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あと15年も待つのか…
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らへんとか、今も舐められてるだけど、どういうこと?!美味しそうってことはまさか私を食べる気?!
ピエタと同じ発言とはこれ如何に?!私の心の中大暴走。
寝るって言ってたよねえ。ただ寝るだけじゃないのディムナあああ!
「あう…あうう……」
「ねえ、ディムナはなんのお仕事してるの?」
「……君には知られたくないことだな」
答えてもらえない質問だと思ったから、この答えはけっこう予想外だ。
私に知られたくないような仕事をしているのか……。
椅子に座って淹れてもらったお茶を飲みながら話をする。
灯りはいらない。蒼月の光が部屋の中に差し込んで明るいから。
「領地経営じゃないってことね」
「それが建前なのは君も気づいてると思ってたけど」
「ん~そうね。建前といえば、トレアスサッハ家が私たちエルフと王家との間に入ってくれる緩衝役なのも、そうかなって」
「やはり君は聡い。お祖父様にとって、この地を任されたことは不運だったのか幸運だったのか…………」
「ディムナは? ディムナはお祖父様の言いなりでいいの?」
「……………………」
ああ、やっぱりそこが問題なんだ。
ディムナの突出した能力が役に立たないわけないもの。
お祖父様であるイーガン・トレアスサッハ男爵に利用されていると常々思ってたけど、どうやらその通りだったみたいね。
「今のままじゃいけないと思う。けど、変わることは出来ない。だからいっそ……」
「変なこと考えないでよ。ディムナはディムナだよ。お祖父様の言うことなんか放っておいて好きなことしたらいいじゃん」
好きなことをする。こんな単純なことなのに、なぜ実行しないのか。
それはきっとディムナが優しすぎるんだ。家族への情愛が深すぎる。
しがらみでしかないそれを、ディムナは決して振り解こうとしない。
たとえ利用されていても、たとえ本意じゃなくても、ディムナは身内の為なら命懸けでなんとかする人なんじゃないだろうか。
いっそ……なんて、そんな哀しい考え方しないで!
何がいっそなのか知らないけどさ。そういう考え方自体がよくない。
あ、なんだか怒れてきたよ私。今なら説教一時間できるね。
「君が勇者だったらいいんだ。その神器……【神の御業】が使えるだろ」
そう言って指差すのは私の背中に背負われた鞄である。座っていても背負っている大事な鞄である。中身は三代目タブレットちゃんだ。
【時操魔術】を使ったとき、ディムナの目の前で使ったから気づいているとは思っていたけど、まさかの三年越しに指摘されちゃったわ。
「そうよ。私の神器は人智を超えた魔導具だけど、これ持ってるからって私は勇者じゃない。
ディムナは勇者に何を望んでんの? 言っておくけど、これ使うには私の寿命を捧げる必要があるの。だから【神の御業】も使い放題ってわけじゃないの」
私が言い切ったらディムナは目を丸くした。
おおその顔初めてみたぞな。じゃなくて、何をそんなに驚いているんだ?
「寿命って君、そんな危険なことして、あの時【時操魔術】を使ったのか?!」
更に声を荒げるとか珍しいもんみたー!
私の心は無闇矢鱈とはしゃぐけれども、ディムナは益々に険しい顔になっていく。
くうう。真剣な表情も男前なんだぜディムナ……!
「笑うとこじゃないぞリリィ……」
「はっ。ごめん。ディムナが心配してくれてると思うとついニヤけて……」
「心配……するに決まってる。君は……君の存在はおかしいから」
「また珍妙生物だとでも言うの?」
「俺は言ったことないけど、まだ根に持ってるんだってことは分かる」
「イーガンさんは私のこと良く思ってないでしょう」
「それは仕方無い。おそらくお祖父様にとって君はイレギュラーだ」
不穏分子ってやつか。世界征服を企む悪役がよく口にするやつだね。わかります。
「イーガンさんは何を狙っているの?」
世界征服じゃないよね。もしそうなら喜々として戦隊ヒーローをつくってしまいそうな自分がいる。ええ、そういうの、大好物です。
特撮っていいよね。テレビっぽいものがある世界なのに、そういう番組は無くてがっかりしていたの。つくってくださいと投書でもしようかしらん。
……て、話すんごいズレた。私の脳内は相変わらず妄想が激しくて困る。
元腐った漫画家は今でも腐っておるということか……!
