である。しかも魔導文明が栄えてる近代的な時代でもある。当然、洗面所があって水道完備なんだな。下水もあるよ。トイレも水洗だ。パーペキ。
朝ごはん、ぷまーい。揚げパン? 初めて食べたけど丸いのと三角のと二つ。朝から揚げ物ってどうなん? とか、疑ってごめんなさいコスタさん。
これ最高にうまいです!!
バターたっぷりスクランブルエッグにキノコとリンゴのソテー、海藻サラダにリーキのスープと、朝からしっかりいただきましたよ。ありがとうございます。
「え。お弁当まで? コスタさんありがとう!」
さらに昼食用のバゲットサンドも用意してくださったみたいで、まるでピクニック気分だ。行くところは活火山もりもりデンジャラスゾーンだけど。
そうそう、ピエタが来てくれたおかげで火山島までピエタに乗って行くことにしたよ。
「ピエタ来てくれなかったらどうやって行くつもりだったの?」
「火山島が見えるとこまで行って【転移魔術】で」
「いやいや見えないよ。インスーロの一番高い山に登っても見えないかも」
「だからそこは賭けで」
「ギャンブラー!?」
意外な大雑把さにびっくりだよディムナさん。
【転移魔術】は行ったことがない場所へは転移できない。でも、行ったことのある人が同伴ならナビしてもらえば転移可能なのだそうだ。
火山島へは、ナビどころかほぼ前人未踏の地である。行ったことのある人が簡単に見つかるわけもなく、転移は不可能だ。
もうひとつの手として、目的地が視認できれば転移可能らしい。だから私は小舟かなんかで沖へ行って、見えたところで転移すればいいと思っていた。
……ある意味こっちもギャンブラーかな。【風操魔術】【水操魔術】を駆使すればいけると皮算用していたかも。
私もディムナのこといえないね。二人して同じ思考だったわけだ。
「ごめん。私も似たような考えしかなかった」
素直に謝ったらディムナは静かに笑ってハグしてきた。
ひょおおなんで今抱き締められてん?!
「あらまあ仲良しさんねえ。気をつけて行ってらっしゃいな」
「竜に乗れるなんていいなあ。ディムナ、何かあったら知らせてくれよ。それからリリィのこと」
「わかってる。言われなくても。鬼が出ようと全力で守る」
ああ確かに火山島は鬼が出そうだよね。鬼ヶ島のイメージそのまんまだもの。
ちなみにこの世界には桃太郎に似た御伽噺がある。著者不明だけど子供に語る御伽噺としては日本と同じで定番だ。
ピエタの背に二人して乗る。大きくなったピエタには数人ばかしなら余裕で乗れる。私は嬉しい。ピエタはどんどんと『竜種族の魔法』も覚えているし、コントロールも上手になった。
騎乗に関してはまだ私の補助がいるけれど、一緒に魔法を使って、いざ出発だ。
地上がぐんぐん遠ざかる。
空高く、良い日和の青空を、ピエタは楽しそうに飛んでくれた。
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