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新アプリ「世界図書館」
しおりを挟むにこやかに友好的なフリをして近づいて、グサッとか刺されるような洒落にならない事態は起こってない。
ただなんかちょっと探られたような感じだ。幸い私には転生特典【絶対防護】があるので効かなかったみたいだけど。
「失敗じゃないです。ちゃんと術は発動してますよ」
「そうみたいだ。君の守護竜に阻まれたのかな?」
そう言って視線をピエタの方に向ける。ピエタは相変わらず虫掘りに勤しんでいる。あの子あれ癖になってないかな。後で泉の水で手を洗わせよう。
「ピエタは違います。ピエタはこの世界樹の森と、ここに暮らすエルフ族の守護竜だから」
「竜のこと、随分と詳しいね」
「はい。え、えーと……ピエタとはずっと一緒ですから」
一緒にいればアイコンタクトで意思の疎通もできちゃうんだぜ! ということにしておこう。
本当はアプリ【魔物図鑑】で調べたからだけど。私が嘘ついてるのバレたかなあ。じっと見つめられてる。
なんか見透かしてくるその視線が痛いんですけどー。この人って、のんびり屋の第一印象だったけど今はもう眼光鋭いスナイパーの如しだよ。
もしや修羅の国の人ですか?
「あの、なんで私のこと探るんですか?
さっきも何かやったみたいだし……」
「さっきのは魔力を探ったんだ。カドベルに習ってないかな。【付与魔術】の応用だよ」
「……まさか私の魔力に干渉しようとしたんですか?」
「そう。よく分かったね。教えてもらったわけじゃなさそうだけど」
「うーんと、えーと、それ、その探りの魔術を教えて欲しいです。お願いします」
「実践ならしてあげるよ。ただ……さっきみたいに抵抗されると失敗するから、抵抗しないでもらえるかな」
「抵抗………………」
私は答えに詰まってしまう。
【絶対防護】は転生特典でもらった特殊な能力だ。
でも実はこれ神器<ペン付タブレット>から操作すれば外すことができる。スキルを無くすわけじゃくて外す。
タブレットの設定を開けば<異世界転生契約書>が閲覧できる。そこにある転生特典の横に四角いチェックボックスがあるので、そこにあるチェックを外すのだ。
すると文字通りスキルが外れる。戻す時は再びチェックボックスにチェックを入れればOKだ。
ということは、神器をクールさんの目の前で使わなくてはいけない。【隠蔽魔術】が施してあるとはいえ、さすがに目の前で使えばバレる。
こそこそっと使うのは不可能だ。ちょっとお手洗いとかで席を外してもいいが……。
私は今、魔力を探る術を知りたい。
トレアスサッハ家の結界を読むのに魔術へ干渉してはみたが、あれは所詮、付け焼刃なのだ。出来たらもっと干渉する能力を磨きたかった。
こういうのはハイエルフ様や伴侶である鬼神が得意なはず。しかし、彼らはいつインスーロに帰るか分からない。
帰ってきたら教えてもらいたいな。ハイエルフ様はいつも忙しそうだし、鬼神に至っては軽くあしらわれそうで頼むのも嫌になるだろうけど。
あとは自分で練習するくらいしかないが、これには限界がある。
というか、これ以上何をすればいいか分からない。こういう時こそ誰かに教えてもらえればそれに越したことはない。
私は覚悟を決めた。
神器を背中の背負い鞄から取り出す。
「そう……それ、使うんだね」
クールさんは愉快そうに目を細めた。口元も笑っている。最初っから分かってましたって顔だ。タップして【絶対防護】のチェックを外した。
「これで大丈夫なはず。さっきの術、見せてください」
「君の決意を評価するよ。分かりやすいように、魔力を可視化してあげる」
それはありがたい。魔力は見えないから。魔力は、気合とか第六感とかと一緒で、見るんじゃない感じるんだ的なものである。
まあ、大概の人は見えない。魔力を可視化なんてことも、普通は出来ない。どうやるんだろ。これも後で教えてもらえたらいいな。
ドキドキと私は期待に胸を膨らませている。