「リリィ……お祖父様は独り身だと思うか?」
「…………………………」
突然の質問返しにディムナも妄想畑に迷い込んだのかと思った。
いや違うよね。ディムナの真剣な表情に、私は黙り込んでしまう。
「俺が小さい頃は、お祖母様も一緒に暮らしてた。思慮深くて聡明な人だった。俺は産まれた時から魔力が高くて、ちょっと特殊だったから……。
色々あったんだけど、お祖母様のおかげで力の使い方も分かったんだ。俺にとっても、お祖父様にとっても、とても大事な人だ」
ディムナは懐かしむような、それでいて憂えているような複雑な表情で、お祖母様のことを話す。
最初、お祖母様はもう亡くなっているのかと思った。でも違う。大事な人だと言い切るその言葉には、何かを決意する力強さがこもっていたから。
「お祖母様は、今もご健在なのね」
「ああ……とある国に人質にとられている」
えええ、まさかの人質宣言。お祖母様のイメージが一気に桃っぽい姫になった。
塔の出窓で泣き叫ぶ桃っぽい姫。高笑いする魔みたいな王。おヒゲの配管工はイーガンさんでいいかな。スパナ片手に魔みたいな王の城へ挑むよ。
なんつー無理ゲー。スターも無しで無理やて配管工!
「人質……お祖母様は取り戻せないの?」
「何度もやってみた。でも今のとこ失敗ばかりだ」
現実でも無理ゲーか。
よっぽど亀の甲羅が固いのね。赤毛のモヒカン毟ったれ。
「じゃあ、お祖母様を助け出せばディムナは自由になれるのね」
「そんな単純な問題じゃない。まず無事に助け出すことが不可能だ」
「何それ。もしかして敵は魔王だとでもいうの?」
「いや違う。魔王は人質なんかとらない。もっと小狡い奴等がいるんだ」
なんと。魔王より巨悪な存在がいるのか。いったいどこのどいつだ。
この世界の魔王は、俗に魔族と呼ばれる魔人族や魔獣族を統べ、一国家を築いているらしい。魔物を率いて世界征服を企むとか、人間の国を攻め滅ぼすとか、そういう悪路一筋なことはしてないらしい。善良な魔王なのである。魔王が善良っておかしな世界だけどね。
お祖母様が誰に囚われてるのかは……訊かない。自重する。
いつかディムナが話してくれる、よね?
「あの……そっち行っていいかな」
「ん。ああ……どうしたリリィ」
許可も貰ったので遠慮せずディムナのお膝に乗ってみる。
向かい合わせは恥ずかしいのだが、背中に鞄を背負っているので前からくっつくのが最良である。
ふおおおお目の前にディムナの顔がああああ!
私、心臓もつかなあドキドキしまくってるよ。
「あのね、私はあなたの力になりたい」
今思いつく一番の想いだ。
ディムナの顔を真正面に見据えて私は告げる。
「あなたのことが大好きだから」
うごおおドキドキ通り越して心臓バクバクだい!
たったこれだけ告げるのに、めっちゃ勇気振り絞った。
なんか息切れする。私ちゃんと呼吸してるかな?
告げるだけ告げておいて、もうディムナの顔見られない。俯いたまま彼の膝から降りようとした。
「待て。ここに居ろ」
「へあ?! あ、あ、あの……!」
降りようとしたところで腰に腕を回された。ディムナの右腕が私の腰を捉えている。
そのまま引き寄せられて彼の胸に……。
「俺の気持ちは聞かなくていいのか?」
「は、いや、その、なんと言うか私の郷里には当たって砕けろという言葉があってねえ」
別に告白の返事は望んでないんです。
想いを告げられただけで満足っていうか。
「エルフは積極的ってことか…………悪くない」
ああああ間違ったエルフ観念を植え付けてしまったああああ……。
郷里って言葉を使ったのがいけなかったのか。申し訳ない島エルフの皆さん……。
ディムナの顔が近い。見惚れるほどの美男子が私へと迫る。
またキスだろうかドキドキ……としたところで私の体が浮いた。
あれ? 私、抱き抱えられてないか? ディムナは私を抱っこしたまま席を立った。
これはいつぞやと同じ姫抱きかな……?
「リリィは軽いな」
「それは女性の体で一番重量感あるものが皆無だから……」
ペチャパイだということですね。
くああ自分で言って自分で傷ついたああ!
