エルフに優しい この異世界で

風巻ユウ

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白髪の彼とフルーツサンド

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 15歳になったからって村での生活が変わるわけはない。
 穏やかな時が流れるエルフ村では、15歳なんてまだまだひよっこなのだ。
 仕事もなければ役割もない。すべて親の庇護下に置かれ安寧とした生活を貪る。

 はっきり言って暇である。
 子供は遊ぶのが仕事だと言われても、遊ぶにしたって遊具があるわけでもないし、たとえ遊具があったとしても中身31歳のBBAは遊ばないだろう。

 ちなみに同年代の子供エルフもいない。ここでは珍しいことでもなんでもない。
 エルフは子供が出来にくい種族だし、授かったとしても村規模だと百年に二人も無事に産まれれば良い方だろう。
 私なんか二百年ぶりに産まれた純エルフの子だから、超絶希少種扱いである。
 人間の国のこけし王までハッスルしちゃって王城に呼び出されちゃったのは記憶にも新しい。
 村人全員に見守られながら、私はすくすく成長中なのだ。

 さて、暇をつぶす遊びに関してである。
 幸い私にはお絵描きという絶好の暇つぶしツールがあるので、実のところ暇だと思ったことは一度もない。
 絵を描くのに飽いてきたらお菓子を作ればいいだけだし。お小遣いを家計簿みたいにアプリで管理してみたり、コツコツと何かをやるのが性に合ってるようだ。

 そして今日も今日とて、私はエルフ村近くの小さな泉<フラナンの泉>までやってきた。

<フラナンの泉>には先客がいた。珍しい。そりゃあ時々ここでエルフ村の住人にも会うけれど、今回会ったエルフは初めて見る男性エルフだった。
 基本、エルフ村の住人は全員顔見知りだ。知らないエルフがここにいることこそ珍しい。
 この世界にエルフ村しかエルフにとっての故郷はないから、エルフ村出身ではあるだろうけど、世界樹の森より外で暮らすエルフもいる。
 彼は外で暮らすエルフなのだろうか。今日は里帰りでこの泉に寄ってみたとかだと思う。

「おや君は……」

 言いかけて、何か不思議なものを見るように見つめられている。
 言いかけたなら最後まで言いましょうよ白い髪したエルフさん。
 そう、この人の髪、すごく白い。真っ白。まるでフィンみたい。フィンもキラキラ綺麗な白髪だけど、この人も同じくらい輝いた白髪で……似ている。

「確かカドベルんとこの……」
「そうです。初めてお会いしますよね。私、リリエイラ・ブロドウェンと申します」

 最後まで待ってられないのはご愛嬌ってことで、私はさっさと挨拶した。
 なんだかこのエルフ、のんびりで間が抜けてそう。しかしそこはエルフ。エルフだから美形である。しかも美形中の美形。スーパー美形かもしれない。
 エルフ村に暮らしていると毎日美形が拝めるわけだけど、そんな風に美形を見慣れてしまった私ですら一瞬「おおっ」と声を上げそうになるくらい、このエルフさんは容姿が整っている。
 なんというか、美貌が栄えている。普通の美形が間抜け面だと幻滅だけど、このエルフさんの場合はそれすら似合いそう。間抜けそうに見えて、のんびりしている中にも風情があるっていうか、もしかしてこれが隙がないってことなのかもしれないけど……。

 あ、私もしかして今、観察されてる?

「そうかい。やっぱりねえ~子供のエルフは君だけだもの」
「父から何か聞いてましたか?」
「うん。子供すっごく可愛いって~嫁にはやらんって言われたよ」

 どんだけ未来の話だ。お父さん、雲が棚引くような流麗な貴公子エルフなんですが、ちょっと娘に愛情過多っぽいのです。
 普段はハグしたり、ほっぺにチューくらいなんだけど、私がディムナの為にお菓子焼いていると、探り入れてくるのよね。
 今のところバレてないけど。ちゅーまでしているとバレたら、お父さん鬼になるかもしれん。

「あ、俺の名前、クールっていうの。よろしくね~」

 そう言って笑顔で手を差し出すクールさんとやら。これは握手ですね。
 前世ではシャイな日本人だったのでこの慣習はなかなか慣れない。
 しかし、ここは魔法世界<ウィーヴェン>だ。この世界に産まれたからには、この世界の慣習は普通に身につけなければならない。
 私は気軽にクールさんの手を握り「よろしくお願いします」と返した。
 年上には敬語をつかう。これ基本。

 立ち話もなんなので、いつもの場所にシートを広げて、二人してそこに座る。
 ジャジャーン。今日のおやつはフルーツサンドイッチだー。
 苺サンドと黄桃のサンドを作ってバスケットに詰めてきた。
 実はエルフ村、フルーツ天国なんである。稲作と同様に、ハウス栽培できるものは大体、地下で年中育てている。
 元々、世界に大穴が空く前、大陸にあったエルフ王国がフルーツ王国だったらしい。その農業技術ノウハウが今も引き継がれているそうだ。
 ハイエルフ様が言ってた。「生き残りを探すの大変だった」って。技術も人がいないと伝わらないものねえ。
 そんな血と汗と涙の結晶で作られたフルーツと一緒に、ホイップクリームだけじゃなくてカスタードクリームも挟んで豪華なサンドイッチが出来ました。
 毎度おなじみリザ姉さん特製ブレンドコーヒーを水筒から注いで、いただきます。
 もちろん、クールさんにもお裾分け。ピエタは虫に夢中みたいだから後でね。

「お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞ」
「聞いたよ。お菓子作り上手なんだってね」

 そう言いつつクールさんは苺サンドを頬張った。

「お。うまい。これ、パニーノに似てるけど、あれより弾力のあるパンだね」
「そのパン、ベーグルって言うんです。エルフのパンは固いので、フルーツサンドに合うのを作りました」
「え。パンまで手作りなの? すごいや」

 へえ~と感心した声を出してから、クールさんは黄桃サンドの方も食べてくれた。それからまた苺のを二つ食べて……苺好き?
 けっこう大きいと思うけど、ベーグルサンドイッチ四つをペロリと平らげたクールさんは見かけによらず健啖なのかもしれない。
 彼はエルフらしく線が細く、そんなに食べない気がしていたから予想外だ。
 斯く言う私はベーグルサンド二つ食べた。残りはピエタの分である。

「ねえ、リリエイラ。もし俺が悪人だったらどうする?」

 いきなりなんだ。
 ベーグル食べ終わって、コーヒー飲んでホッと一息ついてたらいきなりこの発言。

「…………へ? それはないと思いますよ」

 とりあえず否定した。悪人にゃ見えないよ。
 本当に悪い人は、こんな楽しそうに食事しないと思うし。
 食事どころか、もっと禍々しくて険悪な雰囲気になっちゃうでしょ。本当の悪人なら。

「どうしてそう思うの? 根拠ある?」
「根拠って……ここはエルフだけが住む世界樹の森でしょ。悪い人は入って来られないはずです」
「確かにそうだねえ~……ふむ、これは失敗したかな」

 失敗って……何かされていたのは分かったけど、何されたかは分からなかった。
 ただ、私の転生特典【絶対防護】が発動して、クールさんに何かされたことを弾いたようだ。
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