他の人が魔術を使うとこなんか、この平和なインスーロでそうそう見られるもんじゃない。
気分はイルカショーを待ってる小学生の気分だ。始まるぞーわくわくーな高揚感。
「見えるかな? これが俺の魔力」
クールさんを包み込む暖かそうな白灯。
それがクールさんの魔力を可視化したものらしい。
それが所々から、ゆっくりと芽が伸びるように長く伸びていく。
その数、数十本はある。
最初は幅広だった魔力の芽だけど、どんどん細くなって最後は糸くらいになった。
「分かりやすく、だんだん鋭敏にしていったんだけど……分かる?」
私は、首を縦に振って肯定を示した。
細くなった魔力の糸が、今度は私の方へと伸びてくる。
ちょっとビクついて震えた私の体に、たくさんの糸が巻きついていく。
「怖がらなくて大丈夫だよ。ただ、君の魔力情報を読み取ってるだけだからね」
優しく声を掛けてくれる余裕があるんだ。すごいなあ。
これだけ繊細な魔術を短時間で構成した上に被験者である私にまで配慮。おみそれします。
魔力の糸は私へと絡みつき、情報を読み取っているんだろう。
この感覚はどう表現したらいいのか……無覚ではない。痛くもなく、擽ったくもなく、なんとなくまとわりつかれてる感じ。
魔力の流れっていうのかな。私の体内を血液みたいに巡る魔力が、一番近い糸へと情報を渡していくのがなんとなくわかる。
私のプライベートを自らの意思で渡しているようだ。でもそれは不快じゃない。こういうのって気持ち悪くなったりすんじゃないかと思ったけど、大丈夫みたいだ。
むしろ白い光があったかくて心地よい。もっと触れていたいな……。
しばらくすると、するすると紐が解けるように糸は離れてしまった。なんだか残念。
「大体読み取れたけど……君は何者なんだい?」
おっと。そんなこと前にもフィンから言われたことがあるね。
あ、勇者じゃありませんよ。そんな数奇な運命の人と一緒にしないでください。
私は楽しく愉快に好きなことして今度こそ長寿を全うしたいんです。
「私は普通のエルフですよ」
「普通の割には魔力量が計り知れないけどねえ」
「どれくらい魔力あるんですか? ピエタは私の魔力を食べて大きくなってるみたいで……でも、減った覚えもないし実感がわかないんです」
「竜は魔力を食べるのか。へ~それは初耳だ。竜は肉食だと思ってた」
「違います。竜には、本当は好物があるんです。好物が確定する前に卵から出されちゃうと、味覚もおかしくなるんじゃないかな?」
本来の竜の生態とは違うことが起きるというのは推測だ。
私はピエタしか知らなくて、使役されてるという竜を見たこともないから。
「その知識は神器から?」
「う……はい、そうです」
この人には隠し事できそうにないなあ。
私は手に持った三代目タブレットちゃんこと神器の画面をクールさんに向ける。
【隠蔽魔術】は一時解除した。解除しなくてもクールさんには見破られそうだけどね。念のため。画面に表示されてるのは様々なアプリのアイコン。
その中の【魔物図鑑】を人差し指で押す。
「面白いねこれ。竜種の生態……ふむふむ。ここまで魔物に詳しい書物は魔天図書館にも無いと思うよ」
「魔天図書館に行ったことがあるんですか?!」
ふおおおお噂には聞いていた魔王の支配する魔国にあるという『魔天図書館』!
ここエルフ村にある『緑樹図書館』と引けも衰えもしない蔵書の充実っぷりには定評があるらしい。み、見たい……そして読みたい……活字中毒までとはいかないが、本を読むのは好きな方だ。
漫画の資料揃えるにも、新たなアイデアを得るにも(萌え対象を増やすともいう)図書館は欠かせない文学女子必須スポットなのである。
と、妄想女子が顔を覗かせた瞬間『呼んだ?』とばかりにまたあの簾ハゲが何かしたみたい。
目の前のタブレットが光る。それはもうペカペカと……。
「どうした?」
「あ、新しいアプリが……」
またインストールされちゃったみたい。
私の許可なくあの簾ハゲは毎度毎度懲りないね。ユーザー無視にも程があるよ。
ニューアイコンが表示されたので好奇心には抗えずタップ。
えーとなになに【世界図書館】?