「ディムナも胸のある女の子のほうが好き?」
「…………………………」
あ、黙った。返答に困ったんだね。困らせてごめん。でも後悔はしてない。
姫抱きされたまま、どこへ行くのかと思ったらベッドだった。
…………あ、そか。眠いんだねディムナ。
こんな夜中に思わぬ珍客(私のこった)が来たからね。
もう寝ていたところで私が来たのだろう。ベッド上には既に捲られた上掛けがあって、私はベッドシーツがあらわになっている所へと優しく降ろされた。
「一緒に寝よう」
照らいなく言ってくるディムナに私だけが緊張しているのも恥ずかしい。
こくこくと静かに頷いて、靴下と背中の鞄を脱ぎ、ベッド下に置いた。
一緒に寝る……一緒に……一緒に……………………。
多分、深い意味は無く、そのまま受け取れば良いのだと思う。
その証拠に私は、背後からハグされるだけの、ただの抱き枕状態だ。
鼓動がどんどん高鳴るけども。これはもう仕方無い。
なんせ背後にディムナ。呼吸音さえ聞こえるほど近くにディムナ。
ハグされているだけとはいえ、これだけ大好きな人と接触中なこの状態は……。
死亡フラグじゃないよね?
だ、だいじょうぶだよね?
今一瞬、どういうフラグなのか気になったけども、ディムナルートはこれでいいんだよね?
私のゲーム脳はフラグを叩き折れとなぜか叫ぶ。でもこれはゲームじゃない。現実なんである。現実ではフラグなんてものは立たないのだ。
現実に感じる温かみ、実際に触れられている私の体……て、そこ胸じゃないかなあ?
胸があるところというかナイところというか絶壁だけど、そこは胸だねえ。
まさかの胸タッチとかディムナもしかして寝る気ない?
「ねえディムナ……」
「ん……リリィが美味しそう」
「ふへえ?!」
て、首筋舐められたあああああああああ!!!!
んなあ、なあんで……首、首……うなじのところらへんとか、今も舐められて、どういうこと?!
美味しそうってことはまさか私を食べる気?! ピエタと同じ発言とはこれ如何に?! 私の心の中大暴走。
寝るって言ってたよねえ。ただ寝るだけじゃないのディムナああ!
「あう……あうう…………」
「安心しろ。これ以上はしない」
これ以上って……これ以上って……想像しただけで頭が沸騰しそうだわ。
ディムナって手が早いの? それとも私の方がお子ちゃまなの?
常識が分からなくなってきたからか、脳も体も考えることを拒否するように固まってしまった。
「あと15年も待つのか……」
ディムナがそう呟いたけど、その言葉の真意を考える余裕もありません。
おやすみなさい。まだ子供でいいや私。前世から数えて31歳になったBBAがいう。
ピエタと同じ発言とはこれ如何に?!私の心の中大暴走。
寝るって言ってたよねえ。ただ寝るだけじゃないのディムナあああ!
「あう…あうう……」
「ねえ、ディムナはなんのお仕事してるの?」
「……君には知られたくないことだな」
答えてもらえない質問だと思ったから、この答えはけっこう予想外だ。
私に知られたくないような仕事をしているのか……。
椅子に座って淹れてもらったお茶を飲みながら話をする。
灯りはいらない。蒼月の光が部屋の中に差し込んで明るいから。
「領地経営じゃないってことね」
「それが建前なのは君も気づいてると思ってたけど」
「ん~そうね。建前といえば、トレアスサッハ家が私たちエルフと王家との間に入ってくれる緩衝役なのも、そうかなって」
「やはり君は聡い。お祖父様にとって、この地を任されたことは不運だったのか幸運だったのか…………」
「ディムナは? ディムナはお祖父様の言いなりでいいの?」
「……………………」
ああ、やっぱりそこが問題なんだ。
ディムナの突出した能力が役に立たないわけないもの。
お祖父様であるイーガン・トレアスサッハ男爵に利用されていると常々思ってたけど、どうやらその通りだったみたいね。
「今のままじゃいけないと思う。けど、変わることは出来ない。だからいっそ……」
「変なこと考えないでよ。ディムナはディムナだよ。お祖父様の言うことなんか放っておいて好きなことしたらいいじゃん」
好きなことをする。こんな単純なことなのに、なぜ実行しないのか。
それはきっとディムナが優しすぎるんだ。家族への情愛が深すぎる。
しがらみでしかないそれを、ディムナは決して振り解こうとしない。
たとえ利用されていても、たとえ本意じゃなくても、ディムナは身内の為なら命懸けでなんとかする人なんじゃないだろうか。
いっそ……なんて、そんな哀しい考え方しないで!
何がいっそなのか知らないけどさ。そういう考え方自体がよくない。
あ、なんだか怒れてきたよ私。今なら説教一時間できるね。
「君が勇者だったらいいんだ。その神器……【神の御業】が使えるだろ」
そう言って指差すのは私の背中に背負われた鞄である。座っていても背負っている大事な鞄である。中身は三代目タブレットちゃんだ。
【時操魔術】を使ったとき、ディムナの目の前で使ったから気づいているとは思っていたけど、まさかの三年越しに指摘されちゃったわ。
「そうよ。私の神器は人智を超えた魔導具だけど、これ持ってるからって私は勇者じゃない。
ディムナは勇者に何を望んでんの? 言っておくけど、これ使うには私の寿命を捧げる必要があるの。だから【神の御業】も使い放題ってわけじゃないの」
私が言い切ったらディムナは目を丸くした。
おおその顔初めてみたぞな。じゃなくて、何をそんなに驚いているんだ?
「寿命って君、そんな危険なことして、あの時【時操魔術】を使ったのか?!」
更に声を荒げるとか珍しいもんみたー!
私の心は無闇矢鱈とはしゃぐけれども、ディムナは益々に険しい顔になっていく。
くうう。真剣な表情も男前なんだぜディムナ……!
「笑うとこじゃないぞリリィ……」
「はっ。ごめん。ディムナが心配してくれてると思うとついニヤけて……」
「心配……するに決まってる。君は……君の存在はおかしいから」
「また珍妙生物だとでも言うの?」
「俺は言ったことないけど、まだ根に持ってるんだってことは分かる」
「イーガンさんは私のこと良く思ってないでしょう」
「それは仕方無い。おそらくお祖父様にとって君はイレギュラーだ」
不穏分子ってやつか。世界征服を企む悪役がよく口にするやつだね。わかります。
「イーガンさんは何を狙っているの?」
世界征服じゃないよね。もしそうなら喜々として戦隊ヒーローをつくってしまいそうな自分がいる。ええ、そういうの、大好物です。
特撮っていいよね。テレビっぽいものがある世界なのに、そういう番組は無くてがっかりしていたの。つくってくださいと投書でもしようかしらん。
……て、話すんごいズレた。私の脳内は相変わらず妄想が激しくて困る。
元腐った漫画家は今でも腐っておるということか……!
「リリィ……お祖父様は独り身だと思うか?」
「…………………………」
突然の質問返しにディムナも妄想畑に迷い込んだのかと思った。
いや違うよね。ディムナの真剣な表情に、私は黙り込んでしまう。
「俺が小さい頃は、お祖母様も一緒に暮らしてた。思慮深くて聡明な人だった。俺は産まれた時から魔力が高くて、ちょっと特殊だったから……。
色々あったんだけど、お祖母様のおかげで力の使い方も分かったんだ。俺にとっても、お祖父様にとっても、とても大事な人だ」
ディムナは懐かしむような、それでいて憂えているような複雑な表情で、お祖母様のことを話す。
最初、お祖母様はもう亡くなっているのかと思った。でも違う。大事な人だと言い切るその言葉には、何かを決意する力強さがこもっていたから。
「お祖母様は、今もご健在なのね」
「ああ……とある国に人質にとられている」
えええ、まさかの人質宣言。お祖母様のイメージが一気に桃っぽい姫になった。
塔の出窓で泣き叫ぶ桃っぽい姫。高笑いする魔みたいな王。おヒゲの配管工はイーガンさんでいいかな。スパナ片手に魔みたいな王の城へ挑むよ。
なんつー無理ゲー。スターも無しで無理やて配管工!
「人質……お祖母様は取り戻せないの?」
「何度もやってみた。でも今のとこ失敗ばかりだ」
現実でも無理ゲーか。
よっぽど亀の甲羅が固いのね。赤毛のモヒカン毟ったれ。
「じゃあ、お祖母様を助け出せばディムナは自由になれるのね」
「そんな単純な問題じゃない。まず無事に助け出すことが不可能だ」
「何それ。もしかして敵は魔王だとでもいうの?」
「いや違う。魔王は人質なんかとらない。もっと小狡い奴等がいるんだ」
なんと。魔王より巨悪な存在がいるのか。いったいどこのどいつだ。
この世界の魔王は、俗に魔族と呼ばれる魔人族や魔獣族を統べ、一国家を築いているらしい。魔物を率いて世界征服を企むとか、人間の国を攻め滅ぼすとか、そういう悪路一筋なことはしてないらしい。善良な魔王なのである。魔王が善良っておかしな世界だけどね。
お祖母様が誰に囚われてるのかは……訊かない。自重する。
いつかディムナが話してくれる、よね?