「すごい……世界中の図書館の蔵書が読める……花神や竜神の図書館まであるじゃないか」
クールさんが驚きの声を上げつつ私の手元を覗いている。
うー超絶美形が近づくと心臓が跳ね上がるわ。特にクールさんは白髪でフィンと似てるとこあるし……。
「花神様や竜神様が図書館もってるなんて知らなかったです」
ちなみに鬼神は持ってないよ。
本読む時間あるなら酒造ってから呑んで寝るわーて人だから。
だから緑樹図書館の本もハイエルフ様が揃えられたんだよね。世界中を旅しながら文献や本を集めているのだ。
「世には知られてない私設図書館てとこだろう。それが読めるなんて……その神器、反則じゃないか」
「うーん。これ記念品ですからねえ……」
祝福で転生百万回達成記念にもらったものである。もうその時点で、どこかおかしい代物なわけで。比類なきとか物騒なことも言ってたしあの簾ハゲ。
「神器って、私の他にも持ってる人いるんですか?」
「勇者は神器を必ず持っていると言われてるな」
「私、勇者じゃないです」
「エルフで勇者は……俺も聞いたことがない」
「ないない。絶対にないです」
「根拠は?」
と、またあの鋭い目でクールさんに見つめられるとドキッとするよ。
この人、絶対のんびり屋じゃないだろ。最初の印象はやはり油断させるための何かだったんだな。危うく騙されるとこだったぜえ。
私はこのエルフには隙をみせないことに決めた。あんなに繊細で大規模な干渉系魔術を無詠唱でこなすんだもの。やばいよ。只者じゃないよ。
「だってこれ、この神器、凄いけど諸刃の剣なんです。私の寿命を使ってこそ真価を発揮できる紛い物です。多分、本物の神器は何も見返りなく使えますよね。私のは違う」
「寿命を糧に? 初めて聞いたことだから何とも言えないけど……そうだね。少なくとも今現存していて確認が取れてる神器は、持ち主がいなくても十分に稼働している」
「それって……」
「理法門だ。世界の空洞を越えさせる移動ゲートだよ」
『理法門』……それは、この魔法世界<ウィーヴェン>に出来た巨大な空洞の東西南北に配置された巨大な門である。
世界に空洞が出来る前、その場所には巨大な大陸があって、その大陸にはエルフ王国も栄えていたという。当時の人々は大陸を渡り、西へ東へ、東へ西へ、北から南へ、南から北へと移動していたわけだけど、大陸が無くなってしまってからは移動手段が船だけになってしまった。しかも空洞を避けての大航海だ。東西の交流は南か北を経由して、南北の交流は東か西を経由しないと移動できない。それじゃあ不便ねってことで、『理法門』を東西南北に配置したのは何を隠そう、うちのハイエルフ様である。
やっぱり、うちのハイエルフ様はすげえわ。配置に協力した神や人もいたらしいけど、その辺の詳しいことは書物に記載はなかった。
と、ここまでアプリ【世界図書館】で調べたことである。
「理法門に持ち主はいないのですか?」
「いない。一応、今はハイエルフ様の管理下に置かれているが、元は一万年以上前に存在した勇者の所有物だって話だよ」
ほうほう。そりゃあ、その勇者の神器ってわけだね理法門は。
「何しろ理法時代のこと……ああ、魔力がこの世を覆う前の時代をこう呼ぶんだ。
勇者の名前はおろか、なぜハイエルフ様が理法門を管理してるのかも詳しく知ってる人はいないんじゃないかな。エルフでさえ知らないから」
「もしかして世界樹の森にある勇者の神殿って、その理法門の勇者の神殿ですか?」
「鋭いね。俺もそう思ってる」
確定じゃないのね。せめて文献に残しておいてくれれば【世界図書館】で調べれたのになあ。ハイエルフ様のことだから、自伝を書くような人じゃないし、だったら伴侶の鬼神……ああ、あれに期待しても無駄だな。私は鬼神の評価がとことん低いのである。なぜなら、私の天敵である酒を造っているから。あと、色々と、からかってくるのだ。サケ&セクハラ発言は嫌われ上司必須アイテムだよね。
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