「あの……そっち行っていいかな」
「ん。ああ……どうしたリリィ」
許可も貰ったので遠慮せずディムナのお膝に乗ってみる。
向かい合わせは恥ずかしいのだが、背中に鞄を背負っているので前からくっつくのが最良である。
ふおおおお目の前にディムナの顔がああああ!
私、心臓もつかなあドキドキしまくってるよ。
「あのね、私はあなたの力になりたい」
今思いつく一番の想いだ。
ディムナの顔を真正面に見据えて私は告げる。
「あなたのことが大好きだから」
うごおおドキドキ通り越して心臓バクバクだい!
たったこれだけ告げるのに、めっちゃ勇気振り絞った。
なんか息切れする。私ちゃんと呼吸してるかな?
告げるだけ告げておいて、もうディムナの顔見られない。俯いたまま彼の膝から降りようとした。
「待て。ここに居ろ」
「へあ?! あ、あ、あの……!」
降りようとしたところで腰に腕を回された。ディムナの右腕が私の腰を捉えている。
そのまま引き寄せられて彼の胸に……。
「俺の気持ちは聞かなくていいのか?」
「は、いや、その、なんと言うか私の郷里には当たって砕けろという言葉があってねえ」
別に告白の返事は望んでないんです。
想いを告げられただけで満足っていうか。
「エルフは積極的ってことか…………悪くない」
ああああ間違ったエルフ観念を植え付けてしまったああああ……。
郷里って言葉を使ったのがいけなかったのか。申し訳ない島エルフの皆さん……。
ディムナの顔が近い。見惚れるほどの美男子が私へと迫る。
またキスだろうかドキドキ……としたところで私の体が浮いた。
あれ? 私、抱き抱えられてないか? ディムナは私を抱っこしたまま席を立った。
これはいつぞやと同じ姫抱きかな……?
「リリィは軽いな」
「それは女性の体で一番重量感あるものが皆無だから……」
ペチャパイだということですね。
くああ自分で言って自分で傷ついたああ!
「ディムナも胸のある女の子のほうが好き?」
「…………………………」
あ、黙った。返答に困ったんだね。困らせてごめん。でも後悔はしてない。
姫抱きされたまま、どこへ行くのかと思ったらベッドだった。
…………あ、そか。眠いんだねディムナ。
こんな夜中に思わぬ珍客(私のこった)が来たからね。
もう寝ていたところで私が来たのだろう。ベッド上には既に捲られた上掛けがあって、私はベッドシーツがあらわになっている所へと優しく降ろされた。
「一緒に寝よう」
照らいなく言ってくるディムナに私だけが緊張しているのも恥ずかしい。
こくこくと静かに頷いて、靴下と背中の鞄を脱ぎ、ベッド下に置いた。
一緒に寝る……一緒に……一緒に……………………。
多分、深い意味は無く、そのまま受け取れば良いのだと思う。
その証拠に私は、背後からハグされるだけの、ただの抱き枕状態だ。
鼓動がどんどん高鳴るけども。これはもう仕方無い。
なんせ背後にディムナ。呼吸音さえ聞こえるほど近くにディムナ。
ハグされているだけとはいえ、これだけ大好きな人と接触中なこの状態は……。
死亡フラグじゃないよね?
だ、だいじょうぶだよね?
今一瞬、どういうフラグなのか気になったけども、ディムナルートはこれでいいんだよね?
私のゲーム脳はフラグを叩き折れとなぜか叫ぶ。でもこれはゲームじゃない。現実なんである。現実ではフラグなんてものは立たないのだ。
現実に感じる温かみ、実際に触れられている私の体……て、そこ胸じゃないかなあ?
胸があるところというかナイところというか絶壁だけど、そこは胸だねえ。
まさかの胸タッチとかディムナもしかして寝る気ない?
「ねえディムナ……」
「ん……リリィが美味しそう」
「ふへえ?!」
て、首筋舐められたあああああああああ!!!!
んなあ、なあんで……首、首……うなじのところらへんとか、今も舐められて、どういうこと?!
美味しそうってことはまさか私を食べる気?! ピエタと同じ発言とはこれ如何に?! 私の心の中大暴走。
寝るって言ってたよねえ。ただ寝るだけじゃないのディムナああ!
「あう……あうう…………」
「安心しろ。これ以上はしない」
これ以上って……これ以上って……想像しただけで頭が沸騰しそうだわ。
ディムナって手が早いの? それとも私の方がお子ちゃまなの?
常識が分からなくなってきたからか、脳も体も考えることを拒否するように固まってしまった。
「あと15年も待つのか……」
ディムナがそう呟いたけど、その言葉の真意を考える余裕もありません。
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